INTERVIEW2021.09.14

京都舞台教育

燃える伝統を、全国の視聴者へ。 NHK『京都五山送り火』生中継のセットを舞台芸術学科の学生有志が製作!

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  • 京都芸術大学 広報課

「この夏のすべてを注ぎこんだけど、やってよかった!」。放送から一週間以上たっても、まだ残り火が体内にくすぶっているかのよう。8月16日に本学で行われたNHK『京都五山送り火』生中継、その舞台美術セットを製作した、舞台芸術学科デザインコース学生たちの言葉です。「中継する場所だけを借りたい」というNHKの申し出をきっかけに、産学連携のプロジェクトへと発展。番組テーマである「伝統を次の世代へ」の実践例として、学生が放送局といっしょに舞台美術をつくりあげることになりました。

“舞台”には慣れている上級生も、“テレビ”はまったく未知の世界。「そもそも、送り火について何も知らない私たちが、そんな大役を任されていいのか」。それぞれに悩み、考え、情熱を注ぐことになった舞台裏のストーリーを、中心メンバー6名のうち、全体のまとめ役となった元山七海さん(4年生)、デザインリーダーを務めた岩本茉子さん(4年生)、今回の取り組みを次に伝える古林澄花さん(3年生)の3名に伺いました。
※本文では、皆さんからのコメントをあわせて編集しています。

左から土岐さん、瀧さん、岩本さん、森田さん、古林さん、元山さん

五山送り火 美術セット製作プロジェクト コアメンバー

元山七海(大阪)4年:製作進行管理
岩本茉子(兵庫)4年:美術デザイン担当(岩のデザイン)
森田千尋(大阪)4年:製作進行管理
古林澄花(滋賀)3年:製作進行管理(灯籠を提案)
土岐茉由佳(青森)3年:美術デザイン担当(金魚を提案)
瀧真理菜(富山)2年:美術デザイン担当(枯山水を提案)

※カッコ内の県名は学生の出身県

観る舞台、見られるテレビ

― テレビの美術製作を依頼されたときの気持ちは?

みんなテレビ業界には関心があったので、「プロに認めさせたい」と意気込みつつ、「厳しくダメ出しされるかも」という不安もありました。けれど実際に接した担当者さんは、とても優しくて穏やかな方。私たちのデザイン企画意図を一つひとつ丁寧にくみとったうえで、どのアイデアが、どんな理由で選ばれたかということまで、細かく教えてくださいました。
おかげで、「テレビに映るものにはどんなことが求められるか」「何に気をつけるべきか」など、普段の舞台製作にはないたくさんの気づきを得られました。また、ひとつの番組が生まれる裏側で、想像以上に多くの人々が、どんなに熱意と誇りをもって取り組んでいるか、肌で感じられたのも貴重な体験でした。

 

キックオフミーティング。先生からは「プロでは考えつかない学生ならではの作品を提案しましょう」と声掛けが
第1回目のプレゼン。一人ひとりデザインの意図や想いを伝える
プレゼン以外にもNHK制作担当者と打合せを重ねる
岩本さんによるプラン:手による“つながり”を提案。デザインに込められたメッセージ性や、保存会の取り組みを学んでからのイメージ反転のプロセスが評価され採用に
土岐さんによるプラン:先祖の魂を金魚に見立てたプラン。番組中にセット(金魚)に動きがあるのが良い、また芸大生の斬新さを認められて採用に

 

― 舞台とは違う、テレビならではの難しさとは?

最も大きな違いは、「観にきた客だけが見る舞台」と「見る気がない人も見てしまうテレビ」。たとえば、ホラーの舞台なら、怖そうなセットであるほど喜ばれます。けれどテレビの場合は、「たまたま目にした画面で気分が悪くなった」と視聴者からクレームがくることも。つねに万人が見ることを考え、万人にわかりやすく表現することが求められるんです。
また、打合せ段階で悩まされたのが、「観客の肉眼」と「カメラ」の差。観客のいる席からはセットの表側しか見えないので、裏は板張りでいいんです。けれどカメラは、上からも横からも撮れるし、ズームも多用するので、あらゆる角度で細かなディティールの一つひとつに手を抜けない。これまでの製作とは、まるで別次元の作業でした。

 

正面からだけでなくカメラワークに対応した舞台美術セットとなった(撮影:吉見崚)
演者の足元まで切り絵細工で美しく仕上げた(撮影:吉見崚)

 

体当たりで開いた、伝統の壁

― ところで皆さん、どのていど「五山送り火」を知ってましたか?

