SPECIAL TOPIC2019.12.27

京都デザイン

京都に根付くものづくりに新しい価値を-“KYOTO T5” GOOD DESIGN賞受賞

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  • 京都芸術大学 広報課

2019年度のGOOD DESIGN賞(地域・コミュニティづくり)を受賞したKYOTO T5。京都造形芸術大学の「京都伝統文化イノベーション研究センター(KYOTO T5)」は2017年に発足し、京都における伝統文化の継承・発展に寄与することを目的として活動を広げています。

基盤になるのは、学生たちによるリサーチ。伝統文化の素材や道具、技術を掘り下げ、月に一度WEBページで記事を公開しアーカイブしています。発足から2年で、50組以上の職人たちとつながり、さまざまなアイデアが生まれ、商品が誕生してきました。

KYOTO T5のセンター長であり空間演出デザイン学科の酒井洋輔准教授のスタジオを、副学長の小山薫堂と、京都の手仕事製品の代表格でもある一澤信三郎帆布の一澤信三郎氏が訪ね、その活動の魅力に迫りました。

古から日本人の足元を彩ってきた“鼻緒”を現代のスニーカーにアレンジした「HANAO SHOES」

活動の拠点にもなっている酒井准教授のスタジオ「CHIMASKI(チマスキー)」。その一角では、KYOTO T5(※)の商品に触れることができます。入り口にずらりと並び、迎えてくれたのは話題の「HANAO SHOES」。2017年の販売から多くのメディアに取り上げられ、KYOTO T5のヒット商品となりました。

(※)KYOTO T5はリサーチ、インタビュー、アーカイブを主な活動とする大学内の組織。KYOTO T5の活動から製品をデザインし、開発・販売するのは「Whole Love Kyoto」というブランドで展開している。

鼻緒は職人の手作りで制作され、靴に取り付ける仕上げはスタジオ地下で行われています。京都は職人が集まる場所でもありますが、同時に仕上げの街ともいわれています。鼻緒を使う草履もそのひとつ。

職人が仕上げた鼻緒はまったく同じものはない。素材もデザインも多種多様、自分にぴったりの鼻緒を選ぶのが「HANAO SHOES」の楽しみのひとつ

「さまざまな人の手を経て、草履と同じように、ここでHANAO SHOESができあがっているんですね」と鼻緒を見つめる小山副学長。

KYOTO T5では、HANAO SHOESをはじめ、錺金具職人と漆職人の技術を活かしたアイスクリームスプーンや、茶道の桐箱の装飾に用いられる真田紐をつかった帽子など、そのアイテムは多岐にわたります。

何層にも漆が塗り重ねられた美しい風合いのスプーンと、神社仏閣建築に用いられる錺金具技術を用いたスプーン
真田紐をつかった帽子、結び方には古くからいくつもの種類がある。結びをアレンジしながら自分サイズに調整ができる帽子も開発中
京都の碁盤の目の通りを「ギンガムチェック」に見立てた柄がプリントされたトートバック。一澤信三郎帆布とのコラボレーションアイテム

これらのアイデアや商品が生まれてきた背景には、KYOTO T5の活動基盤でもある「リサーチ」があります。

「京都にはあちこちにものづくりの職人たちが存在しています。KYOTO T5の学生メンバーは京都を拠点としているので、職人や関係者たちにすぐに会いに行くことができるんですよね。この数年で50以上ものものづくりの現場に足を運び、目で見て、話を聞いて、体験してきました。これらはすべてアーカイブされていてWEBに月に一度公開されています。これらの豊かなリサーチを広げることで、新しい価値の物事を生み出すことにつなげています」と、酒井准教授は話します。

一澤信三郎帆布の信三郎氏にも、技術のインタビューや現場見学、商品づくりにご協力いただいている

「自分から意識的に活動せえへんと、いまの若い人はものづくりに関わるきっかけがあらへんな。わたしが小学生の頃なんかはあちこちに職人の工房・モノ作りの現場があって。おもちゃを買うお金もないから、大工さんのところで木片で船を造って遊んだり。扉も開け放っている工房がほとんどやった。そやから、わたしのところも小学生が見たい!なんて言うてくれたら見せてあげるようにしてる。そういう現場を見てみる、体験してみるというのは大学生にとっても貴重な体験やね」と、信三郎氏。手仕事の過程を見て聞いて体験する大切さに話題が及んだところで、酒井准教授から小山副学長と信三郎氏にプレゼントが送られました。

