REPORT2020.11.13

京都

自分の家が職人の工房になる!? 「京都職人 オンラインWORK SHOP」第二弾が開催

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  • 京都芸術大学 広報課

あなたのいる「場所」を、京都に。―― そんな魅力的なキャッチフレーズで、京都発のワークショップをオンラインで実施する「京都職人 オンラインWORK SHOP」の第二弾が、今年10月18日(日)に開催されました。パソコンやスマホを通して、京都の職人さんから直接指導してもらえるという贅沢な90分のワークショップ。今回は、お祝いに使われる飾り紐「水引」の伝統的な結び方を学びました。

 

新しい「おうち時間」で職人の手仕事を学ぶ

「京都職人 オンラインWORK SHOP」は、京都芸術大学 京都伝統文化イノベーション研究センター(KYOTO T5)によって企画された、京都の職人さんによる、子どもから大人までが楽しめるオンラインワークショップです。

現在、新型コロナウイルス感染拡大による生活の急激な変化にともない、社会全体で「おうち時間」を充実させるコンテンツが求められています。その一方で、伝統工芸の世界では厳しい風が吹いており、このままでは伝統が途絶えてしまう可能性が懸念されています。

そこで、このワークショップは、新しい「おうち時間」の過ごし方を提案するだけでなく、オンラインで京都の手仕事に触れることで、伝統工芸の継続の手助けもできる存在になっていくことを目指しています。

今年8月22日・23日には第一弾となるワークショップを初開催。創業200年の京提灯職人・小嶋商店さんによる「テーブルランプ・ミニ提灯をつくる。」と題した内容で、手のひらサイズの提灯づくりにチャレンジしました。90分にわたるワークショップは、「自宅が職人の工房になったかのような気持ちで、京都の伝統的な手仕事の時間に没頭できる」と好評でした。


あなたのいる「場所」を、京都に。― 「京都職人 オンラインWORK SHOP」初開催!
https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/687


2日間で17組が参加した第一回に続いて、今年10月18日には第二回が実施されました。今回は、創業100年の水引職人・平井水引工芸さんによるワークショップで、水引の基本の結び方である「あわじ結び」を学びました。午前の部・午後の部に分かれて、90分ずつワークショップが開催されましたが、ここでは午後の部の参加レポートをお届けします。

第二回 京都職人オンラインWORK SHOP

創業100年 水引職人・平井水引工芸

開催日時 10月18日(日)
午前の部 10:30〜12:00/午後の部 13:30〜15:00
参加費 5,400円(税別)+別途送料
主催 京都芸術大学 京都伝統文化イノベーション研究センター

https://wholelovekyoto.jp/

「あわじ結び」の水引キットが自宅に届く

まず、ワークショップに参加するには、オンラインでチケットを購入します。すると、開催数日前に、今回のオンラインワークショップを運営する「Whole Love Kyoto DOOR」から製作キットが宅配便で届きます。「Whole Love Kyoto DOOR」は、京都の伝統工芸のリサーチを通して職人と共同で新しい製品を制作・販売しているブランド「Whole Love Kyoto(株式会社CHIMASKI)」と、KYOTO T5による取り組みで、学生メンバーが主体となって運営に関わっています。

今回のワークショップ用に届いた箱は、長〜い箱。開けてみると、中には水引と、今回学ぶ「あわじ結び」のサンプル、そして、仕上げた水引をアクセサリーにするための金具パーツが入っていました。金具パーツは申し込み時点で、ピアスかイヤリングのどちらかを選ぶことができ、今回はピアスをチョイス。

オリジナルの製作キットは宅配便で開催数日前に到着。製作に必要な道具が一式入っています。

今回のワークショップで使う「水引」は、きらびやかなコーティングがされていて、桃色や黄色、水色などカラフル! 仕上がると、どんなアクセサリーになるのでしょうか。


さて、午後の部のワークショップが始まる13:30になりました。ワークショップはオンライン会議ツール「Zoom」を通して行われ、スマートフォンやパソコンからスタートの10分前には専用のURLに接続します。家から一歩も出なくても、パソコンを開くだけでワークショップに参加でき、自宅が職人さんの“工房”になるのがすごい!

