INTERVIEW2022.03.01

舞台

夢を掴みとれ!『FAME Jr.』― 舞台芸術学科 初のミュージカル公演

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  • 京都芸術大学 広報課

情報解禁と同時に、学内でじわじわと話題になった舞台芸術学科の3年生によるミュージカル授業発表公演。実は今回の公演は、舞台芸術学科にとって初のミュージカルへの挑戦でした。

舞台芸術学科は2007年度に舞台芸術学科を設立して以来、 ストレートプレイ(演劇)に特化して日頃のトレーニングの成果を実際の劇場や舞台で発表公演として披露してきましたが、2019年度の入学生から新たにミュージカルをカリキュラムに導入しました。
彼らが3年生となった今、 入学時から演技に加えて取り組んできたダンスやボーカルの集大成として学科初のミュージカル公演に挑むことになりました。

FAME Jr. 2021年度 舞台芸術学科 3年生ミュージカル公演

指導:小林 香
歌唱指導:小玉洋子/梅園紗千
ダンス振付・指導:Mami/NAO

学科初のミュージカル公演の演目に選んだのは、『FAME Jr.』。『FAME Jr.』は、1980年に世界的大ヒットとなった映画『FAME』(2009年にリメイク)の舞台版です。
ニューヨークはマンハッタンのブロードウェイに実在するハイスクール・オブ・パフォーミング(舞台芸術専門高等学校)を舞台に、俳優やダンサー、ミュージシャンを夢見る高校生たちの等身大の姿を描いたミュージカルです。夢が大きいだけに悩みも大きい彼らの姿は、舞台芸術学科の学生たちそのものを映し出しているようにも捉えられます。

学内外からも注目を集めたミュージカル公演の背景に迫るべく、キャストの佐賀みことさん(カルメン役)、篭谷悠世さん(シュロモ役)、音響の東阪京さん、そして舞台監督の古林澄花さんの3年生4名に詳しくお話をお伺いしました。

短くも密度の濃かった練習期間

鑑賞されたみなさんはその完成度に驚かれた方も多かったと思いますが、実はメンバーはほぼミュージカルの未経験者でした。佐賀さん(カルメン役)は入学当初、歌唱や演劇経験もなく、ましてやミュージカルをすることになるなんて思いもしなかったと言うので驚きます。

進む道は険しいながらも、なぜミュージカルをしようと思ったか聞くと、その動機は人によってさまざま。古林さん(舞台監督)はブロードウェイミュージカルが大好きで、ミュージカルを本格的学びたいという想いから本学に入学。3年生でミュージカルの授業が開講されることを知り、迷わず選択しました。一方東阪さん(音響)は、演劇に詳しいわけではありませんでしたが、コンサートやライブが大好き。音楽が見どころのミュージカルで音響を担当してみたいという気持ちで決めたと話します。
動機こそバラバラですが、スタートラインはみんな同じ。俳優・スタッフ関係なく、メンバー全員に「努力していい舞台にしよう!」という気持ちを胸にスタートしました。

ミュージカルの授業が始まったのは2021年4月のことですが、前期には別のダンス公演も控えていたため、本腰を入れて練習が始まったのは後期になってからでした。上演演目が『FAME Jr.』だと分かったときの感想を伺うと、佐賀さん(カルメン役)は両親の影響で1980年代のカルチャーに親しみがあったので、作品を通して同じ時代を生きられることが嬉しかったと言います。「『FAME Jr.』はまさに私の大好きな1980年代の作品。衣装も音楽も舞台も憧れの80年代だから、やばい!嬉しい!という気持ちしかありませんでした」と興奮を交えながら語ります。

『FAME Jr.』を上演できることの喜びにあふれるも束の間、怒涛のように始まった練習を重ねるにつれ、全員がミュージカルの難しさを痛感することに。

ミュージカル音響の難しさ

東阪さん(音響)はミュージカルの音響をすると決めた際に、周りの先生から「ミュージカルの音響は本当に大変だよ」と聞いていたこともあり、プレッシャーも大きかったとか。実際はどうだったのか感想を尋ねると、とにかく細かな対応が必要で苦労が多かったと言います。「一番大変だったのは、16名の役者のマイクのオペレーションです。役者によって声質も音量も違うので、16名の個性を把握する必要があります。その上で、その日の役者の体調やモチベーションに合わせて調節していきます。歌って踊るので通常よりも汗をかきますし、水分がマイクに入らないように細心の注意を払いました」。

