REPORT2025.02.14

2024年度京都芸術大学卒業・修了展レポート-学びの中継点を終えて

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  • 京都芸術大学 広報課

今年も京都芸術大学の卒業展・大学院修了展(卒展)が始まりました。2月8日(土)から16日(日)まで学生たちの集大成となる作品が展示され、さまざまな形のアートが集結する一大イベント。

13学科23コースと大学院の7つの領域、それぞれの魅力があふれる展示内容はどれも心動かされるものばかりです。その中でも6つの会場(人間館A棟、望天館、天心館、興心館、直心館、千秋堂)をめぐり、それぞれの見どころを紹介しますので、ぜひ京都芸術大学卒業展・大学院修了展めぐりの参考にしてください!

2024年度 京都芸術大学卒業展 大学院修了展

期間:2025年2月8日(土)〜2月16日(日) 10:00〜17:00(入場受付16:30まで)
入退場:入退場自由(予約不要)・入場無料
会場:京都芸術大学  京都・瓜生山キャンパス

https://www.kyoto-art.ac.jp/sotsuten2024/

人間館A棟


最も多くの学科の展示がある人間館A棟。59段の階段を上り、受付でパンフレットを受け取って建物に足を踏み入れると、中にはたくさんの模型や華やかな漢服の展示が並んでいます。
中でも特に目を引く青の展示空間がありました。『ウミウシワンダー』と描かれたアーチをくぐると、そこにはウミウシ愛に溢れた水族館が。

ウミウシに絞った仮想の水族館『ウミウシワンダー』。制作したのは秋山光さん(情報デザイン学科イラストレーションコース)。秋山さんは、高校時代に図鑑でウミウシに出会い、大学でウミウシの生態について本格的な研究を開始したそうです。
今回の展示では約30種のウミウシを扱っています。実寸サイズの模型や種類・生息地についてのデータ、それぞれのウミウシをキャラクター化した展示が並びました。完成度の高さに目を奪われます。

この展示をする上での課題になったのが情報の正確性だそうです。ウミウシはまだその生態がはっきりとわかっていない部分も多いので、秋山さんは高知県の足摺海洋館に協力を依頼し、『ウミウシワンダー』を制作しました。会場には、秋山さんと海洋館の職員の方々との対談なども展示されているほか、福井県の越前市で直にウミウシに触れた際の映像や、ウミウシ飼育者のインフルエンサー・ゆすらさんへのインタビューも公開されていました。

さらにウミウシキャラクターのガチャガチャが置かれていたり、図鑑が販売されていたりと、本当の水族館を体験したような満足感がありました。

 

環境デザイン学科 建築・インテリア・環境デザインコース

環境デザイン学科 建築・インテリア・環境デザインコース(人間館A棟1階/ピロティ/望天館屋上)は、建築・インテリア・ランドスケープを学び、住環境デザインのプロフェッショナルを育てる学科です。4年間で身に着けた模型制作の技術、環境という幅広い分野から選んだ専門領域を駆使して多種多様な模型を中心に展示しています。
今年の展示の特徴を環境デザイン学科の学生に聞いてみると、昨年は学科全体の力強さが際立った展示になった一方で、今年は個性と個性のぶつかりあいの展示だと語ります。

建築ひとつとっても、内装に注力したもの、土地の特性を活かしたもの、アニメや漫画に表れそうな空想のものなど、ただ一つとして同じものがありません。その強い個性を表現する作品群が、今年の環境デザイン学科の展示の見どころです。

歴史遺産学科 文化財保存修復・歴史文化コース


文化財の調査・分析、歴史遺産を後世へ引き継ぐための制作・研究に取り組む歴史遺産学科 文化財保存修復・歴史文化コース(人間館A棟2階)。歴史遺産学科では研究論文をもとにした展示を行っており、文化財を護る道具や素材、現代のゲーム作品との関わりの考察など、その研究内容は多岐にわたっていました。

今年の卒業制作展ではオンラインゲームのRPGをテーマにした展示がされています。
魔王(卒業制作)を討伐した筆者の展示スペースには、個人個人の論文と参考文献や研究対象の他に、その論文の執筆者である学生をキャラクター化したイラストが共に展示されていました。

こども芸術学科 こども芸術コース

人間館A棟2階では、こども芸術学科 こども芸術コースの展示が行われています。
今年のコースの展示テーマは「へらない わけっこ」!
見にきてくれた人に「たのしいじかん」「かなしいなみだ」「あのひのきおく」、減らないし欠けない大事なものをわけっこする展覧会を目指します。

