
希望にあふれる春を迎え、2025年4月4日(金)、京都・瓜生山キャンパスにて、通学課程の入学式が執り行われました。当日は快晴で、大学生活をスタートする新入生たちの表情はみな明るく、期待に胸を膨らませている様子が伝わってきました。式典会場の講堂には思い思いの晴れ着に身を包んだ新入生たちが一堂に会しました。
この記事では、通学課程入学式の様子をレポートします。
入学式は対面とオンラインのハイブリッド型で行われ、全国・全世界にいる新入生やご家族のみなさまに向けて、ライブ配信されました。
(式典のアーカイブ配信はこちら→)
https://www.youtube.com/live/LzHzW1I3a7Q


新入生のみなさんの入場が終わると、式典がはじまりました。
はじめに、本学の理念「京都文藝復興」を本学教員の中村淳平先生が朗読しました。

続いて、佐藤卓新学長による学長式辞です。佐藤学長は「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などの商品パッケージやポスターなどのグラフィックデザイン、施設のサイン、商品ブランディングの分野で活躍し、NHKEテレ「デザインあ」「デザインあneo」の総合指導も務めています。本学のロゴマークも佐藤学長が2013年にデザインしたものです。

佐藤学長は学長就任にあたって、デザインは新たなものを生み出す仕事ではなく、様々なものの間を繋ぐ仕事であると述べ、「京都芸術大学で、学生のみなさんと大学の間、大学と社会の間、様々な間を繋いでいきたいと思っています。みなさんとともに、新しい繋ぎ方、より良い繋ぎ方を探していきたい。わたしもこの4月から学長に就任し、初々しい気持ちは新入生のみなさんと変わりません。みなさんと一緒にこれから新しい道を歩んでいきたいと思っています」と挨拶しました。
佐藤学長は江戸時代の哲学者・三浦梅園が残した「枯れ木に花咲くに驚くより、生木に花咲くに驚け」という言葉を引用し、自然への畏敬の念を持って生活することの大切さや、普段当たり前だと思っていることが、実は当たり前ではないということを発見する尊さを新入生に伝えました。
そして、佐藤学長が12年前にデザインした本学のロゴマークについて、「このマークは、一滴の墨汁を紙に落としたときにできた偶然の形です。通常、ロゴマークをつくるときには、デザインの目的や考え方に合わせて、輪郭をわたしがつくります。しかし、このシンボルマークの輪郭は、自然がつくっています。京都芸術大学の建学の理念である『藝術立国』や『京都文藝復興』の姿勢について考え、『自然に委ねる』デザインを提案しました。わたしは何百とシンボルマークをデザインしてきましたが、このような考え方でシンボルマークを制作したことは、他に一度もありません。デザインを自然に委ねることはなかなかないことですが、この大学のロゴマークだからこそ、成立していると考えています」と制作意図を説明し、建学の理念への考えを述べました。
次に、デザイナー・彫刻家であった五十嵐威暢さんの「アートは思い、デザインは思いやり」という言葉や、「努力は夢中に勝てない」という名言を紹介し、新入生に激励の言葉を贈りました。
佐藤学長は「わたしは、アートにもデザインにも、思いと思いやりが必要なのではないかと考えています」とアートとデザインのあり方について話します。「アートは思いからスタートして、思いやりを常に考える。デザインは思いやりからスタートして、自分の思いを込める。思いというのは想像です。思いやりというのは気遣いです。想像と気遣いで、世の中は成り立っています。想像と気遣いがあれば、現在の世界で起きている諸問題は解決できるのではないかと思います。そして、『本気で遊ぶ』ということについても、考えてみてください。『努力は夢中に勝てない』という言葉があるように、なにか夢中になれる、没頭できることを見つけたときの気持ちを、みなさんには忘れないでほしいと思います。現代は様々な娯楽があり、世の中によって次々に楽しいことが提供される社会です。しかし、みなさんは世の中に遊ばれることなく、社会に飼い慣らされることなく、自らのクリエイティブを追求していってください。これから、いい意味で遊んで、実験をして、失敗も繰り返してください。わたしも、いまだに『ダメなもの』をスケッチしています。失敗すると思ってスケッチをする訳ではありません。アイデアを外に出すことによって、ダメなものがわかるんです。失敗を恐れないでください。積極的にアウトプットして、有意義な時間を積み上げていってほしいと思います」
当日は来賓を代表して姉妹校である東北芸術工科大学学長の中山ダイスケ先生からご祝辞を頂戴する予定でしたが、諸事情によりご臨席が叶いませんでした。代わりに、本記事にて中山先生からお預かりしたご祝辞を掲載いたします。
京都芸術大学及び大学院の新入生のみなさま、保護者並びに関係者のみなさま、姉妹校である、東北芸術工科大学を代表いたしまして、お喜びを申し上げます。
山形からスピーチに参じるつもりでしたが、あいにく飛行機のややこしい故障で、ギリギリまで待ってみたものの、飛んではくれませんでした。
きっと会場では、尊敬する先輩でもあり、大好きな同志でもある新学長の佐藤卓さんから素敵なスピーチがあったことでしょう。
今はもう、混乱する山形空港から、同じく参列が叶わなかった本学理事長で映画監督の根岸吉太郎とともに、みなさまの幸運をお祈りするしかできません。代わりに、テキストによるお祝いコメントとはなりますが、新入生のみなさんに届けば幸いです。
私が会場でみなさんにお伝えしたかったことは、「センスや才能」とは、どういうものか? ということについてです。
(上記は冒頭の抜粋です。全文はこちらのURLからお読みいただけます→)
つづいて、京都芸術大学の学生サークル「和太鼓 悳(しん)」が祝奏を披露しました。
「和太鼓 悳」は瓜生山学園の学生により構成されている和太鼓サークルです。「心技体」をテーマに、メンバー全員がお互いの気持ちを理解し合い、自分自身へ挑戦することを目標に、日々練習に励んでいます。
新入生の入学を祝して、明るい未来に向け笑顔を絶やさず、日々前向きに物事を捉え進んでいただけるよう、そして自然、芸術、人の思いに対して響く心を持ち、仲間とともに学生生活を満喫していただけるように、心を込めて「燦(さん)」を演奏しました。


