REPORT2021.11.12

アート

コミュニケーションこそが「アート」― Open Storage 2021 対話型作品鑑賞プログラム「アートのヒミツ基地?!みんなで探検ツアー」

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  • 京都芸術大学 広報課

大阪・北加賀屋の「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」にて、保管する大型現代アート作品の一般公開「Open Storage 2021 ―拡張する収蔵庫―」が、2021年10月16日(土)から11月14日(日)まで開かれています。


MASKは国内有数の大型現代アート作品の倉庫として知られており、本学教員のヤノベケンジ先生(美術工芸学科/大学院美術工芸領域教授)や名和晃平先生(大学院美術工芸領域教授)、やなぎみわ先生(客員教授)らの巨大作品を収蔵しています。

また、今回の一般公開「Open Storage 2021 ―拡張する収蔵庫―」では、新参画アーティストとして持田敦子が公募で選出され、倉庫入り口に巨大な回転ドアの作品が発表されましたが、こちらは家成俊勝先生(空間演出デザイン学科教授)が共同代表を務めるドットアーキテクツの設計協力のもと設置されたものです。

 

持田敦子《拓く》

 

対話型作品鑑賞プログラム アートのヒミツ基地?!みんなで探検ツアー

Open Storage に合わせ「対話型作品鑑賞プログラム アートのヒミツ基地?!みんなで探検ツアー」と題し、収蔵作品を楽しむツアーが開催され、アートプロデュース学科の学生たちがナビゲーター(案内役)を務めました。

アートプロデュース学科およびアートコミュニケーション研究センターでは、Open Storage でも2015年度より「みる・考える・はなす・きく」を主軸とした作品鑑賞プログラムを監修しているのだそう。7年目となる今年も小学校低学年、高学年、中学生以上を対象にした「対話型作品鑑賞プログラム」を実施しました。

「対話型鑑賞プログラム」とは、美術の知識に頼らず、ナビゲーター(案内役)とともに、複数人で作品への互いの考えや意見を共有することで、作品理解を深めていく鑑賞法です。今回も「作品に対する素朴な疑問や発見など、参加者みんなでおしゃべりしながら収蔵作品を楽しむ」とあります。
作品をよく観察し、自分が感じたことや気づいたことを言葉にして伝えることで、他者と生きていくために必要な、創造的思考や表現力、洞察力やコミュニケーション能力を養うのに効果的とされているそうです。


今回拝見させていただいたのは「小学校低学年向け」のもの。各回約45分のツアーで、定員は各回3組までと少人数での開催です。受付を済ませると、まずは持田敦子さんの作品《拓く》からMASKの中へ。大きさからすると相当重そうに見えますが、意外と滑らかに動くため、親子でグッと力を合わせれば、簡単に動きます。

 

アート・コミュニケーション研究センター研究員の春日美由紀さん、そしてアートプロデュース学科の阿部春香さん(3年生)、長谷川妙さん(3年生)、辻笙さん(2年生)、向江夢さん(2年生)がツアーの担当です。今回は、辻笙さんがナビゲーター(案内役)を務めました。

辻笙さん(2年生)
長谷川妙さん(3年生)と阿部春香さん(3年生)

 

入り口で配布された「ヒミツのアート工場へようこそ!」は、MASKにおける収蔵・展示作品の魅力的な鑑賞機会の創出を目的としたガイドブックで、このたび改訂版を制作したのだそう。その制作にも学生たちが関わっています。


ツアーの冒頭は「どこにある?」。冊子に掲載されている「6つの写真」をヒントに工場の中をぐるっと見渡してみて、写真の作品を探します。小学生の皆さんはとても好奇心旺盛で、ものの1,2分で次々と発見していきます。

 

続いては、案内役曰く「へんてこな家(宇治野宗輝《THE HOUSE》)」作品を題材にして、誰が住んでいそうかなとか、不思議なものが隠されていないかなど、直感的に感じることをどんどん挙げていってもらいます。そこに正解や不正解はありません。参加した子どもたちの発見に対し「よく見つけたね!」と、その想いを汲み取っていきます。

よく見ると家の中にさまざまな楽器が
家中で楽器が奏でられ、演奏が始まりました。
子どもたちにも楽器代わりの日用品が渡され、即席の演奏会に。

 

ツアーを拝見していて特に印象に残ったのは、学生が子どもたちを「待つ」姿勢。案内役以外の学生は、子どもたちに寄り添いながらも「ここが面白いね」と答えを提示するのではなく、子どもたちが声に出せるまで待ってあげたり、声を出しやすいように促すことを心がけているように感じました。聞けば、ファシリテーションの極意は「待つこと」にあるのだそう。

