INTERVIEW2016.11.14

京都

きちんと、35年、京都で。 ― 「お狩り場」店主 青木隆昭 [だから私は京都にいる #2]

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  • 服部 千帆
  • 高橋 保世
  • 三輪 こいの

京都では、さまざまな人々が暮らし、学び、働いている。京都市左京区岡崎に、一軒の信州料理店がある。店主の青木さんは、生まれ育った長野県から京都に来て35年になる。そして現在もお店に立ち続ける青木さんに「京都にいる理由」を聞いた。

女房の故郷が京都だったから

女房と結婚して、所帯を持ったのは長野だった。
もともとは生まれ育った長野で木こりや、スキーのインストラクターをしていてね。そのスキー教室に、3年続けて京都から通ってきている子がいた。ある日の夕方、山に誰か残されていないか見回りをしていたときに、ちょうど俺が受け持った場所に2人の女の子が取り残されていた。その2人っていうのが、その3年通って来てくれている子と、その子の友達でね。雪がどんどん積もってきて、2人は動けないでいるところだった。それで俺が先頭でラッセル(*1)しながら2人を後ろに歩かせて、麓まで連れ帰って休ませたんだよ。そこには親父もおふくろもいて、「あんたもう年頃なんだし、いい子がゲレンデに落ちてたなら、拾っとけ」と言われるがまま「そんなにスキーが好きだったら長野に嫁に来い」ってその子を口説いたんだ。そうしたら「ほな来るわ」って返事をもらえて、翌年にはほんとに長野に来た。それが今の女房。いわゆる拾得物横領やね(笑)。
その後、長野での仕事が行きづまった。だから自分で商売を始めてみようと思い立った。33歳だった。京都を選んだのは、単に女房の故郷だったから。実際、京都は便利だったよ。お店の家賃が払えなかったときは、お義父さんにお金を貸してもらえてたし(笑)。はじめの頃はやっぱり大変だったからね。

「これ食べて」ってお肉を隣近所に配ったこともある

開店当初はお客さんが一人も来ない日が続いた。食材が余っちゃってね、「これ食べて。」って、お肉を隣近所に配ったこともあったよ。今ではずいぶん変わったけど、35年前の京都は閉鎖的で新しい文化を敬遠する人が多かったんだ。移転する前の店舗は住宅地に近くて、町内会に挨拶に行くと「がんばってますね!」なんて声をかけてくれるんだけど、裏では「あんなところで信州料理のお店なんかやって流行るのかな」なんて噂をされてるわけ。それでも地道に店をやってたら、少しずつだけどお客さんが来てくれるようになった。バブルの頃には毎日店の外にお客さんの列が出来るようになって、開店12年で新しい場所に移ることを決めた。今の店舗がオープンして23年目だから、35年京都で店をやっていることになる。

じっくり一つ一つ丁寧に炭火で焼き仕上げる

「きちんと」するということ

店を始めて以来、体調を崩したことがない。休みたいと思ったこともない。楽しいから店に立ってるんだろうな。楽しくなかったらやってられないよ(笑)。35年間、定休日と冠婚葬祭以外は休みなしだから。
でも、親父が亡くなったときは、3日間だけ店を閉めた。その3日間はお店に電気をつけて、営業時間中はずっとアルバイトの子にいてもらった。知らずに来たお客さんに事情を説明して謝ってもらうためだよ。せっかく楽しみに来たのにお店は真っ暗で誰もいない、なんてことがないように。
お客さんが安心して来てくれる店でいたいんだよ。35年、「きちんと」したいと思って努力してきた。そうしたら「きちんと」お客さんが来てくれたんだ。
最近ではウチの店のことを「おもしろいから行ってごらん」とか「安いから行ってみな」とか勧めてくれる人も多いみたい。「京都の人はいけず」っていう先入観はあったけど、いつの間にか消えたね。

京都は長野に比べると大きな街だけど、少し離れたら山や川も多くて、俺が育った山の中に通じる田舎の景色も見ることができる。静かで、落ち着いている。
今、京都はどんなところかって聞かれたら「いいところだよ」って答えるよ。

東天王町にある現在の店舗に移って23年目になる
海外から来たお客さんの残した紙幣や硬貨が、奥の壁に貼られている

 

*1深い雪をかきわけ、道をつくりながら歩くこと。山岳用語。

 

 

 

青木隆昭 Takaaki Aoki

左京区岡崎の信州料理店「お狩り場」店主。長野県出身。木こりやスキーのインストラクターを経て、33歳の時に京都で信州料理店をオープンさせる。

お狩り場

平安神宮や京都市動物園からも程近い東天王町にある信州料理専門店。猪豚(いのぶた)をはじめとしたジビエが名物。狩猟免許を持つ店主青木さん自ら獲った鹿や猪がメニューに並ぶことも。

住所 京都府京都市左京区岡崎東天王町 43-4 レジデンス岡崎1F
電話番号 075-751-7790
営業時間 17:00~23:00
定休日 月曜日

<文:服部千帆 写真:高橋保世>

 

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