京都芸術大学は、2024年春、完全オンラインで「食」を学ぶ芸術学士課程「食文化デザインコース」(正式名称:通信教育部芸術学部デザイン科食文化デザインコース)を開設します。本コースでは、食を文化芸術ととらえ、食に関わる幅広い知識と豊かな感性を学び、食文化の担い手を育成します。
2023年9月22日に開催されたメディア発表会には、同大の副学長で「食文化デザインコース」を監修する放送作家の小山薫堂氏をはじめ、多彩なキャリアを持つ講師陣が集まりました。
吉川左紀子学長は開会の挨拶で、「これまで大学や専門学校で行われてきた“食の学び”とは異なる角度から、感性を豊かにする食の体験について、新しい学びを提供します」と説明。「パンデミックで『食べる』という行為が大きな影響を受けました。自然の中で食べるおにぎりのおいしさや、居酒屋で賑やかに食事する楽しさに気づいた期間でもありました。今はこれまで当たり前だった食について学ぶ、絶好のタイミングと考えています」と語りました。
小山氏と「食文化デザインコース」の監修にあたった同大の教授である軽部政治氏は、「以前は料理人は技能を研鑽し合うことが多かったですが、今は食材の選び方、生産者との関係、作ったものをどうプレゼンテーションするかという意識を持っている若い料理人が多いと感じます」と、料理人の意識の変化を解説。その一方で、「食業界に携わる人たちのモラルやリテラシーが伴ってこないことも感じている」と指摘しました。そのことをふまえて、食文化デザインコースを作るにあたり、食に関する多くの人に開かれた「より美味しく、正しく食に向き合えるよう」なカリキュラムを意識したと話しました。
本コースでは、食を「ライフ(食と文化、食と社会)」、「ビジネス(食とプランニング、食とプロデュース)」、「体験(食と理論、食と感性)」という3つの側面から領域横断的に学ぶことができます。
コース全体を通した特徴は、大きく分けると3点。
1 「食を文化芸術として学び、食文化の担い手を育成する」
フードデザインを軸に、文化人類学、科学、美学、地域デザインなどの視点から、食を文化芸術として学びます。
2 「国内外で活躍する食のプロフェッショナルから学ぶ」
講師陣は国内外の第一線で活躍する研究者、表現者をはじめ、メディアやフードテックなど幅広い分野からスペシャリスト約20名が集結しています。
3 「完全オンラインで芸術学士(4年制大学卒業資格)を取得」
京都芸術大学通信学部は文部科学省に認可された正規の4年制大学です。卒業すれば学士(芸術)の学位が授与されます。通学不要。働きながら学士資格を取得できます。また専門学校や短期大学、大学を卒業している方は3年次編入学が可能なため、最短2年間での卒業を目指せます。
アートや文化、デザインの視点で食を領域横断的に学べるコースは、本学のカリキュラムの大きな特徴です。講義は「ライフ」「ビジネス」「体験」の3分野に大別され、たとえば「ライフ」では、「食べるということ」「食の器と道具(食べるときの演出、文化、歴史や地域性)」「食卓の民俗学」「持続可能な食との関係」などが学べます。「ビジネス」では「食文化デザイン」「ガストロノミーツーリズム」「日本の食と知恵」「フードビジネス構築」などが学べます。「体験」では、「おいしさの科学」「味覚の科学」「食の鑑賞法」などが学べます。
また美食の街として知られる、スペイン・バスク地方(サン・セバスチャン)にある、ガストロノミー教育機関「バスク・カリナリー・センター」が、2単位分の講義内容を提供します。
軽部教授は、「これから高校を卒業する若い学生はもちろん、社会人、料理業界の人たちの学び直しにも使ってもらいたい。日々の食体験をより楽しみたい方。多様な食の視点を学びたい方。食業界でキャリアの幅を広げたい方。地域活性化に取り組む方やスタートアップを計画している方にも参考になる内容です」と話しました。
発表会の後半では、小山薫堂氏がファシリテーターとなりトークセッションが行われました。参加した講師陣は佐藤洋一郎氏、石川伸一氏、湯澤規子氏、水野考貴氏、外村仁氏、中山晴奈氏。