スタートしたら、まずは運営する「Whole Love Kyoto DOOR」のスタッフから進行のだんどりや注意点などが説明され、そのあと参加者による簡単な自己紹介。京都だけでなく、東京や千葉、埼玉など関東エリアからの参加者も多く、画面を通してワークショップを楽しむぞ!という意気込みが伝わってきます。

続いて、今回のワークショップを担当いただく平井水引工芸の職人、平井喜久雄さんが登場。水引の基礎知識や、京都の水引の特徴、そして100年の歴史がある平井水引工芸の取り組みについて、簡単にレクチャーしてくださいました。

京都山科に拠点をもつ「平井水引工芸」の三代目、平井喜久雄さんによるレクチャー。二代目だった父の仕事を継ぐまでは、電子計測器関係のお仕事をしていたそう。平井さんが手にしているのは皇室の祝いの品などに使われる高級な水引。
水引の歴史についてのレクチャー。「中国からの贈答品に使われていた、麻を紅白に染め分けた紐が日本にも伝来して、祝いごとに用いられるようになったといわれています」(平井さん)。
京都の水引の文化についての解説。左は京都でポピュラーな「あわじ結び」で、どこを引っ張ってもほどけないのが特長。右は関東で一般的な「ちょうちょ結び」、もろわな結びともいわれる。ちなみに京都では、子ども向けの水引ワークショップも多く、小さい頃から水引にふれる場が身近にあるそう。


お祝いの品に添えられる「水引」ですが、その種類は多種多様。冒頭の写真で、平井さんが見せてくださった白と黒の水引は、実は皇室の祝いの品に使われるという高級なもの。あれっ、でも白黒の水引は、めでたいシーンで用いられることはないような?と思ってレクチャーを聞いていると、平井さんは、
「実はこれは黒色ではなくて、ベニバナの染料で何度も染めた『紅(くれない)水引』です。ベニバナは口紅や食品などさまざまなところで使われている赤色の染料ですが、皇室を中心に、特別なときに用いられる紅水引は、本物のベニバナで繰り返し染めることで、黒に近い色に仕上がるんです」。

水引の基礎知識についてのレクチャーのあとは、平井さんによる水引工芸の作例紹介。こちらは鶴。作品をビデオカメラに向けて、いろんな角度から造形の美しさを解説してくれました。

平井さんによる水引工芸の作例。左はクジャクの形をした飾りで、右は髪飾り。「クジャクの飾りは、あわじ結びの小さいパーツを組み合わせて作っています」と平井さん。ちなみにクジャクの工芸品は完成まで2か月かかったそう。


「ここで、ちょっとなにか、作ってみましょうかね」との平井さんの提案で、水引工芸の一例を実演してくださることに。京都に2人しかいないという水引職人の技を見せていただける、とワクワクして画面に見入ると、平井さんが手に水引を持った次の瞬間、ささっと手元を動かして……。あれっ!? もう何かができてる! 1分もしないうちに、指先で持った水引に “花” が咲いていました。まるで魔法のよう。

実演中の平井さんの手元。「水引は本来、かたいものですが、指先でしごいて、やわらかくするとスムーズに加工できるようになるんです」(平井さん)。
ものの1分ほどで、5片の花の造形が完成。「お客様からのオーダーで、イヤリングやピアスなどの小物をつくることも多いです。下鴨神社の巫女さんの髪飾りなども作りますね」と平井さん。


まずは水引3本から!「あわじ結び」に挑戦

平井さんの職人技を見せていただいたあとは、いよいよ自分で「あわじ結び」を作っていきます。製作キットで届いた水引から3本、好みの色の水引を選んだら、平井さんの手元をZoomの画面で確認しながら基本の結び方を学びます。

ここからは進行役として参加した「KYOTO T5」センター長・空間演出デザイン学科准教授の酒井洋輔先生も随時コメントしながら作業していきました。酒井さんは、「我々も平井さんに教えていただいたことがありますが、1回やそこら、やってみただけでは全然できませんでした(笑)。難しいと思いますが、みなさんがコツをつかめるようにコメントしていきますね」とワークショップを盛り上げます。

Zoomの画面は、「職人・平井さんから見た手元」のわかる視点がライブ配信され、その都度、解説してもらえるので、自分の作業中の様子と照らし合わせながら進めていくことができました。

ここからは「あわじ結び」ができるまでのステップを順番に追っていきましょう。

 

