SPECIAL TOPIC2019.01.07

教育

ULTRA FACTORY新工房を体験!――アイデアをカタチにする最先端設備の可能性を小山薫堂が探る

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  • 京都芸術大学 広報課
京都造形芸術大学副学長の小山薫堂が、今年秋に新設されたばかりの「ULTRA FACTORY」新工房を訪れ、その可能性を体感しました。
2018年9月に新しくオープンしたULTRA FACTORY 2階フロア(*)

こちらの新工房では、デジタルとアナログ、それぞれのツールを自在に行き来しながら、領域を横断して多彩な表現に取り組めるとあって、早くも学生たちから好評を得ています。最新鋭の機材で実現できることは? “領域フリー”なものづくりとは? 小山副学長にツールを体験してもらい、これからのものづくりについて意見を交わしました。

京都造形芸術大学の「ULTRA FACTORY」は、在学中のすべての学生が利用できる造形技術支援工房。ヤノベケンジ教授と、テクニカル・オブザーバーの長尾崇弘さんから新工房のコンセプトについて伺う小山副学長。

 

“未来”を変える技術を生み出す夢の工房

第一線で活躍するアーティストやデザイナーを迎え、さまざまなプロジェクト型実践授業を展開している京都造形芸術大学の「ULTRA FACTORY」。2008年の設立後、金属加工、樹脂成型、木工加工の設備機械を備え、2018年秋には、IoTプロダクトなどの開発が可能な工作機器を備えた工房を新たに設置しました。
最新設備がずらりと並ぶ新工房を訪れた小山副学長を迎えたのは、ULTRA FACTORYのプロジェクトを牽引するアーティスト、ヤノベケンジ教授と、新工房の設計に携わった専任講師の長尾崇弘さん、そして、早くも新工房を活用しているという情報デザイン学科4年生の遠藤真裕子さんの3名です。


ヤノベさんは新工房のコンセプトについて、「ULTRA FACTORYは、“想像しうるものは、すべて実現可能”をモットーとして掲げている共通工房です。設立から11年間、真剣勝負するプロのアーティストやデザイナーの背中を間近に見ながら、ものづくりに対する姿勢を学べるプロジェクトを実践し、大学のエンジンとも言える“創造性”とともに発展してきました。今回の新工房開設の背景には、制作環境がデジタルへと移行していく、今の時代の流れがあります。新しい技術としなやかな親和性をもって創造していきたい、そして、未来に残る技術や世界を変えるようなアイデアをここから生み出していきたい、という思いで工房のコンセプトを練っていきました。想像力に翼が生えるような……まさに、夢の工房ですよ。」と語りました。

「世界をここから変えていきたい!」とのヤノベさんの熱い想いを、真剣に聞き入る小山副学長。

「新工房では、具体的にはどんなことができるんでしょう?」という小山さんの質問に、工房に導入する機材やソフトウェアのセレクトを担当したテクニカル・オブザーバーの長尾さんは、「産業レベルのクオリティも実現できる機材を含め、最新鋭のツールをラインナップしました。一番の強みは、デジタルとアナログを分けて考えずに、アイデアをリアライズできる点ですね。そして、作品制作に欠かせない『試作』と『実作』の2つを、スピード感をもって繰り返すことができる、という点も重要視しました。“失敗”までのスピードを上げて、実作に至るまでのトライ&エラーを重ねることで、制作物のクオリティを格段に上げていくことができるんです」。


実際に工房を使って制作した遠藤さんは、「新工房には長尾先生を含めてテクニカルスタッフが3名いて、こういうものが作りたい!という自分のアイデアを相談すると、ヒアリングを元に機材選びや素材の選定を手助けしてくださるんです。工房を使用するにはライセンスが必要ですが、講習を受けるだけですべての学科の学生が、材料費の実費のみで自主制作できるというのが、すごく画期的です」と新工房の魅力を語ると、小山副学長は、「企業で使用されるレベルの機材を使える環境が、すべての学生に開かれているというのは、素晴らしい! より多くの学生に、この新しい工房の魅力を知ってもらうべきですね」と、驚きの声をあげました。

長尾さんは、「1つのフロアに、ジャンルの分断されていないツールがごちゃ混ぜにある、という環境なので、学生のみなさんには、これまでにない発想で制作に取り組んでもらえるとうれしいですね。では、ここからは、小山副学長にいくつかの機材を実際に体験していただこうと思います」。

小山副学長に新工房の設備を解説する、テクニカル・オブザーバーの長尾崇弘さん(情報デザイン学科クロステックデザインコース専任講師)。

 

