カラフルで目にした人を思わずわくわくさせる「UCHU wagashi」。このブランドを手掛けるのは1997年デザイン科情報デザインコースの卒業生、木本勝也さんです。今回、9月15日(日)に開催される瓜生山学園ホームカミングデー2019のオリジナル手土産にもご協力をいただいています。
2010年の創業から、これまでにない現代的なデザインの落雁(らくがん)や、天然果汁の干菓子など、あたらしい和菓子を生み出し続けてきたUCHU wagashi。伝統が息づく京都で活動をつづける木本さんの「ものづくり」への想いとは?アトリエと工房を訪ね、木本さんにお話を伺いました。
和菓子と言われると、季節の草花や、伝統的な松や竹などをモチーフにしたものをイメージする人が多いかもしれません。しかし、UCHU wagashiにならぶ和菓子は、色鮮やかで自由なデザインのものばかり。
(写真:http://uchu-wagashi.jp/)
その人気はデザイン性だけではありません。選びぬかれた素材を組み合わせ、職人の手仕事でつくられた和菓子は、口にした人の心を虜にします。
UCHU wagashiは、寺町本店と京都タワー、さらに京都駅ビルの伊勢丹に店舗があります。今回うかがったのは西陣にあるオフィスと工房。築100年の長屋を改装したこの場所から、UCHU wagashiははじまりました。創業時の写真を見ながら「もう懐かしいですね」と木本さん。まずは在学中からこれまでの道のりについて伺いました。
「大学の2~3年生の頃は、キャラクターデザインに夢中になっていました。自分自身の分身をつくるイメージで、影響を受けたことや、世の中がもっとこうあればいいのにという価値をアウトプットするんです。言葉ではうまく伝わらない、もやっとしたものを絵にしてプレゼンテーションする。それが僕のものづくりで、僕の信念的な部分。UCHU wagashiのデザインにも、同じ気持ちで取り組んでいます。」
大学卒業後はキャラクターデザインの会社や、家電メーカーなどを経て、フリーのグラフィックデザイナーとして活動されていた木本さん。京都から新幹線に乗って、東京の有名デザイナーを訪ね歩いた頃も。どういったきっかけから、和菓子のブランドを立ち上げることになったのでしょうか。
「家電メーカーを退社した後、1年ほどニュージーランドで過ごす機会がありました。京都で生まれ育ったと話すといろんな人が興味を持ってくれて……。客観的に京都の価値や魅力を感じさせられました。だんだん自分が暮らしてきた土地に根づく文化や伝統に寄与したい!と考えるようになって、京都に戻ってきました。何ができるかと観光データや文化についてリサーチを進めたところ、当時の京都観光白書にどんなお土産が多く買われているかが書いてありました。そこで目に飛び込んできたのが“お菓子”でした」。
そこから、京都中のお菓子屋をめぐったという木本さん。和菓子屋のショーケースのすみにあった落雁に、なんとも言えない輝きを感じたといいます。
「シルエットやフォルム、シンプルな素材。出会ったときに、まるで恋するみたいに胸が高鳴りました(笑)。最初はお菓子屋さんに企画書をもっていって、ディレクションとして関わり、オリジナルの落雁をつくろうとしました。つくるところまで進んだものもあったのですがなかなか納得がいきません。お願いしてつくってもらっているから無茶も言えないし、何度も繰り返すうちにもどかしくなってきて。こうなったら、もう自分で全部やる!って、つくり方も知らないのに、一から自分の手で落雁をつくることにしました」。
笑いながら話す木本さんですが、材料の手配や落雁を形づくる木型の制作、何一つとしてスムーズに進んだものはなかったと言います。
「材料の和三盆糖を手に入れるにも、知り合いを頼って何人にも頭を下げ、やっと砂糖にたどりつく事ができました。落雁に使用する木型も、道具屋に定形の形はあってもオリジナルでつくる人なんて当時はいません。パンダを作って欲しいとお願いしても犬になったり(笑)。木型をつくることさえもままならず、若手の仏師さんに助けを求めたり、あらゆることに奔走する日々でした」。
