REPORT2025.09.04

京都染織教育

自分の制作物を社会に届けるために — 染織テキスタイルコースの学生36名が挑んだ手ぬぐい制作・販売会をレポート!

edited by
  • 上村 裕香

本学の美術工芸学科 染織テキスタイルコースの学生36名が、テキスタイルブランド「ケイコロール」とコラボし、「北白川」をテーマに3つの技法を使った手ぬぐいを制作し、7月14日(月)から18日(金)まで、人間館1階ラウンジにて対面販売会を行いました。

今回の販売会では、デザインや染色はもちろん、オンラインショップの立ち上げや運営、パッケージング、SNS発信も学生自らが手掛けました。「ケイコロール」は専任講師の山元桂子先生が主宰するテキスタイルブランド。山元先生の直接指導のもと、学生それぞれが考える「北白川」のイメージを膨らませ、京都での一人暮らしの思い出や、出会ったもの、心に残っている景色などをデザインに落とし込み、個性あふれる手ぬぐいができあがりました。

販売会の舞台裏を、マネジメントとオンラインショップを担当した川元澄夏さん(染織テキスタイルコース/2年)、マネジメントとパッケージ制作を担当した大湾美柚さん(染織テキスタイルコース/3年)の2名にうかがいました。

 

学外からもお客さんが集まり、大盛況の対面販売会に

 

まずは販売会の様子を見ていただきましょう。

見てくださいこの盛況ぶり!
学生だけでなく、地域の方や染織テキスタイルコースのOBも訪れ、学生たちの手ぬぐいに見入っていました。

素材となる布は、かつて伊勢国(現在の三重県)で産出されていた縞木綿「伊勢木綿」です。多くの木綿織物に比べて、洗うほどに柔らかく味が出る質感と、しわになっても元に戻りやすい性質が特徴です。シルクスクリーン、藍型染め、ケイコロール型友禅などの多様な染色技法を用い、学生が手作業で染めあげました。

2年生のブランド「NAJIMU」では、深い藍が特徴の「藍型染め」と、色彩の重なりが美しい「ケイコロール型友禅」の技法を用いて、一枚一枚、手作業で染め上げた手ぬぐいを販売しました。

 

 

川元さん:わたしたちは「NAJIMU」というブランドを立ち上げました。「生活に溶け込み、触れていたいと思える手ぬぐい」を作りたいと思って、このブランド名をつけました。2年生にとっては「藍型染め」も「ケイコロール型友禅」も初めて学ぶ技法で、まずは技法を理解するところから始まりました。どちらも手染めの技法ですが、「藍型染め」は布の上に型紙を置いて、餅米と糠で作られた「型糊」で防染をします。糊が型の形に載った状態の布を藍色の染料に浸けると、糊の部分だけが白く残って模様が浮かび上がるという仕組みです。

 

 

川本さん:ケイコロール型友禅は、複数の型をランダムに配置して染める技法です。何枚かの型紙を用意して、1つ目の型、2つ目の型……と、型を重ねていくんです。1つ目の型を置いて染め、乾かして、次の型を置いて違う色で染めます。そのとき、あえて色を掠れさせたり、滲ませたりして「染め事故」を起こし、テキスタイルに残していきます。なので、一枚一枚、色合いや染まり方が違う「手仕事」ならではの手ぬぐいになるんです。

 

 

ヤングな自分たちならではの手ぬぐいを

 

こちらは3年生のブランド「soyo.」。細やかな図案を染めることに最適な「シルクスクリーンプリント(手㮈染)」という技法を用いて制作しました。ポップな色合いと、可愛らしいデザインが目を惹きます。

 

大湾さん:わたしたちは「手ぬぐい制作販売を通して社会にやさしい時間、温かい時間を届ける力を持つヤングな自分たちになる」ことを目標に、手ぬぐいブランド「soyo.」を立ち上げました。手ぬぐいのデザインだけでなく、パッケージデザインにもこだわって、だれかに届けたいという思いから封筒型のパッケージを考えました。一部は窓のように開いていて、手ぬぐいの色味を確認したり、手で触ったりできます。

 

 

大湾さん:3年生が使用したシルクスクリーンプリントは、製版した2つのスクリーン(メッシュ状の版)を使って、手㮈染で染め上げました。布とスクリーンを重ねて、布に一色ずつ手作業でプリントしていく染め方です。今回は2色の染料を使って染めています。例えば、わたしが制作した「かもときらきら☆北白川」はピンクと緑の二色を重ねて刷っています。ピンクと緑が重なる部分は黒っぽい色になるので、版を作るときに色の重なりまで計算してデザインしていきます。

 

 

作ったものを、社会に届ける力を養う

 

