INTERVIEW2022.03.31

マンガ・アニメ

地域の想いをマンガで伝える。- 琉球泡盛海外輸出プロジェクト

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  • 京都芸術大学 広報課

内閣府総合事務局と沖縄の地域商社・株式会社萌す(きざす)、そして米島酒造が連携する輸出プロモーションに参加した、マンガ学科3年生の石塚千夏さん。シンガポールやベトナム、台湾、タイなど海外消費者向けに、泡盛の製造方法や地域の想いを紹介するストーリーマンガとボトルのラベルを共同制作しました。泡盛の輸出と一緒に多言語化されたマンガ冊子が海外で配られています。

琉球泡盛の海外展開を促進する事業において、生産者の想いや泡盛の文化をいかにして消費者に伝えるか。この課題を解消するために、マンガ学科にコラボマンガ制作の依頼が舞い込みました。まずは、マンガ学科から複数名学生が候補が挙げられ、株式会社萌す、米島酒造により、数あるポートフォリオの中から石塚さんが選ばれました。今回、輸出プロジェクトに参加された石塚さんに、マンガに込めた想いなどをインタビューしました。
 

琉球泡盛海外輸出プロジェクト


内閣府総合事務局・沖縄の地域商社である株式会社萌す(きざす)・米島酒造と連携し、本学マンガ学科が輸出プロモーションに参画。海外消費者向けに泡盛を紹介するストーリーマンガと泡盛ボトルのラベルを共同制作した。

 

現在、泡盛の輸出と一緒に多言語化されたマンガ冊子が海外で配られている。

 

人の想いをマンガとして表現する、この初めての取り組みはとても勉強になりました。


― 今回のプロジェクトに参加することになった経緯を教えてください。

今までは自分一人の世界でマンガやイラストを描いていましたが、今回は地域で多くの人と関わって作品制作に挑戦できることが嬉しくて参加を決めました。正直なところ、不安な気持ちもありました。というのは、選ばれた後に、複数人のグループワークではなく、マンガ制作としては自分一人で参加することを知り、「責任重大だな…」と。期待された効果がなかったらどうしよう、売り上げに貢献できなかったら、といろいろ心配でしたが、「やってみたいな!」と思う気持ちが勝ちました。

 

― 米山酒造さんへのヒアリングや事前調査はどのように行いましたか?

最初はコロナの影響で現地に行けなかったので、まずは、先行して調査に行ってくださった先生の映像や写真を確認するところから始まりました。実際に行かないと手に入らないパンフレットや資料も先生からいただき、地域の風景や物産などを確認したり、お酒造りの工程をインターネットで調べました。また、酒造所で実際にお酒を造られている動画や米山酒造さんのインタビューをみて理解が難しかったところは、オンラインミーティングで補いました。相手の伝えたいことをしっかり組み取ることは本当に難しかったのですが、他の人の想いをマンガとして表現することが初めてだったので、とても勉強になりました。

ついに久米島に調査に訪れた時は、京都と全く違う自然豊かな雰囲気に圧倒されました。民家にバナナやパパイヤが自生しているんですよ!この空気感を、ぜひ自分のマンガに生かしたいと思いました。泡盛の作り手の想いや人々の温かさ、また、現場での体験をもとに、臨場感のある作画に努めました。

 

マンガの舞台となった久米島の風景
京都と違う自然豊かな雰囲気


 

― マンガの制作(ボトルラベルの制作)ではどのようなことを意識して制作しましたか?

絵柄的なことで言うと、幅広い年齢の方々に親しみやすくて性別を選ばないテイストにしました。目が大きな少女漫画風なイラストは女の人が好む傾向にあるのですが、そうではなく、色んな年代や性別の人に手に取ってもらいたいな、と思ったので、そこを意識しました。

難しかったことは、日本語のマンガでは文字が縦書きなので右開き なのですが、英語を想定したマンガだったので、セリフの吹き出しが横長だったり、左開きで描かなければならなかったことですね。今までのコマ割りでは、逆Z型で進むので左下に引きになるものを入れることがセオリーだったりするんですけど、英語版ではセリフの吹き出しが横長の形だったり、話が日本語とは反対のZ型で進むので、感覚的なところを掴むのが難しかったです。

 

横長の吹き出し
左開きのマンガのためZ型に展開される


 

泡盛の良さを伝えつつマンガとしても楽しめる物語の構成やネームのチェックは、学科のマンガ家の先生に相談しながら進めました。今回は自分が体験したことをマンガにすることで、感情を乗せるようにしました。ネーム※ を作ってから現地調査に入ったので、登場人物がここを歩いていそうだな、と思ったら撮影しておいて、作品に生かすことができました。

ネームとは、漫画を描く際のコマ割り、コマごとの構図、セリフ、キャラクターの配置などを大まかに表したもの。


現地調査前に作成したネーム
現地で撮影した写真
ネームに沿って撮影した写真を作品に生かした

 

沖縄の昔ながらのお家って、入り口に広い庭があって縁側から声をかけて訪ねたりするんですけど、ネームの段階では普通に玄関でインターホンを押したりする絵を描いていました(笑)。それも現地に行って、ようやくわかったことでしたね。

 

 

マンガで賞を取るだけが目標ではなく、培ったスキルを活かしていきたい気持ちが強くなりました。


― 米島酒造さんや萌すさんからの要望に対し、工夫したところは?

