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今年も京都芸術大学の卒業展・大学院修了展(卒展)が始まりました。2月8日(土)から16日(日)まで学生たちの集大成となる作品が展示され、さまざまな形のアートが集結する一大イベント。
13学科23コースと大学院の7つの領域、それぞれの魅力があふれる展示内容はどれも心動かされるものばかりです。
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2024年度 京都芸術大学卒業展 大学院修了展
期間:2025年2月8日(土)〜2月16日(日) 10:00〜17:00(入場受付16:30まで)
入退場:入退場自由(予約不要)・入場無料
会場:京都芸術大学 京都・瓜生山キャンパス
今回の記事では、卒展に潜入した際の様子や学生に取材した内容をお届けします!
その中でも6つの会場(高原校舎、智勇館、相照館、人間館B棟、人間館C棟)をめぐり、それぞれの見どころを紹介しますので、ぜひ京都芸術大学卒業展・大学院修了展めぐりの参考にしてください!
ここには書かれていない会場の様子を知りたい方はこちらの記事へ
映画の祭典に来た気分になれる、映画学科
大階段が目立つ人間館から、少し離れたところにある高原校舎。そこでは映画学科の学生が制作した映画だけでなく、過去作も上映されています。
映画学科は映画製作コースと俳優コースがあり、4年間で映画製作や演技について学べる学科です。卒展では、1〜3年生で制作した短編・中編映画や4年間の集大成となる長編映画を観ることができます。
上映作品は日によって異なるので、気になる作品をチェックしておくのもいいかもしれません。
(上映スケジュールはこちらから→https://www.takahara-dst.com/event/lad-gala/)
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今年の映画学科のテーマは「映画祭」。高原校舎に入ると、出迎えてくれたのは自分も映画監督や俳優・女優気分になれるフォトスポット!
フォトスポットでもそうですが受付でもレッドカーペットが敷かれ、学校とは思えない空間に仕上がっていました。さらに人間館の大階段の上にも、大きな車が目印になっている映画学科のブースがあります。ここでも赤が印象的。映画の上映だけでなく、空間にもこだわりを感じることができました。
Bスタジオでは飲食スタンドもあります。ここでは学生が書いた脚本、小説を読むことができるので、映画の待ち時間や映画を見終わった後にここでのんびり過ごすのもいいですね! ぜひ、素敵な映画体験を映画学科で!
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見どころは「超域」。さまざまな形にアウトプットする情報デザイン学科
白川通り沿いにある智勇館には情報デザイン学科の学生の作品が展示されています。
ゲームやイラストだけでなく、コーヒー豆や化粧品、編み物、などジャンルにとらわれない作品たちを見ることができます。
本当にいろんな作品がありすぎる……! 情報デザイン学科とはどんなことをしている学科なのかと混乱していたとき、「情報デザイン学科は『超域』していることをお伝えしたいです」と話してくれたのは情報デザイン学科の山下先生。
「多岐にわたるメディアにアウトプットしている学生の柔軟性、それを見ていただければ情デの広い学習を覗き見できます」
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「超域」とは、既存の領域を超えること。情報デザイン学科は2024年度から、4つのコースを横断して学べる「超域プログラム」を導入しています。
「超域プログラム」が導入される前の学年も、実は「超域」という言葉を使っていなかっただけですでに「超域」していたと山下先生は話してくれました。
そのお話を聞いて、まさに情報デザイン学科の今までの学びを表している展示内容だと感じました。
展示されている作品から、学生のこれまでの学びを感じられるのも卒展の魅力であると改めて思います。
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こちらの「終末メイドロイド」を制作した藤原夏美さんに話を聞くと、「これは選択肢によって結末が変わる、シナリオメインのゲームです。ロボットが10体登場するんですけど、あれは現在開発されているロボットを調べて、キャラに落とし込みました。開発しはじめてからはもう進むだけなので、最初の準備段階が大変でしたね」と話してくれました。
プレイする人が楽しめるよう、ゲーム内容だけでなくキャラクターにもこだわっており、最後までプレイしてみたくなります。
今は事前登録の段階で、リリースは年内を目標にされているそうです。楽しみですね!
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それぞれの個性があふれる。アニメーション、漫画、ゲーム好きは相照館へ!
