REPORT2022.01.07

デザイン

2040年の新しいエクステリアプロダクトを考える。― 株式会社淀川製鋼所(ヨドコウ)との産学連携授業

edited by
  • 京都芸術大学 広報課

車、椅子、コップ、文房具、スマホ、玩具など「モノ」に特化したデザインのスペシャリストを育てるプロダクトデザイン学科では、さまざまな企業とのコラボレーションによる産学連携授業があります。今回は耐久性に優れた「ヨド物置」で有名な株式会社 淀川製鋼所(ヨドコウ)との取り組みをご紹介します。

こちらは、長年パナソニックでデザインに取り組んできた時岡英互先生による「CMF応用」という、今年度から開講された新しい授業です。その内容は「CMFデザイン領域に特化したデザイン応用演習/提供素材を用いた新商品を提案」するというもの。CMFとは、COLOR(色)MATERIAL(素材)FINISH(仕上げ)の頭文字を取ったもので、色や形状・素材といったモノの表面を構成する要素を指し、プロダクトデザインの中で新たな専門領域として確立されつつあるのだそう。今年度は「2040年の新しいエクステリアプロダクトを考える」をテーマにした、2つの企業との産学連携授業が開講されました。

前期は物置等の鉄鋼メーカー「株式会社 淀川製鋼所(ヨドコウ)」と、後期はプラスチック部品メーカー「有限会社 和晃プラスチック」と連携。各メーカーから提供いただく素材を基に課題に取り組むことで、新たな製品の魅力度や価値向上につながるCMF複合能力を習得することができると言います。

 

2040年の新しいエクステリアプロダクトを考える

エクステリアとは、家の外壁や外構、庭や玄関まわりなどを含めた屋外空間のことを指します。前期のヨドコウとの授業では「鋼板」をベースにした一般顧客向けの「物置」が課題として設定されました。

課題設定の起点としては、近年、物置の機能や形態が大きく変わっていないこと。時代により生活者のライフスタイルが変わってきていますが、同時に、家庭で使用される道具も変わっていくことから、自ずと「収納」についての概念も変わり、今後の外部収納(=エクステリアプロダクト)のあり方も変わっていくはず。そのような背景を踏まえ、時岡先生からは「未来の外部収納はどういう役割を果たすのか?」という問題提起が投げかけられました。

「モノを所有、貯蔵することを目的として存在してきた外部収納は、今後もこのままの役割で必要とされるのでしょうか?
また、車すら所有しないリキッド消費の生活、サスティナブルの概念が当たり前になり、ミニマルな生活を求める若者である学生たちから見て、新たなエクステリアプロダクトのあり方はどうあれば良いと思いますか?」

また、ウィズコロナという時代背景やコロナ禍で変化したライフスタイルも考慮しつつ、新たなエクステリアプロダクトのデザインを考え、その価値を表現するという課題に取り組むことになりました。学生たちは「3Dレンダリング」または「ミニチュア模型」を制作、プレゼンすることになりますが、合わせて、魅力度を向上させる「外装鋼板CMFサンプル(A3サイズ)」も用意することが求められました。

ヨドコウの企業説明や歴史、素材加工や物置を組み立てるワークショップ、そして各チームに分かれてのリサーチを経て、11月12日(金)にプレゼンが行われました。全6チームの提案をご紹介します。

 

Aチーム:コミュニケーションのきっかけになる外構


コミュニケーションのきっかけになる外構(塀)を提案。流動的な柔らかい形で、内と外の相互にベンチが配置され、頭上と足下に丸い窓が開けられており、コミュニケーションを促すのだそう。内にいる人は足下の窓から外にいる人の気配を感じ、頭上の窓からコミュニケーションがとれるのだと言います。

 

 

Bチーム:家族の隠れ家・ミニ縁側


国土交通省によれば、2040年、地方から都市部への人口移動が増加するそう。踏まえ、都会に住みながら、休日は喧騒から離れて地方に遊びに行くというライフスタイルを想定し「家族の隠れ家 ミニ縁側」を提案。コンセプトは「せわしない日常の中で自然を感じゆっくりできる空間」。縁側の下側には足湯が収納されており、縁側に座って自然の景色を楽しみながら足湯に浸かり、疲れを癒すことができます。
自然に触れ、家族とゆっくりと語らえる団らんの場所、足湯に浸かりながら自然を眺める休憩の場所として使用するのだそう。

 

 

