京都大学医学部付属病院の新病棟に設けられた新生児集中治療室(NICU)と回復治療室(GCU)に、京都造形芸術大学の学生がホスピタルアートを手掛けました。新たな命が誕生する場所にふさわしく、「人どうしの縁をつなぐ」ひと筆描きで動物や植物といった森の風景を表現。癒しや安心感を与え、命のつながりが伝わるアート作品となりました。
京都造形芸術大学では2019年4月に同病院と包括協定を結び、芸術による医療環境の改善事業などに取り組むこととなりました。その後の話し合いで、他病院で実績がある本学のホスピタルアートを建て替え工事中の中病棟にあるNICU、GCUに施すことになり、応募した50人の学生が「HAPii+2019 ホスピタルアートプロジェクト」と銘打ったこのプロジェクトに参加することが決まりました。
19年10月上旬、初めて病院を訪れた学生たちは、医師や看護師の皆さんからNICUの概要やアートに込めてほしい思いなどを聞き取り、施工場所を見学しました。その後、大学内でアイデアを出し合い、120の案から3案を厳選。11月下旬に各案をプレゼンテーションし、病院側の協議の結果、今回の「つなぐ」案が採用されました。
施工は12月に入ってから始まり、制作期間はわずか2週間。メンバーは授業終了後や休日の限られた時間で役割を分担しながら作業し、GCUの廊下は絵の具、室内ではカッティングシートを使って、ぬくもりを感じる明るい空間に仕上げていきました。
そして完成した作品のテーマは「赤ちゃんと赤ちゃんを見守る人たちみんなが『つながる』」。命が動き、つながるNICU、GCUを「森」に見立て、植物や動物を生き生きと描くことで、命を大切に思う人同士のつながりを表現しています。
まず目を引くのは、約12mの廊下を彩る動物たち。カンガルーやシカ、ウサギ、リスなどが、緑色や茶色など落ち着いた色合いのひとすじの線で表されています。そのほとんどは子育ての印象が強い動物が親子で寄り添っている様子で描かれており、赤ちゃんを大切に思う家族や病院スタッフに寄り添いたいという思いが込められています。
学生がひときわデザインを考え抜いた処置室兼面談室。家族が増えるうれしさを感じると同時に、さまざまな話が繰り広げられる部屋なだけに、動物は配置せず、落ち着いた環境となるように心掛けました。
GCU内部では天井でモモンガが見守り、沐浴室付近にはアヒルやペンギンといった水辺の動物を配置しました。緊急性の高いNICU内部は治療の妨げとならないように最小限のアートにとどめています。
今回のアートのもう一つの特徴は「おてがみシステム」です。治療、回復期にあることからガラス越しでしか会うことができない赤ちゃんの兄姉が、カンガルーの絵のお腹部分に付けられた「おとどけ袋」にきょうだいへのお手紙を投函できるシステムです。「赤ちゃんとのつながりを目に見える形で表したい」という学生たちの案が採用されました。
施工期間中、様子を見に来られた医師や看護師の皆さんは感嘆され、その言葉が学生の励みとなりました。施工が終わり引き渡しの際、葉っぱに見立てたカッティングシートを組み合わせた「はっぱはーと」を医療スタッフの皆さんにお気に入りの場所に貼ってもらい、最終的な完成となりました。
カンガルーの親子をモチーフにしたNICUのロゴも制作することとなり、完成したロゴマークがNICUに設置されています。「家族がもっと家族になる。そんなきっかけでありますように」。プロジェクトメンバー50人の願いが、赤ちゃん、ご家族、医療スタッフの皆さんに届くことを願っています。
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