京都造形芸術大学に「守護獣」が降り立ちました。
2019年11月に世界遺産・比叡山延暦寺に奉納展示された一対の狛犬と獅子が、京都造形芸術大学瓜生山キャンパスに鎮座しました。新型コロナウイルスの影響で先行きが不透明な情勢となる中、世界的な疫病の蔓延から人々を守る願いが込められたアート作品です。
古代オリエントから伝来し、エジプトのスフィンクスや仏像の前には獅子として表現されてきた「狛犬」。もともとは仏や神を守る獅子として表され、日本では「阿吽」が対となるよう、向かって右側に口を開けた獅子、左側に角があり口を閉じた狛犬が向かい合って置かれました。平安時代に宮中の清涼殿に魔除けとして置かれたのが始まりの一つとされており、両方合わせて狛犬と言われています。
その狛犬をモチーフにした作品を1200年の歴史を有する比叡山延暦寺にある国宝・にない堂の眼前に奉納することになり、制作に挑んだのが現代美術作家のヤノベケンジ・美術工芸学科教授と10人の学生たちです。大学内の共通工房・ウルトラファクトリーでヤノベ教授と学生が祈りを込めながら制作に励み、高さ3m、重さ200kgの守護獣《KOMAINU―Guardian Beasts-》を生み出しました。基本的な造形や顔はヤノベ教授が担当し、肩や足などのステンレスの貼り付けや尻尾の造形は、学生がヤノベ教授の指導を仰ぎつつ制作。黒い外観と赤色の眼、鋭く光る金色の牙が印象的な作品です。
延暦寺では、「一隅(いちぐう)を照らす運動」50周年を記念したアート&カルチャーイベント「照隅祭」の目玉の一つとして展示され、荘厳な空気が漂う「にない堂」の前で、多くの人々に希望の灯を与えていました。
地球環境の悪化、人類の分断・対立、国際紛争など、人類を危機から守るためにアート作品として命を吹き込まれた《KOMAINU―Guardian Beasts-》が、なぜ瓜生山キャンパスで展示することになったのか。
ヤノベ教授はチェルノブイリ原発事故や東日本大震災などの未曽有の出来事を通して、芸術ができることは何かを問い続けており、社会問題に向き合う「意味のある芸術作品」の制作に挑んできました。子どもの命令にだけ従い、歌って踊って火を噴く巨大な人形『ジャイアント・トらやん』(2005年)、東日本大震災に希望のモニュメントとして国内外で巡回展示された、たくましく立ち上がる子どもの像『サン・チャイルド』(2011年)など、物語性や社会への鋭いメッセージを発する作品作りに挑んできました。
「新型コロナウイルスで社会不安や混とんとした空気が広がる今だからこそ、人々を勇気付け、前向きに奮い立たせる作品を展示する」
京都造形芸術大学は芸術の力でより良い社会の実現を目指す「藝術立国」という言葉を建学の理念に掲げています。守護獣を展示することで、大学の理念を体現するとともに、人々の心に希望の明かりをともそうというメッセージも込められています。
3月21日に保管場所から搬入された作品は、約4時間かけて元の姿を取り戻しました。夕日を浴びて神々しく輝きます。
展示場所は瓜生山キャンパス大階段を上がった先にあるピロティです。比叡山と同様に鬼門の方角である北東から京都市内を望み、守護獣として京都、日本、世界の安寧を見守ってくれています。
展示期間は8月までの予定です。
現在、瓜生山キャンパスは感染症対策で学生や一般の方の入構が制限されており、間近でご覧いただくことはできません。ただ、白川通りからはその雄姿を遠巻きに眺めることができ、通りを行き交う方々は大階段の上の狛犬を見つけると、物珍しそうな表情でスマートフォンのカメラに収めていました。
世界中で脅威となっている感染症が一日でも早く終息し、守護獣の周辺を学生たちが行き交う「日常」が訪れることを願っています。
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京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts
所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
連絡先: 075-791-9112
E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp -
顧 剣亨Kenryou GU
1994年京都生まれ、上海育ち。京都造形芸術大学現代美術・写真コース卒業。大学在学中フランスアルルの国立高等写真学校へ留学。都市空間における自身の身体感覚を基軸にしながら、そこで蓄積された情報を圧縮・変換する装置として写真を拡張的に用いている。