こどもの心に芸術を届ける作品、こどもをとりまく課題を解決する作品、こどもの学習に用いる作品など、こども芸術を通して作られた作品たちが広い展示空間をうめつくしていました。可愛らしいだけではなく、こどもが遊ぶことを想定して安全性に配慮された作品が多く見られました。
卒展前日には学内にある「認可保育園 こども芸術大学」のこどもたちも来場し、実際に作品に触れて楽しまれたのだとか。卒展では、親子で来場されている方も多く、作品を見ながら「かわいいね」と話している方もいらっしゃいました。

文芸表現学科 クリエイティブライティングコース

文芸表現学科 クリエイティブライティングコース(人間館A棟4階)では、42人の学生がそれぞれの制作した文庫本を展示しています。
小説、脚本、ノンフィクション、評論のジャンルからなる作品群は、本屋のように販売も行っており、気になった作品を買うことができます。

昨年に引き続き「BUNGEI BOOK CAFE」が開催され、自家焙煎珈琲専門店ヴェルディの協力のもと、軽やかな味わいの「うたたねブレンド」や重厚感のある「よふかしブレンド」コーヒーを楽しめます。
そして、今年度からは姉小路に店を構える紅茶専門店GMTのフルーティな紅茶「あやか」、京都のクッキー専門店「烹菓」のクッキーも加わりメニューが強化されているようです。

また、文庫本はwebで(https://kua-bungei.stores.jp/)通販も行っているため、現地で売り切れていた場合でも後で購入ができるようです。
人間館A棟1階のBREATH KUAでゆっくり作品を試し読みすることも可能ですので、興味のある方はそちらからもご覧いただけます。

 

 

アートプロデュース学科 アートプロデュースコース

社会と芸術の繋がりを認識し、芸術が社会と人々に何をもたらしているかを捉えるアートプロデュース学科 アートプロデュースコース(人間館A棟4階)では、卒業論文が展示されています。
今年の展示のタイトルは「ひらいて むすんで またひらく」で、これはアートプロデュース学科の学生が研究対象をリサーチし、卒業論文を執筆し、それを展示する様子を表しています。先行研究をひらき、対象を深掘りして、それぞれを結びつけ論文を執筆する。そして、執筆した論文を卒業制作展で公にひらく形で展示する。

ひとりひとり異なる卒業研究の要素を「戦争」「作品分析」「女性」といった単語に分解し、それぞれの研究で関連する要素を線でそれぞれの展示に繋げるという演出をされていました。また、論文を後からwebで読み返すことができるORコードを印刷した名刺がそれぞれのブースにあり、パソコンやスマートフォンでも論文を閲覧することができます。

興心館・空間演出デザイン学科空間デザイン/ファッションデザインコース

レンガ素材で建設された興心館では空間演出デザイン学科が3階分6室の広大なスペースを使い展示を行います。
酪農における現状の問題や改善点、民話を伝えるアプローチの考察、絵の具やクレヨンに使われる色作成の研究、そろばんをファッションの道具に変換する試みなど、幅広い研究に取り組まれていました。

 

空間デザイン学科の卒業制作は「Locally(地域)」「Enviroment(環境)」「inclusive(多様性)」「Sustainable(持続可能な社会)」の4つの要素から最低ひとつを選択し、その要素を含む作品を制作します。これら4つの要素は空間演出デザイン学科で学ぶ、地域や環境、多様性といった社会的な問題を改善していく取り組みとしての集大成でもあり基本理念でもあります。
作品によっては販売もしていましたが一点物も多く、いくつかの作品はすでにsold outとなっていましたので、興味のある方にはお早いお求めを推奨します。

直心館・プロダクトデザイン学科プロダクトデザインコース

興心館と隣接した直心館では、プロダクトデザイン学科プロダクトデザインコースによる家具や家電、インテリアなど生活を豊かにする作品たちが展示されています。
変形する照明器具や、高さが違う本をパズルのようにはめて組み立てる本棚、電気の熱で溶けていくオシャレデザインのロウなど、家や仕事場に欲しくなる作品たちが陳列されています。家にこれやあれがあったらと想像しながら回るととてもワクワクしますね。 

