REPORT2022.05.06

アート

ふわっとした期待や不安。新生活を始める方々に寄り添う作品を。― 洛北阪急スクエア “ねぶた” 空間演出プロジェクト

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  • 京都芸術大学 広報課

瓜生山キャンパスからもほど近い商業施設「洛北阪急スクエア」にて、学生たちによる “ねぶた” の空間演出が始まりました。「新生活」というテーマのもと、「風、薫る。」と題し、高さ10メートルもの巨大な空間に、たんぽぽの綿毛が新しい場所へと飛んでいく様子を表現。新生活への期待や不安が入り交じる気持ちに寄り添うような作品を完成させました。展示期間は、2022年4月25日から6月末頃までを予定しています。

「風、薫る。」

私たちが新たな環境の中で送る新生活は慣れないものですが、いつしか定着して日常となっていきます。

たんぽぽも私たちと同じように、綿毛になって飛び立った先の新しい土地で、強く根を張り花を咲かせます。

そのように、私たちと同じようなサイクルを持つたんぽぽをモチーフとし、新しい場所へふわふわと飛んでいく綿毛の様子を作品として表現しました。多くの人が新生活を始めるこの季節、自分自身と綿毛が重なって見える人もいるのではないでしょうか。

この作品「風、薫る。」には、期待や不安が入り混じる気持ちを抱えて新生活を過ごす人に寄り添いたい、という想いを込めました。
様々な想いを抱えながらも前へ進んでいく皆様に寄り添い、一緒に進んでいってくれるような作品になることを願っています。

 

制作
工藤瑠乃、土倉知沙、広瀬彩美結

制作
中野花鈴、河村和奏、佐藤亮雅、志方克成、塚本安紀、中西広人、森桃華、飯室幸世、坂巻雪乃、髙井こなつ、高須理子、堤悠、西村幸奈、菱田晴香、福嶋彩加、堀江亜美佳、松岡鈴、由肥千佳、劉桜、和田舞花

担当教員
森岡厚次(芸術教養センター 准教授)
原田悠輔(芸術教養センター 非常勤講師)

 

学生たちを代表して、学生を補佐するLA(ラーニング・アシスタント)※の工藤瑠乃さん、土倉知沙さんのほか、全体を統括した中野花鈴さん、制作リーダーの中西広人さん、デザイン案を企画した班のリーダー堤悠さん、そしてプロジェクトを指導する森岡厚次先生からお話を伺いました。本文では、皆さんからのコメントをあわせて編集しています。
※LA(ラーニング・アシスタント):メンバーをサポートする学生。リアルワーク・プロジェクトの場合、過去にプロジェクトに参加したことのある学生がLAになり、参加した経験を生かしてプロジェクトを支える。

 

 

暮らしに寄り添い、より愛される商業施設を

洛北阪急スクエアの「自社の商業施設としての魅力だけでなく、様々な垣根を超えて周辺の地元に愛される店舗にもスポットを当てて、暮らしに寄り添い、より愛される商業施設を」とのコンセプトから、「地域と学生をつなぐ産学連携プロジェクト」が企画され、本学の学生たちが空間演出を手掛けることになりました。そして、本学の特色のひとつである “ねぶた” を活用したものをという希望があったことから、プロジェクト指導教員の森岡先生によれば「ねぶたの精鋭部隊を組まねば」と思ったと言います。

「ねぶたの制作経験がなければ難しいなと。精鋭部隊を組まないとクオリティの担保ができないと思いました。そこで、まずはこれまでねぶた関係のプロジェクトを経験してきた3名にLAとして呼びかけ、メンバーを集めることにしました。彼女たちがこれまでのプロジェクトを通して『この子なら信頼できる』と感じた学生たちを推薦してもらう形で集めたんです」。

 

考慮しなければならないのは、やはりコロナ禍という社会状況。感染が拡大し、学生たちが大学に集まることができなくなれば制作が止まってしまいます。そこで、プロジェクト当初のミーティングはできる限り遠隔で進めることにし、さらに制作するねぶたについても、毎日大学で集まらなくても制作が進められるようにしたのだと言います。

「巨大な塊の作品を作るのではなく、学生たちが家に持ち帰ってでも作れるようなアイデアにし、インスタレーションとして空間を使おうと考えました。ただ、あまりにも空間が大きすぎるので、あの空間をどう演出しようかと悩みました。数で攻めるのか、どうすべきか。LAたちとはモチーフを配した余白の空間もうまく使いながら空気感を出していくのが良いかもしれないという話をしていましたね」。

