「伝統工芸から最新テクノロジーまで、Art & Designを社会実装する」をキーワードに始動した京都造形芸術大学の「オープンイノベーションプロジェクト」。1977年の開学以来、取り組んできた教育改革は、次なるステップへ!
クロステックデザインコース・小笠原治教授ほか第一線で活躍する専門家や、世界レベルの工房を活用した、制作プロセスのサポートによって、企業や研究機関とのオープンイノベーションを推進していきます。
このプロジェクトにかける想いや未来への展望を、小笠原教授に伺いました。
(プロフィール)
小笠原治 Osamu Ogasahara
株式会社ABBALab代表取締役、さくらインターネット株式会社フェロー、mercari R4D シニアフェロー、経済産業省新ものづくり研究会委員及びフロンティアメーカーズPM 、福岡市スタートアップ・サポーターズ理事など。2017年より京都造形芸術大学情報デザイン学科クロステックデザインコース教授。
クリエイティブのスパイラルを未来へつなげる
――初めに、小笠原教授が携わる情報デザイン学科クロステックデザインコースについて教えてください。2018年4月に開設されて間もなく1年ですが、この新工房の“学びの場”としての魅力は何でしょうか?
小笠原教授「一番の強みは、“やる気が沸き起こる場所”をこの大学内に開設できたことですね。私が授業を担当しているクロステックデザインコースの学生には、日々のデザイン教育を通して、興味のあることに気づいて伸ばしていこう!と伝えています。
大事なのは、やりたいこと、やれること、やるべきことのどれかを起点に行動することです。やれることを増やし、アウトプットを経て成功につながれば、社会に求められて“やらなくてはいけないこと”が増えていく。もし失敗しても、次の成功に向けてやらなくてはいけないことが生まれる。そのようなクリエイティブのスパイラルをうまく回していき、学生のやる気をキープし、環境を整えることが、私たち、教える側に求められていることだと感じています。
今年度は1年目で、学生たちは“やるべきこと”に取り組んでいます。次の2年目はやれることが増えて、“やれること・やりたいこと”が見えてくる人が出てくるでしょう。そして3年目はチームで“やりたいこと”に取り組み、締めくくりの4年目にはプロダクトやサービスのアウトプット、そして起業へもつなげたい。
学校にいる間はたくさん失敗できます。失敗し続けていても、ある日やれるようになるかもしれない。もし、やれるようになったら、できることを皆でシェアしあっていこう――。そんなふうに学生たちには話しています」。
新しいテクノロジーで社会の課題に向き合う
――京都造形芸術大学の「オープンイノベーションプロジェクト」では在学中の全学生だけでなく、企業や研究機関とのオープンイノベーションも推進していくそうですが、ビジネスの視点からは、このプロジェクトの強みはどんなところにあると考えますか?
小笠原教授「このオープンイノベーションプロジェクトは、社会課題を解決し、価値創造を生み出すプロジェクトが機能するプラットフォームとしての役割を担っています。企業やスタートアップにとっては、新たな事業機会の創出に、そして、学生にとっては正解のない問いに向き合い、失敗を繰り返しながら“本物”で学ぶ場になるでしょう。
『デザイン思考』や『デザイン経営』は、近年、注目されているキーワードです。新しいテクノロジーによって社会が大きく変わろうとしているいま、これまでとは異なる考え方やアプローチでサービスとプロダクトを創造していくことが求められています。ただ、そのことをよく理解している経営者もデザイナーも、実はほとんどいません。なぜなら、イノベーションを前提としたモノづくりやサービス開発のあり方は、これまでとは少し違っているからです。
本学のオープンイノベーションプロジェクトは、経済産業省の『Startup Factory構築事業*1 』にも採択された、先進的な内容です。企業やスタートアップと学生が一緒になって、事業として展開していくことを前提としたモノづくりをサポートしています。工作機器だけでなく試験機器も導入することで、ユーザーに安全に使い続けてもらうためのテストが可能となり、“モノづくりの責任”をこの工房内で果たすことができるのも強みです」。
*1 Startup Factory構築事業とは
ハードウェアをはじめとした独自のプロダクト開発と、その量産に挑む「スタートアップ」を支援するための拠点構築を、経済産業省が後押しするプロジェクト。京都造形芸術大学の「オープンイノベーションプロジェクト」は、平成29年度補正予算「Startup Factory構築事業」に採択され、支援事業を開始しました。
https://startup-f.jp/
使い続けてもらうためのモノづくりと考え方
――イノベーションを推進する施設は、ここ数年で一気に増えましたが、この大学の設備について他にはない点や、魅力について教えていただけますか?
