(文:久保田瑛理・芸術文化学科 2004年卒業)
まだまだ暑さの残る9月15日、今年も卒業生同士が一堂に会する「ホームカミングデー」が行われました。2016年から始まったこのイベントも4回目。(2回目は台風により中止)今年は「あの望天館が、この望天館に。」というキャッチコピーが掲げられました。
1977年に京都芸術短期大学が開学してから2017年までの40年間、本学のシンボルとして学園を見守っていた望天館。老朽化とキャンパス整備計画のため、惜しまれながらも役目を終えた望天館がついにリニューアル! 昨年のホームカミングデーの際は工事中で何もない状態でした。その光景を見て、切なさと期待が入り混じった感情を抱いてこの日を迎えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この日は大瓜生山祭(学園祭)とオープンキャンパスも同時開催されていて、学内はとても賑やかでした。元気な呼び込みや、たくさんの笑いあう声が飛び交う人間館をくぐり抜け、向かった先は春秋座。
まず、春秋座で式典が行われました。約40年の瓜生山学園の歴史を空撮で振り返る映像が流れ、司会の上方落語家・月亭遊方さんがスッポン(花道上にある、舞台下から役者が出てくる際使われる舞台装置)から登場。時折ユーモアを交えながら、「おかえりなさい!」と元気に迎えてくださいました。式典にはたくさんの卒業生が出席。親子で来場している方もおられ、時々無邪気な子供の声が響くなど、終始和やかな雰囲気でした。
その後、「松蔭芸術賞」と、「瓜生山奨励賞」の授与式が執り行われました。
松蔭芸術賞は、社会活動を活発に行い優れた成果が期待できる卒業生に送られる賞。第11回 松蔭芸術賞の受賞者は、吉岡由美子さん(通信大学院 芸術環境専攻 修士課程超域プログラム 制作学 2019年修了)。
そして瓜生山奨励賞は、本学で学び広く社会に貢献している人に送られる賞。第3回 瓜生山奨励賞の受賞者は、井上安寿子さん(舞台芸術学科2011年卒業)でした。井上さんには、副賞として、在学時からのご友人で現在も親交のある山口県萩市・萩焼坂高麗左衛門窯 坂悠太さんの作品が贈られました。
お2人とも、自分の進むべき道を見つけて行動した時に巡り合った人が本学とご縁のある方だったとのこと。受賞の喜びとともに、不思議なご縁のつながりを口にされていました。そのお話をこうしてホームカミングデーで聞けるのも、何かのご縁。さらに同窓生の輪が広がることを願わずにはいられません。
式典終了後は、いよいよリニューアルした望天館へ場所を移しての懇親会。7月にオープンしたばかりの真新しい望天館に足を踏み入れると、ほのかに新築の香りがしました。やはり慣れ親しんだ望天館とは違う雰囲気に、参加者はどこかそわそわと落ち着かない様子。
しかし、尾池和夫学長による「乾杯!」の合図の後は、一気に和やかな宴会ムードに。食のブースにはあっという間に行列ができ、美味しいお酒と食べ物を手にしたら、あちこちから笑い声が。旧友や先生たちとの再会を喜びあう姿が散見され、皆楽しそうに談笑していました。
ちなみに今回乾杯に提供いただいた日本酒は、卒業生の太田裕人さん(環境デザイン学科 環境デザインコース 2002年卒業)が勤務されている賀茂鶴酒造株式会社様の“純米吟醸「五」”。香り穏やかで、とても甘く飲みやすい吟醸酒でした。
また、受付で配られたお土産のお菓子も卒業生が作ったもの。木本勝也さん(デザイン学科 情報デザインコース 1997年卒業)による、世界に1つだけの木型で作られたUCHU wagashiのオリジナル落雁です。(瓜生通信で紹介中:https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/556)
今年は本学教員で日本画家・山本太郎先生の作品と写真を撮れるブースも設置され参加者が入れ替わり立ち代り写真を撮っていました。
また、望天館吹き抜けでは、本学教職員による茶道部「どんぐり会」がお茶席をサプライズ! しずしずとした雰囲気で、お茶とお菓子を提供していました。着物姿でビシッと決まった先生方、とても素敵でした。
また、ホームカミングデーでは毎年、WEBサイト「卒業生のいるお店」から飛び出して、卒業生が活躍するお店が出店します。
「卒業生のいる食のお店」では、「小川農園 pasta sorriso」、「フォーンヴィエット」、「TRAVELING COFFEE」、「まつは」、「ふくのたね製パン」、「le murmure」の計6店が出店。
「まつは」は、西村由香さん(美術工芸科 陶芸コース2008年卒業)が姉妹でつくるごはん屋さん。二条にお店を構え、体に優しい手作りのご飯や甘味、ドリンクを提供されています。この日用意してくださったのは、中に肉餡が入った“肉おはぎ”と薬膳スープ。甘さ控えめのあんこと肉餡のしょっぱさが引き立って、あまりの美味しさに思わずペロリ。メニューや内装も2人で相談して一緒に作り上げたそう。「食べたいものを作っているだけなんです」と朗らかに笑うお二人がとても素敵でした。
「小川農園」は小川陽平さん(大学院 芸術表現専攻修士課程2007年修了)と砂原勇紀さん(環境デザイン学科 2007年卒業)が姫路で営む生パスタ工房。人気のお店とあって、大盛況でした。小川さんのイタリア人の奥様と可愛いお子さんたちもお手伝い。「たくさん食べていただきたいので」と、毎年違う形のパスタを提供されているそう。「それを楽しみに来てくださる方もいらっしゃいます。おかげさまでどんどん広がっています」と嬉しそうに話しておられました。オススメのラヴィオリ、チーズが濃厚でモチモチで、とても美味しかったです!
