REPORT2024.02.29

文芸

【ぷちたび!】京都市左京区北白川。青の英雄はここにいた。−文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信

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  • 京都芸術大学 広報課

京都芸術大学 文芸表現学科 社会実装科目「文芸と社会Ⅱ」は、学生が視て経験した活動や作品をWebマガジン「瓜生通信」に大学広報記事として執筆するエディター・ライターの授業です。

本授業を受講した学生による記事を「文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信」と題し、みなさまにお届けします。

(構成・執筆:文芸表現学科 2年 黒田真生)

ぷちたび!とは

「ぷちたび!」とは、京都芸術大学 文芸表現学科の学生4人が、京都芸術大学の大階段下から気の向くままふらふら歩く企画だ。制限時間は15分間。

「旅と旅行は違うんだよ」これは高校の国語の先生の言葉だ。
なんでも、旅(たび)とは移動そのものや移動も含めて楽しむこと。旅行は目的地が明確で、目的地で楽しむこと、なんだそうだ。昔の人は「旅」をしていた。
普段から散歩と寄り道が大好きな筆者だが、今でもときどき「旅」についてのその言葉を思い出す。

「好きに歩いて寄り道し放題な散歩って、つまりは小さな旅じゃない?」
そう思いついたところからはじまったこの企画「ぷちたび!」。

今回の記事は2023年11月1日に元田中方面に向かって歩いた思い出を綴る。

「ぷちたび!」シリーズの他の記事はこちら!(他の記事も順次公開予定)
【ぷちたび!】赤信号は止まりますよ。だって芸大生ですもの-文芸表現学科の学生が届ける瓜生通信

本日のぷちたび!

今回は叡山電車元田中駅方面に向かって歩く予定だ。といっても、予定は未定。気の向く方に歩いていくからたぶん、元田中にはたどり着かない。

大階段とコーヒーと空

鼻をくすぐる香ばしい良い匂い。
香ばしすぎてたまになんか焦げてる?と聞きたくなるような匂い。
それがコーヒーの匂いだと知ったのは、大学に入学してしばらく経ってからだった気がする。
あいにく、筆者にはコーヒーを飲む習慣はないもので。
もしコーヒーを飲む習慣があったとしても、忙しい朝から豆を挽くところから始めないだろうから、やっぱり馴染みのない匂いになりそうだ。

大学の階段下横のカフェ※からは、毎日朝からコーヒーの匂いが漂ってくる。その匂いは階段の上や教室にまで届く。
今ではすっかり慣れて、朝の匂いだな、という感じがする。
(※2023年12月11日で閉店し、現在は、ヴェルディ北白川焙煎所として大階段向かいに移転。※現在、京都芸術大学瓜生館1Fでは、進々堂京都芸術大学店が営業中。)

今日は大学内で4人で待ち合わせをしていた。揃って大階段をえっちらおっちら降りる。
うちの大学といえば「ああ、階段のとこ」と言われるぐらい象徴的な大階段だ。
段数は59段。秋元康が作詞した学園歌「59段の架け橋」のタイトルにもなっていたりする。

正直、登るのも下りるのも大変だし、転がり落ちたら一巻の終わり。
その代わり、階段の頂上まで登りきり、振り返った時の景色は格別だ。からっと晴れた青空もいいし、色の変わりかけた夕暮れの空もいい。
本学の学生なら一度はスマートフォンのカメラを向けたことがあると思う。柱の間からその日の空を切り取る。かしゃり。

今日はコーヒーの匂いに気を取られていたので、写真はない。その代わりに、以前撮った夕暮れの空をあげておこう。筆者のお気に入りの1枚だ。

「たび」開始

11月1日水曜日、午前10時半頃。京都市左京区は快晴。いい散歩日和だった。
気温も書けたらよかったのだけど、うっかり記録を忘れていた。歩くと暑くなるぐらいだった、と言っておく。11月だというのにずいぶんとあたたかい。

