INTERVIEW2021.06.03

アートデザイン教育

日本一捨てられない大学パンフレット、のウラ側。― 学生が制作する『mymymy』in 2021

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  • 京都芸術大学 広報課

顔を近づけると、インクの匂いがする。手づくり感あふれる、文庫本サイズのカラフルな冊子。4月のオープンキャンパスで、来場した高校生たちに手渡されたのが、『mymymy』(STUDENT TODAY)2021年度版。「日本一捨てられない大学パンフレット」ともいわれる、芸大生による、芸大生のありのままを詰め込んだ“もうひとつ”の大学案内冊子です。

2021年度のコンセプトカラーはピンク
『mymymy』の文字がぷっくりと浮き上がる

 

2007年以降に本学を志望した高校生なら、一度は手にして読みふけり、大学生活への憧れをふくらませてくれたはず。その1ページ1ページを、企画から撮影取材、紙面デザインまでつくりあげているのが、1、2年生中心の学生スタッフなのです。

「この本が、次の新入生をつくる」「ひとりの高校生の人生を変えるかもしれない」。そんなプレッシャーと期待の中で本年度版を完成させた、大島さん、キムさん、白木さん、鈴木さん、村上さん(取材は欠席)、村下さんの全メンバー6名に、名物パンフ制作の舞台裏を明かしてもらいました。
※本文では皆さんからのコメントをあわせて編集しています。

2021年度『mymymy』制作メンバー。

 

私をここに導いた一冊

―『mymymy』は、入学前から知っていましたか?

もちろん、スタッフ全員が愛読者です。韓国人のキムくんは、恒例企画のキャンパス写真を見て「ここには夢がある」と留学を決めたし、「ほら、いい大学でしょ?」と親に読ませて進学を認めてもらった子もいます。

私たちひとりひとりが実際に、この冊子に背中を押されて京都芸術大学に入学したんです。だからこそやる気満々で、キックオフのzoomミーティングで「一年がかりの制作になる」と聞いたときも、「やった、がんばろう!」と楽しみでしかなかった。

この「楽しい」気持ちがつづいたからこそ、後の大変さも乗り越えられたと思います。

―今年のテーマは?

2021年度『mymymy』全体のテーマは「HOME」です。
新型コロナウイルス感染症の流行もあって、ずっと家にいた1年だったので。あと、「HOME」という言葉には、やさしくてあったかい響きもあって。

全体をやさしく包み込むようなテーマがいいね、と満場一致で決まりました。こういう決め方ができたのもこの特別な時代だからこそかも。

―スタートした当初はどんな感じ?

初回ミーティングの後、まずは自分の中でコンテンツを考えてみて、企画のアイデア出しをしたんです。すると、見てもらった担当の先生やデザイン会社の方から、「本当に高校生のことを考えてる?」という辛辣な一言が。

たしかに私たちが出していたのは、「自分がやりたいデザイン」や「自分が好きでやりたいこと」ばかり。だけど、私たちが満足するものをつくったところで、何の意味もない冊子になるだけ。「どうすれば、高校生の気持ちに寄り添えるのか」。

みんなで考えた末、ひとまず各自が「優しいものを50コ見つけてくる」ことにしたんです。まあ、心の修業みたいなものでしょうか。

―修業の成果、ありました?

それが、あったんですよ。今年度から3つの新しいコンテンツが登場して、そのうち2つ《my bento》と《my shiokuri》は、「優しいもの」から連想したアイデアです。全体をくくる「my home」というテーマとも、あたたかさや優しさが共通していて、ぴったりだなと。

結局、ひとり20案ほどアイデアを出して、恒例企画を含む120以上の中から、今年度版におさめる13のコンテンツを選出。それが、ちょうど夏前ですね。夏からは本格的な作業にかかっていくので、「ひとまず、これでいってみよう」と。

満場一致で決まった『mymymy』全体テーマ「HOME」
《my bento》家族に作ってもらってたお弁当をエピソードとともに紹介

 

まだ消せないボツ写真

―実作業に入ってからの、すすめ方は?

1人4~5つずつ企画を担当し、2人一組で動くことに。といっても、どのコンテンツもほぼ全員で協力しあって作業しました。なにしろ今回は、メンバー人数が前回の2/3。その半分は、前期にオンライン授業しか受けていない1回生だし、入稿データをつくるソフト(イラストレーター)未経験の子も。

ひとつひとつの工程を、まわりの人に教わって覚えながら、夢中でつくっていく感じでした。もちろん授業の課題もあるから、両方の制作をこなすのが大変。週1回の打ち合わせのたび、締め切りに追われ、ずっと頭をフル回転させている状態でした。

週1回行われたミーティング。メンバーで話し合いを重ねながら形にする。

―とくに、キツかったことは?

