2024年8月17日(土)から24日(土)にかけて、本学・瓜生山キャンパスのギャルリ・オーブで『通信サマーフェスティバル2024』が開催されました。
『通信サマーフェスティバル』は、通信教育課程で毎年夏の恒例行事として開催されている「卒業生・修了生全国公募展」、「アート・マルシェ」、「瓜生山懇親会」などのイベントの総称です。8月24日(土)には、本学教授の野村朋弘先生による特別講義や、卒業生・修了生全国公募展の授賞式も行われました。
野村朋弘先生による特別講義
通信教育部芸術学部 芸術学科 学科長の野村朋弘先生による特別講義「博物館展示ができるまで — 松尾大社展のうらがわ —」は、対面とYouTube配信のハイブリッド型で行われ、全国の学生に向けて配信されました。
今年の4月から9月にかけて開催されている、京都文化博物館と鳥取市歴史博物館での特別展・松尾大社展。今回の特別講義では、松尾大社展ができるまでの舞台裏や、研究活動、入館者を増やすための施策などについて、お話しいただきました。
講義では、松尾大社へ調査に入った2014年から松尾大社展までの歴史を振り返り、博物館展示に必要なことや具体的な流れについて詳しく解説されました。博物館展示は基本的には企画の選定、企画に沿った調査活動、展示の順で進んでいきます。展示と一口に言っても、図録やナレーション原稿の作成、展示キャプションの制作など、行うことは多岐にわたります。
野村先生は展示について「松尾大社所蔵史料は基本的に未指定の歴史遺産(文化財)ですが、こうした史料が重要文化財に指定されているか、されていないかというのは、実はタイミングなどもあって、価値基準ではないんです。なので、わたしとしては、こうした歴史遺産を、所蔵者の想いを大切にしながら、どう維持して次の世代にパスするかということが大切だと思っています。そのひとつの手立てとして重要文化財への指定も、こうした特別展もあるわけです。史料を知ってもらうのも博物館展示の意義であり、社会実装だと思います」と振り返り、9月16日まで行われている鳥取市歴史博物館での展示にぜひ来てください、と来場者に呼びかけました。
当日限りのアート・マルシェ
アート・マルシェは通信教育課程の在学生・卒業生・修了生であればだれでも出店可能なアートフェア。参加は個人、グループを問わず、ギャラリーとして個展を開いてもよし、作品やクラフト、オリジナルグッズ等を販売してもよし、普段の活動の成果を自由に表現・発表する場として企画してください、というものです。ギャルリ・オーブに向かう通路にて、2㎡のスペースを使って自由に表現します。
当日は高校生・受験生に向けた通学部のオープンキャンパスが同日開催されていたこともあり、様々な年代の方がマルシェを楽しまれていました。
出店したブースは16ブース。陶芸作品やイラスト、ハンドメイド作品など、様々なグッズが販売されていました。洋画コース修了生による似顔絵のサービスを利用する吉川左紀子学長の姿も。出店した卒業生・修了生はブースを訪れた方々と言葉を交わし、自分たちの活動について紹介していました。
第15回 卒業生・修了生全国公募展
通信教育課程では2002年度に第1期生として125名が卒業してから、2023年度までに1万人以上が卒業・修了しています。卒業生、修了生からは毎年、各地での展覧会情報やさまざまな分野での受賞報告が寄せられます。
この全国公募展はそんな卒業生、修了生のための展覧会。大学で学んだことを更に発展させた意欲的な作品の数々が、毎年ギャルリ・オーブを飾っています。
今年度は56点の作品が出品されました。卒業生の活躍は、在学生にとっては今後の目標として励みにもなります。会期中にスクーリング授業を受講している在学生が、積極的に足を運ぶ様子が見られました。
洋画や書画、陶芸、立体作品など、個性豊かな作品が並びました。特別講義のあとには、展示している卒業生と教員が言葉を交わす場面も。卒業後も続く交流に、みなさん笑顔で楽しそうにお話しされていました。
通信教育課程 上原英司学生部長のご挨拶
昨年、通信教育課程は開設から四半世紀を迎えました。今年の通信教育課程サマーフェスティバル2024、第15回京都芸術大学通信教育課程卒業生・修了生全国公募展は、その次の道標に向かって歩み出す新たな一歩として開催することとなりました。
過去には展覧会テーマを設けて開催したこともありましたが、今回も昨年同様テーマを設けることはせず、個々の自由な創作活動の成果をそのまま表現していただく方式をとりました。一人一人の個性、その多様性が、本展のテーマだと言えるのかもしれません。出品された作品は、内容も表現も多彩な力作が揃ったように思います。さまざまな世代の人が、さまざまな領域で芸術を学ぶ通信教育課程らしい、美々しい展覧会になりました。
