SPECIAL TOPIC2024.08.30

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映像の言語で思いを届ける — アニメーション映画『きみの色』公開記念! 山田尚子監督・髙石あかりさんインタビュー

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  • 上村 裕香
  • 高橋 保世

音楽×青春をテーマにしたアニメーション映画『きみの色』が2024年8月30日(金)に公開されます。
監督を務めたのは、社会現象を巻き起こした『映画けいおん!』や、第40回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞した『映画 聲の形』などを手がけた山田尚子監督です。
実は、山田監督は京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)美術工芸学科洋画コースの卒業生。今回はそのご縁で、山田監督と本作で作永きみ役を務めた髙石あかりさんに映画の魅力や制作過程、表現者を目指す高校生や大学生へのメッセージをお聞きしました。

 

映像の言語で伝える


本作の主人公・日暮トツ子は、人が「色」で見える女子高生。周りの人の色は見えるのに、自分の色だけは見えないことに悩んでいたある日、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女作永きみと、音楽好きの少年影平ルイと出会い、3人でバンドを組むことになります。
音楽で心を通わせていく3人の少年少女の繊細な感情が瑞々しい色彩で表現され、エモーショナルなバンドサウンドが胸を打つ完全オリジナルの長編映画です。

 

© 2024「きみの色」製作委員会

——本作品は、これまで監督が「けいおん!」などで描かれてきた音楽×青春アニメの魅力がギュッと詰まった一作です。一方で、企画段階では「バンド活動を通して、3人の少年少女が前に進んでいく」というだけでは彼らを描き出せないと悩み、今作のポイントとなる「色が見える女の子」というアイデアが出た、とお聞きしました。このアイデアがなぜ企画の動力となったのでしょうか?


山田尚子監督(以下、山田監督):わたしはアニメーションを作っているので、映像の言語で伝えられるものを探りたかったんです。言葉に頼りすぎなくても、なにかを伝えることはできるんじゃないか、色や音をテーマにした映像作品を作りたい、というところから制作がはじまりました。

——テーマが見つかって、トツ子という人物が見えてきたんですね。トツ子が「色が見える女の子」であることは、物語にどう作用していますか?

山田監督:すべての意味を限定してしまわない描き方ができたんじゃないかと思います。例えば、感情に「好き」って名前がついていたとして、その名前がつく前の、気持ちが芽生えた瞬間から感覚として感情を描いていくことができたというか。難しかったですが、映画にとってはいいテーマになったかなと思います。

観客と同じ速さで歩きたい


——作中でトツ子たちが組むバンド「しろねこ堂」のメンバーは、祖母に学校を辞めたことを打ち明けられないきみ、家業を継ぐことを期待され音楽の道に進みたい本心を隠しているルイと、具象的な葛藤を抱えていますが、トツ子は「人が色で見えるが、唯一自分の色だけが見えない」という、ある種捉えにくい悩みを持っています。わたしは映画を観ていて、トツ子は一般的なわかりやすい「主人公」ではないけれど、観客のとなりにいてくれるような存在だと感じました。監督は、トツ子や「しろねこ堂」のメンバーたちの魅力的な人物像をどのように作られたのでしょうか?
 

© 2024「きみの色」製作委員会

山田監督:難しい質問ですね(笑) わたしは、映画は映画を観ている人と同じ速さで歩きたい、そういった映画でありたい、という思いがあります。だから、いま言っていただいたような感想をいただけるのはすごくうれしいです。この映画を観た方々が、トツ子やきみ、ルイの友達になってくれるといいなと考えて作っていました。

「しろねこ堂」のメンバーたちは、『優しすぎる子たち』というところからはじまっています。3人は優しすぎるがゆえに、自分の悩みを自分の外に出せない。他人や出来事のせいにして楽になるようなことをしない子たちなので、苦しい部分を互いに無理に引き出さず、寄り添ってくれるような関係性を描きました。同じ『優しい』子でも、それだけでカテゴライズしてしまうのも、ちがうと思っていて。ひとりひとりを見たら、3人は気の使い方が全然ちがうんです。例えば、トツ子は人に気を使いすぎるからこそ行動しちゃう子だし、きみは逆に気を使いすぎるから動けなくなっちゃう子だし、ルイくんは相手を受け入れて、自分のことも話してくれる。そんな風に、矢印の方向が全員ちがって、だからこそ補完し合えている関係を描きたいと思いました。

