COLUMN2024.08.05

マンガ・アニメ

よっしーのマンガちなみに話ーコマとかフキダシとかのちなみに話

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  • 京都芸術大学 広報課

マンガとは絵とセリフで紡がれる物語だなんてことは誰もがとっくにわかってることだけれど、じゃあコマ枠線とかフキダシの形とか気にしたことってあります?
コマ枠線とはマンガの絵やフキダシが入る、いわゆる「コマ」の線のこと。
で、フキダシとは主人公たちが話すセリフを囲む風船のような形をした代物。
マンガコースでマンガを描いている学生から「枠線ってどれくらいの太さ?」とか「コマ間はどれくらい空けるんすか?」などと質問されることがよくある。

結論は「皆さんご自由に」なのであります。

でもまぁそれではマンガコースの先生としてかっこがつかないので、ちなみにボクは枠線の太さ0.8ミリでコマ間は左右4ミリ上下8ミリかな、なんて答えたりしてる。

ちなみに日本のマンガは、文字は小説などと同じく縦書きでページの右上のコマから左へ、左端へ行ったら下の段の右端のコマへ…と読み進めていくのが基本なんだけどそんなこといちいち教えてもらわんでも無意識にそんな風に読んでるでしょ?

で、枠線の太さなんだけど、そんな毎回毎コマごとにいちいち測ってるの?いやいや…おおよそだいたいですってば。
太いとポップな感じになるけどもっちゃりしてしまうとか、細いとシャープだけど冷たく感じてしまうとかいろいろ言われてきてますけど。

フキダシも同じで叫んでるセリフはトゲトゲさせたりとかはあっても後は作者それぞれって感じ。
「中の文字の周りに少し余白持たせないと、セリフがきゅうくつそうに見えるよ」なんて言うことはあれども、やっぱり結局皆さんご自由になのである。

では、コマ枠線をどのような筆記具で引いているか問題。
「え?中の絵と同じGペンとかで引いてるんじゃないの?」
いやいや、これだから素人さんは困っちまうぜ。

コマ枠線は中の絵と違って線に抑揚ついたりしないで均一の太さじゃないとダメなの!

で、均一の太さの線を引くことができる筆記具と言えば烏口!
か、からすぐち?なにそれ?

烏口と聞いてリドリースコット監督の超名作「ブレードランナー」の「お手持ちの烏口」を思い出してしまう人は今やどれだけこの世に生存しているのでしょうか?
烏口とは元々はデザイン業界や建築業界で使われていた製図器機。
軸の先にまさに鳥のくちばしのように先がとがった2枚の鉄板がネジで止められていてこのネジで先端の隙間を調節してその隙間にプラバンの先などに製図用インクを取って流し込む…って文字で説明しても見たことも触ったこともない人には、は?って感じでしょうね。

かくいうボクも少年時代、石森章太郎(のちの石ノ森章太郎)先生の超名著「少年のためのマンガ家入門」の中にマンガを描く道具として紹介されて…ない!?

そうか「少年のための」だもんね。当時今と変わらず2,000円くらいした高価な烏口をこれからマンガ家になりたいと夢見ている少年にはお勧めしないってことね。石森先生優しい…。

で、なぜ烏口の記述がないことが分かったかというと確認のため手元にある1971年に320円で買った本書をさきほど見返してみたからで、ちゃんと50年以上も前のこの本をボクは大事に持っているのであります。
ちなみに、この本の初版は1965年で石森先生が1938年生まれだからなんと!先生27歳ころに書かれた著書!
27歳の若さで入門書を出しちゃうマンガ家って…今更ながらやはり石森先生凄すぎでしょ!

ま、ともかくお年玉かなんかをはたいて手に入れた烏口を「これ一体どないして使うねん」と四苦八苦しながら(ググって調べるとか無いし、1971年だし)、なんとか使ってみたものの、やはり使い勝手は決してよくない。
ペンを垂直に立てて引かないとインクが出てこない。インクをいちいち隙間に差し込まなきゃいけない。入れすぎるとどぼっと原稿の上にこぼれ出てしまう。
挙句の果てに使用後に先をしっかりふき取っておかないと見事に錆びついてしまう。だって鉄製だもん。

そんなこんなで気がつくとボクも大学生となり、マン研の先輩から「ひさうちみちおってマンガ家知ってっか?」と聞かれ、「なんかオシャレな絵柄の人っすよね」なんて知ったかぶって答えると「あの人作品全部ロットリングで描いてんねんで…。」

ロ、ロ、ロットリングうう?