「鑑賞者への寄り添い方は、ファシリテーションを学ぶ授業のなかでも特に気をつけるように練習することなんです。人の反応を見て、『この人はきっと言いたいことがあるんじゃないかな』『でも、言いづらいのかな』っていうことがあったら、それをどうやって自然に促してあげるかということを考えます」。

 

進行役を務めていた辻さんは「静かで深い」鑑賞会になることも有意義なのだと言います。

「昨日の最後の回の鑑賞は、めっちゃ静かだったんですけど、めっちゃ良かったんです。静かで深い、そんな鑑賞会でした。必ずしもワイワイ盛り上がるということが良い鑑賞というわけでもないんです」。

場が静かになってしまうと、運営側としてはどうしても心配になってしまうもの。ただ、鑑賞者の「沈黙」を恐れてはならないのだと言います。

「ファシリテーション側としても “沈黙” って怖いんですけど、でもそれは “考えている時間” と捉えるようにしています。私たちが簡単に代弁してしまうのではなくって、その人から出されたリアルな声、言葉づかいとかを汲み取るように心がけています」。

 

理論を実践する「腕試しの場」

学生たちは今回は「腕試しの場」になったと口を揃えます。そして、授業で習った理論や方法論が、実際にはすんなりとはいかないことも多々あったと言います。

「理論以外に “実践" も、もちろん授業の中でも行います。でも、その相手は一緒に学んできた学生で、ある程度技法とか、どんなふうに作品を見るのかっていうのをわかっている人たちとやるわけですから、実際に子どもたちとやるとなると違ってきますね。昨日の初回は、言葉選びとか空気作りとかも全部、すべてが初めての実践という感じで、難しかったです」。

「こちらも緊張しているし、相手の子がすごく小さい6歳とかの子が多かったりすると、おしゃべりをしてもらうことが難しくて。授業ではそもそもの前提として “みんなで話す” という形ですから、私たちが基本としている形すら成り立たない、ままならないっていうところで、どうそれをアレンジして、その場でアレンジして満足してもらえるか、楽しんで帰ってもらうかっていうのがすごく難しかったです」。

 

「みる・考える」視点のシフト

その場の鑑賞会自体が盛り上がり、楽しい会になれば良いというわけではなく「ここからのスタート」になればと言います。

「楽しかったっていう気持ちを持って帰ってもらうということですね。例えば今日もツアーが終わってから、見知らぬ子どもたち同士が一緒に鑑賞したりとか、残って見てくれるという子が多かったので、“次” に生かせたのかなって感じました。プログラム自体じゃなくって、“鑑賞” を楽しいって思ってくれてるのかなっていうのが、とても嬉しく思います」。

 

アートコミュニケーション研究センター研究員の春日美由紀さんは、プログラムの趣旨についてこう語ります。

「何か “作品に親しむ術” みたいなものが、あんなふうに作品と関わったなっていうことが何か残っていってくれるのが、やはり特に小学生には大事だと思います。作品を鑑賞する機会は、学校でもそれほど無いですし。だからぜひ、たくさんプレゼントを持って帰ってもらいたいなと。
また、プログラムを通じて “自己肯定感” が高まるという副次的な効果もあるんですね。素直に感じたことを声にだし、みんなが『なるほどね』と肯定することで、自分に自信が持てたりとか。そのような損得なしのコミュニケーションができることが、プログラムの大切な趣旨のひとつなんです」。

 

「ACOPが基本とする “みる、考える、話す、聞く” の4点は、“みる” ことから始まるので、やはり大事なのは、みえているはずなのに実はみえてないないものを、よくみることでみえてくるということ。また、“みる” とは、新たな見方とか視点だけではなく、“考え方の視点” もあります。『そんなふうにみてもいいんだ』とか、『こんなふうに見えるんだ』とか、そういうことを一人では難しいけれど、他人と関わることで他者の視点や思考を見聞きできるので、それがまた自分の思考をシフトするための起爆剤になる。そんな効果があるんです」。

 

コミュニケーションこそが「アート」

作者や作品名、制作された年、素材など、美術館ではこうした作品情報が提示してあります。このような客観的な情報も大切ですが、芸術作品とはこれら「作品にまつわる情報」だけで受容しきれるものではありません。

完成直後に「傑作」と言われた作品でも、時代を経て忘れさられたものや、逆に非難と嘲笑を浴びながらも、その後「名作」となる作品もあります。なぜ評価は変わるのか?それはなによりも「みる人」が変化したから。つまり、鑑賞者こそが作品の価値=アート創造の重要な役割を担っているといえます。

アートコミュニケーション研究センターでは、だからこそ、作品と向き合い、様々な価値をそこに付加していける主体的な鑑賞者の存在が大切なのだと提唱します。作品そのものが「アート」なのではなく、作品と私たち鑑賞者との間に立ち上がる不思議な現象、すばらしいコミュニケーションが「アート」なのだと考えているのです。

 

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