INTERVIEW2022.07.22

染織教育

藍を軸に多様なメンバーが集結。― 受け継がれる技へアプローチする「藍生かし直し」プロジェクト

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  • 京都芸術大学 広報課

「藍生かし直し」プロジェクトは、藍染作家である梅崎由起子先生が、藍と西陣織の“伝統を生かし直す”プロジェクトとして立ち上げました。「伝統の生かし直し」をテーマに梅崎先生のもとに、6名の在学生や卒業生が集まりました。通学部と通信教育部の垣根を越え、2名の留学生を含む多様な顔ぶれです。メンバーは全員作り手であり藍を軸に集結。織元、研修先へのアポイントメント、デザイン、糸染め、展覧会の展示計画など学生が自ら手がけ、コロナ禍においてリモートを活用しながら話し合いを進め、作品を作り上げました。今回、梅崎先生と藍生かし直しメンバーのみなさんにお話しを伺いました。

藍生かし直しメンバー

王耀林(WANG YAOLIN) 美術工芸学科 染織テキスタイルコース 在籍
徐素平(XUSUPING ) 大学院 美術工芸領域 染織テキスタイル専攻 在籍
森國文佳 大学院 美術工芸領域 染織テキスタイル専攻 在籍
安田伸裕 通信教育部 美術科 染織コース 在籍
大西香菜子 美術工芸学科 染織テキスタイルコース(2021年3月卒業)
鈴鹿萌子 通信教育部 美術科 染織コース(2020年3月卒業)
梅崎由起子 本学専任講師・藍染作家

 

藍を軸に集まったメンバー

こんなに多様なメンバーがどのようにして集まってきたのでしょうか。そもそも梅崎先生は藍型染の伝統技法で制作された布を暮らしの中で使っていくことで、使う人に伝統の価値を再確認してもらう機会を作り続けてきました。その中で制作してきたオリジナルの型紙を基に紋織を制作し、西陣織に藍染が施された織物を作りたいと思ったことがきっかけで、このプロジェクトが始動しました。

安田さん:僕は、仕事で作製している義足にテキスタイルを生かしたデザイン性のあるものを作れないかと、普段から個人で活動をしています。プロジェクトや活動に参加すると自分が思っている以上の経験や成果が得られるので、先生からこの企画を伺った時は、すぐに参加したいと思いました。携わることで何か自分の中で違う発見や新しいことに繋がるという確信があり、通信教育部に在籍しているのはそういうことを学ぶ期間でもあるので、これはチャンスだ!と思いました。

王さん:前期で梅崎先生の授業に出会って、藍や型染めに対して強い興味を抱きました。授業では技法を中心に一つの課題を提出したり発表して評価されますが、知識として知ったことを体験をとおしてじっくりと身に付けたい。留学生として日本にやって来たので、この時期を貴重な機会と捉え、作家さんの工房やアトリエなど大学以外のフィールドでも学びたい気持ちが強くありました。
 

夏の終わりからオンラインで打合せを開始。10月からは具体的に構想が練り始められ、メンバーは、それぞれ専門とする染織技法で作り上げた生地からディテールや形を抽出して、デザインに取り込み再構成しました。6人が制作したテキスタイルを元に、ひとつの織物のデザインを作り出したのです。

 

メンバーの6人とデザインの元となったモチーフ
王さん:型染(写真上左)、徐さん:型染(写真上中)、森國さん:あばり編み(写真上右)、
安田さん:絞染(写真下左)、大西さん:板締め絞り(写真下中)、鈴鹿さん:絣・組織織り(写真下右)

 

藍甕(あいがめ)で育った「藍の華」

藍がテーマのこのプロジェクト。今回は糸を染めるための藍を建てる(藍の染料を染められる状態にする)ことも体験しました。梅崎先生の工房・藍ohakoにメンバーが集まり、藍甕(あいがめ)に藍の葉を原料とした染料である蒅(すくも)を入れるところから始めました。20kg以上もある蒅を入れるのはかなりの力仕事。灰汁(あく)やふすまなど次々と材料を入れ、約10~14日間発酵させます。染め頃になると、藍液の表面にプクプクと泡が浮かびあがってきました。これが「藍の華」。泡の表面はシャボン液のようにギラギラと輝き、さまざまな色に。多様な表情を見せる生き生きとした藍は、各々得意とする技法が異なるメンバーたちの個性と重なります。みんなで作り上げた作品『藍咲く時」のデザインは、この「藍の華」をテーマに作られました。

 

それぞれの作品を一つのデザインにすることに、とても頭を悩ませるメンバーたち
デザイン案

 

西陣織の枠組みを大きく越えた特別な織物

このプロジェクトでは「生かし直す」ということなので、織物や藍染とはそもそも何なんだということを知る必要がありました。そこで、梅崎先生のアトリエはもちろん、みんなで川島織物へ研修に行き、与謝野町にある織物のアトリエにも伺いました。

 

西陣織の織元を訪ねる朝

鈴鹿さん:与謝野町で街歩きをしていると織機の音が聞こえてきました。現地でお話を聞くと、「こんなに大きい産地として残っているところは、もう少ないよ」と伺い「京都で織(おり)を学んだけれと、今どういうことになっているのか全然知らなかったな。知ってるつもりになって言葉だけは知っていたけど通り過ぎていた部分があったな」と感じました。『生かし直し』という言葉にあてはまりますが、あらためてその通り過ぎていた部分を少し覗けた気がして良い体験になりました。卒業してからは学ぶことから離れていたので、こういう機会をいただけて嬉しかったです。

