京都文化日本語学校では学期毎の行事として、年2回「文化デー」という体験授業を開催しています。 “言語を学習する”だけではなく、“言語で文化や歴史など様々なことを学習する”ことを教育理念とする京都文化日本語学校にとって、「文化デー」はまさにそれを特徴づけるイベントです。
2005年頃から始まったこの「文化デー」。初めは京菓子の老舗「甘春堂」で和菓子作りをして、その後にお寺散策をするといった形で開催されていました。この外部の施設で体験授業をするというスタイルは2019年まで続きます。2008年にはすべての学生が受講するようになり、2010年からは教員が学内で事前学習を実施してから体験施設へ送り出すなど進化していきました。2019年度の後期には「茶道、和菓子作り、日本舞踊、型染友禅、清水焼絵付け、組紐、箔押」といったラインナップで留学生に幅広い日本文化を体験してもらえるようになりました。しかし、2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止に。今年度も校外活動として外部の体験施設にお願いして「文化デー」を開催することはできませんでした。そこで学内で開催することに。茶道、華道、和太鼓、着物の4つのプログラムを準備し、そのうちの2つは日本への入国が難しい学生が、自国にいながらオンラインで参加できるように工夫しました。
文化デー
日本の伝統的な文化を体験します。体験を通して、日本の文化と日本語への興味を深めましょう。
開催日 | 2021年7月14日(水) |
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■第1グループ | 9:00~ 9:40事前学習 9:40~11:00体験授業 |
■第2グループ | 11:00~11:40事前学習 11:40~13:00体験授業 |
■オンライン (和太鼓) |
14:00~14:40事前学習 14:40~16:00体験授業 |
■オンライン (着物) |
14:20~15:00事前学習 15:00~16:20体験授業 |
茶道 -五感で感じよう!
茶道、華道、和太鼓、着物のどの体験授業でも同じですが、体験の前にまずは事前学習が行われます。学生たちは京都文化日本語学校の担当の先生より、茶道の歴史や三千家(さんせんけ)などの説明を受けました。
その後、瓜生山キャンパス内にある「千秋堂」へ移動。緑に囲まれたとても美しい特別な空間です。その1階にあるお茶室「颯々庵(さつさつあん)」で裏千家 業躰(ぎょうてい)の北見宗樹(そうき)先生が出迎えてくださいました。畳の上に座る学生たちに「正座はしなくていいですよ」とお声がけがあり、ご挨拶の仕方やお軸(床の間に飾ってある掛け軸)の説明、お茶の心得などのお話がありました。そのあとは京都文化日本語学校の教員でもある三宅陽子先生のお点前(てまえ)です。普段、日本語のクラスで教えてくれている先生が着物姿でお茶を点(た)てるという、そのいつもとは違った雰囲気に学生たちは感心している様子でした。
さていよいよ学生たちも自分でお茶を点てる番です。順序としてまずはその前にお菓子をいただきます。この日のお菓子は銀閣寺の近くにある緑菴さんの「葛焼(くずやき)」でした。その名のとおり葛をつかった羊羹なのですが、葛という食材に馴染みのない国の学生もいます。「おいしい!」と顔をほころばせる学生もいれば、「よく味がわからない」と不思議そうに味わう学生もいました。北見先生にお茶の点て方を習い、いざ自分たちでお茶を点てます。こちらも上手に立てられる学生もいれば悪戦苦闘する学生も。先生方のフォローもあり、最後はみなさん美味しくお茶をいただきました。
華道 -お花をもっと美しく見せよう!
華道の体験授業では事前学習のあと、池坊華道会の徳持(とくもち)先生から華道の歴史や道具などのお話があり、どう活けたらお花が美しく見えるか、実際に目の前でお花を活けるデモンストレーションが行われました。花材はヒマワリ、フトイ、ソリダコ、スターチス、ナルコユリ。徳持先生は花の個性や活ける際のポイントなどを説明しながらも、あっという間に活けこみを完了。学生たちも同じ花材を使って挑戦します。
先ほど教えてもらった空間を作ることや前後左右のバランス、花の向きなどに気を配って進めます。徳持先生は一人ひとりの作品を丁寧に見て回り、個性を尊重しつつも「ここはこう奥行きを出すと広がりが出るね」などと手直しをされます。少し花の向きを調整したり、長さを短くすることで花の表情が変わります。どの学生にも良いところを褒めてアドバイスをされていました。
それぞれが思い思いの作品を仕上げ、お互いの作品を見比べたり写真を撮ったりと、完成した作品に満足した様子でした。
和太鼓 -日本のリズムを感じよう!
