SPECIAL TOPIC2020.08.24

京都教育

いちばん静かな卒業式。― 2019年度 京都造形芸術大学 通信教育課程 卒業式のご報告

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  • 京都芸術大学 広報課

2020年8月10日、午後2時。開式宣言につづいて、式辞を述べるために演壇に立った尾池和夫学長の前には、約700名分の席が広がっていました。本来なら、今年3月に開催されていた式典で、修了生・卒業生の皆さんが列席されていたはずの席です。新型コロナウイルス感染拡大というかつてない状況下で、本学初のライブ配信のみによる挙行となった卒業式。動画には映らない関係者の思いも込めて、記事でもご紹介させていただきます。

式典映像の配信はこちら
https://youtu.be/omrGH3jvxk4?t=1690


尾池和夫学長から、修了生・卒業生へ。

尾池学長の式辞は、まず685名の修了生・卒業生へのお祝いからスタート。大学名称の変更、開催されなかった卒業制作展、そして、式の前にオンラインで行われた特別講義「冷泉家の歴史と文化」の紹介へとつづきます。

冷泉家とは、ほぼ千年に及ぶ歴史をもつ「和歌の家」。そこで引き継がれてきた歌道における「型」の文化や冷泉家の歴史について、二十五代目の当主ご本人である冷泉為人先生からお話を伺える貴重な講義です(8月31日まで配信中)。

 

さらに話の内容は、世界最古の文献に記録された超新星のこと、先日の広島・長崎での平和記念式典、修了生・卒業生の活躍ぶり、3密での過ごし方、桜島の噴火など、広大無辺に広がりつづけ…。

「この日、卒業される皆さんにも、さまざまなことを考えつづけていてほしい」。

そんなメッセージとともに締めくくられました。

卒業式が延期されている間にひとつ歳を重ね、満80歳で式当日を迎えた尾池学長。今年新たに、91歳の新入生を迎えた本学においては、まだまだ若輩、といったことも語られていました。

 

修了生・卒業生代表からの宣誓。

学長からの祝辞に応えるかのように、つづいて、修了生・卒業生代表からの「修了の辞」が代読されました(最後に全文をご紹介いたします)。

今年度の代表となったのは、芸術環境専攻 環境デザイン領域 日本庭園分野修了生の大山浩朗さん。長年、庭づくりの専門家として「庭とは何か」を自己に問いつづけ、大学院への進学を志されたそうです。

入学式の当日、最前列で故・徳山詳直先生から聞いた建学の精神「京都文藝復興」。分野の先生方に教わった「つくり手の世界観たる芸術作品」など。さまざまな学びに対する感動や感謝だけでなく、それを受け継ぎ、次代につなげたいという力強い宣言に、教職員たちもあらためて「学びを届ける役割」の重大さを実感。背筋が伸びる思いがしました。

「本日の修了・卒業は、私たちの芸術への次なる出発点」。

そう大山さんが述べられたとおり、685名の皆さんこそが、これからの新たな世界を生む芸術の主役です。どうか、ここで得られた技、心、絆を糧として、それぞれの信じる明日へと歩みつづけていただきたいです。

 

理事長の約束、そして校歌。

修了生からの熱い思いを受けとって、最後に演壇に立ったのは徳山豊理事長。不世出の教育者とされる吉田松陰の言葉、「志をたて、もって万物の源となす」からはじまった歓送の辞は、この大学自体も修了生・卒業生とともに精進することを誓い、「いつか、できなかった卒業制作展をこのキャンパスで開催したい」という希望で締めくくられました。

 

がらんとした会場で、オンライン画面の前で、この式に臨んでいる私たち全員の願い。それが叶うときには、きっと、社会にも新たな希望が生まれていることでしょう。

式の終わりに、例年ならば会場の皆で斉唱する学園歌「59段の架け橋」を映像視聴。

「熱き心に生まれた 夢の鐘は鳴っているか? 」

「たった一度の人生 過ぎるときに悔いはないか?」。

学生生活のVTR映像とともに歌を聴いていると、世代をこえ、居場所をこえ、皆さんの心をつなぐ架け橋が見えてくるようです。卒業しても、目に見えなくても、決して消えることのない絆が。

