岡山県倉敷市にある大原美術館の新館「新児島館(仮称)」にて、ヤノベケンジ先生による《サン・シスター》が《サン・シスター(リバース)》として生まれ変わり、2021年10月1日(金)より公開されました。コロナ禍の長期化で打撃を受けた倉敷や大原美術館の “再生(リバース)” を願い、何度でも蘇る火の鳥・不死鳥をモチーフにしています。
ヤノベケンジからのメッセージ
《サン・シスター》は、《サン・チャイルド》の姉のような存在として、東日本大震災による被害や苦難の日々を乗り越えることを願い、希望ある未来の姿として、2014年に制作された作品です。《サン・シスター》は、座りながら目を閉じて深く瞑想し、立ち上がりながら手を広げて目を開く動作を繰り返し、「再生の夢と希望の訪れ」を象徴的に表しています。阪神淡路大震災20年目の節目となる2015年には、兵庫県立美術館前に屋外常設タイプの《サン・シスター》も設置されています。
今回、大原美術館のご依頼を受け、旧中国銀行倉敷本町出張所を、完成途上の段階で新館として再公開するにあたり、「転生」と「再生」をテーマにしました。建物の「転生」と、コロナ禍において大打撃を受けている、倉敷や大原美術館の「再生」を願い、何度でも蘇る火の鳥・不死鳥をモチーフに、《サン・シスター(リバース)》として装いを新たにすることにしました。
その衣裳には、京都と福島の学生たちと共同制作し、龍や虎、麒麟や亀などの多くの霊獣や守り神をまとわせ、スカートは火の鳥の羽のように「転生」し、「再生」を願って飛翔するように立ち上がります。《サン・シスター(リバース)》が、明るい兆しを倉敷の人々に届けてくれることを願っています。
制作協力:京都芸術大学ウルトラファクトリー プロジェクトチーム(射場愛、加藤陽香、木曽竣太、白石廉、舘花美咲、中野謙、吉越梓、冷銘静)、福島大学附属中学校の皆様
大原美術館とのこれまで。
現実が大きく追い越していく苦悩と、未来へのメッセージ。
ヤノベケンジ先生はこれまでにも、2010年、有隣荘の特別公開において《トらやん》と《ラッキードラゴン》を大原美術館の礎を築いた大原孫三郎と児島虎次郎の存在に重ねて、美術館の過去と未来へと思いを馳せる展示をしています。
それから約半年後に起こった東日本大震災。《トらやん》は黄色い放射能防護服をまとい、《ラッキードラゴン》は第五福竜丸にその名の由来を持つように、その表現は科学技術が夢見させる輝かしい未来のイメージと、一方でその制御を誤れば大きな災厄をもたらしかねぬ科学の力との両義性を主題としてきたもの。それだけに、東日本大震災によって引き起こされた原子力発電所のメルトダウン事故は、ヤノベケンジ先生の鋭敏な感性と想像の力が作り上げてきた作品の世界観を再び現実が追い越していく壮絶な出来事でもあったのです。
そのような苦悩の中から制作されたのが、ただただ力強く未来を見据える《サン・チャイルド》。大原美術館では、2013年の特別展「Ohara Contemporary」に際して、来るべき未来への力強いメッセージとして特別公開しています。
今回、大原孫三郎が設立した銀行建築を改築し「新児島館(仮称)」として暫定的に一般公開するにあたってヤノベケンジ先生を招聘したのは、こうした経緯があってのことなのです。
計画では、美術館の礎を築いた洋画家・児島虎次郎の作品などを展示する予定が、新型コロナウイルス感染拡大に伴う資金調達難ゆえに、その完成は先送りせねばならない状況に。しかし、100年愛されてきたこの建築を少しでも早く再公開するとともに、暫定的な期間とはなりますが、美術館施設として活用するにあたって、原点を見直し、同時にやがて来る未来をしっかりと見つめるメッセージを発信することを、ヤノベケンジ先生へと託したのです。
そのような大原美術館側の想いを受け、《サン・シスター》を不死鳥のごとき姿へとバージョンアップさせた《サン・シスター(リバース)》として生まれ変わらせ、美術館のため、倉敷の町のために展示することになったのです。
ヤノベケンジ 初となる、
学生とのコラボレーション作品。
コロナ禍の困難な状況にあって、未来をポジティブなものへ変えていこうという願いが込められた《サン・シスター(リバース)》。その衣裳には、ウルトラプロジェクトに参加した学生たちの龍や虎、麒麟、亀などの多くの霊獣や、福島大学附属中学校の学生たちが制作した守り神をまとわせています。また、そのスカートの裾の部分がまるで火の鳥の羽のように “転生” し、“再生” を願って飛翔するかのように立ち上がるのですが、それらの羽のデザインもウルトラプロジェクトの学生たちによるものです。
プロジェクトに参加した学生たちは「まさか自分のデザインしたものが採用されるなんて、夢にも思わなかった」と口を揃えます。
