2021年9月7日、京都府警察本部で被害者支援のための訓練が行われ、舞台芸術学科3年生の今西未音さん、鎌田茜さん、高橋瑠音さん、土井優華さん、本村玲奈さんの5名が訓練に参加しました。これは、大規模な災害や事件、事故で多数の被害者が出た場合にどのように遺族の精神的サポートをすればよいのか、対応を確認するものです。
京都府警は今年3月に「災害等発生時における死亡者家族の支援に関する協定」を一般社団法人日本DMORT(ディモート)と締結。医療関係者との連携により、より丁寧な被害者支援の実現を目的としています。
今回が京都府警と日本DMORTが行う初めての訓練。警察と日本DMORTが連携して遺族への対応を行うロールプレイングを行い、学生は遺族役を演じる形で訓練に協力しました。
一般社団法人日本DMORT
DMORT(ディモート)とはDisaster Mortuary Operational Response Teamの略で「災害死亡者家族支援チーム」と訳されます。日本DMORTは2005年に発生したJR福知山線脱線事故の現場で遺族対応が不足していた教訓から、兵庫県内の医師らが災害直後から死亡者の家族支援を行うことを目的として創設した団体です。これまでに熊本地震などの被災地や、今年7月に静岡県熱海市で発生した土脊柱災害などで遺族らの心身のケアに当たっています。
http://dmort.jp/
事案数こそ少ないものの、大規模な事件や事故が起きたときには、多数の遺族への緊急対応が必要になることから、警察内部でも希望の声が多かった訓練なのだそう。この日は、京都府警の各警察署の被害者支援を担当する警察官約30名が訓練に参加しました。
今回の訓練では、京都市内の路上でナイフを持った男が歩行者に無差別に襲い掛かり、多くの死傷者が出たという想定で行われました。学生が演じる遺族役が身元確認のため警察署に駆け付け、初めて遺体安置所を訪れます。
このような事案が発生した場合、警察は現場対応やその後の手続き案内などの事務的な対応に追われることが多く、なかなかご遺族の顔色や体調まで配慮することが難しい状況があります。そこで、日本DMORTが遺族に寄り添い、警察と連携しながら対応を進めます。
ロールプレイングでは、警察官が事件の概要や手続き書類について説明し、日本DMORTは遺族のそばに寄り添って精神的サポートを行いました。
学生たちによる涙ながらの演技は、見ていて心が痛むほど。大切な家族を突然亡くし、取り乱す様子を一心に演じました。日本DMORTの方は、遺族の方々の初期の反応はショックで茫然自失となる人や泣き叫ぶ人、怒りに震える人など本当にさまざまだと言います。学生は、遺族の想いや背景を想像し、さまざまな被害者の様子を演じ分けることで、あらゆる場面を想定した訓練の幅を広げました。
多くの災害現場で遺族支援の活動を行ってきた日本DMORT。家族を突然失い、深く傷ついた場合、今後の対人関係や社会生活、心身にも影響を与える可能性があることから、遺族には早い段階から精神面をサポートする必要があると言います。
日本DMORTの方々は、取り乱した遺族役の背中をそっと支えたり、混乱している際には少し休憩に入るよう提案したりと、遺族の気持ちを考えながら対応にあたっていました。
訓練後のディスカッションでは、警察官と日本DMORTでロールプレイングの反省点を話し合いました。学生も参加し、訓練で感じたことなど感想を伝えます。
日本DMORTは何度もこうしたロールプレイング形式の訓練を実施してきましたが、実は医療関係者や警察官など関係者以外が訓練に参加するのは初めてだとか。関係者内でのロールプレイングでは、なかなか悲しみや怒りの感情を堂々と演じるのは難しいもの。「誰が遺族役を担当するかでこんなに訓練の質が変わるのかと驚いた。本格的に演技を学ぶ学生が訓練に協力してくれたおかげで、生きた訓練ができた」と言います。
ロールプレイングに参加した警察官の方々も、イメージはできていたものの実際にロールプレイングを行わないと分からなかったことが多く見つかったと言います。「お芝居だと分かっているが、ハッとさせられる演技で訓練と思えなかった。だからこそ真剣に訓練ができ、我々の応対も現実味を帯び、今までで一番意味のある訓練だった」という声も聞かれました。
警察官の方から「実際に遺族役を演じてみて、警察官の対応にどんな印象を抱いたか大学生に聞きたい」と意見を求められる場面も。学生は心強かった点、心配になった点などを率直に自分の言葉で伝えます。
そうした学生からの感想にも「なかなか一般人の方からご意見をいただく機会は少ないので貴重だ」「警察官にとっては当たり前のことが、一般人の方からは見え方が違うことに気づけた」という声があがりました。
舞台芸術学科の平井愛子学科長は、「本来演技はお客様の前で披露するものですが、僭越ながら、俳優の仕事や演技が別の形で社会に貢献することができれば」と考え、京都府警からのご依頼をお引き受けしたと言います。学生5名は完全に有志での参加。「このようなご依頼は、自分の意思で手を挙げた人が参加するべきだ」という考えからです。なんと演技の練習は一度のみと、アドリブで現場の臨場感を表現したというからさすがです。
参加した学生たちは想像以上に学ぶことが多かったよう。
被害者の妻役を演じた3年生の鎌田茜さんは「警察官の方が一つひとつ言葉を選びながら、小学生に話しかけるようにわかりやすく丁寧に説明してくださったおかげで、亡くなった事実を理解することができ、動揺しつつも話を聞くことができました。泣き崩れてしまう瞬間もありましたが、日本DMORTの方が後ろで支えてくださっていることに救われましたし、このような状況になった時に支援の方が横についてくださるだけで状況の受け止め方が変わることを実感しました」と話します。
大学で学ぶ演技がこのような形で社会貢献につながり、学生にとっても意義のある経験となりました。京都府警のみなさん、日本DMORTのみなさん、ありがとうございました。
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