薄手の衣装でもマイクが見えないように衣装部門と連携し、マイクの付け位置にこだわりました。
楽器の生演奏も。
ライブ感溢れる裏方の様子。


なんとこの16名のマイクオペレーションは、先生から指導を受けながら東阪さん一人で行っていたとか。ミュージカルと言えば、歌とセリフが織り交ざる場面が多くありますが、それらを違和感なくつなげられるように繊細な調節も求められました。「セリフになれば音源を下げ、役者の音量を上げる。そのタイミングがずれると美しく聞こえないので、とにかく稽古場には毎日通って、役者の状況を観察しながらチューニングの練習を重ねました」。

スタッフの役職は音響のほかに、美術や小道具、照明、映像、衣裳などさまざま。俳優とスタッフとでは部門が分かれているから動きは別だと思われがちですが、実際は役者の演技や立ち回りによって調整が必要になる場面が多いため、稽古に立ち合い役者と密に連携しながら準備を進めます。

回転舞台が魅せる豊かな表情

1980年代をどのように演出するか。その力量が試されたのはやはり舞台美術でした。古林さん(舞台監督)は1980年代の時代考証を重ねた上で舞台をつくることに拘ったと話します。「お客様が舞台を見た瞬間から1980年代であることを意識してもらうためには、私たち自身がその時代を深く理解している必要がありました。ぼんやりしたイメージはありましたが、それだけでは奥行のない見せ方になってしまうので、1980年代の流行のファッションや街並み、社会状況などを調べ、得た知識をもとにセットへ具現化することを意識しました」。

1980年代を想起させる服装や髪型。

また、今回のミュージカルで大きな見せ所の一つとなったのは、回転式の三面舞台。学校のエントランスやレッスン室、郊外までさまざまな場面展開を実現しました。こうした回転舞台のことを舞台用語で「盆」と言いますが、学生が春秋座の「盆」を利用するのは実は初めてのことでした。「美術プランナーから回転案が出てきたときは少しドキッとしました。でも、場面展開が明確ながら物語の繋がりを感じることのできる可能性のあるアイデアです。やってやろう!と一念発起しました」。
三面もの舞台を準備するのはやはり大変な労力がかかりました。本番ギリギリまでの制作となり、俳優やスタッフ関係なく総動員で作り上げたとか。古林さんはそうして出来上がった舞台を「みんなの汗と涙とセンスが集結した最高のセット」と表現します。

場面によってさまざまな表情を見せます。
照明の演出でがらっと雰囲気が変わります。
階段を使った立体感のある演技。


舞台と連動した映像にも目を引かれます。実はこの映像を使った演出も舞台映像の道に進みたいと考えている学生からの提案で生まれました。メンバー全員が『FAME Jr.』を最高の舞台にするために、考えたことは必ず提案し、議論を重ねながらつくりあげました。舞台のあらゆるところに学生のアイデアが散りばめられています。

映像による登場人物紹介が分かりやすい。(撮影:広報課)

こだわりぬいた演出・演技

役者のお二人に演技の見どころを聞くと、「正直全部見どころだからなあ…」と悩みつつ教えてくれました。
佐賀さん(カルメン役)は、まずは楽曲『Hard Work』の演出を挙げます。「上演中に4度に渡って『Hard Work』の曲がかかるのですが、実は学年が上がるにつれて、だんだんと歌やダンスが揃っていくような演出になっています。1年生の時は個々人のキャラクターが目立ち、調和が取れていないのですが、4年生になると登場人物のハーモニーが生まれ、気持ちが一つになっていきます。上演時間が80分と限られている中で、登場人物それぞれのストーリーをすべて説明できないので、時間の経過と成長を表現するために取り入れた演出です」。

またクライマックスに全員で歌唱する『Bring On Tomorrow』は特にみんなの想いがこもった楽曲だと言います。ストーリー展開の中でも特に盛り上がりを見せる場面で、メンバー全員が最後の最後まで練習を続けた曲でひと際思い入れを感じるのだとか。

芝居では、カルメンが命を絶ってしまう直前のシーンに注目してほしいと話す篭谷さん(シュロモ役)。「ほかの登場人物のペアは苦悩を乗り越え、未来の希望の道をたどりますが、唯一悲しい結果になってしまうのがカルメンとシュロモのペア。役者としてはもちろん最後にカルメンが死んでしまうことは知っていますが、シュロモからするとカルメンの死はあくまで“予期しなかった”出来事。カルメンの死の前後で変容するシュロモの様子は演じるこそ難しかったですが、ぜひ見ていただきたいポイントです」。

