「あったらいいな、と自分たちが思うものを詰め込みました」とは、この6月23日にオープンした「テクロール」のオンラインショップ(https://kuatextile.base.shop/)。販売しているのは、染織テキスタイルコース3年生29名が、デザインから版づくり、染めつけまで手がけた、完全オリジナルの手ぬぐいです。
じつはこの制作販売、何年もつづけられてきた本コースの人気授業。「今回は、手ぬぐいだけではなく、オンラインショップづくりにもこだわりました」。そう話すのは、授業を率いる山元桂子先生。本学の卒業生であり、「ケイコロール」という染物ブランドの主宰者でもあります。
その名前を取り入れた「テクロール」というネーミング開発をはじめ、チームロゴや商品パッケージ、サイトのコピーやデザイン、商品の撮影、そしてSNSでの販促・宣伝まで。学生たちが、自らの手で立ち上げたオンラインショップを運営。「売っている手ぬぐいは個人の作品だけど、このショップはみんなの共同作品です!」という授業の舞台裏を、マネジメント担当の秋山愛夏さん、パッケージとオンラインショップ担当を兼任した一色葵さんに伺いました。
手ぬぐいのテーマは、「29人の京都」
― この授業のことは、前から知っていた?
先輩たちが販売しているのを見かけて、「私たちもできたらいいな」と楽しみにしていました。授業のスタートが5/20で、最初の完成品を見せあう発表会が6/10。それほど時間に余裕があるわけではありません。ぎりぎりまでデザインに迷う子もいれば、もう販売ぶんまで完成させている子もいましたが、それぞれのペースで制作に取り組みつつ、ショップの準備もすすめていきました。
― 制作のテーマは、決まっていたのですか?
今年のデザインテーマは「29人の京都」。つまり、自分にとっての京都です。それをどう表現するかが、制作ペースを左右する分かれ道になりました。私たち2人がいい見本で、秋山は「私の京都ってなんだろう?」と最後まで悩んでしまったタイプ、一色は「京都といえば、カソウケンの女=物語の舞台!」とすぐに発想が広がるタイプでした。たどり着いた表現は十人十色ですが、このテーマを通して、ひとりひとりが自分の京都を見つめ直せたと思います。
― オンラインショップの準備は、まずどこから?
真っ先に決めようと思ったのは、「どこで、どう発信するか」でしたね。染織作品は、制作中も完成品も見た目のインパクトが強いので、写真映えするインスタグラムがいいだろうと全員の意見が一致。すると、写真好きの子がカメラマン役になってくれて。日々の制作風景から、ショップに掲載する商品写真、イメージカットまで、ほぼすべてを撮りおろしてくれました。しかも、「イメージを統一したい」というマーケティング担当の要望で、写真のトーンまで調整。おかげで、インスタもショップも統一した世界観をつくりだせました。
テクロールInstagram:https://www.instagram.com/kua_texroll/
オンラインだからこそ作り手の顔を
― オンラインショップでは、どんな工夫を?
できるだけお客さん目線のサイトにしたくて、「自分たちなら知りたい」と思うことを「Q&Aページ」で発信。アンサーを調べるなかで、「そうだったんだ!」という発見がいくつもあり、面白かったですね。あとは、対面じゃないからこそ作り手の思いや人柄を伝えたくて、制作者自身が直接語りかけるような「話しことば」で商品を紹介。つい読みたくなるシンプルなQ&A形式の作者紹介も掲載しました。「京都の小ネタがはさまれていて楽しい!」と好評ですよ。
― 「“味あり”商品」というワードにも、やられました。
ありがとうございます。じつは、めっちゃ迷ったところなので。最初は「難あり商品」でしたが、どうしてもマイナスイメージが強すぎる気がして。不完全とはいえ、すべてが手染めで丁寧につくられたものですから。そこでみんなに代案を募ったところ、ある子が「味あり」というアイデアをくれて、「それ、いいね!」と即決。とにかく決めることばかりでしたが、チーム名とか、ロゴデザインとか、パッケージとか、重要なところはLINE投票を活用して、できるだけ全員の意見を大切にしました。
― 逆に、共同制作ならではの苦労は?