和太鼓では京都芸術大学 和太鼓教育センターの教授である髙木克美先生を講師にお迎えして、その歴史や和太鼓の材質、種類、部位の名前などのレクチャーを受けました。「和太鼓は古くからある楽器で、打てば鳴るのだけど音階はないので、もう一度同じ音を出すことはとても難しいです。今日は一緒に太鼓を演奏する楽しさを経験しましょう!」と髙木先生。まず最初に基礎的な打ち方を教えてもらいます。そして次は太鼓本体の説明です。大太鼓についてサイズや胴(どう)の素材、音を響かせるために胴の内側はどのように彫られているのか、太鼓をカットした見本や大太鼓に使われている革などの紹介がありました。
その後、学生は和太鼓研究センターのある学内施設「鼓堂」で実際に髙木先生と野田悟先生の演奏を聞きました。その迫力や圧倒的な響きに驚きを隠しきれません。身体に響く演奏を聴いて鼓堂は熱気と興奮した空気に包まれました。その雰囲気のまま次は学生全員の演奏です。さまざまな大きさの太鼓が10台以上セッティングされ、学生たちは先生の掛け声に合わせ一斉に太鼓を叩き始めました。先生の合図で順に隣の太鼓に移っては叩き続けます。汗を流し、息を切らせ、くたくたになったところで終了となりました。
学生たちは疲れた様子でしたが、その顔には笑顔が浮かんでいました。みんなで心を合わせて一体となる体験をした和太鼓授業でした。
着物 -帯にチャレンジ!
着物の種類や洋服との違い、着物を着る時に使う言葉などを教室で学んだあと、広い教室に移って体験授業が行われました。服部和子きもの学院の服部有樹子先生から簡単に着物についての説明があったあと、早速、帯のワークショップが行われました。今回の帯のワークショップは、学生の男女一人ずつがモデルとなり帯の手前まで先生に着付けてもらい、残りの学生たちがマネキンに着せられた着物の帯を参考に、モデルとなった学生に帯を締めていくものです。
マネキンが着ている着物の帯をじっくり観察しつつ、チームで相談し合って考えていきます。集中するあまり、うっかり母国語が出ると「日本語でね」とやさしく日本語学校の先生が声を掛けます。まさに日本文化と語学を体験授業の中で学んでいる光景でした。それぞれのグループが奮闘しながらも、何となく形になったところで答え合わせです。先生に正解となる帯の締め方を実演していただきました。
コロナ禍でも伝えたい!海を越えて繋がります。
今年の「文化デー」は、2019年度までの「学生たちを外部の施設に送り出す」というものから、「さまざまな準備をして学内で開催する」というだけではなく、新型コロナウイルス感染拡大により日本に入国できない学生たちに、それぞれの国に居ながら体験授業を受けてもらう、というとても難易度の高いものとなりました。しかし、昨年度に母国にいながら学べるようオンライン完結型プログラムを開発し、その運用をブラッシュアップしてきたおかげで、午後からのオンラインでの体験授業では問題なく順調に開催することができました。
4つの体験の中でも「動き」があり、遠隔で参加してもおもしろさが感じられるのではないかと、オンライン体験授業には和太鼓と着物が選ばれました。どのようにしたらオンラインで充実した体験をしてもらえるか、それは大きな挑戦でした。どちらもただ講義を受けるだけでなく、家にあるものを使って体験します。着物では帯や帯紐の代わりになるマフラーやバスタオルなど用意をしてもらって開始です。
最後に服部先生がご自身でお召しになっている着物の半衿(はんえり)をアップで見せてくださいました。それは祇園祭の長刀鉾の柄でした。この季節にしか着ることができないものなのだ、ということを日本語学校の先生が説明します。しかし“この時期にだけ着ることのできる特別なもの”ということが、なかなか伝わりません。そこで授業を見守っていた校長である村田晶子先生が、ゆっくりとお祭のことや鉾と言われるもののことを説明していかれました。モニターの中で不思議そうにしていた学生たちは、やがて理解ができたような、安心したような表情に変わっていきました。
こうして未入国の学生たちも対面で体験授業を受けた学生たちと同じように、海外に居ながら体験授業を受けたのでした。
伝わった!日本の文化。
茶道の体験授業を受けたショウ シキンさんは京都文化日本語学校に入学して2年。今回の感想を日本語で綴ってくれました。
日本に来て1年未満のチン キンユさんとコウ イケンさんは着物の体験授業で帯のワークショップを受けました。実はチンさんもコウさんも以前に着物を着た経験があったようです。でも着せてもらうのではなく、自分で着ることができるようになりたいと、今回、着物の体験授業を選択。初め簡単にできると思ったけど実際は難しかったようです。でも動画の事前学習を受けていたので、それを思い出して挑戦しました。コウさんが驚いたのは、自分たちが好きな柄の着物を選ぶのではなく、季節に合った模様や柄を選ぶこと。雨の季節ならアジサイの絵のものを着るように、季節に合わせて変える、それは新しい発見であり、季節を感じるという日本の文化に触れた体験となりました。
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