終わりと、始まり。これらが分かちがたいものであることを私たちに思い出させる春の季節が、今年も京都は瓜生山学園にも到来したことを感じる今日この頃。
その本学の卒業式と入学式との間のこの時期に、ひとあじ変わった「卒業制作展」が開
催されることをご存知でしょうか?
ご紹介するのは、大学生活2年目を終え、進級を控える空間演出デザイン学科の学生有志20名が企画した展覧会 兼 展示販売会「はーふ卒展2020 にのつぎ」です。
「はーふ」な状態を卒業するために
「空デ2年、卒業します」を合言葉に、有志で集った学生たちが主体となってゼロから企画。大学生活の「半分」を終えるまでに学んできたことを作品制作および展覧会企画、展示という形で発揮し、残り半分となる学生生活における制作へ繋げることを目的とする展覧会です。
ちょうど成人を迎える学生たちが手がける本展は、残り半分の学生生活に入る直前の「通過儀礼」のようなイベントと呼ぶこともできるかもしれません。2年生という学生生活の折り返し地点を、「大学生としても、デザイナーやアーティストとしても半人前、半熟」=「はーふ」な状態と捉える主催者たちは、その状態にある「今の自分たち」にしかできないことを模索しながら、その「はーふ」な状態を卒業することを試みます。
「はーふ展」の初企画は、2018年(開催は2019年の冬)でした。もとは同学科の先輩たちによる企画趣旨を受け継ぐ形で、今回、約1年ぶりの開催となります。
会場入り口に吊るされたメインヴィジュアルの提灯は、2018年度企画の「はーふ卒展」から受け継がれたもの。「はーふ卒展2018」主催者が、提灯職人の方に作ってもらったそう。少し古くなり黄ばんだ丸い提灯は、ぽっ、と明かりが灯っているようにも、あるいは「半熟」卵の黄身のようにも見えます。
「はーふ卒展」の今年のテーマ “にのつぎ”
企画を主宰した学生たちが大学生活の半分を送った昨年2020年は、世の中すべてが未曾有の出来事に直面し、混乱のさなか様々な行事や言動が「にのつぎ」にされました。美術館や舞台公演の一時閉鎖や入場規制など、自明のことながら芸術もまたその影響を強く受け、それは2021年に突入した今もなお続いていると言えるでしょう。
けれども、このように閉塞した状況だからこそ、「やり残したことがあったままでは、先に進めない」「やりたいことを、いつまでも二の次にしたくない」という強い思いが生まれました。今回のテーマには、ネガティブな意味合いというよりもむしろ今の状況を受け止めて前向きなメッセージを込めたと本展運営代表の鈴木せつかさん、副代表の中井ひなたさんは話します。
2020年、20歳になった20名の大学2年生。奇しくも「2」に縁(ゆかり)のある主催者の学生たちが、これまで「二の次」になってしまい、やりたくてもやりきれなかったこと、挑戦できなかったことに挑戦し、ケリをつけること。そして、自分たちの力で「2の次」という新たな世界へ進もうとすること。本展のテーマには、そのようなメッセージが込められているのです。
それは、先行き不透明な現状に戸惑い、不安を感じながらも手探りで生きてゆかねばならない私たちに、たしかな、そしてあたたかな明かりを灯してくれるような試みであるように思えます。(メインヴィジュアルの提灯が、とても暗示的なものに見えてきます…。)
そうした試みに応えるかのように、展覧会開催のためクラウドファンディングを始めた「はーふ卒展」のもとには、このご時勢にも関わらず、わずか数日で10万円以上の支援が集まりました。
「はーふ卒展2020 にのつぎ」クラウドファンディング特設ページ
https://motion-gallery.net/projects/half_2020
鈴木さんによれば、展覧会のコンセプトを練り上げ、作り手だけでなく観る人に伝わることを目指してクラウドファンディングを始めたとのこと。集められた資金は、会場費や制作費だけではなく応援してくれた人たちへのリターンとしてグッズ制作費などにあてられます。そのための最終目標金額である50万円へ向けて支援の募集は継続しており、500円や1000円と少額からでも支援できます。