誰かの夢になれたという実感

来場者アンケートでは予想を超える数の回答が集まったとか。佐賀さん(カルメン役)の中で特に印象に残っているアンケートは「進路選択で迷っていたけど舞台をやりたい!」という高校生からの声でした。なんとこのミュージカルを見て舞台芸術学科に入学することを決めた高校生もいたようで、“誰かの夢になれた”ことが何よりもうれしかったと話します。「エンターテイメントはお客様のためのもの。提供側の自己満足ではありません。だからこそ、いまの自分たちにしかできない舞台で、私たちのパワーやエネルギーが誰かの心に響いたことが分かって幸せでした」。

古林さん(舞台監督)は、“一生保存する!”と決めたほどのアンケートを教えてくれました。それは「ミュージカルを見たのは初めてですが、好きになるきっかけになりました。初めてみたミュージカルがこの『FAME Jr.』で良かったです」という内容。「めちゃくちゃ嬉しくて、すぐにスクリーンショットして保存しました。いただいたこの言葉は、今後の糧です」と笑顔を浮かべて話します。

大盛況のうちに幕を閉じたミュージカル公演『FAME Jr.』。今回のインタビューは、終演後しばらく経ってから行われましたが、興奮冷めやらぬ4人の姿がありました。今のすべてを出し切った抜け殻状態のみなさんに、最後にお一人ずつ感想を伺いました。

佐賀さん:このミュージカルへの参加は、私にとって人生が変わるほどの転機でした。将来役者になるつもりはなかったけど、このミュージカルに全身全霊で打ち込んだことで役者としての未来を考えるようになりました。だから、この公演の最終日が自分のスタートになりました。“誰かの夢”になれるように、この経験を胸に頑張っていきたいです。

篭谷さん:これまで行ってきたさまざまな公演では、毎回「やりきったな」と思うことがほとんどでしたが、今回は「もっとやれた。もっとやりたい」と湧き上がる思いがありました。終演の瞬間は終わってしまった喪失感で涙が出たほどで、それほど全力疾走していたことに気づきました。自分の半分がミュージカルになっているような感覚で、こんな気持ちがあることということを初めて知りました。

東阪さん:ミュージカルも、マイクオペも、チーフもすべてが初めてのことでした。とにかく、毎日必死に動いて、冬休みも年末も正月もずっとミュージカル漬けでした。リサーチもプランニングも全力投球しましたが、もっと時間をかけてこだわれたなと思うところもあります。この公演をきっかけに自分の課題が見えたので、必ず次の卒業制作につなげていきたいと思っています。

古林さん:ずっとやりたかったミュージカルなので、大げさに聞こえるかもしれませんが、本当に死ぬ気で、これだけは完璧にやろうと頑張りました。メンバー全員が寝る間もないほど努力している姿を見て、舞台監督として誇らしい気持ちになりました。劇場に入ってからの準備では、当然いつものスタジオ練習とは違って焦りや不安がありました。本当にギリギリまで修正をかけている状態でしたが、いざ本番では限界値を越えたパフォーマンスを実現できました。ぼそっとインカムで「みんなすごいな…」と呟いてしまったくらいです(笑)。今後の課題も見つかり、次の可能性も感じています。みんなを信じてやってよかったです!

 

舞台芸術学科 ミュージカルクラスのみなさん、最高の舞台をありがとうございました!

FAME Jr. 2021年度 舞台芸術学科 3年生ミュージカル公演

日時 日時:2022年1月22日(土)15:30、2022年1月23日(日)12:00
会場 京都芸術劇場 春秋座
脚本 Jose Fernandez
歌詞 Jacques Levy
音楽 Steve Margoshes
Title Song「FAME」written by Dean Pitchford and Michael Gore
指導 小林香/小玉洋子/梅園紗千/Mami/NAO
キャスト 稲本大誠、今西未音、岩﨑歩菜、岡田保美、篭谷悠世、片山萌、小林日和、佐賀みこと、杉目あかり、角谷栞里、髙橋紗良、田中海翼、土井優華、三好樹里、劉詩佳、和田洸(以上、舞台芸術学科3年生)
スタッフ 舞台監督:古林澄花、舞台監督助手:土岐茉由佳、演出助手:藤井琴野/布施澪幸、美術:薮内朝輝/細川楓華、小道具:立花萌乃/王露遥、音響:東阪京/黒川彩夏、照明:濵田百佳/熊本真由/樽谷桃佳/山田紗来、映像:池田結愛、衣裳:杉山菜野、制作:堀田真理菜/渡部愛美、宣伝美術:藤田みのり(以上、舞台芸術学科3年生)

https://butai13kyoto.wixsite.com/13grade-site

(舞台撮影:顧剣亨、練習風景撮影:広報課)

 

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