個人的なことになりますが、ふだん黙々とひとりで作業に打ち込んでいるせいか、役割を分担するなかで相手に「こうしてほしい」と、うまく説明できなくて。LINEで冷やかなやりとりになってしまい、対面で和解してホッとしたこともあります。「これからは、もうちょっとコミュニケーション能力もあげていこう」という、自分のなかでの課題が見つかりましたね。それでも、クラスみんなで力を合わせてのグループ作業は、これまでにないすてきな経験でした。
ショップはつづくよ、未来まで
― オンラインショップ開店前に、対面販売もしたとか?
急きょ、6/22〜23にキャンパスにある京都芸術劇場 春秋座のエントランスで対面販売をすることになったんです。決定したのが前日だったので、ほぼ宣伝できませんでしたが、人通りの多い場所だったせいか、二日間で250本以上を売り上げる大盛況に。おかげさまで、23日にオープンしたオンラインショップにも、ぞくぞくと注文がありました。こちらの方は、プロモーション担当が1日3本という脅威のペースでインスタをアップしてくれ、約500人のフォロワーを獲得してくれたおかげだと思います。
― 期間限定なのが、もったいないぐらいですね?
いまは順調ですが、「だんだん下り坂になるよ」と、作家でありオンライン販売の先輩でもある山元先生からの冷静なご指摘が。最後まで盛り上げられるよう、SNSでの発信に加えて、対面販売も増やせたら、と考えています。じつは先日の対面販売で、「春秋座」スタッフの方から、「春秋座内のショップでも販売しては?」という嬉しいお声がけが。もし実現できたら…とワクワクしました。
また、授業としてのショップが終了したとたん、せっかくできたお客さまとのつながりがなくなるのは寂しいものです。「そのつながりを、新ショップや展覧会を開くのに活かしてみては?」と、山元先生からも背中を押してもらえるアドバイスが。私たちの「テクロール」は、これからも、まだまだ終わりそうにありません。
― 最後に、おふたりのご感想と今後の目標を!
(秋山さん)手ぬぐい作品としては、自分の好みでつくった柄が、同世代よりも歳上の教職員さんに好評だったことに、予想外の驚きと嬉しさが。“つくりたい”作品と“求められる”商品の違いをあらためて実感し、今後のものづくりや就職活動に活かそうと思いました。
(一色さん)この手ぬぐい制作のために、京都のいろいろな場所の歴史を調べ、たくさんの物語に出会えました。同じ場所を訪れても、そこに根づくお話を知っているだけで、まるで感じ方が変わります。これからも、そんな物語の魅力を伝える作品づくりをめざしたいです。
いちからてづくりの手ぬぐいと、SNSを駆使したオンライン販売。アナログとデジタルの対極にあるものが、学生たちの取り組みで、オンリーワンの作品へと実を結びました。それは、オンラインでありながら、作り手の顔が見え、モノだけでなく心のやりとりができるショップ。学生たちの作品を日本全国へ、さらには世界へと、羽ばたかせる扉となってくれるかもしれません。
先輩の手ぬぐいを買った子が、今年は、自分の手ぬぐいをつくる。その手ぬぐいを、また次の後輩が買ってくれるのかな。そんな話を聞くうちに、染められた手ぬぐいがバトンのようにも見えてきました。ひとりひとりの心をこめた作品が、どうか一本でも多く、だれかの手に届きますように。
「テクロール」の手ぬぐいは、6/21〜7/22までコース学生が運営するオンラインショップにて発売。対面販売など、新しい動きがあるかもしれませんので、ぜひSNSでチェックしてください。
最後に、対面販売でおつかれのところ取材に答えてくださったおふたり、そして染織テキスタイルコース3年生の皆さん、どうぞ、授業終了までがんばってください。今回もご協力ありがとうございました。
テクロール オンラインショップ
期間 | 2022年6月22日(水)~7月22日(金) |
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商品 | シルクスクリーンプリント 伊勢木綿手ぬぐい 29種 |
価格 | 1,300円(税別)※一部、味あり商品あり。 |
オンラインショップ | |
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