京都市東山区にある劇場「南座」は、歌舞伎発祥の地に建ち、400年の歴史と伝統を受け継ぐ松竹が経営する劇場。その入り口正面に掲げられる「一文字看板(いちもんじかんばん)」を本学の学生36名が制作し、設置されました。今回は、7・8月の2つの公演の看板を手掛けています。
本学では、産学連携プロジェクト(PBL型授業)の一環として、2018年より南座正面の一文字看板制作プロジェクトを実施。看板制作に携わる職人の減少を受けて、伝統技術の保存・継承を目的としてスタートしました。学生たちにとっては、プロの看板制作者でもなかなか味わえない貴重な経験となっています。
6作目・7作目となる本作では、2021年7月10日(土)から南座で始まる「松竹新喜劇 夏まつり特別公演」と7月24日(土)から始まる「坂東玉三郎 特別舞踊公演」の一文字看板を制作。そのサイズは、幅10.3m、高さ1.5mという巨大なもの。
「ニッポン画」を提唱する日本画家で、本学美術工芸学科准教授の山本太郎の指導のもと、総勢36名の学生が約2か月半をかけて仕上げました(制作期間:5月~7月上旬)。
景観の在り方や看板制作に関わる「京都市屋外広告物等に関する条例」を、京都市都市計画局 都市景観部 広告景観づくり推進課より指導を受け学ぶことで “京都らしさ” を再考しながら、特に色合いに工夫を施し制作しています。
担当の山本太郎教員は、
「景観条例に配慮しながらも華やかな色使いにするのは、デザイン的になかなか難しいことです。でも学生たちは、アイデアを出し合ってそれをクリアするデザインを考えてくれました。また、実際の制作についても、横幅が約10メートルという今まで経験したことがないくらい大きな作品を学生全員が協力して描きあげました。すべて手描きですが、印刷とも見間違うくらいのクオリティに仕上がりましたので、ぜひじっくりと見ていただきたいです」。
例年とは異なり、今回は7・8月に行われる2つの公演の看板を手掛けることに。各公演3班に分かれてデザイン案を立案し、南座にプレゼン。各ひとつの案に絞り込まれました。
では、まず「松竹新喜劇 夏まつり特別公演」の看板について、制作した学生たちにデザインの詳細を伺いました。
「どういう文章を入れるのかなど、公演の基本的な情報を南座からご提供いただき、デザインに落とし込んでいます。今回は “夏まつり特別公演” なので、夏まつりらしさを出すことにしました」。
「夏まつりということで、ヨーヨーや金魚などを配して、涼しい感じを出すために背景を青色にしています。また、まつりの “厄除け” の意味を込めて、背景には “鱗文様” が使われています。蛇などの脱皮を連想させる文様で、厄を払うという意味があるんです。また、端のほうにあるのは “流水文様” といって溜まらずに流れていく清らかさを表すものですし、金魚は幸福を呼び寄せる意味があるんです。そうして、さまざまな文様を関連させてデザインしています」。
「やはり大変だったのは、グラデーションを付けたところですね。金魚のモチーフもヒレの先端にかけてグラデーションになっているのですが、先にモチーフに色を塗って、最後に背景の色をグラデーションにしていったんです。すると、最初に描いていたモチーフがグラデーションを塗るときに少しかぶってしまったり、そしてそれを修正するときにもグラデーションを直していく必要があるので、そのあたりがとても地道な作業でした」。
続いて「坂東玉三郎 特別舞踊公演」について。こちらは比較的シンプルなデザインで、優美で高貴な色合いのグラデーションが美しい看板に仕上がっています。
「雅さと高貴さをイメージしたデザインに仕上げました。紫は高貴な色ですし、坂東玉三郎さんのイメージ的にも紫が似合いそうでしたので。中央にタイトルを配置し、両端に7月と8月公演の演目を縦書きにして入れた、とてもシンプルなデザインです。とにかく見やすさを意識して、パッと見て情報が入りやすい看板を目指しました。
端に行くに従って公演名がわかりやすく見えるよう、文字とのコントラストをつけるために背景を薄い色にしています。景観条例に配慮しつつ、真っ黄色ではなく、上品なクリーム色を目指して配色にこだわりました」。
「“流水文様” は、歌舞伎という伝統芸能が清らかに流れていくような表現で、涼し気な印象も与えられたらいいなと。時代が流れていっても、これからも伝統芸能である歌舞伎が続いていくことをイメージして描きました。
金箔は、歌舞伎の華やかさをイメージしています。とはいえ派手すぎず、上品に華やかさを演出できるよう、流水紋と一緒に舞い散る感じを表現できたらいいなと考えました」。
「難しかったのは、文字の配置です。今回のデザインは余白も多く、シンプルかつ上品なきらびやかさを表現したかったので、ちょっとしたズレも気になってしまうんです。その精度をどんどん高めていく作業がとても難しかったです。シンプルな分、背景のグラデーションも粗が目立ってしまいます。10メートルの看板を4つに分割して描いているのですが、制作場所の都合上、なかなか一つに合わせて全体を見ることができなくて、その点がとても難しかったです」。
「松竹新喜劇 夏まつり特別公演」はすでに公演が終了し、現在は「坂東玉三郎 特別舞踊公演」が掲出されています。8月公演の千秋楽(8/24)まで設置されていますので、お近くにお越しの際は、その優美でダイナミックな看板をぜひご覧ください。昼と夜とでまた違った表情をみせてくれますので、ぜひご覧ください。
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