© 2024「きみの色」製作委員会
© 2024「きみの色」製作委員会

 

長崎の穏やかさ


——作中、教会やミッションスクールという場所が、土地としても「信じること」「隠し事をする葛藤」といったテーマを表現するモチーフとしても、重要な役割を果たしています。海が近く、穏やかで、キリスト教の文化が根付く長崎という土地をモデルに選ばれたのは、どのような意図だったのでしょうか。


山田監督:主人公がミッションスクールに通っている、という部分から、どういった土地にこの人物たちは生きているだろうかと考えていきました。最初にロケハンに行ったのが長崎で、人の穏やかさや街全体の色に触れて、作品で描きたいことが描ける場所なんじゃないかと感じました。

——長崎の穏やかさは、トツ子やきみ、ルイ、シスター日吉子などの映画に登場するキャラクターたちの人物造形に影響を与えていますか?


山田監督:そうですね。ロケハンしたことによって、キャラクターの紐解き方がすごく変わりました。特にルイは、島でお会いした方々の穏やかさや距離感に影響を受けて、人物が変化したと感じます。最初、シナリオのときに話し合っていた「しろねこ堂」の3人は、もっと都会的なことで悩んでいたんです。でも、それが段々と紐解かれて、シンプルな普遍的なものになっていきました。

 

© 2024「きみの色」製作委員会

だれかに届ける


——監督は京都芸術大学で学ばれ、アニメーターやアニメーション監督として「けいおん!」シリーズや『映画 聲の形』、テレビアニメ「たまこまーけっと」など、様々な作品を世に送り出してきました。学生時代から現在までを振り返って、ご自身が表現するものについて変化した点、あるいは学生時代から変わらない「核」となっているものがあれば、教えてください。


山田監督:『人が見る』ということは、すごく大切にしています。芸大で作品を作っているときから、自己表現のための作品づくりはあまり意識してなかったですね。もちろん、自分のために作品を作れる人を尊敬しているし、憧れもあるけれど、わたしはちがうというか。あまり学生時代から現在の仕事をつなげて考えたことはないですが、『俯瞰的な目線』を大事にやってきて、それがいまも続いていると思います。

——それは、だれかのために作品をつくることとはちがいますか?


山田監督:どうなんでしょう。だれかに向かって作品をつくっているとは思います。いつも、作品ごとにボールを投げる相手を設定していますね。無意識に。それは影響を与えたいとか大きなことじゃなくて、ただ楽しんでもらいたい、というボールの投げ方です。

信じることで乗り越える

——トツ子役の鈴川紗由さん、きみ役の髙石あかりさん、ルイ役の木戸大聖さんは応募人数1600人に及ぶオーディションを経て抜擢されました。山田尚子監督の最新作ということもあり、プレッシャーが大きかったのではないかと想像しますが、いかがでしたか?

髙石あかりさん(以下、髙石さん):わたしは元々アニメがすごく好きで、山田監督の作品も観ていました。だからこそ、わたしの中でこの『きみの色』という作品が大きすぎて、オーディションの前は受かるはずがないと思っていたんです。でも、挑戦したいと思ってオーディションを受けてみたら、作品がどんどんと近づいてきてくれて。いまでも、こうして山田監督とお話しさせていただいていることが不思議な感じです。憧れの監督ともっと仲良くなりたいと思えているいまが不思議というか(笑)

山田監督:もっと仲良くなろう(笑)

髙石さん:なりましょう!(笑)

——収録現場で難しかったことや、悩んだことはありましたか?


