2018年3月8日、公開審査会を開催し、137首もの詠草の中から各テーマの「都をどり短歌賞」が決定しました。「都をどり短歌賞」では、2018年4月に開催される「都をおどりin春秋座」に先立ち、≪都をどり≫と≪春≫をテーマとした短歌を広く公募。今回は公募期間が1か月という短い期間にも関わらず、小学生から70代の方まで92名の方にご参加いただきました。
公開審査会では、歌人の永田 淳先生、ならびに本学で2016年より文芸表現学科の学生・卒業生を中心に活動する歌会「上終歌会」のメンバーにより、厳正な審査が行われました。
さまざまなな視点から詠まれた短歌を一つ一つ丁寧に吟味し、短歌に込められた背景・心情を読み解いていきました。
そして選ばれたのがこちらの作品です。
― 都をどり短歌賞 ―
〈都をどり〉
大賞
長時間露光のなかに咲きいづるだらりの帯の金糸の刺繍 (穂崎円)
〈受賞作選評〉
芸妓さんの踊り姿をシャッタースピードを抑えた長時間露光で捉えるという発想は非常に独創的で、下の句の「だらりの帯の金糸の刺繍」のズームアップも見事です。長時間露光で描き出される幻想的なイメージに圧倒されました。
辻本智哉(上終歌会・第二期部長)
次席
春はええなよーいやさーが始まるねんなんやろなあ嬉しなるねん(小山美保子)
佳作
まなざしは汀線に似てしとやかに袖口から四季をこぼして (駒田隼也)
〈春〉
大賞
肌のあるものたちがみな肌を脱ぐ水平線を揺らす春風 (井村拓哉)
〈受賞作選評〉
「肌のあるものたちがみな肌を脱ぐ」から感じる心地よい潔さは、春を思う明るさを上手く表現しています。そこから下の句の情景描写への連なりも秀逸で、ありきたりな表現に頼らない作者の姿勢も含め、賞を贈りたいと思います。
山内優花(上終歌会・第一期部長)
次席
指先から春はじわじわやって来て筋を取りつつ豆ご飯炊く (大江美典)
佳作
さみどりのきみのスカート特別なかたちで去ってゆく春もある (中山顕)
またなにか思ひだせさう春の窓陽が射してゐるのにつめたくて (山内優花)
永田淳先生からの講評は以下の通りです。
小学生の微笑ましい歌から、70代以上のベテランの歌まで応募総数は137首であった。選考に当たったのは、上終歌会のメンバー9名に私を加えた10名。それぞれが持ち点、「都をどり」に関しては◎1つ、○4つ、「春」に関しては◎1つ、○5つを投票。◎を2点、○を1点とし、2点以上を集めた歌について集中的に討議した。
題詠「都をどり」は芸舞妓に焦点を当てた歌、「よーいやさー」の掛け声、あるいは祇園の街並みを描写した歌などが多く見受けられたが、衣裳の帯に注目した一首が大賞に決まった。受賞作は結句に向けて、帯から金糸、そして刺繍へとカメラワークでズームしてゆくような視点の鮮やかさ、そしてその結句を予見させるような初句二句の「長時間露光」という撮影用語などに評価が集まった。また「都をどり」という題に相応しい三句目以降の絢爛、艶やかな雰囲気も、今回のウエルカムアートに最も適うという意見も多く出た。
次席となった一首の愛唱性の高さ、「よーいやさー」の掛け声と関西弁の相性のよさも高く評価され、カッティングシートで貼り出されるならこちらの方がインパクトが強い、という評も出た。ただ、第一回目ということもあり、今後の賞の方向性を強く規定してしまいかねない、という意見もあり惜しくも受賞とはならなかった。
題詠「春」に関しては、票がかなり分散し◎だけの歌が実に6首に及んだ。その中で受賞となった一首は、生きとし生けるものがみな身軽になっていく様子を「肌を脱ぐ」という抽象的かつ物理的にも手触りのある言葉で表現し、下の句の茫洋とした春らしさに繋げたところに高い評価が集まった。
佳作となった二首のような若い、あるいはひりひりとした感受性の歌に票が集まる一方で、次席となった一首のような生活に根ざした厨歌にも好意的な意見が多く寄せられた。ただ、筋を取るのは三度豆やサヤエンドウではないのか、「取りつつ」と「炊く」の同時性がおかしいのではないか、との意見もあった。
全体的に見ると、「都をどり」の方が題をこなしにくく、都をどりを正面から詠った歌がほとんど見受けられなかった。一首で表現するのは難しいとは思うが、なにかしらの切り口を見せてくれるような一首に今後、出合えたら嬉しいと思っている。
永田淳(歌人)
受賞された作品は、『都をどり』開催期間中(昨年は約45,000人が来場)に、ウェルカムアートとして、劇場までの回廊に展示されます。また、受賞者の方へは副賞として「都をどり in 春秋座」の観覧券が贈られます。
たくさんのご応募をいただきありがとうございました。
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