学園歌「59段の架け橋」をBGMに、学生生活の様子が映し出された。


分科会、動画コメントより。

式典が終わった後、それぞれのコースごとにオンラインによる「分科会」が催されました。その様子や内容をピックアップしてご紹介します。

空間演出デザインコースの皆さん。
歴史遺産コースの石神裕之先生、栗本徳子先生。

多くのコースでは、先生が進行役となり、zoom(オンライン通話システム)を通して卒業生の皆さんが久しぶりに顔合わせ。それぞれの感想や近況を報告しあいました。

美術科では、先生方による卒業制作ひとつひとつへの講評を動画で配信するコースも。直接会えない先生に寄せ書きの花が届けられたり、先生から卒業生へ画面ごしに「はなむけの一句」を贈ったり。「あれれ、ちょっと音声が…」などと、慣れないオンライン対話にとまどう場面もありながら、卒業生からの感謝に顔をほころばせる先生がいて、先生からのエールに聞き入る卒業生がいて、それぞれの思い出を心に刻みました。

歴史遺産コースの石神先生による「はなむけの一句」

「延期」そして「ライブ配信」と、二転三転した卒業式。けれど、配信した動画にはたくさんの温かいコメントが寄せられ、関係者一同、3月以来ようやくホッと肩の荷がおりた気分を味わえました。

8月10日の空は曇り優勢。瓜生山の麓で行われた2019年度の卒業式は、その雲から垣間見える空のように、静かに、そして深く、心に染みるものでした。

松麟館屋上より、京都市内を望む。

 

本学では、藝術学舎(一般公開講座)や全国各地で開催する収穫祭など、今後もさまざまなかたちで、より充実した学習環境づくりをすすめていきます。本日、節目を迎えたおひとりおひとりが、いつまでも、めざす道に向かって学びつづけられるように。

あらためまして、皆さま、ご卒業、ご修了、おめでとうございます。

最後になりましたが、修了生代表、大山浩朗さんの「修了の辞」をご紹介させていただきます。

 

修了の辞

新型コロナウイルスが世界に広がり、国内でも様々な対応が求められております。このようななか、京都造形芸術大学の修了式・卒業式実現に向けて最後までご尽力を賜りました京都芸術大学並びに関係者の皆様のお心遣いに対しまして、厚く御礼申し上げます。

私たちは、様々な人生経験を経て、全国から芸術の学び舎、ここ京都芸術大学に集結し、それぞれの切り口から芸術の本質に迫り、研鑽を積んで参りました。先生方は、卓越した専門性と識見をもって、時間を惜しまず、カリキュラムの枠を越えて、熱心にお導きくださいました。

私は庭づくりを課題に一級造園技能士十名による勉強会を続けておりますが、「庭とは何か」という問いに答えを見いだせないまま、齢を重ねておりました。その答えを求め、2018年2月、東京(藝術)学舎に尼﨑博正先生をお訪ねしたことが、本学にご縁をいただいたきっかけです。

四月の入学式、私は最前列の中央に席をいただきました。そこで故・徳山詳直先生の建学の精神「京都文芸復興」の朗読をお聞かせいただき、天啓の導きを得た、と身震いしたことを今思い出します。

スクーリングの初日、尼﨑先生は「庭は作庭者の世界観の表現である」と申されました。これは凡そ芸術分野に通底する原則として、私の論文のテーマへの視点と方向を決める一言ひとこととなりました。未だ謎の多い鎌倉瑞泉寺の庭を夢窓疎石の世界観に立って解き明かすという難題に体当たりする勇気をいただき、また、覚悟を決めることができたのもこの一言に尽きます。

先生方は、御自らの、また、先達の汗の浸み込んだ庭を教材として私たちを案内し、的確な資料を用意して私たちを庭の世界へと招き入れてくださいました。熱のこもったご教導のおかげで、私たちは造形芸術の本質と哲学を理解し、深め、一歩一歩、自分の言葉で、論文の作成と推敲を重ねることができました。先生方のご期待に応えることは、困難かつ苦しみを伴いましたが、それは私たちにとって生きがいそのものでもありました。

本学は、専門性を異にする幅広い芸術分野の受け皿を用意して私たちに芸術探求の意義を示し続けてくださいました。それぞれの芸術分野は独立しつつも分離するものではなく、有機的に関連しつつ、総合芸術として収斂されるべきものであることは、徳山先生のご遺志であり、本学の共通認識でもあります。

本日の修了・卒業は、私たちの次なる人生への出発点です。私たち修了生・卒業生685名は、ひとりひとり本学で学び得た成果を矜持とし、今後も、徳山先生のご遺志を継いで「芸術文化探求への絶えることなき研鑽」を積み、京都芸術大学と共に、ここ京都から文芸復興の鼓動を新たに発信していくことを決意し、お誓い申し上げます。 ありがとうございました。


令和2年8月10日
2019年度修了生・卒業生代表
芸術環境専攻 環境デザイン領域 日本庭園分野修了
大山浩朗

 

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