「研究とは自分で立てた『問い』に自分で『答える』こと」というプロダクトデザイン学科の研究に対する理念から、作品の他にも共通のロジックキャプションが用意されています。
卒業制作を作品だけでなく、ロジカルな観点でも楽しみたいという方には、ロジックキャプションに目を通すことをお勧めします。

他にも研究を
1:問題提起、問題発見型研究
2:テーマ探求型研究
3:ビジョン提案型研究
4:問題解決型研究

と分類し、それぞれの研究がどの型にはまるのか、社会問題とどのように接続するのか実践的に考えられて取り組んでいるようです。

また、完成までの過程や、世界観を表現したバナーや動画、プロトタイプ(模型、動画)なども並べて展示されており、作品だけでなく制作過程を展示に取り入れようとする姿勢があり、制作に悩んでいる方の参考にもなるかもしれません。

 

千秋堂・美術工芸学科基礎美術コース

茶室・千秋堂を展示空間として、美術工芸学科 基礎美術コースの多様な作品が並びました。
入口でお客さんを迎える可愛らしい木工芸品、畳と調和する上品な陶器など、日本文化によって生まれた作品が鎮座しています。

展示される作品たちはどれもクオリティが高く、茶室の厳かな佇まいにまけていません。作品と千秋堂の魅力が互いを引き立てあい、一層深い味わいが感じられます。
また、二階では毎日半畳の上で学生が墨字のパフォーマンスをするなど、ライブ的な展示表現にも挑戦します。日本の風情を存分に堪能したい方はぜひ足を運んでみてください。

 

天心館・キャラクターデザイン学科 キャラクターデザインコース


天心館ではキャラクターデザイン学科 キャラクターデザインコースの展示が行われています。表現の幅が広いキャラクターデザインの領域ではゲーム、アニメーション、CG、企画プロデュースなど多くのゼミが点在します。そのため、天心館・相照館の二会場で展示されており、天心館ではグラフィックデザインに特化した作品たちが展示されています。
キャラクターやイラストを印刷物・写真などの三次元媒体として出力した作品が豊富であり、画面上から飛び出してくる絵力の存在感が非常に印象に残りました。

 

また、相照館で展示される作品についてはこちらの記事で紹介されています。

望天館・情報デザイン学科 クロステックデザインコース

「デザイン」と「テクノロジー」の交差点から新たな未来を思索し形にすることを試みる情報デザイン学科 クロステックデザインコースは、社会の課題に寄りそい、多様な専門性から新しい視点や感動を与えることを目的とする展示を望天館で展開しています。


CHA TAEHONGさんの『ビニール傘狩猟生活』、上田晃慧さんの『ごみ問題を軽減するための取り組み』を筆頭に、社会問題を解決する作品や、昨今注目されるAIと芸術の交わりを意識した展示など多種多様な展示空間がそこにはありました。

会場全てが充実した展示。卒展レポートまとめ

1日では回りきれないほど多様な展示があり、見どころ満載の卒展。
鑑賞・体験するのに1日もかからないだろうと安易な考えをしていましたが、映画やアニメーションは観たいし、ゲームはしたいし、漫画は読みたいし、物販もじっくり検討して買いたい! 全部しようと思ったら、1日では不可能だということを実感しました。


ここには書かれていない会場の様子を知りたい方はこちらの記事へ


実際に卒展に潜入し、多くの学生さんや教員の皆さんからお話を聞きましたが、刺激を受けっぱなしの1日でした。他学科の研究、活動を観られるのはとても貴重な機会です。
さらに「人生で1番楽しい4年間だった」と語ってくれた学生さんが多くおり、その表情も心から楽しそうだったのが印象的でした。
未完結の研究、まだリリースされていない小説
など彼らにとってはこれが「終わり」ではありません。この学生生活で学んだこと、経験したことを糧にこれから活躍していきます。「終わり」ではなく、「活躍の始まり」なのだと、この卒展を見て、お話を聞いてひしひしと感じました。


普段芸術に触れている方はもちろん、芸術に興味がある方や今まで芸術に触れる機会が少なかった方。この京都芸術大学卒業・修了展で、未来のクリエイターの迫力ある芸術を感じてみてはいかがでしょうか。
きっと新たな発見、素敵な作品との出会いがあるはずです。
学生の集大成となる作品が揃うのは1年でこの時期だけ! みなさんもぜひご来場ください!

(文=轟木 天大)

 

 

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