短編映画『浮かぶかたつむり』が初めて上映されたのは、2021年1月16日。オンラインによる映画学科2年生ゼミ合評でのことでした。映画学科では昨年8月、コロナ禍での実習に向けて独自の感染症対策ガイドラインを策定。学生たちはそれを手がかりに、9月からの撮影に動きだしました。
僕らは「コロナの奇跡」を信じる。― 映画学科が独自のガイドラインを策定した理由。
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/679
こうして2020年度につくられたのは、論文や脚本を除くと、4年生の卒業制作全12作品、3年生の中編4作品、2年生の短編5作品。なかでも、「配給・宣伝までを見すえた企画をもとに映画をつくる」をテーマにした2年生Bゼミでは、ハードルの高い学外ロケを勇断し、冒頭の一本を完成させました。本記事では、作品の公式サイトやSNSにもにじむコロナ禍との奮闘や、合評を終えた現在の思いについて、制作スタッフのうち6名に話を伺いました。
《インタビュー協力者/安本未玖(監督・脚本)、時岡怜美(主演)、新庄凜々子(美術・装飾、公式サイト)、中川鞠子(プロデューサー)、石真治(美術・装飾、SNS担当)、柏原音生(助監督)、岡田尚樹(録音、製作)敬称略》
※本文では皆さんからのコメントをあわせて編集しています。
ロケ先鋒となる重圧を、
工夫と協力で乗りこえた。
― なぜ、この企画が選ばれたのでしょう?
最初にゼミ内でプレゼンされた企画は、8つありました。そのなかで安本監督の企画は、ビジュアルのイメージが明確で、人物設定も数年前の自分たち。みんなが共感しやすいものだったんです。ただ、映画の核となる重要なシーンが「プール」。そもそも撮影できるのか、大きな不安を抱えていました。8月にガイドラインがつくられ、それを持参してロケ地との交渉がうまくいったときは、全員がホッとしました。
― ロケ地の交渉は、すべて順調でしたか?
じつは、「やはりこの時期は…」と断られたところもあります。ただ、メインの「京都踏水会」さんは、過去の学生作品にもよく協力してくださっていて、「あそこの学生さんなら」と交渉もスムーズでした。その逆に、「以前どこかの学生の撮影で迷惑した」という声も。自分たちの行動が、先の信頼にかかわるんだと実感しました。しかも、私たち2回生が、他学年より先に撮影をスタートすることになって。「もし自分たちが何か起こせば、後につづく先輩たちにまで影響する」というプレッシャーは強かったです。
― 結果的に、トラブルもなく終えられましたね。
ガイドラインどおりに人数を制限し、早めの現場入りで部屋から機材まで、撮影前後の消毒を徹底していたおかげでしょうか。本来、現場の準備は製作部の仕事なのですが、担当をこえて協力しあうことで「みんなでやればできる」と確信できました。その裏で、ひそかに大変だったのが、小道具などを担当した美術部です。役者の持ち物や衣装を預かることが禁止されたので、本人が持参し忘れないように、リストを作成して前日にLINEで送ったり。各自が工夫して、無事に撮影をやり遂げられるようがんばっていました。
期待も安心も届くように
サイトやSNSで発信。
― 公式サイトやtwitterは、最初から予定していたんですか?
はい。宣伝部ができたときに、「twitterもやろう」ということに。幅広いターゲットを想定して、真面目なものから内輪ネタまで多彩なメッセージを発信。基本情報は、みんなが見てくれそうな17:00にアップすると決めておきました。twitterやインスタグラム、そして公式サイトも同じですが、一般の方の目にふれるものなので、公開する情報はしっかりと管理。どこまで学生の顔やロケ地を出すか、関係のない通行人が写りこんでいないかなど、投稿する素材を複数人でチェックして気を配りました。
― 公式サイトでは、製作の裏側も発信されていましたね。
「プロダクションノート」ですね。最初は予定していなかったコンテンツですが、学生の作品だからこそ、自分たちが直面した壁や迷いまで細かく伝えてみようと。どんな入り口でも、作品に興味を持ってもらうことが、観てもらうことにつながると思うので。ただ、本気で一般公開をめざすからこそ、学生だからという甘えを出したくない。公式サイトでもtwitterでも、盛り上がりだけでなくコロナ対策の情報も織り交ぜることで、「この時期に学生が…」と不安に思われないよう配慮しました。
― 合評での上映を終えて、ホッとしましたか?