 

 

新生活を始める方々に「寄り添う」作品を

学生たちは4班に分かれてそれぞれの企画を考えることに。各班が企画したのは、ブルーベリー、鳥、蝶々、そしてたんぽぽの4つの案。「自宅に持ち帰って制作が進められるもの」というアイデアにしたことから、いずれの班ともに、各自でモチーフを作り、それを持ち寄ってひとつにまとめ上げるようなイメージでした。
そして洛北阪急スクエアの担当者などにプレゼンテーションを行い、それぞれの企画の実現可能性などを考慮した結果、「たんぽぽ」をモチーフにした案に決まりました。

「コンセプトは『寄り添う』です。テーマとして指定された『新生活』には、期待や不安などの色々な感情があって『新生活って何かちょっとふわっとしてるよね』っていう感覚があったんです。これからどうしたらいいんだろうというフワフワとした感情を抱く人々と同じ目線に立って、寄り添えるような空間演出を企画しました」。

 

「新生活が始まって徐々に生活に慣れていって、また新しい新生活が始まるという『サイクル』。それがたんぽぽの綿毛のように、新しい環境へ飛んでいって新生活を始めて、いろんな刺激を受けて、日常生活として成り立っていくという『新生活』のサイクルと重なるイメージです」。

 

「綿毛が舞う様子のほか、壁に付いている『たんぽぽの本体』にも注目してほしいです。風に当たって綿毛が飛んでいって、抜けた部分が無くなっています。綿毛自身もちょっと透け感を出していて、じっくり見ていただくと中に綿毛が詰まっていて、がくや茎が中心部分に付いていたりとか。そういう部分もじっくり見るとわかるかと思います」。

 

 

あえて “わかりづらい” 白いねぶたの作品

今回のねぶた作品には、1,2年次の授業で制作する「瓜生山ねぶた」同様、あえて「色」がついていません。すると周りの環境に綿毛が溶け込んでしまい、視覚的にわかりづらいのでは?という意見もあったのだそう。たんぽぽなのだから、黄色や緑色などさまざまな色を塗るという選択肢もあったかもしれません。ただ、「あえてわかりづらい」作品にしたことにも意味があるのだと言います。

「説明的な感じではなく、一見ちょっと何が浮いているのかわからないことで、鑑賞者がその作品の中に入っていく要素が出てくると考えました。作品をじっくり見てもらって『あ、たんぽぽだ」と気づいた瞬間、恐らくその作品が鑑賞者自身の作品になるのではないかと。気持ちの中に入るので。そういうきっかけを作るうえで、あえて着色されていない真っ白なたんぽぽという表現にしました」。

 

自然物を作る難しさ

学生たちに難しかった点を伺うと、たんぽぽの爽やかさや飛んでいる感じをどのように表現するか、苦心したと言います。針金で綿毛の一本一本を細かく調整して動きを出したり、和紙のちぎり方や貼り方についても実験を重ねて、自然に見える表現を模索しました。

「みんなで実験して作ったものを実際に(たんぽぽの)球体の部分に取り付けてみるとバドミントンの羽根のような、槍のような硬いイメージのものになってしまって。これはまずいぞとなって、みんなでどういう風にしたら綿毛のフワフワ感とかが出るのか見直しました。
ねぶたの素材となる針金は元々硬いものですし、和紙もペタッとしているものなので、それをフワフワとした柔らかい表現にすることに苦労しましたね」。

森岡先生は「自然物を作る難しさ」について、こう話します。
「やっぱり『概念的にこうだろう』ということで作ってしまいがちなんですね。自然物こそ本当に観察が大切で、徹底的に観察して、その上での描写力。きちっと針金でなぞってやらないと綿毛にならないんです。『ちょっと似ているけど、これ何なの?』ということになってしまいます。
また、細部へのこだわり。実際のサイズ感では『ゼロコンマ何ミリ』の違いでも、それが10倍とか100倍とかになった時にすごく誤差が出るんですね。だから小さな自然物を大きくする難しさを学生たちは感じたと思いますし、何度もやり直しをしてもらいました」。

