大学と劇場の周年を寿ぐ「市川猿之助 春秋座特別舞踊公演」―ご来場記念手ぬぐい&“このすけ”グッズを情報デザイン学科の学生が制作!
- 京都芸術大学 広報課
9月2日から5日の4日間、「市川猿之助 春秋座特別舞踊公演」が開催されました。この公演は、京都芸術大学開学30周年と劇場開場20周年を記念して、四代目市川猿之助が芸術監督として行った特別舞踊公演です。そして、今回ご来場の皆さまにお配りした記念の京型友禅染手ぬぐいと、芸術監督プログラムのイメージキャラクター “このすけ” をモチーフにした限定グッズは、情報デザイン学科の学生たちがデザインを手がけました。周年を二重に祝う特別公演の様子と、学生たちが制作した “このすけ” グッズをご紹介します。
「歌舞伎だけじゃなく、“感動”を教えてほしい」と誕生した劇場
京都芸術劇場 春秋座は、当時、京都造形芸術大学の副学長を務めていた三代目市川猿之助(現・猿翁)が理想の劇場の粋を集めて設計監修し、日本で初めて教育機関である大学内の劇場として2001年5月にオープンしました。花道や廻り舞台を備え、歌舞伎はもちろんオペラや現代劇まで上演できる本格的な劇場でありながら、学生も活用できる他にはない劇場です。
2013年5月、三代目猿之助(現・猿翁)より四代目を引き継いだ市川猿之助が芸術監督に就任。以降、歌舞伎以外にも様々な芸術監督プログラムを開催してきました。9月の公演期間中はまだ緊急事態宣言下でもあり、万全の感染防止対策を施したうえで幕が開きました。
一、御挨拶
舞台に飾られた本学創立者である徳山祥直前理事長の写真を前に、まずは猿之助さんのご挨拶から始まりました。
「徳山前理事長は『人は泣き申さず候うては、化し申さず候』という儒学者の細井平洲氏の言葉を用いて、人間は感動して涙をした時に初めて化ける、向上心が生まれ成長する。人間を作るとは、つまり感動を教えることだ。君、力を貸してくれないか、と伯父(猿翁)におっしゃいました。そうして伯父は大学創立の頃から関わらせていただき、この感動を教える芸術大学で歌舞伎を教えることとなり、さらには劇場も誕生したわけでございます」。
オープンの翌年には『第一回亀治郎の会』が開催され、亀治郎時代に春秋座で5回公演したことから、「私はこの劇場に育てていただいたようなものでございます」と感慨深げに話されました。そして、「廻り舞台や迫り(せり)もあるし、宙乗りも出来るし、充実した設備の良い劇場ですが、なぜか京都の方は遠い遠いとおっしゃる。東京で我が家から歌舞伎座まで行くよりも、街中からここまでの方が格段に近いんですけれどね。まぁバス停も上終(かみはて)町……あ、果てに…」と、会場を笑いに誘います。
また、「本日の開催もギリギリまで実に悩みました。非常に難しい事態でございますが、このままでは、東京以外では歌舞伎や演劇が出来なくなるのではないでしょうか」と、演劇界の苦境に際して強い危機感も口にしました。「火を起こすというのはたいへんな労力です。しかも一度消えた火を起こすのは並大抵ではない、絶対に歌舞伎の火を消してはいけないんです」。
20年を振り返りながら、時にユーモアで和ませ、時に厳しい口調でコロナ禍の現状を憂い、お客さまへの感謝の気持ちを込めて語られました。初日から千穐楽まででエピソードや表現は少しずつ違いましたが、「演目はもとより、猿之助さんの口上での熱い語りと強い志に心を打たれた」とおっしゃるお客さまも多くいらっしゃいました。