公募展授賞式・瓜生山懇親会
公募展の最終日には、卒業生・修了生全国公募展授賞式が開催されました。厳正な審査を経て、「大賞」「優秀賞(同窓会賞)」に3名の卒業生・修了生が輝きました。
大賞の作品は、浅原舞さんの「猫 三毛」です。
今回の公募展の応募規定最大のサイズ(F50号)で、額縁も相まって迫力がある大きさの作品です。しかし、大きさに目を惹かれ作品を見てみると、そこに描かれている風景はとても穏やか。落ち着いた色彩と繊細な光の描写で日常の風景を切り取りました。
浅原さんは「わたしは普段から『和ぎ(なぎ)』をテーマに作品を制作しています。今回の作品でも、日常を穏やかな気持ちで見る、その気持ちそのものを画面に落とし込みました。今回は鑑賞者の目線を意識して、三分割構図の鑑賞者の目が行きやすい場所に猫を配置したり、厚みが出すぎないようにペンティングナイフで一度だけ絵の具を置くようにしたりといった工夫をしました」と作品について解説し、ギャラリートークで教員から寄せられた意見について触れて「今後の制作に活かしたい」と語りました。
優秀賞(同窓会賞)に選ばれた杉森康彦さんの作品「花曇り 鴨川」は、写真で見る印象と実際に展示で見る印象がガラリとちがう油絵作品です。
キャンバスの表面がキラキラときらめき、穏やかな日常風景のようでどこか幻想的な雰囲気を感じさせます。杉森さんにキラキラの秘密を聞いてみると、「制作するときに油絵の具だけでなく、日本画で使うような雲母やネイルアートに使われるパウダーを使って描いているんです。もともと日本画が好きで、この作品の中でも日本画の柔らかい雰囲気を出すために、ちがう画材を取り入れてみました」と秘密を明かしてくれました。
杉森さんは京都に在住で、作品に描かれているのは散歩中に見つけた鴨川の風景だそう。逆光の風景を描いたのは「だれもが絵にしないようなところを絵にしたかった」からだといいます。
高校生の頃から美術を学び、油絵は20年ほど前から我流で描いてきたという杉森さんは、油絵をきちんと学びたいと考え、本学の通信教育課程に入学。授賞式後の挨拶では「大学に入学して、テレビや記事で作品を取り上げていただいて、人生が変わったという感じがします」と顔をほころばせました。
優秀賞(同窓会賞)に選ばれた下良隆彦さんの作品「19450806」「19450809」は、のどかな田園風景をネガポジやソラリゼーション加工といった技法を用いて反転させた写真作品です。
下良さんは「加工する前の写真は本当に穏やかな、平和な風景で、反転させることで現実と非現実について考えられるんじゃないかと思って制作しました。ステートメントで意味を説明するのではなく、作品を見た人に見て感じてほしいです。現在の世界情勢を見ていて、『平和を考えてほしい』という思いがあり、特に若い人が作品を見てくれる機会のある大学で展示したかったので、今回展示できてよかったです」と、制作と展示の意図について語りました。
賞状の贈呈を行なった吉川学長は「この卒業生・修了生全国公募展は、みなさんに『卒業後も芸術に触れ続けてほしい』という通信教育課程の先生方、職員の方々の思いで毎年開催しています。2025年度からは、デザイン工芸研究センターを立ち上げ、現代アートの分野で手仕事の技法を活かし、工芸文化のあり方を考える取り組みを行っていきます。さらに、アートマネジメント、人材育成プログラム『藍の學校』などのオンラインでのセミナーも今後多数行っていく予定です。ぜひ、卒業生のみなさんもこれからも芸術に触れ続けてください」と通信教育課程の今後について話し、エールを送りました。
授賞式のあとには卒業生・修了生だけでなく先生方も交えた懇親会が開催されました。日頃、あまり会うことのない他コースの教員とも交流できる機会です。みなさん、大学にまつわるクイズが出題されるクイズ大会や飲食を楽しみながら、隣同士やグループで和気藹々とお話しされていました。
通信教育課程は、2024年度からは在籍者数が1万7000名を超え、今後もさらなる卒業生を輩出していくことになります。瓜生通信でもご紹介している「収穫祭」などのイベントを通して、在学生と卒業生をつなぐ輪が今後も広がっていくことを願っています。次の通信教育課程のイベントもお楽しみに!
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上村 裕香Yuuka Kamimura
2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。