江戸時代初期から400年にわたり、多彩なエンタテインメントの中心としてあり続ける南座。歌舞伎の発祥ともされる伝統的な劇場でありながら、2018年に耐震補強工事を終え、新しいイベントも開催できる劇場として新開場しました。そんな南座の入り口を華やかに飾る一文字看板。南座を訪れたことがある方、四条河原町を訪れたことのある方は、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
本学では、そんなダイナミックで印象的な一文字看板の制作に学生自らが取り組むプロジェクト、「南座看板制作プロジェクト」が、2018年度後期からスタートしました。学科を横断した学生チームで、制作に取り組み、看板制作の技術のみならず、京都という町の地域性を学ぶことができるのが、このプロジェクトの魅力のひとつです。
2026年度前期のプロジェクトで学生が制作に携わった演目は『成瀬は天下を取りにいく』。2024年度本屋大賞を受賞した、宮島未奈の大人気小説を初舞台化した演目です。公演期間である7月16日から26日までの11日間、学生たちが制作した一文字看板も南座の入り口に設置されました。
今回は、今年度前期の南座看板制作プロジェクトに参加した中でも、マネジメントメンバー(以降MM)としてプロジェクトを支えた学生に、制作の裏側やこだわりなどについて詳しく聞きました。
取材したのはこちらの学生の皆さん。写真左から上田美優さん(情報デザイン学科 2年)、上田藍さん(文芸表現学科 3年)、友成光稀さん(環境デザイン学科 2年)、福地美桜さん(情報デザイン学科 2年)です。

看板制作と京都の景観
プロジェクトのスタートは、新学期が始まる4月。学生たちは最初の授業で顔合わせをし、京都の景観条例のレクチャーを受けます。地元の方の目にはもちろん、観光で京都を訪れる方の目にも留まる一文字看板を制作するにあたり、まずは京都という町で大切にされている景観への理解を深め、プロジェクトに取り組むための基礎を固めます。
情報デザイン学科で学ぶ福地さんも、完成した作品がそこで生活する人や観光客の目に留まるという経験を通して、気づきを得たといいます。
福地さん:「京都の景観条例について学んでいくなかで、使ってはいけない色をはじめ、細かなルールがあることを知りました。意識を向けていなかっただけで、自分が大学生活を送る京都という町の景観を守る工夫やこだわりが様々なところに隠れているということに気づきました」
このプロジェクトが、福地さん自身の創作活動においても、「普段見落としがちな部分に意識を向ける」ことの大切さを実感する機会となったようです。
社会実装としてのプロジェクト
南座看板制作プロジェクトは、学びを実社会の現場で生かす「社会実装」の一環として、プロの世界と密接に関わる活動です。南座という伝統ある劇場をクライアントに、学生たちは、日々の学習や創作活動では味わうことのできない経験を積むことができます。
映像クリエーションコースで学んでいる上田美優さんは、完成した作品に向けられる「観客の眼差し」を意識するようになったと言います。
上田美優さん:「プロジェクトを経て、自分が満足するだけでなく、その先まで見据えた創作をするのがプロの世界だと学びました。こだわりを持って制作するのは言うまでもありませんが、そこに客観的な視点が加わったことで、観客となる人たちへより意識を向けることができるようになったと思います」
看板制作の流れ
4月から始まった本プロジェクト。担当教員である丸井先生、芸術教養センターの藤部先生、そして、南座への3回のプレゼンテーションを経て、5つのデザインから1つを厳選。実際の制作へとプロジェクトは進んでいきました。
公演が開始される7月までの作業工程を詳しく教えてもらいました。
作業1 看板の土台作り
南座看板制作プロジェクトでは、前期と後期に一枚ずつ看板を制作しています。この一文字看板は、4枚の板をつなぎ合わせて1つの看板にしています。使用する板は毎回再利用するため、まずは前回使用した看板の絵の具を削り取り、土台を整えるところから作業が始まります。

すべての絵の具を削り取ったら、次は板を平らに整える作業に入ります。わずかなズレでも日光や照明によって影ができてしまい、完成度に大きな影響が出ます。この段階で、どれだけ土台となる板を平らにできるのかが、以降の工程にも大きく関わります。やすりなどを用いて、丁寧に作業を進めます。
板の表面を均した後は、白く塗って看板の下地を作っていきます。この工程でも表面を平らに保つ必要があるため、繊細な調整が欠かせません。
作業2 下書き
決定したデザインをA3サイズで分割し、印刷。それを転写することで、看板の下書きにします。学生が各々担当する箇所の作業を進め、大きな一文字看板の制作を進めます。
下書きが一通り終わると、手直しを加えていきます。下書き段階では描き切れていなかった箇所や分かりにくい箇所を、定規を使って1ミリの誤差も生まれないように、丁寧に修正していきます。
望天館での制作時には、階段や2階から全体のバランスを確認しながら、細かいズレまで見逃さないように作業を進めました。
作業3 色塗り
下書きとその修正が終わると、いよいよ色塗り作業へ。ここまでくると、完成目前。完成像にぐんと近づいていくのが、写真からも窺えます。
各々の学生が担当箇所の色塗りを進める中で、他を担当する学生や、マネジメントメンバーの客観的な視点も取り入れながら、修正を繰り返し、より精密な出来を目指して塗り進めていきます。