小笠原教授「一番は、試験機器が充実していることですね。日本国内のこういった工房は、利用者の楽しみとしての側面が強いと思いますが、2014年に開設され、私自身もプロデューサーとして関わった施設『DMM.make AKIBA』には、本学の工房と同じように数多くの試験機器が導入されています。なぜそうしたかというと、たくさんの人に使っていただけるプロダクトやサービスを開発するためには、利用者のことを考えた試験が必要だからです。
たとえば、現在流通しているプロダクトやガジェットの多くにはバッテリーが搭載されていますよね。バッテリーはエネルギーの塊なので、本来、爆発もするし、安全面をきちんと考慮しないといけない。使ってもらう以上は、使ってもらう人のことを考えたモノづくりをするべきで、学生にもそのような意識付けをしていきたいと思っています。
小笠原教授「大学と企業がコラボできるという点も、プロジェクトの強みですね。領域を横断した芸術教育を推進している本学には、13もの学科に様々な専門性とネットワークをもったトップクリエイターが在籍しています。また、企業や自治体が抱える課題を解決する産学公連携プロジェクトは年間 100 本以上も発足し、 社会を変革する取り組みに定評があります。
アメリカ西海岸のシリコンバレーも、今でこそエレクトロニクス製造業で発展していますが、元々はモノづくりが盛んな地域でした。シリコンバレーにある名門・スタンフォード大学では、戦争中に『研究すれど、製造せず』といって、大学では研究をするけれど、研究成果を自由に使って製品化して良いとしていたんですね。その自由で平等な風土と、そこからの流れがあったからこそ、今の世の中ができている。
このオープンイノベーションプロジェクトでも同様に、プロダクトやサービスを社会実装していくために、本学と株式会社クロステック・マネジメント*2 のコラボレーションで、充実のスタートアップ支援を実現してきたいと思っています」。
*2 株式会社クロステック・マネジメント
トップクリエイターや事業開発の専門家、コミュニケーションクリエイター、IoTをリードするエバンジェリストらが開発支援に加わり、新しい作品・技術・サービス・知的財産などの創出や企業とのマッチングを図っている。また、プロダクトアウト後は、企業のマーケティング活動をワンストップで支え、社会で「共感」される商品・サービスへと深化させる事業を展開。
http://xtech-m.co.jp/
――オープンイノベーションプロジェクトでは今後、どんなことに取り組んでいくのでしょうか?
小笠原教授「現在、2つの法人向け教育プログラムを準備しています。
1つは、SHARP IoT.make Bootcamp × XTM・京都造形芸術大学 モノづくり研修『IoT.make KUAD camp』。シャープは100年以上に渡って、モノづくりに取り組んできた企業ですが、蓄積してきたノウハウを外部へもオープンに教えてくれる貴重な企業です。たとえば検査一つとっても、彼らのノウハウを知ることができますし、大企業だからこそ実現できるレベルをスタートアップや学生が学ぶことができる。さらに、自分たちに最適な品質レベルについて考えるきっかけにもなる。モノづくりの大変さを知った上でチャレンジすることもできる。
スタートアップ事業において最大の難関は“量産”です。このプログラムは、その量産の壁を乗り越えるための技術・ノウハウの基礎をシャープから学ぶ研修です。目標の発売日に発売する、適正なコストで開発・生産する、お客様視点で品質・信頼性を確保するなど、シャープが100年余り培ってきたノウハウの根幹に触れることができます。
サービスづくりもセールスも、テクノロジーも、お互いが敬意をもって関わったほうが良いと思います。そのためには、相手がなにをやっているのか、なにができる人なのか知らないとできないですよね。このプログラムでは、そういう学びを得られる場所に育っていけばいいなと考えています。
もう1つは、今年4月からスタートする『小笠原ラボ 通信制大学院 研修生プログラム(デザイン経営)』。製品設計や意匠制作にとどまらず、これからの生活スタイル、行動様式をつくる事業のデザイン能力を獲得できる、小笠原ラボの研修生制度です。3〜6ヶ月単位で研修生として入ってもらい、デザイン経営やデザイン思考といったテーマを中心にメンバーでディスカッションをしていきます。
さまざまな技術者・研究者による最先端のアイディアや技術のレクチャーと、学生自身のアイディアを掛け合わせることで、新たなイノベーションを導き出していきます。デザイン責任者を目指す方向けの事業経営教育プログラムです。
企業やスタートアップの皆様には、大学と企業がフラットに交わることで、組織のルールや評価から一旦離れ、新たな視点でイノベーションに取り組んでいただけるのではと感じています。これからのオープンイノベーションプロジェクトの取り組みに、ぜひご注目ください!」。
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