最初は、水引を指でしごく工程。水引を左手で持ち、端から10cmほどを右手でやわらかくします。
弧を描くように水引を曲げた段階。画面の中では平井さんが「水引は上から持つ」と解説中。
最初の輪をつくる工程。画面では「水引の重なったところを指で押さえる」と平井さんが解説。
最初の輪ができた!の図。画面の中の平井さんの手元と照らし合わせ、輪の大きさと形を確認。
手に持った水引の輪の角度を変え、次の輪を作る工程を解説する平井さん。
2つ目の輪ができたところ。このあと、長い方の水引を輪の中に通して結んでいく。
できた……かな? 正解かどうか不安になったら、カメラで自分の手元を映してZoom画面で共有すると、平井さんがチェックしてくれます。私の場合は、水引の通す順番が間違っていたのを指摘してもらって正解に近づきました。


同じ場所にいなくても「技」を伝える方法

「京都職人 オンラインWORK SHOP」は今回2回目とあって、運営側の工夫もあちこちに見られました。前回は提灯づくりで、提灯の型に和紙を貼っていく工程がメインでしたが、今回は「水引を結ぶ」という複雑な工程を説明ために、いかに「職人さんの目線」になって手順を学べるかがポイントでした。

その点、Zoomの画面で共有される平井さんの作業の様子は、運営スタッフによって一眼レフカメラで詳細に撮影され、細い水引にもズームしてピントを合わせて、しっかり配信してくださったので、とてもわかりやすかったです。

長い方の水引を輪の中に通して結んでいく工程は、水引を輪の上から通すか、下から通すか、間違えないようにするのがポイント。平井さんの手元をズームアップして動画でわかりやすく解説。

左上から順に、長い方の水引を輪の中に通して結んでいく工程を解説中。平井さんの手元の動きまで臨場感たっぷりに動画が捉え、仕上がりまでを解説。ここまで見せてもらえたら自分にもできる気がする! 右下の1枚は、運営スタッフが小さく細い水引にピントを合わせようと苦心中の画面。


ちなみに、平井さんによるあわじ結びのデモンストレーションは、参加者のリクエストで繰り返し行われ、また、「ここがどうしてもわからないんですが…」という質問には、部分稽古のように、「じゃ、この工程だけもう一度やってみますね」と平井さんが根気よくレクチャー。たとえば「水引を重ねる順番」「水引を通す順番」「形を整えるコツ」「ほどけないようにする仕上げ」というように、各手順やコツを平井さんが丁寧に解説してくださいました。その成果もあって、3本の水引でつくるあわじ結びは全員が完成!

「あわじ結び」の結び方の手順は、ことばで説明するのが本当に難しく、平井さんの手元を見様見真似でやってみる、「見て、やってみて、学ぶ」のが一番の近道のようでした。振り返って、メモ書きを残してみたものの、やっぱり手を動かして、指先で感覚を記憶するほうが、「あ!そうだった」とコツを思い出しやすい気がします。そして、ワークショップ後半は、繰り返しやってみるおもしろさにハマっていくことになります。

形を整える段階。3つの輪がどれも同じ大きさになるように整えつつ、ほどけないよう、水引を引っ張ってしめていきます。

できあがり! 右側がサンプルとして届いたあわじ結びのお手本で、左側は自分の作。水引の色合わせによってもできあがりの印象が随分と変わります。ここまでの作業時間は1時間ほど。

ワークショップ中は、マイクを通して直接コメントする以外にも、Zoomのチャットを通して気になったことを質問できます。チャットへの質問は運営スタッフが読み上げてくださり、平井さんから直接コメントをもらえるので、工房の中でやりとりしている気分でした。作業中は両手がふさがるので、一通り結びが完成してからチャットで質問。このときは仕上げの段階で、「しめるときは、1本ずつ引っ張ったほうが良いですか? 3本まとめて引っ張ると崩れますか?」と質問したところ、「1本ずつ引っ張るほうが良いですね」と平井さんからコメントをもらえ、完成度をあげることができました。


次は水引5本! 大きい「あわじ結び」

作業開始から1時間ほどで、3本の水引でつくるあわじ結びは全員が完成! 続いて、ステップアップして5本の水引でつくるあわじ結びにチャレンジしました。

平井さんは水引の本数について、「3本・5本・7本・10本と、作るものに合わせて水引の本数を選びますが、多いときは12本で結ぶこともあります。大事なのは、水引が重なる “交点” ですべての水引を並行に整えておくこと。交点で平行が乱れてしまうと、きれいな形に仕上げにくいのですが、本数が増えてもそれは変わりません。
本数の数字の意味は、基本は5本。割り切れない奇数のため慶事に用いられます。3本は5本を簡潔にしたもので、7本は5本を丁寧にしたもの。10本は慶事の中でも結婚の場合のみ使われ、5本の束が2つになり10本になることで両家が一つになることを表しているんです」。