人間館では、浦川篤子さん(空間演出デザイン学科空間デザインコース 2010年卒業)の「aco wrap」、福田陽平さん(美術工芸科 洋画コース 2002年卒業)の「ピネル工房」、横山瑞華さん(こども芸術学科こども芸術コース 2017年卒業)の「ぼうやのおみせ」の“アートとデザイン”にちなんだ3店が出店。
3人とも昨年に引き続いての出店でしたが、卒業生で徐々に応援してくれる人が増え、更なる目標ができた様子。それぞれのビジョンを掲げて、独自のスタイルでやりたいことを実践していきたいと明るく話しておられたのが印象的で、頼もしさを感じました。
ここで懇親会の感想を参加者に聞いてみました。
同級生の藤野師穂さん(美術工芸科 染織コース 2000年卒業)と植田光美さん(美術工芸科 染織テキスタイルコース 2000年卒業)は、共通の同窓会メンバーに誘われて参加した昨年のホームカミングデーでの再会をキッカケに、在学中よりも頻繁に交流を持つようになったそう。卒業後は縫い物とお菓子作りをそれぞれ生業にされているそうです。新しい望天館については「こんな綺麗な望天館見たことない!」と本学の変化に衝撃を受けていました。
川分陽二さん(通信教育部 文芸コース 2016年卒業)は東京にお住まいで、金融関係のお仕事のかたわら、小説を書くために通信教育部へ入学されました。通信での学びについて「仕事の時とは全く違う脳を使うので、別世界を見せてもらった。ホームカミングデーは是非また来たい。創造意欲が掻き立てられます」と話していました。
今年3月に卒業したばかりの米川実果さん・渕田詩織さん(情報デザイン学科 2018年卒業)、岡本美輝さん(環境デザイン学科 2018年卒業)は、旧望天館を知る最後の世代です。初めて見る新しい望天館に「こんなに綺麗になるとは……」と変化に驚いている様子。学科は異なりますが、大学の同じプロジェクトに参加していた3人、卒業後はそれぞれ別のお仕事に就いているそうですが、「これからも本学のつながりを活かしていきたい」と笑顔で答えてくれました。特に滋賀県出身の米川さんと渕田さんは「滋賀県の魅力を伝えるために協力できることがあれば是非やりたい!」と使命感に燃えていました。
懇親会の後は、春秋座にて『ホームカミングデー2019 落語家・桂米團治「上方落語の世界」』が特別上演されました。
前座で桂佐ん吉さんが一席を披露。そしてお待ちかね、還暦&噺家生活40周年を迎えられた上方落語界の重鎮、桂米團治さんの登場です。演目は『猫の忠信』。
出囃子にあわせて陽気に小踊りしながら登場された桂米團治さん。テンポの良いストーリー運び、複数の登場人物を変幻自在に行き来する、メリハリのきいた巧みな話術にすっかり惹き込まれ、最後のオチでは会場全体が大爆笑。大きな拍手に包まれ「ホームカミングデー 2019」は幕を閉じました。
筆者はこのホームカミングデーで、“つながりと挑戦、巻き込む力”を感じました。在学中に仲間と何かを作り上げることの素晴らしさと面白さを体感し、卒業後も行動力と人脈を活かしたものづくりをされている方の多いこと。何か“やりたい”と手をあげれば、仲間や母校がバックアップしてくれる安心感。仲間とのつながりが相乗効果となり、さらに良いものが創造される、良い循環が出来上がっていると実感しました。
建物が新しくなるなど、昔からあったものがなくなるのは寂しくもありますが「変わらぬもの」を守るためには変わることも必要です。京都造形芸術大学が、私たちの“ホーム”であることにも変わりはありません。安心して帰ってきてください。
京都造形芸術大学の新しい歴史が始まります。新しい望天館とともにスタートを切った本学のこれからを楽しみに、また来年のホームカミングデーでお会いしましょう!
(写真:八木信久)
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