四霊獣(龍、虎、麒麟、亀)のレリーフのデザインが採用された、総合造形コース2年生の吉越梓さんは、嬉しさの一方「私のデザインで大丈夫かな」という不安もあったと言います。
「ヤノベ先生が自分の作品にほかの人のデザインを取り入れるなんて、初めての試みだとおっしゃっていて、とても光栄に思うものの、すんなり決まったこともあって、不安もありました。でも、自分のデザインをほかの人と一緒に作ってもらうということはめったに無かったので、それが何よりも嬉しかったです。所属するコースの授業では、グループ制作というのはありますが、それはみんなで何を作るか考え、制作するもの。自分のデザインをみんなで制作するということはなかなかない機会ですし、毎日同じ場所、同じスカートの上でともに制作する時間は、本当に楽しかったです」。
ヤノベケンジ先生がいることが、大学に入学したきっかけだと話す、総合造形コースの1年生の中野謙さんは、四霊獣の「立体造形作品」の制作を託されたのだそう。
「ヤノベ先生から『中野が思うように造形してくれ』と頼まれ、まさかこんな1年生の僕が先生とコラボレーションできるなんて、すごく嬉しかったです。霊獣の迫力のある感じを表現したくて、動きのある造形作品に仕上げました。
世界で活躍するアーティストと一緒に制作をする機会なんて、なかなかないと思いますし、特別な経験をしている感覚がすごくありました。プロジェクト通じて、こういう風に作られていくんだっていう技術的な部分は知ることができたんですけど、まだまだ自分で自作品を作るってなったら、ちょっとまだ難しいかなっていう感じです」。
同じく1年生でプロジェクトに参加した油画コースの舘花美咲さんは、小学生のときに見たヤノベケンジ先生の作品《サン・チャイルド》が、ずっと心の中に残っていたのだと言います。
「小学生のときに《サン・チャイルド》を大阪で見たことがあって、そのことを鮮明に覚えていて、プロジェクトの説明会でその作者がヤノベケンジ先生だと初めて知って驚きました。それでどうしてもプロジェクトに参加したいなと思ったんです。だから実際に《サン・シスター(リバース)》の制作に関わることができるなんて、最高の経験になりました。
また、油画コースではそもそも樹脂加工、それもあんなに巨大なものを制作することは滅多どころか、まずできないような体験なので、すごくいい体験をさせていただくことができたと感じています」。
福島の子供たちとの約束。
希望ある未来への明るい兆し。
ヤノベケンジ先生は、今回の学生との共同制作についての背景を説明してくださいました。
「もともと2019年に福島大学附属中学校に招かれてワークショップをしたのですが、その時の課題が “自分の守り神を作ること” でした。その際、橋本花帆さん(当時中学2年生)という学生が描いた《Nature》という森の動物をまとった精霊の絵があって、感銘を受けていました。そのワークショップで出来た作品をもとに、私と制作をするという案もあったので、これなら《サン・シスター》に未来を担う次世代の子供たちの守り神を取り付けて作品にできるのではないかと考えていたんです。ただ、コロナ禍のため宿題になっていました。
今回、交流のある大原美術館から依頼を受けて、新しい美術館の開館のための支援に加えて、福島の子供たちと約束を果たすよい機会になると思いました。そして、同じく未来を担うウルトラプロジェクトに集ってきた京都芸術大学の学生たちの作った霊獣のレリーフと、橋本花帆さんらが作ったレリーフから型をとって《サン・シスター》の衣装に組み込んで出来たのが、《サン・シスター(リバース)》というわけなんです。京都芸術大学の学生たちは、福島大学附属中学の学生たちのレリーフから型をとって整形してくれましたし、私も学生たちのレリーフをサポートして作っているので、まさに共同作品です」。
ヤノベケンジ先生の願いは、《サン・チャイルド》や《サン・シスター》と同じく、東日本大震災からの再生を継承し、コロナ禍で苦しむ大原美術館や倉敷の人々の再生へとつながっていました。また、京都・福島・倉敷をより深く結ぶための共同制作といえるでしょう。福島や京都芸術大学の学生たちの想いをまとい、祈るような座位から羽根を垂らして不死鳥のように立ち上がる《サン・シスター(リバース)》の姿には、多くの人々が励まされるのではないでしょうか?
「新児島館(仮称)」には、すでに多くの来館者が訪れており、《サン・シスター(リバース)》が立ち上がる度に歓声があがっています。すでに希望ある未来へと明るい兆しを届けているといえるでしょう。
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