じつは、「伝統行事らしい」「火がキレイ」というぐらい…。最初の顔合わせで「とりあえず登ってみるか」と全員一致して、後日、メンバーみんなで大文字山の火床(ひどこ・送り火をともす場所)へ。軽い散歩のつもりが予想外にハードで、食べる気力をなくしたおやつは、そのまま夜のミーティングの夜食に。でも、山からの見晴らしは最高でしたね。

 

険しい山道を登っていく
火床に着いて笑顔が
見晴らしは最高!
4年生(左から岩本さん、元山さん、森田さん)は頂上まで!


「大文字保存会」への取材では、最初は少し重苦しいムードだったんです。けれど、こちらが用意した質問や資料で、私たちの真剣さが伝わったのか、先方の態度がだんだん和らぎ、すすんで話をしてくださるように。「これを担いで登るんやで」と、実際の護摩木を持たせていただくなど、いろんな話を伺うにつれ、「送り火」や「それを守る人々」への印象が変わっていきました。

 

大文字保存会の方たちから貴重なお話しを伺う
大文字保存会の集会所「培根堂」がある八神社入口

 

― 「大文字保存会」の方々から、教わったことは?

とくに衝撃的だったのは、護摩木にする松を一年がかりで用意し、山を守るための活動まで、保存会が担っていることです。そこまで人生を捧げながら、ひけらかさないところに、簡単には共感できない凄みを感じました。ただ、皆さんの飾らない言葉から、「この伝統を守りたい、残したい」という願いがひしひしと伝わってきて。その強烈な印象が、“手の岩”の表現につながりました。 「時間的にも作業的にも難しいプロジェクトだけど、伝統を守る皆さんのために、私たちもできることを精一杯やろう」「こんな凄いことに関わるのだから、ちゃんとしたものをつくるぞ」。そう決心したのが、この日です。

 

保存会の方たちからお話しを伺いその想いを受けて、岩のデザインをブラッシュアップしていった
枯山水の岩を五山に見立て、一つひとつに意味を込める

 

心に灯されたもの

― 実製作は、どんな風にすすみましたか?

NHKへのプレゼンを2回行い、全体コンセプトにGOをもらったのが、放送日のほぼ1ヵ月前。そこから設計や素材調達にかかり、実質20日ほどで製作していきました。もちろん6人だけでは到底つくれないので、新たな協力者をコースから募集。普段は演技をしている学生や、あまり工具を使ったことのない学生も「やりたい!」と名乗りをあげてくれ、プラス14名が暑いなかで地道な作業に打ち込んでくれました。
 

最終図案。テーマは「つながり」
NHKスタッフによるメイキング撮影も
パネルの詳細図面
図面のとおりに作られていくセット

 

一つひとつに色を塗り、枯山水に敷き詰めた石は10kg×70袋。いちから手探りでつくった岩は、セットに並べた3個以外に6個(全部で9個!)作成。送り火の点火とともに浮かべた灯籠は、リハーサル当日まで明るさに大苦戦…などなど。作業ごとの苦労は語りつくせませんが、なんとか無事に完成。モニターに映ったセットを見て、「すごいものがつくれた!」と大興奮してしまいました。

 

枯山水に敷き詰める石に色を付けていく
出演者が座る縁台の足元を飾る切り絵
セットに登場した金魚の世話もメンバーたちが
製作中もNHKスタッフとの打ち合わせは続く
パネルへの描画も
灯籠の張り紙はこの後やり直すことになる
出来上がった灯籠がこちら(撮影:吉見崚)
素晴らしいセットが完成!(撮影:吉見崚)

 

― 「やった!」という達成感を味わった瞬間は?

