SPECIAL TOPIC2023.03.15

映像舞台

80歳も20代もレッツ・ロック!書画コース橋幸夫さん出演のTV番組『うたコン』でNHKと学生がコラボ!

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  • 京都芸術大学 広報課

「はい、カット! おつかれさまでしたぁ!」。2月8日、約3年ぶりの入場制限なしで賑わう本学「卒業展」開催中のキャンパスが、NHKのテレビ番組『うたコン』収録会場に早替わり。今年、80歳を機に歌手活動を引退される橋幸夫さんが、新たな人生のスタートとして選んだのが本学の通信教育部「書画コース」。そこでNHK大阪から、「番組内で流れる橋さんの歌唱シーンを、同窓生である学生さんとつくりあげたい」と提案されたのが、すべてのはじまりでした。

産学連携で学生がプロの現場に参加するのは、通常の学びでも珍しくありません。けれど今回は、「企画やコンセプトを立てるディレクションに加えて、振付・踊りも学生が担当し、NHKディレクターと対等の立場でつくりあげる」という異例のスタイルが実現。そこで演出を担当した山本優里さん(映画学科3年生)、振付を担当した佐賀みことさん(舞台芸術学科4年生)の2名に、テレビ制作第一線のプロと正面からぶつかりあったプロジェクトの舞台裏を伺いました。

演出を担当した山本優里さん(左)、振付を担当した佐賀みことさん(右)

 

橋さんを祝いたい!という気持ちで参加。

― なぜ、本プロジェクトに参加を?

演出担当:山本さん 「参加しないなんてありえない!立候補しなかったら絶対後悔する」と逆に思ったくらいです。NHKで全国放送される番組をディレクションできるなんて、一生であるかないかの貴重な経験でしょう。私自身、映画学科で撮影や照明担当として作品づくりを学びつつ、学外では書道パフォーマンスや題字揮毫などの活動をしていたので、79歳で書画コースに入学された橋さんの挑戦に感動。そうした想いや熱意が伝わったのか、学科を代表する演出担当に選んでいただけました。

メンバーに決定するとすぐ、NHKのディレクター西村さんから連絡が。まずは私たち学生の方から、歌う曲やコンセプトを自由にアイデア出しすることに。その後、西村さんと話し合いながら、「すべての視聴者に伝わりやすく」「さまざまなリスクをカバーできる」現実的な演出プランへと練りあげていきました。

映画学科では3年生全員に向けて告知。希望者にNHKディレクター西村さんによる説明会が行われた。


振付担当:佐賀さん 私は去年、別のプロジェクトで学外アーティストの作品にて振り付けを担当しており、その経験を活かせたらと参加。テレビはまるで未知の分野でしたが、この案件でコンセプトづくりから携われることに、とてもワクワクしていました。

参加が決定してすぐ、西村さんの計らいで橋幸夫さんのコンサートを見学させてもらって。リハーサルと本番、楽屋まで立ちあえたことが、フィジカルな感覚をつかむために役立ちました。橋さんのファンはSNS世代ではないから、「どんな曲で、どう盛り上がるか」といった情報をネットで集めにくいんですよね。けれど、現役最後の花道を飾るこの番組では、そうした長年のファンから若い世代まで、すべての人に楽しんでもらえる表現をめざしたいと思いました。

山本さんと佐賀さんの初顔合わせ。初めから積極的な意見交換が。

 

綿密な下準備が、本番の底力になる。

― 第一線のプロとのコラボで、感じたことは?

演出担当:山本さん 「あらゆるケースを想定して、リスクマネジメントを徹底する」「できないことに捉われず、できることのなかで最も面白いアプローチを考える」など…数え上げるとキリがないほど、すべてが学びの連続でした。 “面白い”にしても、ただの主観ではなく「ここで、この人がこうするから面白い」と論理的に説明する必要があるし、かといって理屈っぽくなりすぎてもダメ。つねに視点を切り替え、より良い答えを探しつづける姿勢を教わりました。

もちろん、普段の課題やプロジェクトでも全力を尽くしていますが、プロとの圧倒的な差を感じたのは「準備」の徹底ぶりです。リスクであろうと、可能性であろうと、とことん考えて綿密に細部まで備える。そうすることで、本番で何が起きたとしても、柔軟に対応しながら、キモとなるコンセプトを貫きとおせる。テレビ制作だけでなく、あらゆるプロの表現において、「準備こそが自信あるパフォーマンスの源になる」と思い知りました。

スマホで撮ったVコンテをもとに、表現をブラッシュアップ!