髙石さん:難しいことだらけでした。実写作品だと、自分の中に感情が生まれてきてから台詞を言うんですが、アニメーション作品の場合は台詞を言うタイミングや長さが決まっているんです。音響監督の方や監督が『長さは気にしなくていいよ』と言ってくださったんですけど、やっぱり目の前に喋っているキャラクターたちがいると、気にして感情を込めるのが難しいところもありました。わたしが演じた「きみ」という役は、心の中ではいろいろなことを思っているけれど、周囲に表現できていない子なので、そのバランスも難しかったです。


——その難しさを、どんな風に乗り越えられたんですか?


髙石さん:もう、信じるしかないですね。監督からオッケーと言ってもらえたことが自信になって、どんどん次のシーンに進んでいったので、ただただ監督を信じることで乗り越えてきました。

作ることにポジティブに


——本学には俳優や監督、画家、イラストレーター、作家などのクリエイターを目指す学生が多く在籍しています。『きみの色』も音楽という表現を通じて3人の少年少女が出会い、葛藤する物語です。いま、表現者を志す高校生や大学生にメッセージをお願いします。


髙石さん:わたしは今回、声優というお仕事をさせていただいて、感情の大切さを身に染みて感じました。技術を学ぶことももちろん大切なんですが、その核には、自分や役の感情が絶対に必要だということを、この『きみの色』という作品で感じたので、心がけていきたいと思っています。みなさんに、というのはおこがましいですが、わたしはそう感じました。


山田監督:わたしは学生時代、「なにか物を作る人になりたい」と思っていました。それで、いまアニメーションという「なにか」を作る現場にいる。その「なにか物を作る人になりたい」という思いを信じてやってきたから、いまここにいると思っています。作ることに対して、ポジティブな気持ちでやっていけると、いいことがあるのかなと感じます。


——なるほど。わたしも作り手で、作品を批判されるとどうしてもネガティブな気持ちになってしまうのですが、そういうときに前を向く方法や、乗り越える方法はありますか?

山田監督:わたしも、心が折れそうになることはあります。でも、負けず嫌いを原動力にしてやっていますね。大事に作ってきたものを批判されたら、ムカつくじゃないですか(笑) その感情をバネにしている部分はあると思います。ずっとそれは変わらないですね。立ち向かう術は、なかなか見つかりません。あとは、『出来上がったら、きっとびっくりするんだから!』って信じる。映画を観にきてくれた人を驚かせたいなと思って、なんとかがんばっています。

——山田監督、髙石さん、ありがとうございました。
 

ロングインタビューで、『きみの色』の魅力や表現する中での葛藤、気づき、ネガティブな感情を乗り越える方法などをうかがいました。表現者になりたい高校生や芸術を学んでいる大学生のみなさんにとっても、気づきがあったのではないでしょうか。
映画『きみの色』は2024年8月30日(金)公開です。ぜひ、劇場に足を運んでみてください!

 

『きみの色』公開情報

『きみの色』2024年8月30日(金)公開

監督  :山田尚子

声の出演  :鈴川紗由 髙石あかり 木戸大聖
           やす子 悠木碧 寿美菜子/戸田恵子/新垣結衣

脚本  :吉田玲子
音楽・音楽監督  :牛尾憲輔
主題歌  :Mr.Children「in the pocket」(TOY'S FACTORY)
キャラクターデザイン・作画監督  :小島崇史
キャラクターデザイン原案  :ダイスケリチャード
企画・プロデュース  :STORY inc.
制作・プロデュース  :サイエンスSARU
配給  :東宝
©2024「きみの色」製作委員会
公式HP  :https://kiminoiro.jp/
公式X  :https://twitter.com/kiminoiro_movie
公式Instagram  :https://www.instagram.com/kiminoiro_movie/
公式TikTok   :https://www.tiktok.com/@kiminoiromovie

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

  • 高橋 保世Yasuyo Takahashi

    1996年山口県生まれ。2018年京都造形芸術大学美術工芸学科 現代美術・写真コース卒業後、京都芸術大学臨時職員として勤務。その傍らフリーカメラマンとして活動中。

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