INTERVIEW2023.06.28

マンガ・アニメプロデュース

クリエイティブディレクター・富永省吾さんに訊く!話題沸騰のミュージックビデオ『芸大不安?』が誕生したワケ

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  • 京都芸術大学 広報課

芸術大学への進学を不安に思う高校生を応援する、本学オリジナルのミュージックビデオ『芸大不安?』feat.水槽 / あっこゴリラ。5月2日の公開後、SNSを中心に「斬新なMV!」と話題沸騰中です。制作陣には人気クリエイターが名を連ね、アニメーションとモーショングラフィックスを駆使した、芸術大学らしい独創的な映像表現が注目を集めています。

大学のTwitterでは過去3年間で最も多くのリツイート・インプレッションを記録し、「芸大生の生活、あるある!って共感できる」と、在学生や卒業生からの反響も大きく、大学の取り組みとしては極めてめずらしいミュージックビデオへの反応も上々。そこで、今回は、本作を手がけたクリエイティブディレクターで、国内外で多数の受賞歴を持つ富永省吾さん(情報デザイン学科卒業)に取材し、制作にまつわるエピソードを伺いました。
 

高校生や現役芸大生を応援するミュージックビデオ

芸術大学のミュージックビデオを作る――。その斬新なアイデアを自ら発案したのは、今回お話を伺ったクリエイティブディレクターの富永さんです。

富永さんといえば、“一度聴いたら、頭から離れない”と話題になった、380万回再生超えのミュージックビデオ(以下MV)『マヌルネコのうた』などを制作したトップクリエイター。

瓜生通信:「発明」と呼べるものをつくりたい ― クリエイティブ ディレクター・富永省吾さん:卒業生からのメッセージ(https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/884


今回、本学のMVを制作するにあたって、富永さんが担当したのは、「全体のアイデア・企画発案、クリエイティブディレクション(総監督)、そして作詞ですね」。

えっ、作詞も!? と驚くと、実は、『マヌルネコのうた』でも作詞を担当されたそうで、「マヌりたい、マヌられたい。マヌルネコ、守りたい―」という印象的なフレーズも富永さんによるもの。
なぜMVを制作しようと考えたのかを伺うと、
「大学側からは、志願者数や存在感を上げたいと依頼があり、それならばと、僕からはMVをやりたいと提案しました。志願者数の向上は、どの大学も抱えている課題です。大学のMVを作ることで、芸大を目指す高校生や現役芸大生に見てもらって、クリエイティブってステキだな、と思ってもらいたい、という想いがありました」。

『芸大不安?』feat.水槽 / あっこゴリラ

作曲:Nobuaki Tanaka
Rec/Mix:涌井良昌
クリエイティブディレクター:富永省吾
音楽プロデューサー:剣持学人
映像ディレクター:山口駿
イラスト:そゐち / syo5
映像プロデューサー:神谷雄貴

※現在は非公開

「不安」はいつか、「FUN」になる! 歌詞に込めた想い

まずは、富永さんが担当した「作詞」について、話を聞いていきました。作詞家としてこだわった点は、「大学の情報と芸大生活のエッセンスを伝えながらも、聞いていて気持ちいい歌詞になるように工夫したことです。大学紹介ではあるけど、歌詞に大学名が出てくることはないですし、エンタテインメントとして楽しく情報を受け取ってもらいたい、と考えました。また、クリエイションに向き合う高校生や大学生の “作業用BGMを作ること”が、裏テーマでもありました」と話します。


MVに何度も現れる、「不安」というワードのチョイスにも、富永さんのこだわりと経験談がつまっています。
「企画を進めるにあたっては、タイトルが一番先に決まりました。大学のMVはPRのための映像ですが、広報用のコンテンツに“不安?”なんて、ネガティブなワードを使ったものは、ほぼ存在しないんですね。しかも、タイトルにもってくるのも、極めてめずらしいこと。
それでも“不安”という言葉をタイトルに選んだのは、僕自身が、芸術大学に進学する前や在学時に抱えていたリアルな感情だったからなんです。
以前のインタビューでもお話ししたんですが、高校時代は普通科だったから、先生に芸大を目指すと伝えたら「なんだかよくわからんけど、がんばって!」と言われましたし(笑)、入学後の1〜2年生の頃は周囲に圧倒されて劣等感をもっていました。学校をやめたい気持ちを抱えたことも、もちろんあった」。


「今回、歌詞を書くにあたって僕自身の経験をふりかえってみたら、進学を決めたとき、在学中、卒業そして卒業制作……、それぞれの時期で、葛藤、努力、挫折といった将来への不安はそばにいるものなんです。MVの歌詞でも、『何者でもない 何者かになりたい』と書きましたが、改めて当時を思い返すと、僕だけじゃなく、みんな意外と不安だったんだな、“不安じゃない人”はいなかったんじゃないかな、と感じて。
でも、不安って、いつか『FUN』になる。誰もが可能性をもっているけど、不安を感じながらも切磋琢磨する芸大生活や、そのまわりにあった時間そのものが『良い青春だった!』と、僕自身も社会人になってから気づいたんです。
だからこそ、自分のリアルな体験を盛り込んだ歌詞を通して、いま芸大を目指す人たちの背中を少しでも押す歌にしたかった。そして、芸大生たちの応援ソングになるものも作りたかった。そういった想いをMVの歌詞に詰め込んでいます」。


芸大生ライフの「冷静な時間」と「アツい瞬間」を表現

ここからはMVでの映像表現について、くわしく話を伺いました。アニメーションとモーショングラフィックスで表現されるのは、芸大生たちのリアルなキャンパスライフ。「仲間と共に乗り越える限界」「ぶっちゃけNO EASY制作」といった歌詞とともに、一人コツコツと課題に向き合う時間や、苦悩する表情、仲間たちとの制作風景といったシーンが次々と描かれます。芸術大学での生活や、キャンパスライフを表現するにあたって、意識したことは何だったのでしょうか?