振付担当:佐賀さん 私はもともと準備好きなので、プロの徹底ぶりに驚かされつつも、自分も負けていられないと奮起することができました。「すべての人が楽しめる表現にしよう」と考えはじめたものの、じつは「カンタンだけど、やってみたくなる」振り付けって、すごく難しいんですよね。自分の中でたくさんアイデアを出したなかで、地元である徳島の「阿波踊り」をヒントに、楽しいお祭りムードを表現することができました。

本番までの段取りにおいてプロのすごさを感じたのは、準備の精度はもちろん、そのスピード感です。必要になったらすぐに的確な資料をまとめて、すみやかにスタッフ間で連携する。単純に、「つくりたい」という自分の気持ちだけで突っ走るのではない、制作責任者としてのあり方を学んだことは、これからの自分の活動にも活かしたいです。

雪降る中での振り付け確認。
「阿波踊り」をヒントに振り付け。
「紅白の衣装で祝祭ムードを演出!

 

ウェルカムto藝術立国!

― 収録本番のようす、そして、おふたり自身の新たなスタートは?

演出担当:山本さん 入念にアイデアを練ったものの、肝心の卒業展会場がギリギリまで完成しないので、実際の撮影スポットを下見できたのは本番のわずか4日前。そこから即興で演出を詰め直し、本番でも変更を加えながら、狙いどおりのシーンを撮ることができました。4つのシーンがワンカット風につながる演出で表現したかったのは、新たな芸術世界に入り込んでいく橋さんと、橋さんを迎える私たちの芸術ワールドへの臨場感。そのきっかけとなった橋さん直筆の「書」も、曲の題字として印象的に魅せられました。

山本さんこだわりの橋さんの書による演出


私自身も、まもなく新たなスタートを切る予定をしています。まずは東京の撮影スタジオで、カメラマン助手として撮影や機材を勉強。将来はフリーランスのカメラマンをめざしつつ、書道アーティストとして創作をしたり、イベントを企画・プロデュースしたり、幅広く芸術に携わり続けたいです。橋さんのチャレンジに勇気をもらい、今回の経験をフルに活かして、どんどん新しい世界へ飛び込んでいくつもりです。


振付担当:佐賀さん 「どんな場所で、どう演出されるか、直前までわからない」という今回の状況は、振り付けする立場としても厳しかったですね。ただ、早い段階から、「100%完璧をめざすより、私の振り付けをもとに自由に踊ってもらおう」と決めていたのが功を奏しました。準備して積み上げてきたものと、予期できない偶然やダンサーの個性がハマったとき、とてもいい瞬間が生まれる。まるで、カメラを通して観客と演者が呼応するような、絶妙な空気感をつくりだせたと感じています。

私は今回の振り付けで、学生ダンサーのみんなを“藝術立国の妖精”として表現しました。橋さんとアート、すべての人をつなぐ架け橋になる存在です。それこそが、純粋な感性を持つ私たち学生ならではの役目だと思っているので。いま芸大にいる人も、入ろうとしている人も、自分たちの感性を信じて、みんなで「世界をアートでつなぐ」仲間になれたらとても嬉しい。もちろん私も、そのひとりとして、どんな形であれ、舞台の世界と関わっていきたい。そして将来、多くの人に表現の楽しさを教える存在になれたら、と考えています。

 

「すべての人を包みこむ、底なしの明るさを!」。そうイメージする佐賀さんのかけ声が自然に現場を盛りあげ、「人生の大先輩のチャレンジを応援したい!」という山本さんの敬意が、晴れやかな祝祭ムードを生み出していく。厳しいプロ目線で進められる撮影のなかでも、2人の若きディレクターは、自分たちならではの存在感を発揮していました。

「彼女たちからあふれる自由なアイデアを前に、リスクを説きながらも、大人の考え方を押し付けていないか?と悩むこともありました」。そう胸の内を語ってくれたのは、パートナーとして制作を支えてきたNHKのディレクター、西村さん。「これまでは“オンエアされた結果がすべて”と思ってきたけれど、今回のプロジェクトを通して“プロセスの大切さ”や“学びあい”の価値を見直すことができた」と言っていただけました。たった3分に満たない映像に秘められた、たくさんの努力と想いが、ひとりでも多くの方に楽しい気分を届けられますように。撮影にご協力くださった教職員や卒業作品制作者、そして来場者の皆さん、橋さん、プロジェクトに関わったすべての方々、本当におつかれさまでした。ありがとうございます。

 

 

(撮影:高橋保世)

NHK総合『うたコン』

2023年3月14日(火)午後7:57~8:42

 

▽橋幸夫×京都芸術大学「恋のメキシカンロック」

【演出】山本優里(映画学科3年生)

【振付】佐賀みこと(舞台芸術学科4年生)

【ダンス】舞台芸術学科

 

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