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2024年4月から大学の新しい学び舎として加わった相照館。この校舎は卒展の会場として使用するのも初めてで、マンガ学科とキャラクターデザイン学科の展示を見ることができます。
中に入るとたくさんのゲームがお出迎え。これらのゲームは実際にプレイすることができ、まるでゲームの祭典に来ているようです。
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こちらは拡声器をコントローラーとし、声を使って操作する「対!超自然現象口撃部隊」。
この作品はプログラムを水野優さん、モデリングを小林咲希さんと学生2人が共同でデバイスから作ったそうです。学科の奨励賞、キャラデ特別賞をダブル受賞しています。
実際にプレイしている様子を見せていただきましたが、プレイヤーが黙々とプレイしているのではないので見ているこちらも盛り上がれました。制作者のお2人とは初めてお会いしたにも関わらず、ともに楽しむことのできる素敵なゲームでした!
他にも自分が動きながら進めるコントロールゲームや謎解き脱出ゲームなど、プレイしてみたいゲームがたくさんありました。
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相照館の2階ではアニメーション作品を観ることができます。1作品4〜7分ほどの作品が展示されており、実際に視聴できるスペースもありました。
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「うちではアニメではなく、アニメーションという言葉にこだわっています。プロではなく、学生1人で制作していながら日常で観るアニメーションのようなクオリティの高さを誇っています」
そう語ってくれたのは、キャラクターデザイン学科の野村先生。野村ゼミのアニメーションは基本的には声(セリフ)を入れず、音や動きで表現しているのだそうです。
実際に1人の学生の作品を視聴しました。確かにセリフはありませんでしたが、動きや効果音で楽しめる作品。いつもアニメーションを観ている感覚でつい魅入ってしまい、時間を忘れていました。ずっと観ていたい……。
こちらは「私の答え合わせ」というアニメーション作品。この作品を制作した岩谷桜季さんにこだわった部分を聞いたところ、背景に力を入れたそう。
「静かな作品なので夜の静かな時間にこだわり、夜空の背景をどれだけ綺麗にするかに力を入れました」
静の部分に力を入れた、セリフを入れないことをうまく使った作品なのだと感じました。
また、この4年間はどうだったか尋ねると、「人生で1番楽しい4年間でした」と話してくれました。
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3階にはマンガ学科の作品と展示があり、読書スペースもあるのでゆっくり作品を読むことができます。展示のキャッチコピーは「私たちは変態。私たちの変態」。
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初めての会場で展示するのに不安もあったそうですが、今までできなかった天井からの吊り下げなどの展示手法も増えたそうです。
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箱型の展示が特徴的なこちらの作品は、学科の優秀賞を受賞した『五億年教室』。漫画作品と、もう一冊関連する絵本も展示していました。
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この作品を制作した日和統さんは、「この絵本には神話を描いていて、漫画でその神話の教えに囚われた人たちの話を描いています。この箱にはキャッチコピーと詩が向かい合うように書かれているんですけど、これは登場する人物たちの対の詩になっています。ちゃんと作品を読んだら、人物の価値観の違いがわかるようになっています」と作品について語ってくれました。
作品のストーリーだけでなく、展示物や展示方法にもこだわったまさに集大成の作品です。日和さんは、卒業制作を完成させたことについて、「フィニッシュというよりは、これから始まったなという気持ちが1番強いです」と話してくれました。
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また、こちらの『正解』を制作した学生からもお話を聞きました。
「好きな漫画家さんに会いたくて、この学科に入りました。この学科に入るまで漫画もイラストも描いたことがなかったんです。コマ割りも全然知らなくて。学年で1番描いたんじゃないかなっていう自信だけはあります。絵が描けないし、1番下手なのは理解していたのでずっと描いていましたね」
「量から質へ」を体現している展示とお話はとても刺激になりました。
会場が劇場の世界に。衣装や小道具など必見の舞台芸術学科
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人間館B棟内のstudio21では舞台芸術学科の展示をみることができます。ここでは12月と1月に上映された卒業制作公演の「ミュージカル 銀河鉄道の夜―アルタイル版―」と「更地」の舞台セットと衣装、小道具や、個人研究の展示ありました。
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「銀河鉄道」の舞台監督を務めた小松美陽さんは「人と関わって仕事ができるポジションにつけて、すごくよかったです」と笑顔で話します。
「私はもともと舞台に興味があってこの学科に入ったわけではなかったんです。本当にたまたまこの学科に入ったんですけど、回り回って1番自分のやりたいことを見つけられました」と語ってくれました。
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さらに、会場の奥の方では「銀河鉄道の夜 アルタイル版」で実際に使用した舞台のセットが展示されていました。そこで展示されている椅子には座ることができ、まるでミュージカルの世界に入った気分になれました。
他にも自分たちで作ったという小道具も展示されていました。本物にしか見えないです!