ははぁんこいつロットリング知らんなという笑みを浮かべて何やら黒いボディーに0.1とか0.2などと書いてある筆記具らしきものを取り出すデザイン学科のマン研先輩。
「そっかお前油画やし知らんか。デザイン科はみんな使ってんで。」

このロットリングというのは実は商品名ではなくドイツの老舗文具メーカーの名称。ただマン研先輩はロットリング社が出している製図器具そのもののことを言っていたわけだ。
アクリル絵の具のことを商品名ではなくメーカー名の「リキテックス」と呼んだりするのと一緒かな。
烏口と違いこれからのマンガはロットリングや!と、単純なボクは後日画材屋に駆け込み見つけましたロットリングバリアント!ん?
ニブ(いわゆるペン先ね)と軸とインクがばら売り?しかも洗浄用のポッドとか?
0.15、0.2、0.3…そうかネジの具合で先端の隙間の幅が変わってしまう烏口とは違って0.15ミリのニブはずっと0.15ミリ幅の線が引けるという仕組みなのだな。そのために数種類の太さのニブが用意されているというわけでつまり引きたい線の太さの数だけ買いそろえなくてはいけないということになる。
で、ではボクは一体何本買えばよいのだ?
ニブを交換すれば軸は1本でいいのか…でも線の太さを変えるたびにいちいちニブを差し替えるのは面倒だぞ。
で、ざっと総額は?ニブ単体でも烏口くらいの値段だぞ?っと、とととんでもない値段になってしまうではないか…デザイン科のやつらはみんな金持ちのボンボンなのか?

とりあえず画材屋の人にお勧めの1本を選んでもらい購入。
早速部屋に戻り枠線を引いてみる。素晴らしい。
しかもインクは墨汁や製図用インクより早く乾いて黒々と美しい。

ところが後日気がついたのだけれどこいつはメンテナンスに手間がかかる。
速乾性インクは複雑な機構を持つニブ内部で固まってしまい解体して一晩漬けおき洗いをしてやらないといけない。

おしゃれさんなデザイン科の奴らはともかくボクのようなぐーたらマンガ家(志望の学生)には向いてない画材かも。(注:最近ではロットリングラピッドグラフなど性能もメンテナンス性も向上した製品が出てます。これおよそ40年ほど前の話なのであしからず)

で、この後はピグマやマルチライナー※1など、いわゆるサインペンタイプのものがマンガのコマ枠線を引くにはちょうど良く、使い捨てだけど安価で扱いやすいことに気づいていくのだけれど、ここまではアナログのお話。

今やもうマンガを読むのも描くのもデジタルの時代。
雑誌や単行本で読むよりスマホ。
なので1ページのコマ数は少なくなっていく。
なぜなら1ページ10コマもあったらスマホの画面では小さすぎていちいち拡大しないと読み辛いから。

フキダシも大きくなり中の活字のQ数(文字の大きさを表す単位、正しい表記は級数だけど12Qとか20Qとか気取って書くのさ)も大きくなっていく。
縦読みマンガに至ってはコマとコマの間隔なんてフリースタイルもいいところ。
描き手側にとってもコマ枠線やフキダシなんかは描くというより選んで調整するといった感じ。
烏口相手に悪戦苦闘していた日々のことを思えばお手軽感はハンパないのだけど、その分クリスタ(注:クリップスタジオ、漫画やイラストを描くための代表的なデジタルツール)のあまりの多機能ぶりに悪戦苦闘することになってたりするよね。
それでも最近では、廃番になってるロットリングバリアントをネットオークションなんかで探している人もいたり。
つい先日も、もうアナログでは描かないだろうから断捨離しようと思い立ち、家に大量に在庫している各種トーン(アナログ原稿にハーフトーンや柄を入れたりするシートのこと)をまずは持てるだけとマンガコースの1年生の授業に持ってきたら学生たちが寄ってたかって瞬殺で完売(無料だけどね)してしまったのであった。

※1ピグマはサクラクレパスが販売する水性顔料サインペンの商品名。マルチライナーはコピックが販売するラインドローイングペンの商品名。

ちなみに第2弾「紙とかのちなみに話」もぜひご覧ください。

(文・イラスト=よしかわ哲郎
(ディレクション=井本圭祐

 

 

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