二、春秋三番叟
2001年に春秋座の杮落とし公演のために三代目市川猿之助が構成し、亀治郎時代の四代目猿之助が演じた演目で、歌詞に「白川」や「瓜生山」など春秋座にまつわる地名が盛り込まれています。今回の公演では、新たに20周年記念バージョンとして澤瀉屋(おもだかや※)一門の五人立ちによる “五人三番叟” を披露しました。天下泰平、国土安穏、五穀豊穣を祈りながら、鈴を手に種蒔きを演じる、素踊りながら華やかで躍動感あふれる舞台となりました。
※「澤瀉屋」の「瀉」のつくりは、正しくは “わかんむり” です。
三、連獅子
初世市川猿翁の当たり芸を三代目市川猿之助がまとめた「十種」のうちの一つ『連獅子』を、春秋座初お目見えで上演しました。三代目猿之助が若き頃、中村鷹之資の父である中村富十郎と親子獅子を舞い、そして今、巡り合わせて四代目猿之助が中村鷹之資と演じました。親子獅子の情愛に溢れた場面と、圧倒的な振り数のダイナミックな「毛振り」に喝采が響きました。
春秋座はまた、「実験と冒険」を掲げる劇場でもあります。未来の演劇界・舞台芸術を担う学生や若者たちを育てる場としても発展していくことを祈念して、新たなフェーズとなる21年目がすでに始まっています。
学生がデザインしたご来場記念の特製手ぬぐいと、限定販売の “このすけ” グッズ
今回の公演にご来場いただいた皆さまには、芸術監督プログラムのイメージキャラクター “このすけ” と歌舞伎の演目をモチーフにした、大学開学30周年・劇場開場20周年記念の手ぬぐいをお配りしました。また、この手ぬぐいのほか、ミニボトルや扇子など3種類の “このすけ” グッズを新たに情報デザイン学科イラストレーションコースの学生がデザイン。これまでに販売した “このすけ” グッズや公演パンフレットなどと組み合わせて福袋にしたセットを、劇場のオンラインショップで期間限定販売しました。さらに今回はアニバーサリー特典として、ご購入者の中から抽選で10名の方に猿之助さんの直筆サインが当たるということもあり、注目を集めました。感染防止対策のため対面での販売はかないませんでしたが、今回学生たちがデザインした記念手ぬぐいと “このすけ” グッズをご紹介します。
“このすけ” は、春秋座の市川猿之助芸術監督プログラムの広報を担うイメージキャラクターとして2014年5月に当時の学生たちによるコンペが行われ、猿之助さんも選考に加わって誕生しました。四代目市川猿之助の当たり役『義経千本桜』の狐忠信(きつねただのぶ)にヒントを得たそうです。
その後、学生たちが参加する「このすけプロジェクト」が発足。“このすけ” のキャラクターグッズやコラボレーション企画は、これまでにも趣向を凝らしたものが公演やイベントにあわせて様々に登場し、お客さまのみならず猿之助さんにも可愛がられ、今では劇場の人気者となっています。
<このすけプロフィール>
春秋座に幸せをはこぶキツネの子、市川猿之助芸術監督プログラムのPRを担当。ツイッターでもつぶやいてるよ!
Twitter:https://twitter.com/konosuke_kpac
生まれたところ:白狐の国
誕生日:5月11日
性別:男の子
年齢:白狐年齢では数百歳だが、人に例えると5歳くらい
すきな食べ物:おだんご
すきな演目:猿之助さんの『義経千本桜』!