今回のストーリーマンガの制作については、学生が体験したことを、そのままの目線や感覚でマンガとして伝えて欲しい、という要望があったので、ストーリー自体について要望はありませんでした。細かいところでは、泡盛のお酒だけでなく島の食材とのペアリング、例えばこのお酒はこのお魚と合う、といったところについても、もっと詳しく描いてほしいといった依頼はありました。

一般的にマンガ制作の依頼があると、1コマや4コマのマンガで、簡単に商品紹介をするということが多いそうなのですが、私たちも先方さんも、しっかりとしたストーリーマンガにすることによって、読み手が主人公へ没入してもらうよう期待しました。28ページあるんですよ。

作中では蛍が舞っているイラストがあるんですが、蛍のいるきれいな川の水を使ってお酒を造られていると聞いて、蛍を見せるだけで水がいかにきれいであるかを伝えようと思って、そのシーンを描きました。言葉で伝えると押しつけがましいので、事実をマンガで見える形にしました。

 

蛍が舞うシーンで水のきれいさを表現

 

― 米島酒造さんや萌すさん、マンガが届いた現地からは、作品に対してどのような評価でしたか?

ラベルのイラストができた時の米山酒造さんや島の方の反応から、喜んでもらっている様子がわかって嬉しかったです。実際、マンガから興味をもってお酒を買って下さる方も多かったと聞いています。ミシュランの星を獲得しているレストランでも売られているんですよ。お酒のラベルはカッコイイものが多いのですが、バーに並んでいることを前提にした時に手に取ってもらえるようなイラストを目指していました。

この泡盛はとても飲みやすいお酒になっているのですが、、お酒を嗜む方たちに伺うと、泡盛はクセがあるといったイメージがあるようなんです。そこで、すっきりとさわやかな飲みやすいイメージを伝えることができたら、と思って制作したイラストがこれです。ビーチパーティーなどカジュアルに飲んでいただけるお酒のラベルとして完成しました。

 

石塚さんが制作したラベル

 

― 今回のプロジェクトを振り返るといかがでしたか?また後輩や同級生へメッセージがあればどうぞ

今までは賞の獲得を目指してマンガを描いていたので、賞を取れなかったら自分は何の役にも立てていないのではないか、と思っていました。賞を取れていたら家族も喜んでくれるし、やりがいも感じることができるけど、特に3年生になるくらいまで、何も成果が出てないなと感じるのが、すごくつらかったです。でも今回、学外の企業の方や島の方と関わって、喜んでもらえている姿をみたり話を聞いて、やってみて良かったという想いが込み上げてきました。今までに感じたことのないやりがいや、嬉しさを感じました。賞を取るだけが目標でなく、今まで培ったスキルを活かしていきたいという気持ちが強まりました。

琉球泡盛海外輸出プロジェクトクトに参加した石塚さん

泡盛は年数が経つと味がまろやかになるんですけど、米山酒造さんは、美味しい泡盛を造るためにと、造りたてのお酒に何年も熟成させたものを混ぜるなど、より良い味を追求されているんです。味を変えることで今までのユーザーの好みには合わなくなるかもしれないのに、失敗を恐れずに挑戦し続けている姿が印象に残っています。今の自分のスキルでは、期待に応えることができないのではないか、と不安に感じることもあります。でも、米山酒造さんの取り組みを聞いて、簡単に諦めるのではなく、ポジティブな気持ちで、少し勇気を出して、まずはやってみることが大事だと思いました。

 

マンガ制作を通して学べることがたくさんある。僕たちが本当に育てたいのは、そこなんですよね。


学科長の矢野浩二先生より

マンガ学科ではプロのマンガ家になることを目指して、学生同士が切磋琢磨している学科です。学生の努力の結果、おかげさまで在学時に商業誌デビューする学生も年々増加しています。加えて学科の目標としては、従来の商業誌向けマンガ作品制作以外の領域も拡大していきたいと考えています。

スマートフォン向けの縦読みマンガや、ネットメディア、また企業商品のPRマンガなど、マンガの表現領域は広がっています。それはマンガにはストーリーがあるからです。登場人物の気持ちや、生活の背景を細かに描写することができるのです。今回のプロジェクトにおいては、石塚さんが実際に現地に行って、感じた匂いや雰囲気、そして地域の人々の想いを汲み取って、ストーリーマンガとして表現してもらえたことに大きな意味があると思っています。

マンガを一人でつくることは大変です。だからこそ、マンガ制作を通して学べることがたくさんあるんですよね。マンガはこれを描きたいという自己表現も大事ですが、面白いかどうかを決めるのは読者です。そう言った意味では、早く仕上げて世の中に作品を出す力が求められます。マンガ制作を通して、考える力や乗り越える力を身につけることが、人生を生きる力になります。それを身につければ、様々な業界で活躍できる人財になると思っています。僕たちが本当に育てたいのは、そこなんですよね。

他の人たちとの触れ合いを通して、自分の感性がどう反応したか。それを石塚さんは素直に表現してくれました。僕は、そこがすごく嬉しかったですね。今回のプロジェクトを通して石塚さん自身の成長も感じられました。そして人々の想いを表現したいという姿勢や石塚さん自身の人柄を、地域の人たちに高く評価していただきました。

このようなプロジェクトに関わりたいと思ってマンガ学科に入ってくる学生が増える。そして、リアルな世界と触れ合いながら成長していく学生がどんどん増える。そうなるといいなあと思いますね。

 

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