REPORT2021.10.02

アート

“教える”のではなく、ともに悩み、ともに作る。― ゴミからアートを生み出す「淀川テクニック!プロジェクト」

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  • 京都芸術大学 広報課

共通造形工房ウルトラファクトリーが主催する「ウルトラプロジェクト」が佳境を迎えています。今年は12組のアーティストがウルトラプロジェクトに参加。ポートフォリオの提示や面接等による審査を経て採用された学生たちが、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。

参加アーティストたちは、単純な労働力を求めているのではありません。単純に「教える・教わる」という関係性ではなく、学生たちと協働することによって互いに成長することが重要で、その効果がアーティストにも学生にも大きなものとなっているのです。

写真右から、淀川テクニック、ヤノベケンジ、明和電機、小西葵、増田セバスチャン、REMA、山本太郎。

 

2014年から毎年行われている「淀川テクニック!プロジェクト」は、さまざまな場所に出向き、現地のゴミを⽤いた作品制作やワークショップを行うなど、全国的に活動を繰り広げている「淀川テクニック」の柴⽥英昭先生によるプロジェクト。作品の素材となるゴミ拾いから、作品の制作、ワークショップの企画・実施、ZINEの発行など、その活動は多岐に渡ります。

淀川テクニック

柴田英昭(しばたひであき、1976 年岡山県生まれ)のアーティスト名。2003年に大阪・淀川の河川敷を拠点として活動開始。ゴミや漂流物などを使い、様々な造形物を制作する。赴いた土地ならではのゴミや人々との交流を楽しみながら行う滞在制作を得意とし、岡山県・宇野港に常設展示された「宇野のチヌ」「宇野の子チヌ」は特によく知られている。その他、「釡山ビエンナーレ」(2006)やインドネシアで開催された日本現代美術展「KITA!!」(2008)、ドイツ・ハンブルグと大阪で同時開催された「TWINISM」(2009)、モルディブ共和国初の現代美術展「呼吸する環礁ーモルディブ・日本現代美術展ー」(2012) など海外での展覧会参加も多い。その活動や作品は国内外のテレビ、新聞などのマスメディアで多く取り上げられている他、小学校や中学校の美術の教科書でも大きく紹介されている。
https://yukari-art.jp/jp/artists/yodogawa-technique/

 

マスキングテープの廃材をアート作品に。

今回制作したのは、マスキングテープの工場から出てくる廃材を使用した、高さ約1.6m、幅約3.5mの「象」をモチーフにした作品。さまざまな色や柄の素材をリズミカルに配し、カラフルで迫力のある作品に仕上がりました。


使用したのは、岡山県に本社を構える「カモ井加工紙株式会社」が製造している工業用のマスキングテープやデコレーション用の「mt(エムティー)」。もともとマスキングテープは、建築物の隙間を埋めるシーリング作業や塗装する箇所以外を汚さないためのマスクとして使用される工業用のテープですが、近年、雑貨などの装飾やラッピング、手芸などにも用いられるようになり、特に「mt」はそのバリエーションの豊富さから人気商品となっています。皆さんも一度はご覧になったことがあるのではないでしょうか。

テープの端の「ヘタ」の部分は製造工程上、どうしても出てしまう廃棄物なのだそう。


カモ井加工紙株式会社は、これまでにもマスキングテープの新たな活用のしかたを模索するうえで、アーティストやデザイナーとコラボレーションした取り組みを行っているそうで、この度、淀川テクニックに声がかかったと言います。

作品のモチーフとしたのは「アジア象」。マスキングテープの粘着剤の原材料となるゴムがタイで取られていることから着想したのだそう。完成した作品は、2021年10月に青森県弘前市にある重要文化財「旧弘前偕行社」で開催予定のマスキングテープの博覧会「mt博」にて展示されることになっています。

 

100種の工具を学ぶ「工具カルタ」。

今回プロジェクトに参加したのは、美術工芸学科のほか、こども芸術学科や情報デザイン学科、プロダクトデザイン学科などから集まった10名の学生たち。必ずしも立体造形の制作に長けた学生ばかりではありません。

さまざまな「ゴミ」を素材として作品制作をする淀川テクニック。自ずと使用する工具も優に100を超えるのだそう。そこで、工具の種類と用途を表した「工具カルタ」を使い、まずは楽しく遊びながら学習しました。

柴田先生によると「ゴミという素材を扱っているため、工具がどんどん増えていくんです。すると、学生に『○○を取ってきて!』と言っても『え?どれですか?』と分からないこともあって、みんなが工具を覚えた頃にはプロジェクトが終わっているなんてことも。そこで、最初に楽しく覚えるものが必要だなと思ったんです」。