「食の学びが今なぜ必要なのか?」という問いについて、宮城大学食産業学群教授でもある石川氏は「食の課題はたくさんある。人口増加による食糧危機、食べる人の価値観、どんな食を提供すべきか。この問題を考えるのに科学の視点、新しいテクノロジーの視点だけでは難しい。いま“感性”が食の分野で最も足りない」と話しました。
またアメリカ在住でFood Tech Studio- Bites!ファウンダーの外村氏は「先進国で大人の学び直しが最も少ないのが日本。“食”というキーワードで学び直しができるのはいい選択だと思う」と話し、「我々が過去に経験してきた“食”と、近年の技術の進歩によって再定義された“食”は範囲が違う。今の“食”はあらゆる産業に繋がっている学問。そして日本の“食”は、世界へ出していける産業でもある」と、その重要性を説きました。
食文化学を専門とし、「ふじのくに地球環境史ミュージアム」館長でもある佐藤氏は、「ある大学で学生たちと過ごした際に、お酢が酒からできているのを知らない学生が多いことに気づき慄然とした。またウクライナ侵攻で、食糧危機がすぐそこにきているということも我々が最近知ったことだ。一人一人が自分の前にある食の成り立ちや、誰が作っているかを理解しなくてはならない」と話しました。
2問目の「どのような価値観を持って食を学べばいいのか?」という問いについて、一般社団法人日本味覚協会代表の水野氏は「食の学びを深めるためには『自分ごととして考える』ことが大切。味覚も学んだり鍛えたりすると向上できる」と話しました。
法政大学人間環境学部教授で、地理学・民俗学から食を研究する湯澤氏は「食には味覚という数値で客観化できるものと、食文化のように主観的なもの数値化できないものがある。食が強いのは『食べない人はいない』こと。その共通性と、相違性を身体に取り込みながら、主客を行ったりきたりして学ぶ視点は非常に大切なことと思います」と説きました。
京都芸術大学の専任講師で、フードデザインを担当する中山氏は、湯澤氏の意見を受けて、「答えが出ないことを問い続ける熱量を、学生たちにも感じ続けてもらいたい。先生たちの尖った意見で熱量を上げていただければ」と続けました。
「このコースで学ぶことで、何が変わるのか」という問いについては、「広がる」というキーワードが多く登場しました。視野が広がる、同志とつながり広がる、その知見をまわりに広げて高められる、など。「ただ食に詳しい人を作るのではなく、食をきっかけにして新しい知見を深められる」と小山氏も話しました。
発表会後の交流会には、美術大学出身で、食の表現のトップランナーとして活動する「山フーズ(小桧山聡子)」によるケータリングも。「WWF UK」が2019年に発表した「The Future 50 Foods(未来の食材50)」をベースに、食文化デザインコースの門出を祝う料理を制作しました。食文化デザインコースの授業に関連する世界の食材(モンゴルの乾燥チーズ)、「御菓子丸」による茶菓子(鉱物の美)、伝統食材(こぼれ梅)もテーブルに並びました。さらに今回は、器やカトラリーも食べられる食材で制作。野菜のディップなどをつけて楽しむ来場者から笑顔が溢れました。また、佐賀県から収穫したばかりの新米を持ち駆けつけてくれた「おにぎり神谷(にぎりびと神谷よしえ)」のおにぎりも。今年旬を迎えたばかりの青ゆずから作った緑の柚子胡椒と、完熟のゆずを使って作った黄色い柚子胡椒を載せ、それにかぼすを絞って提供しました。
(文:柿本礼子)
食文化デザインコース発表会アーカイブ配信(YouTube)
https://www.youtube.com/live/ajCB8qy-ydQ?feature=shared
食文化デザインコース特設サイト
https://tenohira.kyoto-art.ac.jp/foodculturedesign/
説明会・相談会 | 京都芸術大学 通信教育部
https://www.kyoto-art.ac.jp/t/briefing/
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