小山副学長にプレゼントされたのは京鹿の子絞りの「横断絞り」という技法で染められたストール。染める際に、ひと節ひと節を糸で縛ることで美しいラインができあがります。

本来は染め上がったら糸を解いて乾かすのですが、また糸を縛った状態に戻すことで職人が染め上げる際におこなう糸の縛り方やその技法を体験できるというストールです。

ひっぱればパッと解けるが、この結び方も職人独自の秘密の技
広げると美しい横縞模様に。このしぼった風合いは使い続けると変化していく。味わいが変わる様もおもしろい

信三郎氏には三角形の板にアコーディオンのように布が折りたたまれたアイテムがプレゼントされました。留められた紐をほどくと……。

鮮やかな花模様があらわれました。こちらは「雪華しぼり」と呼ばれる技法をつかったストール。美しい模様に思わず笑顔がこぼれます。

「これから生産性とか製造効率とか利便性とか、そういうことを求めるよりも、専門性とか独創性を目指さなあかんのとちがうかな。そやないとおもろいものなんて出現せえへんと思う。ボタンを押すだけで何かが出来上がってくるんやったら、おもろない。その過程がやっぱり重要」と、信三郎氏。酒井准教授も、この手仕事を目にしたときに「なにが出てくるんだろう」と楽しくてこの商品をそのまま形にしたのだと言います。

(京鹿の子絞り職人とKYOTO T5が共同開発した絞り染めスカーフ「TOCHU」のクラウドファンディングを実施中です。詳細ページはこちら

「僕は物の価値は感情移入だと思っています。物の立場から言えば“愛され力”があるかどうか。作る過程をなにも知らないで使うのと、こんなに手間がかかってるんだ!って使うのだとまったく違いますよね。ものづくりの奥行きを見れば見るほど、知れば知るほど愛される力が強くなりますね。」と、小山副学長。

学生とともに、さまざまな職人のもとに足を運んできた酒井准教授。この夏出会った藁細工職人の話が話題にあがります。

「藤井さんという若手の職人のところに学生たちとお邪魔したんです。今でも神社やお寺のお祭りのときに使うわらじを作ってらっしゃいます。藁でできているから、古くなってダメになって捨てたとしても自然にかえるとか、お米の稲藁をそのまま米俵にしていた話とか、きれいなサイクルがあるんですよね。いまはサスティナブルって言われたりもするけれど、伝統文化って基本的にずっと前からサスティナブルだったんですよ。そう気がついたときにとても感動して……。まだ思いついてはないですけど、そういう文脈で伝統文化を語っていけたら、時代と呼応して、すごく可能性が広がっていくなと感じました」

学生たちが藁細工の工程で藁打ち作業をしていると、疲れてきたときに自然と歌を歌い始めたそう。「歌ってこうやって生まれたのかもしれない」と目を輝かせ動画を流す酒井准教授

小山副学長は「KYOTO T5のリサーチした情報って、オープンなものですよね。今後はもっと、伝統文化の人たちをクリエイターにつなげていくことをできていければおもしろい。たとえば今年は藁細工とテーマを決めてコンペティションを開催する。学生たちが味わった感動を共有して、いろんな人がそれを知ることになる。職人さんをつないでいくっていう活動ができれば、自分たちにアイデアがなくてもどんどん広がっていくと思いますよ!伝統文化のコンシェルジュじゃないけど、何か無いかなってときに相談できる場所になれば、KYOTO T5の役割がもっと見えてきそうです」と、今後のあらたな展開に期待を寄せました。

KYOTO T5では職人の技術のアーカイブ以外に、道具の収集も進めており、2019年秋には道具を主題として活動する「Linda Brothwell Studio」(英国・ロンドン)と合同で道具のリサーチも行った
職人の手のビジュアルコレクション。手仕事を行う手のコレクションも収集している

KYOTO T5はミラノサローネ、パリの見本市メゾン・エ・オブジェ、欧州の美術大学など、世界とのつながりも広がりつつあります。ここを起点に世界中のクリエイターたちが日本の伝統文化の可能性を広げていくかもしれない、そんな未来がみえた対談となりました。

今後のKYOTO T5の活動にもぜひご注目ください。

(文:藤田祥子/撮影:衣笠名津美)

 

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