なかなか舞台の衣装や小道具を近くでは見られないので貴重な体験になりました。
まるで無料の美術館。見どころ満載の美術工芸学科
人間館B棟から近い場所にある人間館C棟。ここでは、美術工芸学科の作品を見ることができます。油画コース、日本画コース、染織テキスタイルコースの作品が1階から6階、全てのフロアで展示されていました。妖怪の博物館、自分の身長より大きいサイズの絵など比較的大きな作品も多かったのもあってか、「まるで美術館にきたようだ」という美術館ならではの緊張感を感じました。
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卒展では学生の作品を買うことができるのも特徴です。初日に潜入したにも関わらず、もう売れている作品がありました。物販もあるので、ちょっとしたお土産にグッズを買うのもおすすめです!
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日本画コースの展示会場に入ると、なんと部屋の対角線上に展示されている長い作品が!
近づいてみると、鳥獣戯画の巻物でした。
あれ、よく見ると絵巻のなかにメリーゴーランド……?
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制作した学生さんは鳥獣戯画の模写と研究をしたそう。
「鳥獣戯画の絵巻は当時の年中行事が描かれているという説があり、その説をもとに、夏休みをテーマにオマージュ作品を描きました」と作品について語ってくれました。
自分の研究テーマを作品に落とし込んだこの作品。お盆で先祖が帰ってきている場面や夏祭りで射的をしている場面など、どの場面も生き生きと描かれていてついじっくり見てしまう素敵な作品でした。
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教室1つ1つがクリエイティブ空間に。大迫力の未来館
人間館C棟から少し坂を登ると見えてくるのは未来館。ここでも美術工芸学科の作品と、大学院生の作品が展示されています。1作品で1部屋全てを使っているものもいくつか見られ、展示方法にこだわった迫力のある作品を見ることができました。
展示されている教室に足を踏み入れると、なんと氷が天井から吊るされ、その下には私のお腹より上まで溜められた水が見えました!
「え、氷と水!?」
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こちらは学科の奨励賞を受賞した作品。制作した学生さんにお話を聞くと、ご自身に双子の姉妹がおり氷と水で2人の関係を表現しているそうです。
「姉も舞台芸術学科にいて、22年間ずっと同じ家に帰っていたんですけど、今年の春から初めて別々になることになったんです。じゃあ22歳、離れたときの私たちを残そうとこの作品を制作しました」
氷は2人の手をギュッと握り合った形になっています。氷から垂れた水が落ち、波紋を起こす。そのように自分たちもお互い影響しあっていくのをイメージして、制作したと話してくれました。
お互いを大切に思うのがこの作品から強く伝わる素敵な作品です。
会場全てが充実した展示。卒展レポートまとめ
1日では回りきれないほど多様な展示があり、見どころ満載の卒展。
鑑賞・体験するのに1日もかからないだろうと安易な考えをしていましたが、映画やアニメーションは観たいし、ゲームはしたいし、漫画は読みたいし、物販もじっくり検討して買いたい! 全部しようと思ったら時間がいくらあっても足りませんでした。
実際に卒展に潜入し、多くの学生さんや教員の皆さんからお話を聞きましたが、刺激を受けっぱなしの1日でした。他学科の研究、活動を観られるのはとても貴重な機会です。
さらに「人生で1番楽しい4年間だった」と語ってくれた学生さんが多くおり、その表情も心から楽しそうだったのが印象的でした。
未完結の漫画、まだリリースされていないゲームなど彼らにとってはこれが「終わり」ではありません。この学生生活で学んだこと、経験したことを糧にこれから活躍していきます。「終わり」ではなく、「活躍の始まり」なのだと、この卒展を見て、お話を聞いてひしひしと感じました。
普段芸術に触れている方はもちろん、芸術に興味がある方や今まで芸術に触れる機会が少なかった方。この京都芸術大学卒業・修了展で、未来のクリエイターの迫力ある芸術を感じてみてはいかがでしょうか。
きっと新たな発見、素敵な作品との出会いがあるはずです。
学生の集大成となる作品が揃うのは1年でこの時期だけ! みなさんもぜひご来場ください!
(文=呉谷夏生)
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