水引のベーシックは「5本」で結ぶ方法、ということで、水引5本であわじ結びにチャレンジ!
Zoomで解説中の平井さんの手元を見ると、5本の水引がぴしっときれいに並んでいます。
水引5本で結ぶと、指先で交点をおさえるのも一苦労。少しでも指がずれると形が崩れます。
一通り結び終わった状態。左右の輪をひっぱって形を整え、水引をしめていきます。


5本の水引でつくるあわじ結びは、参加者のみなさんも苦戦し、「失敗しました〜」なんてコメントも。平井さんは、「失敗したら、新しい水引を出してきて、一からやり直しましょうか。水引は、一度結ぶと形がついて丸まってしまうので、再利用できないんです。途中までうまくできていても、失敗したらボツ!という悔しい体験、これまでにも何度もしてきています(笑)」と参加者を励ましつつ、きれいな形に仕上げるコツを教えてくれました。

ちなみに、今回のワークショップでは特別な道具は使わずに、指先のみで「あわじ結び」づくりに挑戦しましたが、平井さんが普段のお仕事で取り組むときは4つの必需品があるそう。

「まずは、はさみ。水引を切るのに使います。次に、針金を使って水引を加工するときに使うニッパーとラジオペンチ。前職の電気工事の仕事でもよく使っていた、なじみのある道具です(笑) そして、最後は水引を巻くための道具。これは畳をぬう針を加工して自作しています。どれもシンプルな道具です」。

完成! 結び方のコツを覚えたので、20分ほどでできあがり。水引5本のほうが3本よりもゴージャス。

水引の色合わせについては、「慶事ではすべて同じ色で結ぶのが良いとされていますが、アクセサリーや小物を作るときは明るい色の水引を選ぶとキレイに仕上がります。好きな色合わせで、いろんな形をつくってみてくださいね」と平井さん。ちなみに、作例紹介で取り上げたクジャクや鶴などの部品一つずつは同じ色で作って組み合わせていくそうです。

Zoom画面では平井さんの結んだ5本の水引のあわじ結びを解説中。色合わせが雅でかっこいい。
「結んだ後で一部をほどいて、形をアレンジすることもあります」とアドリブを披露する平井さん。


15時には、水引5本バージョンのあわじ結びを参加者全員が完成! できあがりをZoom画面でみんなで共有すると、達成感のある笑顔があふれていました。最後は、皆さんで記念撮影をして、今回のワークショップは終了。あっという間の90分でした。

平井さんはワークショップの締めくくりに、「私自身も、この『あわじ結び』の結び方を学ぶことから、水引工芸の世界に入ったので、みなさんにお伝えすることができてうれしいです」と語り、「実は、先代の父が残してくれたのは、このあわじ結びだけだったんです。父の作った水引を見て、真似しながら試行錯誤して、ここまで技術を磨いてきました。水引のおもしろいところは、一次元が三次元になること。自分自身、プラモデルなどが好きだったことも影響していますが、1本の水引から、鶴亀や松竹梅などができるおもしろみがあると感じています。
最初にご紹介したクジャクが作れるようになるまで、あわじ結びを習得してから50年かかっていますが(笑)、みなさんもあわじ結びからアレンジしていけば、自力でいろんなものがつくれるようになると思います。100本結んだら手が慣れますよ。もし、作り方で困ったことがあったら、ロームシアター前の京都市勧業館『みやこめっせ』で定期的に実演をしていますので、ぜひ見に来て質問してみてくださいね」と笑顔で締めくくりました。

「できました!」完成した水引5本のあわじ結びをZoomで共有して、記念写真。みんなにっこり。
進行役の「KYOTO T5」センター長・酒井洋輔さんは「全員が完成できたのは本当にすごい」とびっくり。水引工芸への興味が深まるコメントでワークショップを盛り上げてくださいました。


(取材・文:杉谷紗香)

 

第三回 京都職人オンラインWORK SHOP のお知らせ

創業129年の桐箱職人・箱藤商店 五代目・山田隆一さんによる、「桐箱の絵付け」ワークショップ。

第三回 京都職人オンラインWORK SHOP

創業129年の桐箱職人・箱藤商店 五代目・山田隆一さんによる、「桐箱の絵付け」ワークショップ。

開催日時 11月28日(土)13:30〜15:00
参加費 8,000円(税別)
定員 30名程度
*要予約(受付締切は11月18日。定員に達し次第、順次受付終了)
申込方法 Whole Love Kyotoホームページより

https://wholelovekyoto.jp/

 

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