INTERVIEW2024.07.16

試行錯誤から生まれる、芸術と蛇口をつなぐアート — カクダイナソープロジェクト

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  • 上村 裕香

本学の学生と株式会社カクダイが産学連携で行った「ディオラマティック・カクダイナソー・プロジェクト」では、2023年11月7日(火)~11月28日(火)の4週間にわたり、カクダイ本社のショーウィンドウにカクダイの水道用品・水栓金具を用いた恐竜のジオラマを設置しました。
このプロジェクトは、京都芸術大学で提供されている「リアルワークプロジェクト」の一つで、実際の社会との関係の中で学生の社会参加や芸術による社会貢献ができる人材の育成を目的としています。

今回は、ジオラマの制作を行ったプロジェクトメンバー3名とプロジェクトのディレクターを務めた本学客員教授でもある越前屋俵太(ACADEMIC VISION合同会社)さん、担当教員の林陽一郎 非常勤講師に制作の過程を伺いました。

 

お話しを聞いた学生

遊びごころ満載な蛇口をアートに

本プロジェクトには学科の垣根を越えて本学の学生18名が参加。前期はジオラマ制作のために滋賀県長浜市の海洋堂フィギュアミュージアムを見学したり、大阪府大阪市にあるカクダイ本社で現場の声を伺ったりしながら、ショーウィンドウに設置する恐竜のジオラマをどのように制作するか考えていきました。


7月には岐阜県関市のカクダイ岐阜工場に見学に行き、どのような水栓器具をつくっているか、製品がどのように開発・製造されているかを学びました。カクダイの社員さんご指導のもと、風鈴を鋳造してみるワークショップも。商品をつくる初期工程の「鋳造」と呼ばれる、削った型に溶かした金属を流し込む工程を体験しました。
やかんの形をした蛇口や逆立ちをした蛇口など、遊びごころ満載な商品を世に送り出してきたカクダイらしい個性的な蛇口を実際に手に取り、イメージを膨らませていきます。


 

 
 

後期からはいよいよ本格的に制作がスタート。ジオラマの完成に向け、恐竜班、卵班、岩班など、制作するそれぞれのパーツごとにわかれて作業を行いました。前期から粘土で造形を練ったり、ダンボールで実寸大の模型をつくったりと計画は練っていたものの、実際に制作するときには苦労も多かったと、主に卵の制作を行った山邊百華さん(ファッションデザインコース・2年)は語ります。


「完成までに、5回くらいつくり直したと思います。プロジェクトメンバーに『立体制作』を学んだことのあるメンバーが少なかったのもあって、材料や骨組みから勉強しなきゃいけなくて。はじめは石膏で卵を再現しようとして、粉々になってしまったんです。次は樹脂。専門家が使うようなグラスファイバーの素材を使おうとして、扱いきれなくて断念しました。最終的には、しなる竹を骨組みにして、そこに和紙を貼るっていう原点回帰的な制作方法になりました。制作方法が決まってからも、卵が割れる様子を再現しなきゃいけないので、そこでも何度も失敗しましたね」
 

試して、失敗するという価値

ジオラマ制作は失敗と成功を繰り返し、少しずつ完成に近づいていったんですね。はじめから図面を引いて、その通りに組み合わせていくのとはまったくちがう制作方法です。そこには、本プロジェクトでディレクションを担当された越前屋先生の狙いがありました。

「設計主義じゃないものをつくりたかったんですよ。カクダイさんの製品のカタログを渡して、学生たちが蛇口で恐竜をつくろうと悪戦苦闘しているのを見ているときも、正解がわかっていても言わない。指導というよりは、ディレクター的な関わり方をしてましたね。失敗することが大事なんです。恐竜の卵をつくるときも、石膏でつくっている学生に『やめなさい』とは言わない。学生は楽しそうに作業してるんだけど、経験のある大人からしたら『崩れるだろうなあ』ってわかっちゃう、でも言わない(笑) 実際に石膏でつくった模型が重さで潰れて、学生が『俵太さん、潰れました!』って言って、またちがう方法を試し出す。そこに意味があると思ったんです。学校で習ったスキルが通用しないことを学んでほしかった」

蛇口を組み合わせ、接合して恐竜をつくっていくときにも同様に、実際に製品に触りながらトライアンドエラーを繰り返していったといいます。恐竜の制作を担当した中林愛楓さん(文化財保存修復・歴史文化コース・2年)は、「岐阜の工場見学で工程を学んだことが制作に活きました」と制作過程を振り返ります。

「恐竜も、蛇口などの製品をどう組み合わせることができるか、接合できるか、というのを手当たり次第にやっていくような形で制作しました。岐阜の工場見学に行ったことで、この部品はこんな工程でつくられているから、ショーウィンドウの外から見たときにここに見えるように配置したいとか、つくっている過程を知っているからこそ、この部分を表に出してアピールしたいとか、思考が深まったと思います」と、クライアントと密に関わり、カクダイの専門技術者に施工の指導を受けることができたリアルワークプロジェクトならではの経験が、制作に反映されていると語りました。

 

「普通はつくれない」アートを

完成し、実際に展示されたジオラマがこちら。竹を組み、和紙を貼り合わせてつくった巨大な卵が目を惹きます。

今回の展示では、期間中に展示されているものが少しずつ変化し、そのストーリーを楽しむことができるという仕掛けも。こちらの大きな卵が割れて、やがてそこから恐竜が生まれる様子を、さまざまな素材とカクダイで生産されている蛇口や配管、なんと便座なども利用して表現しました。恐竜の全長は縦1メートル、横1.5メートル。恐竜の歯の間隔など、細部までこだわってつくりこんでいます。背景の岩などもすべて学生たちが制作しました。

搬入初日の様子

完成したときの感想をメンバーに聞いてみると、一様に「終わったということしか考えられませんでした」、「完成したら終われるということが希望でした」とプロジェクトの大変さを感じさせる言葉が……。

SNSの運用や制作などを担当した伊藤浩大さん(クロステックデザインコース・2年)は「夏休み中盤くらいまでは方向性が見えずに困惑していました。制作がはじまってからも、正解が見えないなかで進んでいって。夏休みに合宿をしたのが転換期だったと思います」とその苦労を語ります。メンバーたちは途中で投げ出したら自分が後悔するから、という意地で、最後までプロジェクトに積極的に取り組んでいったといいます。

ディスプレイされた恐竜を見た方からは「どうやってつくったの?」という反応もあったそうです。越前屋先生は「『これは、普通はつくれない』って驚かれた。うちとしては最大の褒め言葉だと思います。実際につくるときには学生だけでつくるわけじゃなく、林先生の力を借り、ぼくのディレクションで制作しているわけですが、表面にあらわれない、学生たちが失敗して悶絶した経験のほうが大事なんです。その経験がそうした反応につながった」と、失敗を重ねたからこそつくることのできたジオラマを誇りました。


越前屋先生とカクダイの関係からはじまった本プロジェクト。失敗を積み重ねたからこそ、見る人の想像を越えるアートが完成しました。

越前屋先生は、今後も授業や大学の垣根を越えて、さまざまなアートプロジェクトを構想しているそうです。今度はどんな作品が誕生するのか、楽しみですね!

 

 

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  • 上村 裕香Yuuka Kamimura

    2000年佐賀県生まれ。京都芸術大学 文芸表現学科卒業。2024年 京都芸術大学大学院入学。

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