新入生を代表し、キャラクターデザイン学科マンガコースの森崎 陽風さんが入学の辞を読み上げました。
森崎さんは漫画を「あらゆる世界、考えを教えてくれる教科書のようなもの」だと表現します。手のひらで覆えるほどの小さな紙の中に、想像もできないような広い世界が広がり、様々な考えを持ったキャラクターたちが生きている漫画の魅力に心を揺さぶられ、森崎さん自身も「自分の描いた作品で人の心を動かしたい」と思うようになったといいます。
森崎さんは作品を制作するにあたって向き合わなければならないこととして「能力不足と漫画を描く理由」を挙げ、今後自分が課題に直面したときも、挫けずに乗り越えていきたい、と抱負を語りました。
「これまで能力不足に落ち込んだときには、家族や友人に支えられ、なんとか立ち上がることができました。過去の行動の延長に、現在のわたしがいます。過去の自分の成果をゴールにして立ち止まってしまうのは、非常につまらないことだと思います。わたしはまだまだ成長していきたい。だから、大きな挫折に直面したとき、わたしの出した答えがわたしの人生に嘘をつくことがないように日々を送りたいです。自分の意思で選ばせていただいたこの京都芸術大学で、多くの学びを得て、ゆくゆくは人々の人生に彩を与える存在になりたいです」

また、在学生からは歓迎の辞として、情報デザイン学科の平岡 倫奈さんが歓迎のメッセージを贈りました。
平岡さんは新入生に「自分が決めたことに責任を持つこと」と「学びを楽しむこと」の二つを伝えました。大学生活はこれまで以上に、自分で選択し、決断する場面が増えます。平岡さん自身も大学生活の中で、迷いや困難に直面することがあったといいます。しかし、授業の履修、課外活動や人間関係など、選択の一つ一つに責任を持ち、自分で考え行動することで、「自分が選んだ道だからこそ、最後までやり遂げよう」という気持ちが生まれ、挑戦し続けることができたと語ります。
「ときには、うまくいかないこともあるかもしれません。その経験も、成長への大切な一歩です。新しいことに挑戦することは勇気が必要なことですが、大学はその挑戦を受け入れ、応援してくれる場所です。失敗を恐れず、自分の可能性を試してみてください。挑戦することで、自分が本当にやりたいことや得意なことが見えてくるはずです」
また、授業やプロジェクト、サークル活動を通して様々な分野の学びを得られる本学での学生生活を通して、「学ぶことを楽しみながら、自分の可能性を広げていってほしい」と新入生にエールを贈りました。

学校法人瓜生山学園の徳山豊理事長からは歓迎の辞として、新入生に「ご自身の命、友人の命、家族の命、生きとし生けるものすべての命を、いままで以上に大切にしてください」という言葉が贈られました。
徳山理事長は4月13日から開催中の大阪・関西万博で本学の小山薫堂副学長がプロデュースするシグネチャーパビリオン「EARTH MART」について紹介し、「みなさんは今まで生きてきた中で、『どれだけの命を繋いだ先に今の自分があるか』について、考えたことはあるでしょうか」と問いかけました。シグネチャーパビリオン「EARTH MART」は、「食を通じて、いのちを考える」をテーマに、様々な食の課題と向き合いながら日本人が育んできた食文化の可能性とテクノロジーによる食の進化を共有するパビリオンです。
「芸術家・デザイナーは、芸術やデザインを通じて命を考える職業だと思います。自分の命や、生きとし生きるすべての命を大切に思い、その気持ちを世界に向けて、作品を通じて発信し続ける。そういうクリエーターになってください。命を大切にする気持ちを持って、活動を続けることが、豊かな社会を築く礎になると信じています。これから4年間、たくさん遊んで、学んで、友人を作って、自分の力を信じて苦難を乗り越えていただきたいと思います。職員も学生のみなさんとともに学び続け、成長し続けます。本日は誠におめでとうございます」


式典の締めくくりに、学園歌『59段の架け橋』を斉唱しました。京都芸術大学の正面にある59段の大階段。新入生のみなさんはこれから4年間、いろいろな想いとともにこの階段を歩くことでしょう。大学での4年間が、みなさんの人生にとって素晴らしい時間となることを願っています。新入生のみなさん、この度はご入学、誠におめでとうございます。

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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。