今回展示されたのは高さ10メートルもの巨大な空間。作品は360度、さまざまな角度から見られるものです。それゆえの難しさもあったのだそう。

「模型を作りながら、右から見てどうだろう、左から見てどうだろう、エレベーター側から見て、エスカレーター側から見て、下から見て、上から見てというような、全部の方向から見て、たんぽぽの綿毛が自然と流れて飛んでいるように見えるかどうか、自分たちが表現したい流れになっているか、そのあたりは思考錯誤を重ねました。綿毛の一本一本の傾きも微妙に調整しているほどです。特に重さなど安全上、綿毛を一本ずつワイヤーで吊り下げることができなかったので、いくつかの綿毛を組み合わせた『ブロック』にすることになったのですが、ボチャッとしないような組み合わせ方とか、ふわっと本当に綿毛が飛んでるかのように重なっている様子とか、難しかったですね」。

綿毛を複数個まとめたブロックにして、ワイヤーで吊るしています。
大学で行われた設置シミュレーションの様子。
綿密に計算された設置図面。
CG合成による設置想像図。

 

「どこから見ても楽しめる作品だなって思います。ねぶたを見ていただいた方から、どこから見るのが一番ベストかわからないから、ベストアングルを探したよって言ってくださる方が多くて。だから、見るときにどこから見ても楽しめるので、いろんなところから回ってみていただきたいなって思います」。

 

 

互いを認め合い、協働する学生たち

森岡先生がまっさきに上げたのは「チームワークの良さ」。それは3名のLAが作り出す「空気感」によるものだったと話します。

「おそらくLA3人の作り出す空気感や、リーダーがどしっと構えて全体を見渡してくれていて『ここはどうなってるの?』と絶えずみんなに問いかけてくれるから、皆がそれに応えて前に進んでいくことができたのではないかと。本当にチームワークがよかったですね」。

LAの土倉さんはプロジェクトを振り返り、こう話します。
「今回はモノを作って終わりじゃなくて空間の演出。この洛北阪急スクエアの大きな空間、どんと抜けた空間を演出するというのが目的だったので、そこがやっぱり実際に搬入してみないとわからない部分もあって、最後まですごく不安でした。学校にいる間も『この作品を設置したらどうなるんだろう』と。
結果、素晴らしいものができましたし、みんながこだわり抜いてくれたことが、LAの私としてはうれしいです。様々なプロジェクトを経験してる学生たちが集まったこともあって『ここをこうしたい』『こうしたらいいんじゃないかな』とか、自分の得意不得意をいろいろと活かしながらやってくれていたことがとても良かったなと思います」。

制作リーダーの中西広人さんは、プロジェクト参加者や設置業者との協働の難しさを挙げます。
「色んな人が訪れる洛北阪急スクエアに展示にするということや、空間のインスタレーション自体が初めてだったので、そういう経験ができたことはものすごい良かったなって思います。
また、業者さんとともに設置するのも初めてで、ワイヤーを用いた吊り下げ方とか、自分たちが思っている表現の形を他の人にどうやって伝えて、設置してもらうかなど、やっぱり自分たちで今まで全部完結していた部分を他の人に任せるときに、どれだけの情報を分かりやすくしなければいけないのかとか、そのあたりがとても難しかったです」。

 

森岡先生は「感動した」と語るほど、最後のブラッシュアップや仕上げについて高く評価できると語ります。

「私が感動したのは、最後のブラッシュアップ。種のちょっとしたカーブをみんなで少しずつ調整しながら、こだわりにこだわり抜いてたんですね。今まで他のプロジェクトでも、最後のブラッシュアップの大切さをけっこう懇々と言ってきたのを、今回は一切なにも言わなくても自分たちでそれを実現していたので、すごいなと。仕上がりをみて感動しました。かっこいいなと。細部へのこだわりをすごく感じました。
お互いに活動している仲間を認めあっている学生たちの集団でしたね。プロジェクトへの個々の関わり方に対して、ある程度みんな理解を示していて、お互いを尊重しながら、自分の時間でできることをみんなきちっとやっていたと思います」。


洛北阪急スクエアの “ねぶた” の空間演出「風、薫る。」高さ10メートルもの巨大な空間に、たんぽぽの綿毛が新しい場所へと飛んでいく様子を表現し、新生活への期待や不安が入り交じる気持ちに寄り添うような作品になっています。展示期間は、2022年6月末頃まで。ぜひご覧ください。

 

「風、薫る。」洛北阪急スクエア “ねぶた” 空間演出プロジェクト

期間 2022年4月25日から6月末頃(予定)
場所 洛北阪急スクエア

https://hankyu-square.jp/

 

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