「キーワードは、『冷静と情熱』。制作する間って、冷静に物を考えるときと、制作に取り組んだアツい瞬間、どちらもあると思うので、その温度感のコントラストを表現したいと考えました」。

MVは、発案から半年で公開に至ったそうですが、そのキャスティングはかなり豪華!
「アニメーション監督は山口駿さん、映像プロデューサーは神谷雄貴さん。イラストは、そゐちさんとsyo5さんという、2名の人気クリエイターに担当していただきました。そゐちさんは京都芸術大学 キャラクターデザイン学科の卒業生でもありますね。実は、京都芸術大学の卒業生だけでMVを作り上げられないかな?という想いも企画当初はあったんです。今回は実現できなかったんですが、いつか卒業生オールスターで大学のMVを作ることができたらおもしろそうだと思っています」。

水槽
あっこゴリラ


MVのもう一つの要、楽曲面に関しては、「完全にオリジナルで制作しました。楽曲プロデュースは『マヌルネコのうた』などでも僕とタッグを組んでいる剣持学人さん。メインヴォーカルは注目歌手の水槽さん、ラップパートは実力派ラッパーあっこゴリラさんに担当していただき、2人のCool&Hotな掛け合いを楽しんでもらえたら」と富永さんは語ります。
 

クリエイティブな世界を目指すみんなの応援歌に

最後に、クリエイティブディレクション(総監督)のお仕事についても聞きました。企画、歌詞、映像、音楽。一本のMVができあがるまでに、さまざまなパートをディレクションし、まとめ上げていく技術がクリエイティブディレクターには求められます。富永さん自身の、MV監督経験について伺うと、
「MV系の制作は、実は慣れているんです。歌モノはこれまでにも何度かやってきています。たとえば、ヒップホップグループSOUL’dOUTのメンバーだったMC、Diggy-MO’さんのMVは、ソロになった初期の頃からずっと手がけていますし、『マヌルネコのうた』のMVでも、今回と同じように企画、監督、作詞を担当しています」。

Diggy-MO' 「PTOLEMY - Ptolemic Expressions -」


5月2日にMVが公開されて、2か月ほど。Twitterでの反響について伺うと、富永さんは笑顔でエピソードを語ってくれました。

「とてもおもしろかったですよ! 特に在学生。RTしてくれた人のコメントを見ても、『豪華すぎる』『カッコいい』といったうれしいコメントをたくさんいただきました。『大学に誇りが持てた』『めっちゃヤバいと学生同士で話題になってるんです』という声もあって、よかった〜って。
MVのターゲットは高校生やクリエイティブ界隈の人がメインですが、在学生が自信をもてるもの、卒業生もなつかしく感じてもらえるものにしたかったから、反響は本当にうれしかったです。『後輩に、うちの大学スゴイでしょって言えました』とか、『共感ポイントが多い』という声もありましたね。

 

インタビューの最後に、いま、芸術大学を目指している高校生たちへのメッセージを伺いました。
「今回のMV制作で一番伝えたかったことは、いまの時代、芸術大学に入る選択は、とても良い選択だ、ということ。僕自身も芸術大学を卒業して社会人になったからこそ、最近特に感じているんですが、将来、みなさんが社会人になったときには、もしクリエイティブに関係ない仕事についたとしても、『創造力』『クリエイティビティ』が必要とされる時代だからです。
僕の経験上でも、お仕事で関わった方のうち、一般企業で活躍している方でも発想力や創造力、クリエイティビティが高いと感じるんですね。それに、これからは『AIに仕事を奪われる時代になる』ともいわれるからこそ、より創造力が求められる“新しい時代”の流れもある」。


「芸術や創造を学ぶことは、自分自身が学生だった頃よりも重要度が増していると感じます。クリエイティビティは、必ずこれからの人生で生きてきます。芸術大学で学ぶことを決めた当時の自分自身が迷っていたからこそ、いま迷っている人に向けて自信をもって伝えられる。自信をもって、その背中を押すことができる! このMVが、高校生だけじゃなく、クリエイティブな世界を目指すみんなの応援歌になればいいなと願っています」。

(取材・文:杉谷紗香)

富永省吾 Shogo Tominaga

京都芸術大学卒業。在学時に複数企業と共作した異例の卒業制作が話題となり、浅田彰氏、後藤繁雄氏ら著名評論家から突出した高い評価を得る。翌年、クリエイティブディレクターとして日本最年少でカンヌ国際広告祭を受賞。映像を軸に、表現媒体を越え多くの話題作を手掛ける。ブレーン「いま一緒に仕事をしたいU35クリエイター」選出。カンヌライオンズ主催 YOUNG LIONS COMPETITION 2020 (通称ヤングカンヌ)映像部門で金賞を獲得し日本一となる。2021年、企画/監督/作詞を手がけた「マヌルネコのうた」では国内最大の広告賞ACC TOKYO CREATIVE AWARDフィルム部門で銀賞、個人賞としてエディター賞のW受賞となった。東京国立博物館創立150年記念映像担当。2022年、小山薫堂氏やANREALAGE森永氏らと並び斎藤精一氏主宰のTOKYO CREATIVE SALON 2022選出作家となる。幅広い実績を背景に、異才を放つクリエイターとして新時代の表現開発を行なっている。株式会社LQVE代表。
https://shogotominaga.com/
https://twitter.com/shogo_tominaga

 

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