既成品レベルのものづくりが試せる最新機材

まず、小山副学長が体験したのは、工房内でひときわ目を引く大きな機材「3D ボディスキャナー」。全身をぐるりと囲む背の高いポールに115台のカメラが設置されたこのスキャナーは、「ほんの一瞬で、精度の高い全身の3Dデータを作成することができるんですよ。このデータを元に、3Dプリンターで出力すれば立体のポートレートが生成できますし、映像ソフトに取り込めば3Dアニメーションを作成することができます」と長尾さんが解説してくれました。

今回の体験では実際に3Dデータを撮影!ということで、緊張した面持ちで、スキャナー内にてポーズを取った小山副学長でしたが、次の瞬間には「はい、撮影終わりました」と長尾さんのアナウンスが。あまりの速さに、「えっ、もう終わった!? 本当に一瞬なんですね!」と、小山副学長は初めての体験に驚いている様子。

日本に数台しかないという3D ボディスキャナーを体験。

「すべてのカメラで撮影したデータを3Dデータに加工するのに少し時間がかかりますので、その間に他の機材を体験していただきましょう」と長尾さんが次に紹介したのは、「UVプリンター」と「デジタル刺繍ミシン」。この2つの機材の強みについて長尾さんは、「ロゴや作品といった、IllustratorやPhotoshopなどで作成したデジタルデータを、さまざまな素材にプリントしたり刺繍したりといった展開ができます。デジタルデータを使ってプロダクトアウトできるのが一番の強みですね」と解説します。

UVプリンターに印刷するデジタルデータを加工する遠藤さん。
紫外線硬化型のUVインクで、市販のiPhoneケースにロゴを印刷中。
デジタル刺繍ミシンを操作する小山副学長。ワンタッチで簡単!
デジタルデータを6色で色分解して、布や革などに刺繍を施せる。

実際にこの機材での制作を経験した遠藤さんは、「これまでは、紙モノの作品展開が中心だったんですが、同じツールで作ったデータで、立体物をはじめとする様々なアウトプットが可能になって、プロダクトレベルのものも作れるようになる、というのは感動的でした! 実際にできあがったものを手にとった時も、自分のプロダクトに一気に愛着がわくのを感じましたね」と、ものづくりの楽しさを笑顔で話してくれました。

長尾さんは、「学生の中には、スタンプを作ったり、革小物に展開したりと、既成品と変わらないクオリティのアイテムを制作して、実際に販売している人もいますよ。これまで手作業でやっていたことを機械でできるようになるのも大きいですよね。試作を重ねていくうちに機械とのリレーションシップが取れるようになると、より精度の高いプロダクトを適量生産できるようになるでしょう」と解説。そのコメントを聞いたヤノベさんは、「学生たちにはいつも、先生よりも稼げるクリエイターになれ!と伝えているんです(笑)。これからは本当に、この工房からヒット商品を生み出す学生が出てきてもおかしくない。未来が楽しみですよ」と語りました。

「プロが現場で使っているものと同じ機材で制作できるのは強み!」と笑顔で語るヤノベさん。

アナログとデジタルを行き来して表現を開拓

続いて長尾さんが案内したのは、PCブース。デジタルデータの制作を行う機材においても最新のソフトウェアが導入されている点が新工房の特長ですが、 “他の大学にはない!”と、長尾さんが特に力を込めて解説する機材が、この「Freeform(フリーフォーム)」です。
「これは、Rhinoceros(ライノセラス)という3次元モデリング用ソフトで用いる機材なのですが、すごいのは、デジタル上で、手のアナログ感覚をもって制作できること。たとえば、手で作った立体作品を大きくしたい時、3Dスキャナーを使ってスキャンデータを作れば、Freeformを使ってデジタル上で加工を行えるし、様々なシミュレーションも可能となります」(長尾さん)。

猫がモチーフのヤノベさんの作品もFreeformで加工し、巨大なオブジェなどへの様々な展開を行ったそう。

このFreeformの強みについて、長尾さんは「デジタルとアナログの融合」と解説します。
「操作時は、ペンのような部分を握って画面上のデータを加工していくんですが、ヴァーチャルな世界で作業しているにも関わらず、素材にペン先があたった時に指先で素材のかたさや感触がわかるんですよ」と長尾さんが解説すると、好奇心を刺激された小山副学長はすかさず、「どんな感触なのか、やってみても良いですか?」。

医療の現場でも普及しているFreeform。操作する小山副学長は真剣そのもの!