大階段下に降り立って、現在時刻の確認。歩数計のチェック。
いよいよ元田中方面に向かって歩く。気にするのはだいたいの方角だけだ。

青の英雄

大学と大階段を背にして左手に進み、ウエルシア薬局(ドラッグストア)前あたりの横断歩道を渡る。白川通を横切る形だ。

そのまますき家の右手を真っ直ぐ進む。と、そこで、何かを見つけた。
急に立ち止まった筆者に他のメンバーは怪訝そうにしていた。

電柱に注目していただきたい。

BLUE ONERのステッカー

「BLUE ONER」と書かれたステッカーのようなものが貼られている。
日本人女子の平均身長より幾ばくか低い筆者の目線よりも少し上。
だから、たぶん、大多数の人の目線の高さに合わせて貼られていることになる。

「ONER」の「E」の文字の中には小さく白抜きで「JAPAN」という文字も書かれている。ということは、このステッカー、JAPAN以外のバージョンもあるのだろうか……?
筆者は一瞬空目した。「ブルーオーナー」と書かれているから、青い支配者? 青い主人?
ただし、よく見てほしい。「BLUE」はともかく、「ONER」だ。「OWNER」という綴りではない。

「ONER」の意味を調べてみる。1ポンドのお金。もしくは、他に見当たらないほどの優れた人物。さすがに、「1ポンドのお金」と電柱に貼っていても仕方がないだろうから、ここは後者の意味だと仮定してみる。

どうやらこのステッカーは「BLUE」な優れた人物の宣伝をしているらしい。宣伝している、と捉えたのは、わざわざ人の目線の高さぐらいの位置に貼られていたから。
電柱って一定の間を開けて存在しているから、知らせたい何かを貼るにはもってこいのものだと思う。
ああ、でも、あまりに日常の風景に溶け込み過ぎていて逆に目立たない可能性もある。 じゃあ、このステッカー、あんまりここに貼られた意味ないのかも。

次は「BLUE」の意味だ。日本語では青。個人的な青色のイメージは、「クール」とか「冷たい」とかだ。そういえば、勉強や仕事運アップの色にも使われていたように思う。
他に青色が使われているところ……。
どうせなら、海外で使われているような色のイメージがいい。わざわざ英語で書かれているわけだから、日本人だけじゃなく広く意味が通じるようにだろう。
いやまあ、日本語で「青の英雄」みたいに書いてあったらダサいから、みたいな理由かもしれない。漫画のタイトルっぽさがあって一周回ってかっこいいか。知らんけど。

さっきより人通りが増えたことに気づいた。後ろを振り向く。
そうだ。信号機の渡ってもいいことを示す色は青だ。厳密には緑色だが、「青信号」と呼ばれているからには「青」ということにしておこう。信号機に使われている色は世界で共通だと聞いたことがある。
青信号の色のイメージは「安全」。ならば、「安全な」優れた人物?
安全じゃない人物がいるのは危険すぎるし、わざわざ安全さをアピールする意味が分からない。ここは「信頼」ぐらいに捉えておいた方がいいかもしれない。

ここで一度グーグル先生に確認してみよう。「青色 意味 海外」。
一番上に出てきた青色の説明を見てみよう。安心・安全。信頼。気分がブルーになる。などの言葉が並ぶ。
考え方はおおむねあっていたらしい。

安心安全な優れた人、という意味は考えにくいので、ここは「信頼できる他に見当たらないほどの優れた人(インジャパン)」という意味が妥当だろう。
それは誰の事だ? という謎は残るが。

筆者の中で一応の結論が出たので、次に進むことにする。
開始からまだ少ししか歩いていないのに、ここでタイムアップしてしまうのは避けたい。

ちなみに、このステッカー自体の事を検索してみても、有力な情報は出てこなかった。 知る人ぞ知る何かなのかもしれない。真相は闇の中である。

上へ

先ほどの電柱を通り過ぎ、最初の曲がり角で左に曲がる。そのまましばらく真っ直ぐ進む、と驚いた。契約駐車場らしき場所の脇に、なんと朝顔が咲いていたのだ。
少し小走りになってしまう。

思った以上に高い支柱のようなものに巻き付いて上を目指す朝顔。
空が晴れていたこともあり、写真だけ見れば夏のようである。ただ、思い出してほしい。「たび」をしたのは11月である。