実際に工具カルタを使った学生は、「普段は使わないようなさまざまな工具を使えるというのもプロジェクトに参加した理由のひとつでした。知らない工具がたくさんあって新鮮で、カルタで楽しく学ぶことができました」と言います。

また今回、学生たちと「工具カルタ」の種類を増やし、バージョンアップしたそう。「私はまだ一年生で、学科でイラストレーターやフォトショップを習いたての状態。その実践というか、課題感覚で楽しくカルタを制作しました。新たな知識を得て、それをすぐに活用した感じです」。

今年バージョンアップをしたことで「工具カルタ」は100種類に。これでもまだまだ厳選した数だそう。
淀川テクニックの活動をまとめた「ZINE」も制作した。

 

世界的アーティストの作品をともに作る喜びと使命感。

プロジェクトを振り返り、学生たちは「とにかく新鮮だった」と口を揃えます。柴田先生は「この位置にこの色のものを付けて」と具体的な指示はせず、「こういう感じで」と余白を残し、微妙な調整は学生に任せているのだそう。

「とにかく新鮮味がすごくあるプロジェクトでした。柴田さんは初めての学生にも、すごい手取り足取り細かく教えてくださる。でも、作品自体は自由に作らせてくれる部分もある。その差がすごい面白いなと感じました」。

象の骨組みに、針金やグルーガン(樹脂でできたスティックを熱で溶かし、再び固まることで接着する工具)でマスキングテープを取り付けていく。

 

ウルトラプロジェクトの特徴は、第一線で活躍するアーティストやクリエイターとの協働であるということ。最前線のクリエイションの現場に立ち会うことで、普通見ることができないプロの現場を体験することができます。淀川テクニックのプロジェクトに参加した学生たちも、アーティストとしての姿勢を肌で感じつつ、協働制作への使命感をひしひしと感じたようでした。

「アーティストと会う機会なんてなかったけれど、こだわりを持って作業しているんだなと驚きました。例えば、ちょっとした角度とか、そこまで細かいところにこだわるんだと。ただ配色を揃えて、きれいに並べてもダメだし、自然なランダムに並べていく、意図的に自然な感じを出すのが難しかったです」。


「アーティストの作品制作に関わらせていただいている以上、作品としてやっぱり良いものを作りたいし、素材のちょっとした向きとか色使いなどをを『こだわらなきゃいけない』ということではなくて、制作しながら自分から『こういうニュアンスを出したい』とか、自然に思わされるような活動でした」。

「これまで学科で取り組んできたものは、個人の課題や制作で、それは全部自分のもの。だから自分のやりたいようにやって、できなかったらできなかったで終わり。だけどプロジェクトは、みんなで柴田さんの作品を作るわけです。だからもっといいものにしなきゃと。『やらなきゃ』ではなくて、自分から『もっとこうしたい!』と思えるようになりました」。

 

“教えよう” という意識はない。

プロジェクトを通じて学生たちに学び取ってもらいたいこと、感じてもらいたいことを柴田先生に問うと、「あまり教えようという意識はない」と言います。

「プロジェクトですし、あんまり僕は “教えよう” ということは、正直あんまり思ってなくって、どうやって学生たちと連携して作品を作るかを考えています。ともに制作を進めながら、これまで僕自身が経験し、発見してきたことを、ちょいちょい話したりしています」。


「僕の場合、素材はゴミ。本来マスキングテープはマスキングテープとして使ったほうが一番良いんですね(笑)。だから、違う使い方というか、見方を変えないとダメで、普通はマスキングテープの穴の向きがどうのこうのみたいなことを悩んだりしなくて済むんだけど、造形作品となると穴の向きが良いとか悪いとか、全然違うことを考えないとダメだったりするんですよね。
見方を変えるというか、それは僕自身がいつもひしひしと感じていることで、そういうのを学生と一緒に、僕もみんなに『ここはどうしたらいいかな?』とか、相談に乗ってもらったりしていて、そういうことを一緒に悩んでもらう、考えてくれるという、そういう現場というのは面白いなと思うんです」。


「“教える” というよりも、僕は僕の作品を粛々と作るだけのこと。お金を払ってバイトをいっぱい雇えばできちゃうことではあるんですけど、やる気があって自分でやろうと思ってやってくれる人たちとプロジェクトの関係性でやるというのは、元気があっていいなと思うんです」。

 

mt博(mt expo)

会場 旧弘前偕行社
期間 10/8(金)~10/21(木)
時間 10:00~18:00
住所 青森県弘前市御幸町8-10 弘前厚生学院内(JR弘前駅より徒歩約20分、弘南鉄道 弘高下駅より徒歩約10分)

https://www.instagram.com/mt_maskingtape_event/

 

  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

    所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

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