きらいなもの:だるま(追いかけられる怖い夢をみたことからトラウマに)
お仕事:春秋座の市川猿之助芸術監督プログラムを広めること
今回の記念手ぬぐいと “このすけ” グッズは、情報デザイン学科イラストレーションコースの岡田将充先生の指導のもと、手ぬぐい1回、グッズが1回のプレゼンを2回経て選抜された、先輩と後輩4人のデザインです。その後さらに春秋座の関係者とも打ち合わせを重ねて、今回のデザインが決定しました。
デザインした4人には、9月2日の公演初日の観劇後にお話を伺いました。全員が歌舞伎の舞台を観るのは生まれて初めてだったそうで、「迫力ある舞台にとにかく感動しました!」「足踏みのタイミングや音の出し方、後ろの鳴り物との重なり合いが絶妙で驚きました」「連獅子に関する資料の読み込みなどはしていましたが、実際の舞台ってこんなに凄いとは!」と、それぞれが興奮冷めやらぬ様子でした。
3年生の濱岡さんと2年生の山元さんは実際に販売する「商品」のデザインは初挑戦で、普段作っているものとは年齢層も違う、歌舞伎を観に来られるお客さまに喜んでもらえる物であることに当初はかなりプレッシャーを感じたそうです。それでも、「先輩たちにアドバイスをいただいて沢山のアイデア出しをしたり、劇場の方とのミーテイングや試作を経て、こうして商品が出来上がってうれしいです。対面販売でお客さまの反応や売れ行きを直に見れなかったのは残念でしたが、歌舞伎や伝統文化を知ることもできたし、とても良い経験になりました」と、感想も作品のコンセプトも自分の言葉でしっかりと伝えてくれました。
〇手ぬぐい 濱岡峻里(3年生)
大学開学30周年・劇場開場20周年を記念してお配りするものなので、この2つの数字を組み合わせたインパクトあるものをとデザインしました。今回の演目『連獅子』の毛振りの揺れる感じをイメージした波形や、山台の市松模様、松羽目物の老松もあしらって、飾っても使ってもOKなものを考えました。
〇ミニボトル 須鎗裕次郎(4年生)
キャラクターグッズとして持ち運べて、季節的にも使用頻度が高いものにしようと人気のミニボトルに。表情豊かな”このすけ”のモチーフを組みあわせて、配色と配置を考えました。ボトルカラーは当初もう少しオレンジ味が強めでしたが、淡く仕上がってかえってはんなりとした感じでハマったなと思います。
〇ルービックキューブ 山元理央(2年生)
“このすけ” の動きや表情ってすっごくお茶目でコロコロ変わりますよね。ルービックキューブの6面を使って、その豊かな変化を楽しんでもらえたらと思いました。6面のカラーはポップな色合いではなく、春秋座らしい落ち着いた和の色の組み合せに。いたずら好きな “このすけ” っぽい、意外性も出せたかな。
岡田先生によると、春秋座とコラボレーションするグッズ制作プロジェクトは5年くらい続けられていて、各回のメンバーは前回のプロジェクトを経験した上級生と、新たに加わる下級生の混合構成だそうです。そのため、先輩が後輩に制作進行をフォローしたり、資料の集め方やプレゼンの仕方をアドバイスしたりして、学生たちだけでのミーティングもどんどん自主的に行っているのだとか。
「春秋座さんとのプロジェクトは教育の一環として、学生に社会実装的なデザインの場を設ける機会でもあります。だからこそ、ニーズやマーケットに寄りすぎず、他の劇場ではできないようなアプローチや、学生の感覚を生かして作るということを重視しています。学生たちに歌舞伎や落語などの伝統芸能を身近に感じてもらい、若い世代の感覚でそれをどう表現するか。例えば今回のグッズ制作では、“このすけ” というキャラクターを生かしてのデザインですので、このモチーフをどう扱うか、どうグッズ化するかということが主題でしたが、自由な発想や面白いアイデアが出て、ボツ案になったものも含めてよくできてましたね」。
実は、11月19日から21日に春秋座で開催される「立川志の輔 独演会」の公演グッズも、情報デザイン学科で鋭意制作中とのこと。こちらの公演も開学30周年・劇場開場20周年の記念公演の一つでもありますので、次はどんなグッズが発表されるのでしょうか。現在、1回目のプレゼンを終えたばかりとのことで、ちらっとグッズ案を見せていただいたのですが、なかなかにデザイン性の高い、期待できるものばかりでした!楽しみです。次回のグッズと制作の様子も、また瓜生通信で追跡リポートします。
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