朝顔は夏に咲くものだと思っていたが、11月に、こんなにも元気に咲いているのはなぜだろう。

調べてみると、朝顔は夏に咲くイメージが強いが、品種によっては10月や11月まで咲くものもあるという。ぽかぽかとあたたかかった気温を思うと頷けた。

朝顔といえば、朝に咲くから朝顔、昼に咲くから昼顔論争もあるかと思う。
が、安心してほしい。実のところ筆者もこれが朝顔か昼顔か判別はつかない。朝顔っぽいから便宜上朝顔と呼んでいるだけである。
朝顔のしぼむ時間は暑さによって変化し、10月頃だと昼過ぎまで開いていることもあるそうだ。
ということで、これは朝顔。

筆者は花に詳しくはないので品種などは分からないが、詳しい方はぜひ写真から予想してみてはどうだろうか。
色違いの花も咲いていたので載せておく。

朝顔の咲いていた駐車場の角を右に曲がりまた真っ直ぐ進む。

遠くに見える柵のようなものに囲まれていた場所が気になった。そこを目指して進む。 公園かと思ったが、疏水だったらしい。

しばらく疏水に沿って進むことにした。

「止まれ」の高さ

住宅街に差し掛かり、止まれの標識があるところで止まった。

止まれの標識は「一時停止」をあらわす。今回はそれに加えて気になったところがあった。
普段考えていたよりも高さが低いような気がしたのだ。気のせいだろうか。とりあえずパシャリ。
メンバーに聞いてみても、「……そうかな?」くらいの反応。
筆者の気のせいという可能性が高まってきたので、後で調べてみよう、と保留することにした。

住宅の塀の高さと筆者の身長と。大体の目算では標識は2メートル50センチほどだった。
いや測ったところで、高いか低いかの判断はつかないのだけど。
測ったらそこまで低くもないような気がした。筆者が二人分弱ってでかくないか。

そこで「止まれ 標識 高さ」で調べてみる。歩道や路面から1.8メートルが標準とある。となると、少し高いのか。
歩道などの幅が通行量に対して十分でない場合は、邪魔にならないように建築限界である2.5メートル以上まで高くすること。ここは歩道、でもあるし車道でもある。自動車の高さがだいたい2メートルほどだと仮定すると、人にも自動車にもぶつからないベストな高さを考えた結果なのかもしれない。

それはそれとして、さほど幅広いわけではない一つの道を挟んで二つの止まれ標識が立っているのは中々にシュールな光景だった。飛び出しには気を付けたい。

そのままぶらぶらしているとタイムアップ。
15分は意外と短い。
元田中方面とは? という結果になったが、楽しかったので結果オーライである。

本日の歩数記録、697歩。
思った以上に歩いていなかった。

あとがきに代えて

ここで、編集後記のような話をいくつか。

朝顔の未来

記事を書くときの補足のために筆者は後日もう一度、一人で同じ道のりを辿った。11月30日のことである。
冬らしいどんよりとした天気で空には雲が多い。紅葉も進んでいた。
ステッカーは変わらず電柱に貼られていたが、朝顔は、と見ると、なんと支柱ごと撤去されていて影も形もなかった。きっと枯れてしまったのだろう。
急に寒くなった気温差にはさすがの朝顔も勝てなかったらしい。

曲がった「止まれ」

数日後、他のところにほかのメンバー主導で「たび」しに行った写真を見て気づいたことがある。
たぶん、筆者の「止まれ」のイメージはこれだったのだ。


 

これだと曲がっている分、長く感じる。
どおりであの止まれが短く感じるわけだ。

英雄、他にも。

学科の友人から京都芸術センターにも「BLUE ONER」があった、と教えてもらった。これは「インジャパン」じゃなく、「ここにいた」バージョン。

恵文社に向かった際、パチンコ屋近くの柱に貼ってあるものを見つけて思わず写真を撮ってしまった。こちらは、電柱のものと同じく「ジャパン」バージョン。しかも2枚。

謎は深まるばかりだった。

 

(構成・執筆)

黒田真生
京都芸術大学文芸表現学科2022年度入学。
兵庫県出身。
好奇心の赴くまま歩くのが好き。

 

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