Freeformを体験した小山副学長は、「画面上のオブジェを削ってみる動作を試しにやってみたんですが、ペン先から伝わる感触が、本当に自分の手で作業しているように感じました。いわば、VRの世界ですよね。すごい時代!」と感心すると、長尾さんは、「データ上のものをアナログで触る、という、デジタルとアナログが溶け合った感覚を、学生たちに体験してもらいたいんです。シミュレーションの場面でもかなり有用で、素材を木製から金属に変えたらどうなるか? 作品を街中に設置したらどのように見えるか? といったことを画面上で試すことができるんですよ」と解説します。

ヤノベさんは、「私自身も3Dデジタルツールを駆使して、この工房で巨大な美術作品を制作しました。カラー違い、素材違いといった豊富なバリエーションの中から試作する組み合わせを選んだり、大小問わず作品サイズを変えることができたり、データ上で部分的に変更を施したり…。3Dスキャナーやレーザーカッター、3Dプリンターといった機材とも組み合わせることで、アイデアからアイデアを生み出し続けることが可能になり、制作の幅も広がりましたね」と、可能性を語ってくれました。

機材体験中にデータ処理が完了した、小山副学長の3Dデータ。

3Dデータを元に、アニメーション制作や立体物への展開が可能となる。

“欲しいものを自分で作る”という魅力とメリット

予定していた体験をすべて終えた小山副学長は、「こんなにも驚きに満ちた経験は、なかなかできないものですよ」と、感心した表情で、まず一言。そして、「欲しいものを手に入れることができる、という直接的なメリットは、新工房の大きな強みになると確信しました。自分が欲しいものをカタチにして、作って使う! そして、作りたいものに共感してもらって、フィードバックを得て、さらに、ものづくりを発展させていく。解決を目指すための過程を経験できる“実験の場”が身近にあることで、自分のアイデアが社会でどう機能するかを、リアリティをもって学びとることができるのでは、と感じました」と続けました。

体験を終え、新工房の魅力と学びの可能性について語る小山副学長。

ヤノベさんは、「デジタルとアナログの融合によって可能となった、アウトプットのスピード感と、バリエーションの豊富さという、この2つは新工房の強みですし、“使えるものが自分たちで作れる”というものづくりの魅力は、学部の垣根を超えて、学生たちをきっと惹きつけると思います」と言えば、長尾さんは、「実は、工房内に設置しているテーブルはすべて、学生も交えてこの工房で制作したものなんですよ」と、既に動き始めているプロダクトを紹介。

「写真映えする色を天板に採用して、できあがった作品をすぐ撮影してSNSなどで拡散できるようにする工夫もしています。さらに、テーブルの脚の裏に取り付けるすべり止めも、どんな表面加工をすればすべらないか?などアイデアを出し合い、工房の3Dプリンターで試作を重ねてから実装しました。大切なのは、知恵を絞って、とにかく“やってみる”こと。学生たちが実験してできたたくさんのサンプルも、工房内で手にとって見てもらえるようにして情報共有しています。こんなことできるんだ!という発見から、新たな制作アイデアが生まれていくとうれしいですね」と長尾さん。

遠藤さんは、「デジタル刺繍ミシンでの制作は今回が初めてだったんですが、やっぱり失敗はつきもの。でも、すぐ修正してやり直しできるので、納得行くものが完成するまでのスピードが違いますよね。データ上の色の重ね方を変えるとこんな風にクオリティが上がるんだ…と、試作を通して貴重な体験ができました。そして、機材が使えるようになると、他の人へ使い方を教えるのを通して、ものづくりの楽しさを広めることができたのも楽しかったです!」と笑顔で話してくれました。

小山副学長は、「工房で作ったものを本当に使える、というのが何よりステキですし、ものづくりの無限の可能性を感じます。もし、自分の学生時代にこんな充実した夢のような設備があったとしたら、きっと僕の人生は変わっていただろうなぁ! すべての学生に、この素晴らしい工房の存在を早く知ってもらって、実際に経験してもらいたいですね」と締めくくりました。こうして約1時間のスペシャルな工房体験が終了!

3Dボディスキャナーの細部を観察する小山副学長。
工房での受注生産など、今後の可能性やアイデアを話し合いました。

「最後に、小山副学長への特別なプレゼントがあるんですよ」。そう言って、工房体験のしめくくりに遠藤さんが紙袋から取り出したのは……。

思わぬサプライズ! 遠藤さんが制作したのは、小山副学長が代表を務めるN35インターナショナル株式会社のオリジナルキャラクター「くんトン」のTシャツとiPhoneケース。もちろん新工房で制作。

続いて、長尾さんから贈られたのは3Dプリンターで制作した、「くんトン」をモチーフにした蝶ネクタイ。「こんな精密な造形もできるなんて、すごい!」と感動する小山副学長。さっそくシャツに装着してご満悦。

工房体験の最後に記念写真。新工房で制作した「くんトン」グッズを手にスマイル! 「気に入ってもらえてよかった〜」と、みなさん安堵の表情です。

全員で集合写真。今後のULTRA FACTORY新工房の展開にご期待ください!

(取材・文:杉谷紗香/撮影:河上良 *のみ顧剣亨)

 

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