不思議なことに、メンバーそれぞれに違うんですよね。ディレクターの「放送終了です!」の声でハッとした子もいれば、本番が終わって空っぽになった楽心荘を片付けながら、しみじみ「終わったんやなぁ」と感じた子も。でも、本番中の張りつめた雰囲気のなか、自分たちの手でつくりあげたセットごしに送り火を見た瞬間は、それぞれの心に深く刻みこまれたはずです。
「保存会のあの人たちが、いま、あそこでがんばっているんや」。そう思うと、なんともいえない熱い気持ちがこみ上げてきて。セットのそでに待機する仲間たちの晴れやかな表情を見ながら、「やってよかった」「関われてよかった」と心から実感しました。

 

舞台となるはずだった屋上のテラス。NHK制作の方とも確認をした
放送の数日前から豪雨に
リハーサルのため雨の中、小道具を運ぶ
室内スタジオにセットを組み立てていく
灯籠に仕込む電球をそっと渡す
セット裏の金魚たち
リハーサルのセット手直し
放送本番。製作に携わった土岐さん、岩本さんが出演
セットごしに送り火が灯った!(撮影:吉見崚)

 

―では最後に、おひとりずつご感想を!

(古林さん)番組の方が制作に熱い想いを注ぐ姿が、保存会の方々と重なって、「強い想いで何かをつくり、届ける」って、かっこいい!と。私もこんな風に、誇りを持って人々に何かを伝えたい、とあらためて思いました。

(岩本さん)3年生から美術志望になったので、技術的にはまだまだ。それでもこの製作を通して、知らない子とも親しくなり、強い意志を持って物事に挑む大切さを教わりました。来年は、ぜひ完全な送り火を見たいです。

(元山さん)テレビには、舞台のようにお客さまの姿も拍手もありません。けれど放送後にいろんな知人から連絡をもらって、その影響力を実感しました。大学最後の夏、こんなに濃い体験ができたことに感謝しています。

 

出演者のみなさんと集合写真(撮影:吉見崚)

 

「なんにも知らない私たちが…」と最初は戸惑っていたメンバーたち。けれど、専門家と呼ばれる大人たちを含め、一体どれだけの人が、本当に「伝統」を「わかっている」といえるのでしょう。人々の願いがつまった護摩木のように、担うものの重みや深さは、当事者にしかわからない。メンバー自身が感じたように、簡単に共感できるものではありません。ただ、その熱い心にふれることで、思わず自分も身体の内から熱くなる。なにかしようと思わせられる。それこそが真に、「伝統を伝える」ということなのかもしれません。
「プロジェクトをやり遂げて、というよりも、五山の送り火を知ることができてよかった」。メンバーのひとりが口にした言葉です。ご先祖さまを案内する火は、山から山へと移りゆくように、ともした先から消しはじめるのだとか。あの日、セットから見えた送り火は、灰になって燃えつきた後も “冷めない熱”をみんなに残してくれたようです。取材にご協力くださった皆さん、そして、プロジェクトに関わったすべての皆さん、ありがとうございます。おつかれさまでした。

NHK BSプレミアム『生中継!京都五山送り火』

2021年8月16日(月)午後7:30~9:00

 

【概要】(公式サイトより抜粋)
京都の夜空に炎が次々と浮かび上がる五山送り火。
番組では「伝統を次の世代に伝えたい」という送り火保存会の人々の思いを受け止めた京都芸術大学の学生たちが作るセットをキーステーションに、五山の送り火が一つ一つ点火されてゆく様を生中継でお伝えする。


【出演】本上まなみ,茂山逸平,松田法子
【アナウンサー】千野秀和
【リポーター】竜田理史,荒山沙織,大森華子

 

【参加した学生】元山七海、岩本茉子、森田千尋、古林澄花、土岐茉由佳、瀧真理菜

川端千夏、山口隼人、田中海翼、森菜海子、藪内朝輝、和田朋也、内海陽采、卯路瑛菜、高尾優羽、高橋菜々子、日南田果鈴、松岡里佳、八尾千晶、龍前七彩

 

2021年8月12日 (木)に放送された「京いちにち」での予告

https://www.nhk.or.jp/kyoto-blog/tokusyu/453079.html

 

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