この授業のもう一つの柱が、ブランドの運営です。学生たちは、プロジェクト全体をまとめるマネジメントチーム、商品の魅力を伝えるパッケージをデザインするパッケージチーム、お金を管理する経理チームなど、様々なチームに分かれて活動しました。

授業を担当した山元先生は、学生たちが手ぬぐいの制作だけでなく、販売会の運営も行うことに大きな意味があると話します。

山元先生:染織は「人の暮らしのすぐそばにあるもの」で、デザインはもちろん、プロダクトとして社会と繋がっていくことも、アートとしての創作性も、すべてが非常に重要です。学生たちが「作ったものを、どのように社会と結びつけていくか」ということを自ら考え、能動的に社会と繋がっていくことが大事なんです。なので、この授業では、デザインや染織の技術を高め、学ぶことはもちろんですが、それ以上に「伝える力」、そして「流通させる力」を養うことに重きを置いています。自分たちの作品が、どうやってだれかの暮らしの中に溶け込んでいくのか。その過程を、実践を通して体感していくことが、学生たちが社会に出たとき、大きな力になると思います。
だからこそ、各自の制作と並行して、販売活動のための役割分担をして、自分たちの作品について伝えていく、営業してみるという経験を積んでもらいました。遠い誰かに評価されることを期待するだけではなく、まずは身近な友人や家族に「私たちが制作した商品いかがですか、お買い物してみませんか」って一言、勇気を出して言ってみる。そういった経験が、学生たちの力になっていくと思っています。

大湾さんは販売会に向けての活動について「わたしたち3年生のグループは、最初はうまくいかないことばかりでした。情報共有ができていないと、プロジェクト全体がうまくいかないことを痛感しました」と振り返ります。限られた制作スペースを学年やチームで調整しながら使うスケジュール管理も、大きな課題だったそう。しかし、山元先生からもらった「うまくいかない経験の方が、得られるものは大きい」という言葉に励まされ、チームで販売会の運営をやりきりました。

 

販売会を運営するという社会実装

 

販売会の会場は色とりどりの手ぬぐいが並び、見て回るだけで楽しい空間でした。川本さんと大湾さんは手ぬぐい制作と販売会運営に奔走した日々を振り返り、新たな学びがあったと語ります。

大湾さん:わたしはこれまで作品を作ったことはありましたが、それを「だれかに届ける」というのは初めての経験でした。やはり、手ぬぐいは「実際に身につけてほしい」という思いでデザインしているので、購入してくれた友人から写真付きのメッセージをもらったり、実家の家族が使っている様子を見たりしたときは、とてもうれしかったです。物を売る楽しさや、自分の作品が社会と繋がっていく過程を学ぶことができて、将来の選択肢を考える上でも貴重な経験になりました。

 

 

川本さん:わたしはこの授業を通して、販売会を「運営する能力」が身についたなと感じています。これまで、フリーマーケットなどで個人や少人数で物を販売した経験はありましたが、大人数で一つの目標に向かって動くのは初めてでした。マネジメントや経理など、販売にはこんなにも多くの工程が必要なのだと知って、悩まされながらも新鮮な気持ちで取り組むことができました。実際に、対面販売会が始まって、ふらっと立ち寄ってくださった方が『これ、可愛いね』と一目惚れして買ってくださったんです。また、年配のOBの方が『あなた、この布いいわね』と言って、購入してくださって、その言葉が本当にうれしかったです。

学生たちの手ぬぐいは、学内での対面販売会終了後も、コースの学生が運営するオンラインショップにて販売されていました。

川本さんと大湾さんにおすすめの一枚を聞いてみると、大湾さんはオレンジの明るくポップなイラストが特徴的な「お散歩ご飯in北白川」をおすすめしてくれました。作者の学生が北白川を散歩している中で見つけた美味しいご飯やスイーツのイラストが散りばめられた、思わずお腹が空いてしまう一枚です。

 

川本さんは自身が製作した「ふぃーるどわーくのすすめ」を紹介してくれました。川本さんが北白川を散策しているときに見つけ、一目惚れしたという植物「ビヨウヤナギ」を描いています。藍色と白の色合いと柄の配置が涼しげな雰囲気で、夏にぴったりです。

 

そのほかにも、たくさんの素敵なデザインの手ぬぐいが販売されていました。学生たちが一枚一枚染め上げた唯一無二の手ぬぐいは、対面販売会・オンラインショップ・オープンキャンパスでの販売会と、時と場所を変えながら多くの方の手に届きました。

どの手ぬぐいにも、学生たちの今が丁寧に染め込まれていました。また来年、学生たちがどんなブランドを立ち上げ、人々の暮らしを彩る『色』を生み出すのか——。本プロジェクトの今後にもご注目ください!

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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