現在、織の作家として活躍している鈴鹿さんは、工場見学によって今の仕事を見つめなおすことができたんだとか。

大西さん:色々と学べたこともありますが、織っているところを見させていただく機会があり、自分がデザインしたものが目の前で織られているという光景に感動しました。今までは自分一人で作品を作って完成していましたが、このプロジェクトでは糸染め、デザインの編集、織りと、それぞれの職人さんに関わっていく過程が新鮮でした。

西陣織では通常、絹や金銀糸をメインで使用しますが、藍が主体のプロジェクトということで、藍と相性が良い麻糸も使用して作品を織ってもらいました。しかし、この藍で染めた糸は滑りが悪く、職人さんたちは悪戦苦闘することに。それでも、プロフェッショナルな方たちがそれぞれの技法を駆使して、メンバーの作品『藍咲く時』は生まれてきました。ひとつの作品に多種多様な表情が織り込まれた奥深い作品ができたのも、西陣織の工房を営まれている職人さんのおかげ、とみなさん口を揃えて感謝しきりでした。

 

ベテラン職人・水戸ご夫妻による試織
色々な方に見守られながら、素直で綺麗な布に仕上がりました(試織)

 

和工房名月さん・松島織物さん

その無理難題に応えた和工房名月さんからは、次のメッセージをいただいています。「みなさんの意匠に、さまざまな織工夫を凝らしました。それぞれの布地には斬新なアイデアとチャレンジ精神とが盛り込まれ、西陣織の枠組みを大きく越境した特別な織物へと昇華されたのです。西陣織に吹き込んだ藍色の風が、新しい可能性の扉をひらくものだという確信を持つほどに素敵な布地が出来上がりました」。

 

完成した学生6人の作品『藍咲く時』

 

大学の授業だけでは学べない気づき

今回の「藍生かし直し」は、プロジェクト活動の多い本学でも、そのメンバーの多様さが特徴的なものでした。その活動を現在、通学部の大学院で学ぶ森國さんは、以下のように振り返ります。

森國さん:これだけ色んなところから来てるメンバーが集まったプロジェクトというのは聞いたことがなかったし、私自身も初めての体験でした。社会人の方とご一緒して「すごいな」って思ったのは、工場見学のアポイントメントをさらっとこなされて段取りが良かったり、パンフレットの文章作成が早かったところです。プロジェクトに参加したとしても、こうちょっと尻込みするというか、連絡するまでに時間がかかったりするようなことを、躊躇なく進めておられるところが、すごいと感じるところであり、ありがたかったところです。

いつもハードルが高いなと思っていたところを、社会人経験のある通信の方々の後姿を見て学んだ森國さん。一方、通信教育部を卒業した鈴鹿さんからは、「染めや織りに関する知識が足りなかったな」と思う場面も。その時に色々と教えてくれる通学部の学生や卒業生の言葉が頼もしかったよう。デザインに関しても最初は気後れするような気持ちがありましたが、みなさんと一緒に話をすすめるうちに、そんな思いも解消していったそうです。

 

 

通信教育部在籍中の安田さんも、通信教育部と通学部の学生の接点がないのを不思議に感じていたんだとか。今回こういう企画に参加できて嬉しいと語る安田さんは、最初は年齢も随分はなれた通学のみなさんの中に入っていけるのかと怖さも感じたと話します。でも、社会人だからこそできることでプロジェクトの役に立ちたい、みなさんの苦手なことは自分がやったら上手くいくと思って自分のできることを探していました。

中国でプロダクトデザインを専門に勉強していた徐さんは、「藍生かし直し」プロジェクト体験を、今後の展望に生かします。

徐さん:日本に来て伝統的な染織テキスタイルがたくさんあることを知って、とても魅力を感じました。このプロジェクトに参加して、藍に関する知識や伝統的な技術をより深く知ることができ、また、みなさんのいいところを学んだり交流することができて、とても得ることが多かったです。中国の卒業制作では鞄のデザインをしたのですが、中国で布に関するリサーチしたところ、あまり伝統技術を継承しているようではなかったので、日本では伝統技術を大事にしていることに驚きました。この日本の伝統技術と中国の良いところを融合させて、プロダクトに取り入れていきたいと思っています。

 

プロジェクトが始動してからの半年を駆け抜けたメンバーたちは、産地や藍、西陣織の研修を通してそれぞれがアプローチすべき点を感じ取り、『頭で考える』のではなく作り手として『指先で考える』布作りを心がけました。そして、このプロジェクトの区切りとして2022年3月に「藍生かし直し展」を開催しました。会場には、学生選抜チームと梅崎先生が手掛けたそれぞれの西陣織の布や、その制作の舞台裏(材料や道具、デザインピースなど)とのインスタレーション、生地を生かしたプロダクトの展示をしました。

 

「藍生かし直し」展覧会


みなさんに寄り添い指導をしてきた梅崎先生からは、「沢山の期待をしてプロジェクトに参加をしてくれた学生達に感謝をすると共に、京都の伝統工芸である「西陣織」と世界を駆け巡る「藍染」について、研修や制作を通して将来を担う若者達に経験と学習を積ませることができると吉川左紀子学長より展覧会の開催に支援を頂けたことに感謝いたします。個人の企画ではありましたが、大学と連携して進めていくことが出来たのを光栄に思っております。」とメッセージが寄せられました。

と同時に、織りあがった西陣織を今後どのように生かすのか、プロジェクトをとおして出てきた宿題をどう解決するのかと、これからの課題も出てきましたと梅崎先生は語ります。

一旦、今回のプロジェクトは区切りを迎えましたが、今後2期生を編成して次回の「藍生かし直し」が展開していくことを期待しています。

 

(撮影協力:中尾あづさ)

 

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