いえ、合評は通過点なので…。やはり、私たちにとっての最終ゴールは「劇場公開」です。残念ながら学生はオンラインになってしまいましたが、学内のスクリーンで観てくださった先生方には、本作オリジナルのフライヤーを配布。キャンパス内にも事前にポスターを掲出するなど、封切りムードを盛り上げてみました。もちろん、いろんな先生方に作品を観ていただき、1回生にも先輩としての実力をアピールできる合評は、大切な機会です。上映後の先生とのやりとり、後でいただいたコメントシートなどから、いろんな気づきを得られました。
現場で学んだことも、
現場の外で学んだことも。
― 合評のコメントで、とくに心に残ったことは?
スタッフ全員が、それぞれの立場からアドバイスを受けとめたと思います。とくに私たちのゼミは「配給・宣伝」を意識していたので、先生の「みせる意志の強さ」という言葉がささりました。コロナ禍で良くやった、というねぎらいもいただきましたが、この状況で、いましかできない作品を残すことが、私たちの使命。厳しいガイドラインができたおかげで、私たちにも強い意志が生まれた。そんな風に感じています。大げさかもしれませんが、芸術を志す者として、この「みせる意志」を貫いていきたいです。
― 製作全体を通して、感じたことは?
私たちのゼミで大切にしていたのは、「22人でひとつの作品をつくる」ということ。コロナ禍で厳しい人数制限があり、4日間という短い撮影期間のなか、現場に来られない人もたくさんいました。それでも、一人ひとりが自分の役割に全力を尽くした。「大事なのは現場だけじゃない」と実感する作品でした。2回生の私たち、ほぼ全員にとって初めての本格的な映画製作でしたが、対面での製作に負けない作品ができたと信じています。
― ありがとうございます。最後に、これからの展望を!
まずは本作の劇場公開を実現させるため、ゼミ終了後も同じメンバーで活動を続けていきます。もちろん、twitterや公式サイトも引きつづき公開。それらを通して、ひとりでも多くの方に予告編を観ていただき、「本編も観たい!」と思ってもらえたら。それと並行して、合評での指摘をもとに、問題点はなるべく改善したいです。ある先生からは、「どの作品も既視感がある」という感想をいただきました。でもそれだけ、私たちに新しいものを求めているんだ、と前向きに受けとめています。3回生からの中編製作では、ぜひ、観たこともない作品をお目にかけたいです。
みせる意志、つくりつづける魂。
監督や助監督を含む、6名のメンバーにリモートで話を伺いましたが、まるでオールスタッフ22人と向き合っているような気迫を感じました。これが、先生方のおっしゃる「みせる意志」なのかもしれません。取材でも合評でも、「コロナ禍のせいで」を言い訳にする学生は、だれひとりいませんでした。
ある先生の、合評での言葉です。「いまの状況がもっと厳しくなったとしても、つくりたいものがあれば、どんな手を使ってもつくる。それが表現者」。
つくろう、みせよう。なんのために、なにをみせるのか、無限に自分へ問いつづけながら。ここで紹介した作品をはじめ、映画学科の学生すべての「いま」を映した作品が、彼らのめざすゴールへと向かうことを願います。
『浮かぶかたつむり』 公式サイト
https://ukabu-katatsumuri.wixsite.com/b-zemi
Twitter
https://twitter.com/katatsumuri_ukb
Instagram
https://www.instagram.com/katatsumuri_ukb/
【お知らせ】2021年2月13日(土)14日(日)」の2日間、『浮かぶかたつむり』ほか2年生の短編製作ゼミ6作品および自主製作作品1作品の計7作品が「高原校舎」試写室にて上映されます。詳しくは、Twitterをご覧ください。
日程:2021年2月13日(土)、2月14日(日)
場所:京都芸術大学 高原校舎 試写室
https://mobile.twitter.com/2000film_kua
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