烏丸御池駅から徒歩数分、町家を改装した GALLERY35(ギャラリー・みーこ)にて、プロダクトデザイン学科の学生によるグループ展「おさまるおさめる展」が始まりました。新3年生の有志6名により昨年9月に発足した研究会による、約半年間かけて研究をしてきた成果展です。
展覧会名にあるとおり、今回の研究テーマは「おさまり」。研究会の代表者、宇野淑乃さんによれば「“コロナがおさまれば” など “おさまる” という言葉が日常に溢れているけれど、何かがひっかかる」と感じたことがきっかけだったと言います。
「調べてみると、“おさまる” の漢字は意味の異なる “収まる” “治まる” “修まる” “納まる” と4種類あるけれど、使い方があまり分けられておらず、何となくの感覚で平仮名表記の “おさまる” を使っている機会が多いのではないかなと。また、それぞれが抱く “おさまり” の基準が “何となくの感覚” で共有しづらいものだと感じたことをきっかけにして研究を始め、その成果をプロダクトに起こしてみることになりました」。
各自4つの漢字の中から2文字を選び、それぞれ 「○○がおさまる」や「○○におさめる」などのテーマを掲げ、個々で研究を深めつつ、グループでディスカッションを重ね、作品を仕上げていきました。会場には「おさまりが良い」プロダクトをただ展示するのではなく、その感覚が私たちの生活にどのように影響を与えるのかを探ったプロセスも展示されています。
では、出展者6名による全12作品を紹介いたします。
匂いを治める / フレグランス「nioi」
人が「匂いに治められる」のではなく、人が「匂いを治める」にはどのような方法があるのかを模索した作品。「けずる・こする・とかす」という3種類の使い分けができることで、匂いの範囲をコントロールすることができるというもの。例えば削って粉にして持ち歩いたり、手首などにこすったり、大きな空間では溶かして使うことで、匂いの範囲を自分でコントロールし「匂いとの付き合い方」を考えるきっかけに。
心を治める / 加湿器「雨の日」
心安らぐ意味での「治める」。雨の日、部屋の電気を消し、薄暗く少し冷たい空気の中、雨音を聞くと心が安らいだ経験を元に制作した作品。色や形、音などの過度な情報をシャットアウトし、とてもミニマルで静謐な印象を与えるプロダクトです。
学習を修める / 下敷き「援の下」
日々の学習を「修める」ことで、勉強に身が入るようになるプロダクト。文房具の中でも特に下敷きが「縁の下」の力持ちのような存在だと感じたそう。そこで、使用することで筆跡によって徐々に学習への努力を称える「賞状」が浮かび上がってくるというもの。学習の筆跡ログが賞状となって現れる、自分だけの「学修」の成果。描画部分を塗りつぶすパターンと、反転したパターンとの2種類を考案しています。自身を “応援” する意味も込めて「援の下」というネーミングに。
場が治まる / カード「快議カード」
皆が対等に自分の言いたいことを主張でき、会議が円滑に進むよう考案された「話し合いの雰囲気」を生み出すためのカード。一人5枚ずつカードを配り、話すときに手持ちのカードを一枚出し、カードに書かれた言葉から話し始めるというルール。他者の意見の否定から入らず、瞬時の感情的な発言を防ぐことで、快適な会議の場を生み出すというアイデア。
遺骨を納める / 散骨「樹(jyu)」
納骨の「納」という漢字の意味は「あるべき所へ落ち着く」とあり、遺骨が納まるべき場所は墓石の中だけなのだろうか?と疑問を抱き、新たな納骨方法を考案。日本の伝統的な灯籠流しを参考に、灯籠に遺骨を納め、海や川へと流すことで故人の魂を弔うというもの。
お金を納める / アプリ「ありがとう納税」
税金を納める、月謝を納めるなど、「納める」という言葉には相手への「感謝の気持ち」があるのではないかと考え、税金を納めることへの義務感や負担感を減らし、感謝の気持ちが芽生えるよう考案したアプリ。平穏な暮らしを送ることができていることに日々感謝しながらアプリに架空のお金を納めるというもの。
靴を収める / 玄関「parking」
人の行動をルールの中に収める「白線」の特徴を生かし、靴を脱いで揃える癖をつけるためのプロダクトです。車線や駐車場などを参考に、玄関のタイルを「白線」で区画。車止めのような段差を設けることで自然と後ろ向きに靴を脱ぐことが促されます。
時間を収める / 時計「時間時計」
「時間を収める」とは、時間を片付けて消していくことと捉えた時計の作品。さながら崩れていく橋の上を走っているように「今」は過ぎ去っていく。自身に与えられた橋が崩れる焦りや虚無感を表現することで、時間の大切さを感じてもらうためのもの。
身の回りのモノを収める / 配線コード「Enclose line」
その長さゆえ、絡まりがちな配線コード。まとめて箱の中に隠したり、コードにかぶせることで目立たなくする商品などもあるが、コードが「収まる」のではなく「収める」側へと発想の転換をしたプロダクト。四角形やコの字型、立体などさまざまな形に「囲う」ように変化させ、新たな空間を生み出します。何かを「収める」ことで空間にあり続けるデザインとしての新たな使い方。
身が修まる / マット「braille block mat」
リラックスする場所も、勉強する場所も、料理をする場所もまとまてしまっている一人暮らしのワンルームには、気持ちを切り替える瞬間がない。「さあ、○○しよう」とキリッと切り替える、身を修めるためのマットを考案。ゴツゴツとした突起が緊張感を与える「点字ブロック」を参考に生活空間の床に置くマットを制作。足の裏で空間や気持ちの切り替えを感じとることができれば。
胃に収める / 食器「特別なお皿」
収納などの「収める」は、その様子を見て「収まっている」と感じるもの。ところが食事の場合、目に見えるのは食べ物が減っていく様。そこで、感覚的な満腹感のほかに、視覚的に「胃に収まった感」を感じることができないかを研究し、制作したプロダクト。食事を終えたあとの食器ではなく、食べ終わる瞬間でその役目を果たす「パッケージのゴミ」の姿によって、特別感や満足感を表現した作品。
重さを収める / 棚「布の棚」
間隔などの空間的条件、価値や大きななどのモノの条件、かっこいいやすっきりなどの感覚的な条件など、「ある条件」に則り整えることで「収まる」のでは?と考え、「重さ」に着目したプロダクト。日常生活の中で「思ったより軽い(あるいは重い)」と感じたことがあるはず。棚を布にすることで置いたモノが沈み込み、数字ではなく感覚的に重さを感じ取ることができるという作品。
DMは漢字4種類のバージョンがあり、その漢字に合った「おさまっているモノ・コト」を枠の中におさめて情景を切り取ることができる工夫がされています。DMも一つのプロダクトと捉え、制作したのだそう。
会場に持参すると「おさまるおさめるロゴ」を押印していただけますので、展覧会にお越しの際は、ぜひご持参ください。
おさまるおさめる展
京都芸術大学プロダクトデザイン学科10期生グループ展
会期 | 2022年4月1日(金)、2日(土)、3日(日) |
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時間 | 12:00〜19:00(最終日 〜17:00) |
出展者 | 宇野淑乃・梶原みゆ・福田諒・都路裕亮・濱口夏実・柴田雄大 |
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