Cチーム:暮らしを整える遊具


「遊んで暮らしを整える」をコンセプトにした「遊具x倉庫」の提案。近年、公園の遊具が減少しており、またそのメンテナンスの遅れなどから事故につながるケースもあると言います。そこで、従来の倉庫を庭に置く遊具にして、こどもと遊べる場へと新たな価値を付与。自由な配置でさまざまな形態へと変化させることができます。こどもが認識しやすいカラー設定や素材も滑らない材質を使用するなどの工夫がなされています。
遊具で遊ぶことで培われる運動能力や危機回避能力、コミュニケーションなどを養います。

 

 

Dチーム:CONCORD


2040年は、自然を感じさせる開放的な場所で自分の時間を楽しむライフスタイルが一般化すると想定し、身近に自然を感じることのできる開放的な空間を提案。
緑地や公園などのパブリックスペースでは、日差しや周りの視線、距離などのデメリットがありますが、自分だけの時間を楽しむ半個室空間を生み出すことで、それらを解決するプロダクトです。
人の存在をわずかに感じさせる半個室空間が利用者のプライバシーを確保し、木々のような外壁が木漏れ日を作り出し、利用者にやすらぎをもたらします。白を基調とし、未来的ながらも自然との調和を目指したデザインです。

 

 

Eチーム:モノリス キューブ


庭にドンと置かれたキューブ型の倉庫。遠隔操作でキューブが割れるように開き、開閉具合の違いで、さまざまな用途に対応します。外との関係をなくしたいときは完全に閉じて、外の空気や光を入れたいときは少し開いて、開放的に外を感じたいとき、空間を外とつなげたいときはすべて開放してなど。閉じると狭く薄暗いシアタールームのような空間になり、モダンで少し大人な空間を意識したと言います。

 

 

Fチーム:Familiar villa(あなたの身近な別荘)


さまざまな用途で空間的に使えるエクステリアプロダクト「Familiar villa(あなたの身近な別荘)」。見た目は従来の倉庫ですが、180度まで開くことができ、いろいろな空間を作り出すことができるというもの。90度の直角に仕切ることで部屋のような空間になり、180度に開くことで壁のような用途として使用できます。庭でバーベキューやナイトシアターを鑑賞したい、自分の作品を保管しつつ展示もできる収納スペースが欲しい、DIYや自転車、バイクなどの趣味を楽しむ移動式ガレージのような空間が欲しいというような要望に応えた製品です。

 

いかがでしたか?全6チームのデザイン提案。いずれのチームともに綿密なリサーチと2040年という未来予測、そしてターゲットを明確にして具体的な提案にまとまっていたことが印象に残ります。ヨドコウの皆さまも、芸大生ならではの柔軟な発想に感心していらっしゃいました。

さて、各チームへの講評と全体的な講評で終わると思いきや、最後にサプライズが。上位3チームの表彰と景品の贈呈、そして参加した学生全員に参加賞としてTシャツが贈呈されたのです。ヨドコウ迎賓館が近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトによって設計されたことにちなむ景品。事前に知らされていなかったこともあり、学生たちは大喜びでした。

 

優秀賞:Dチーム「CONCORD」
優秀賞:Cチーム「暮らしを整える遊具」

 

最優秀賞に輝いたのは、Fチーム「Familiar villa(あなたの身近な別荘)」。2040年という近未来のニーズをうまく推察したリサーチと想像力、実現可能性などが高く評価されました。

Fチーム「Familiar villa(あなたの身近な別荘)」

 


今回のプロジェクトを振り返り、時岡英互先生に総評を伺いました。

「プロダクトデザインにおけるCMFデザインという領域は、古くて新しい概念ですが、就任後ようやく念願叶って、今年度から企業提案型の授業としてスタートしました。何よりも素材ありきなので、加工法や仕上げにより魅力が拡大する可能性ある素材を提供いただける企業様との連携が必須にて、今回「鋼板」という素材を(物置の製品自体も)提供いただいた淀川製鋼所様に感謝申し上げます。

プロセスとしては、当初miro活用によるCMFのイメージリサーチから始めて、色のコンセプト説明に相当するムードボードの制作等、今までやってこなかったアプローチでしたが、学生達はすぐに順応してくれて、最終的に「社内では出なかった」アイデア創出に繋がったことが良かったです。学生それぞれがこの経験と学びをスキルに活かせるようになれば幸いです。

とはいえ、あくまでもこれが授業の前半パートで、後半の別企業様との連携テーマも現在鋭意取組中。またまた学生達がユニークな発想で、企業様に喜んでいただけそうな作品を制作中です。これについても乞うご期待!」

 

京都芸術大学 Newsletter

京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。

お申し込みはこちらから

  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

    所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

お気に入り登録しました

既に登録済みです。

お気に入り記事を削除します。
よろしいですか?