昼間はデザインの仕事をしながら、夜は落雁のレシピづくり。0.1mmずつ水や材料をたして試作を重ね、知り合いのカフェにおかせてもらってテスト販売。長い人生のうちの一年くらいならこのことだけに費やしてもいい。そんな気持ちで挑んでいたそうです。
そして試行錯誤を重ねに重ねて生まれたのが、1/4の円のピースを組み合わせ、さまざまな形をつくることができる落雁でした。
「京都の和菓子、京菓子について掘り下げていくと、茶の湯の文化に行き着きました。お茶席は『相手のことを思って何ができるか』を大切に考えられます。訪れる人の喜ぶ姿を想像しながら考える、その“おもてなし”の気持ちが美しいと感じました。買ってきたお菓子を箱のままプレゼントするのではなく、相手を想いもう一歩踏み込むことができれば……。こうして生まれたのが、ピースを組み合わせて描くことができる落雁でした」。
「丸や四角のピースもほしいという声もあります。でも、積み木みたいにいろんな形があってどんな形でもつくれると、何か描くことが目的になってしまいます。つくることに夢中になりすぎないよう、相手を想う心を残すためにこの形にとどめています」。
ここまで細部に渡って心配りがほどこされていた和菓子と知り、私たちも驚きを隠せませんでした。
「全部をお客さまにお話することってないですけどね(笑)。すべてのデザイン物って想いがある。けどお客さまの手元に渡って、そこにあるのが結果。電化製品にしても、洋服にしても、着やすいとかかわいいとか。その人が感じ取る部分がすべてなので」。
小さな部屋からはじめた週に2回のお店は、またたく間に話題に。創業から10年を迎えようとする今では、25人近くのスタッフをかかえるブランドとなりました。
「僕らの販売しているものはお砂糖の塊です。それを、ただの砂糖の塊にするか、おいしい砂糖の塊にするか、素晴らしい砂糖の塊にするかは僕ら次第。シンプルなものだからこそ、日々緊張感をもって一生懸命やるしかありません。僕の代わりにつくってくれるスタッフも増えたけど、常に言うのはそこだけです」。
今回のホームカミングデーのオリジナル落雁は、本学の卒業生でもあり専任講師である山下光恵さんにデザインいただきました。
「山下さんにデザインいただいて、とってもかわいい形になったと思います。UCHU wagashiのコンセプトは『人をわくわくさせたり幸せにする和菓子』です。今回のお菓子も、同じ気持ちでおつくりしています。見た瞬間からうれしくて、わくわくする。そんなはずむ想いをこのお菓子で届けられたら嬉しいです」。
京都という伝統ある町の中で、新しい挑戦を続ける木本さん。誰かに思わず伝えたくなるような、胸が高鳴るものづくりを続けていきたいと話してくれました。
卒業生が一同に会するホームカミングデーも、UCHU wagashiのお菓子にふれたような、わくわくした気持ちになっていただきたいと思っています。みなさんのどんな表情にめぐり会えるのか、私たちも楽しみにしています!
(文:藤田祥子、撮影:高橋保世)
■「瓜生山学園ホームカミングデー2019」特設サイト:http://www.uridou.jp/hcd/2019/
※ホームカミングデーの参加には事前申込が必要です※
【申込方法】
申込方法は2種類あります。
どちらか一方の申込みでご参加いただけます。
1)「式典・懇親会」のみご参加の方はこちら⇒https://www.kyoto-art.ac.jp/uridou/event_form/
2)式典・懇親会のご参加と、「特別公演・桂米團治(会場:春秋座)」の鑑賞をご希望の方はこちら(税込500円)⇒ http://www.uridou.jp/event/detail/112
UCHU wagashi寺町本店
2019年にリニューアルオープン。カフェを併設した寺町本店。
住所 | 〒602-0875 京都府京都市上京区信富町307 |
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電話番号 | 075 754 8538 |
営業日 | 金、土、日曜、祝日 |
営業時間 | 10:00 - 18:00 |
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