表現力についてのダメ出しですね。自分の担当するコンテンツすべてにダメ出しされると、「なにやってもダメだ…」と思えてきて。

学生の夢に乾杯する意味を込めた《my kanpai》のページでは、せっかく家の中を楽しく演出して撮った写真が、「伝わりづらい」という理由で却下に。モデルの学生さんにも協力してもらい、すごく手間をかけたのに…と、なかなか気持ちの整理がつきませんでした。だけど、何度もやり直すうち、紙面が見違えるほど良くなっていくのがわかって。

「がんばったから、これでいいよね」ではなく、泣きたい気持ちで努力を切り捨てても、「本当にいいものをつくる」ことが、社会に出すものをつくる責任なんだと肌で理解しました。…でも、あのときボツになった写真、まだ捨てられなくてスマホにあります。

ボツになったコンテンツ《my kanpai》の撮影風景。手間暇かけた企画だけに未だに写真は捨てられない。

 

―印象に残っている作業は?

印象深い、というか、かけた手間が半端なかったのは、《everything i have》です。学生さんの部屋に押しかけて、調味料からパンツまで、ありとあらゆるものを撮影。その画像をぜんぶ切り抜いて、プリントして、ひとつひとつに学生さんのコメントを書いてもらって…。私たちスタッフと同じぐらい、学生さんが汗かいてくれて完成したコンテンツです。

他にも、会ったこともない空間系の学生さんに、いきなりインスタグラムのメッセージで模型づくりのヘルプをお願いした《my room》とか。この冊子を制作するなかで、とってもたくさんのつながりが生まれて、みんなの優しさをいっぱい感じることができました。

《everything i have》数えきれないほどの学生の持ち物を一つひとつ撮影し、切り抜いていく
《my room》学生の部屋を模型で再現

 

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―いち推しコンテンツって、ありますか?

えっ、どれも思い入れが強すぎて、選べそうにない…。さっきお話しした努力作の《everything i have》は、ぜひ目を凝らして読んでほしいし、新コンテンツの《my bento》や《my shiokuri》もバラエティ豊かで、「いろんな地域から京都に来ているんだなぁ」と、つくりながら感心しました。

《my shiokuri》下宿先に届く家族からの仕送りと手紙にはほっこりする


そういえば、「なぜ学費を出してくれたのか」を家族に質問する恒例企画《my home》には、今回もめっちゃ感動。私たち自身も親などに質問してみたら、びっくりするほど長文のメールが返ってきて。いい企画だな、とあらためて思いました。

《everything i have》学生の持ち物のすべてをずらっと並べて紹介
《my home》親から送る子どもへの手紙

―完成品を手にした、ご感想は?

ふふふ…じつは最近まで、刷り上がりを開けられなかったんです。なにか失敗を見つけるのが怖くて。

でも、オープンキャンパスで高校生の子たちが、みんな『mymymy』を手にしているのを見て、つい泣きそうになりました。「悩んだときに、そっと背中を押せるものになれば」。ずっとそう思ってつくってきたから、ぜひ読んだ方々に、大学みんなのあったかい手を感じてほしい。

私たちだけじゃなく、先生や学生の全員がどこかで何かのページに関わっている、と言えるほど、みんなに助けられてできた一冊だから。この制作を通して、「いいひとがいっぱいいる大学だな」と身にしみました。

―最後に、これからのmy意気込みを!

初めてのイラレ(イラストレーションソフト)がめきめき上達したり、ファッション系から雑誌編集へと進路を見直したり。メンバー全員が、コースの授業とは違う制作を通して、自分の可能性が大きく広がったと感じています。中には、実力が及ばなかった悔しさをバネに、スキルアップに燃える子も。

苦しく楽しい1年間で得たものは数えきれません。このメンバーに出会えてよかった。最後までやり遂げられてよかった。この経験が、身体のずっと深いところで、私たちを支えてくれそうです。

息もつかぬ間に、2021年度の『mymymy』制作がスタート。私たちは「見守り役」として、次期スタッフの健闘を祈りたいと思います。

口をそろえて「出会えてよかった」と語る、大好きなメンバー。

 

2020年度で14冊目となる『mymymy』。これまで“読んだら捨てられる”のが当たり前だった大学案内を、“ずっと本棚に立てておきたくなる”作品にしよう、というのが制作の原点でした。一見、自由奔放で好き勝手につくられたような紙面の裏側には、つくる側の膨大な努力とこだわり、葛藤が秘められています。

「自己を満たす」だけでなく、「相手にとどく」表現を。それはまさに、ここに入学する高校生たちが学んでいく、ものづくりの本質そのものだといえます。


最後に、制作の調整役を担うアドミッション・オフィスの木原さんからの言葉を。

「一般的に“大学パンフレットで進学先を決めました”という高校生はいません。なぜなら高校生はパンフレットのことを"都合よく編集された情報"と知っており、本当の大学の様子をイメージできないからです。だから、この『mymymy』においては、大学から学生たちへ要望を伝えていません。表面的な大学広報は排除し、学生たちの視点を頼りに大学を切り取り、良いこと悪いこと含めて冊子としてまとめています。そこにはプロが踏み込めない学生たちの熱量があって、それは毎年確実に受験生へ響いています。だからこそ毎年“『mymymy』を見て進学を決めました”という高校生が現れるのだと思います」。


制作スタッフの皆さん、おつかれさまです。そして、制作に協力してくださった学生・教職員・卒業生のみなさん、ありがとうございました。ぜひ、ご一読いただき、入手された方は蔵書に加えていただけると幸いです。

 

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