修正をするうちに絵の具が重なり、盛り上がってしまう部分は再度削って平らに。作業は一筋縄にはいきません。
納期のぎりぎりまで、学生同士で協力しながら、そしてひとりひとりがこだわりを持ちながら、完成へとこぎ着けました。
MM(マネジメントメンバー)の仕事
今回取材に対応してくださった皆さんは、今年度で2度目のプロジェクト参加となります。昨年からプロジェクトとの関わりが大きく変わり、学生たちの作業のサポートや進行管理を行う中で、MMだからこそ味わえるやりがいがあったそうです。

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上田美優さん:「初めての参加の際には、自分の担当した文字を完成させることに集中できましたが、今回はMMとして、全体を俯瞰する必要がありました。自分の技能だけでなく、参加している学生それぞれの得意・不得意を把握し、役割に還元するという経験は初めてで、大変でした。それでも、私自身、人と作業をするのがとても好きなので、ひとつの作品を協力して完成させる楽しさを味わえました。大変なことがあったからこそ、得られた達成感がありました」
福地さん:「デザイン班に関わり、看板デザインに加え、学内のポスターの制作も行いました。普段デザインを学んでいるので、ポスターの制作の際にその学びを生かし、MMとして他の学生のサポートができたのが良い思い出です。今回の演目は小説の舞台化ということで、前回の演目とはまた違う印象があり、デザイン段階でみんなが苦労していました。ですが、この演目の看板制作だからこそできる経験がたくさんあり、充実したプロジェクトになったと思います」

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上田藍さん:「このプロジェクトは、授業以外の活動時間に規定があります。その規定の中で参加している学生がどれだけ楽しんで達成できるか、そのためにどんなサポートができるかを考えて接するよう意識しました。普段、文芸表現学科では一人で制作に取り組むことが多いので、学科を横断した学生同士の交流がとても貴重であることを、昨年以上に実感できました」
友成さん:「今回、MMとしてマネジメントに深く関わり、『プロジェクトを進めている』という感覚をより強く持つようになりました。自分の担当作業を進めるだけではなく、納期までに十分なクオリティの看板を完成させるという目標のもと、スケジュール管理やメンバー配置など、昨年の経験を活かしながらMMとして関われたことは大きなやりがいになりました。だからこそ、学生との交流の中で、安心感を与えられる存在になれるように意識しました」
同じ看板制作でも、メンバー、作業期間、演目やそのデザインなど、プロジェクトの内容は毎回変わります。今までの経験を活かしながら、それぞれが新たな挑戦をした3か月となりました。
2026年度前期南座看板制作プロジェクト
最後の最後まで、学生たちが歩みを止めることなく取り組んだ、今年度前期の南座一文字看板がこちら。

例年より公演時期が早く、限られた時間での看板制作となった今年は、デザインのブラッシュアップと同時に看板を削り、いつでも実作業に取りかかることができるよう、複数の作業を同時並行で進めたといいます。プロジェクトのスタートから納品のその日まで、マネジメントメンバーが複数の班に分かれ、それぞれの得意を活かしながら取り組んだ成果です。
友成さん:「MMを務めた今年のプロジェクトで味わった達成感は、去年感じたものとは一味違っていました。マネジメントをしていく中で、スケジュールの厳しさや作業工程でのシビアな世界を改めて感じたので、完成してスポットライトに照らされた看板を見て、安心しました」
搬入のぎりぎりまで妥協せず制作に取り組み、完成まで駆け抜けてきた緊張感がそこでようやくほどけたそうです。
上田藍さん:「学校の外にクライアントがいるという、妥協が許されない環境で、こだわりを持って制作するという経験はとても貴重だと実感しました。このプロジェクトでの経験は、必ず自身の創作にも生かされる場面があると思うので、参加してよかったと思います」
4月から3か月にもわたる学生たちの努力の結晶である、南座の一文字看板。今年度前期の設置期間は終了してしまいましたが、後期も新たなメンバーでプロジェクトが開始されます。
普段目にする一文字看板の制作の裏側や制作者のこだわり、そしてその背景にある京都という町に目を向けると、一味違う景色が見えてくるはずです。
(文:愛知はな)
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