展覧会を開きたいという熱い思い
一方で、クラウドファンディングをはじめ展覧会開催に至るまでの過程では、多くの苦労を伴うことにもなったのだとか。
これまでにリーダーを務めたり展示をした経験のない状態で、初めて展覧会を企画するにあたっては未知の部分が多く、「はーふ卒展2018」企画の先輩たちに積極的に相談しながら制作を進めていったそうです。そんな日々を、鈴木さんは「自分との闘い」だったと振り返ります。展覧会を開きたいという熱い思いと、先輩たちからのときに鋭い指摘を受け入れ改善していこうと努める懸命さとが、展覧会取材を通して伝わってきました。
副代表の中井さんは、主催メンバー全員が大学の課題と並行して展覧会準備を進めることになるので、時間的な制約を常に感じながら作業を進めていたと話します。また、そのために運営のほか企画や広報、アーカイブといった作業班に分かれたメンバーの動向をまとめることが企画初期段階では難しく、その点に苦労したとのこと。
それでも展覧会が近づくにつれて大きな変化が訪れ、班の区分を問わずに全員が協力して準備を行うようになり「バラバラだった状態が、ギリギリになって固まった」と言います。
展覧会開催直後にあらためて感じたこととして、鈴木さんは「(開催前日の)20時ギリギリまで搬入していたのですが、展示をするメンバーの1人の作品をみんなで手伝っていて。そのとき、みんなの気持ちや行動が固まって、すごく盛り上がったと感じました。搬入が終わってまだ誰もいない会場でそれを思い出しながら、しみじみとしていました」と語ります。
学生たちが力を合わせて作り上げた展覧会の特徴は、中井さんによれば「とにかく妥協を一切せず、納得するまで制作をしていること」。有志だからこそ、妥協をしない雰囲気が作品にもそのまま打ち出せるのかもしれません。代表のほかにお話を伺った出展者たちのコメントも、「完璧に作り上げたいという思いが強い」、「今できることを受け入れてできることをやってみようと思った」、「今だからこそ制限なく自由にやりたいこと、好きなことをやれる」、「この展示をきっかけに身近な社会問題について考えて欲しい」と、多様かつエネルギーに満ちたものばかりでした。
広報班を中心に主催メンバーたちの大きな協力を得て、展覧会開催直前まで何度も修正を重ねて作られたポスター。「ちがう」と感じたら、たとえ時間がなかったとしても諦めずに作り続けてできたものです。受け継いだ提灯をそのまま写真で掲載するのではなく、デザインとして起こし直したところにもこだわりが感じられます。
「はーふ」であることの楽しみが、しっかりと詰まった作品たち
無事に開催を迎えた「はーふ卒展2020 にのつぎ」会場のMEDIA SHOP / Galleryには、出展者たちが「にのつぎ」のテーマからそれぞれ考え制作した作品が陳列されています。会場は1Fと、MEDIA SHOPを通り螺旋階段を上った2Fで構成されており、おおまかにグッズショップ・ワークショップスペースと作品展示スペースとに分かれています。会場を回って、作品を一つずつ観てみましょう。
【1F】
グッズショップ。メインヴィジュアルを印刷したトートバッグや図録のほか、展示作品にして商品でもある「はーふ」をコンセプトに製作されたグッズが並ぶ様子が目に楽しいショップ。自分で選んで組み合わせる半分ずつの靴下や、キャラクターのステッカーなど、アイデアに満ち溢れたグッズは作品を作るだけでなくそれを人に伝え普及させるための工夫がうかがえます。
ワークショップスペース。大学の講義で学んだ「パラパラマンガ」づくりをワークショップで展開。参加者たち全員で一つの完結した作品を作るために、隣に座った人との文脈を考えながら繋がるように描くところがユニーク。1ピースの完結し閉じられているイラストが、同時に誰かの1ピースと繋がりそれが物語を成すアイデアは、不思議とコロナ禍における私たちの生活の理想形態にも重なっているようにも…。
【2F】
半分は展覧会場として鑑賞でき、もう半分はセレクトショップのように楽しめる。あるいは、半分は作品鑑賞者でありながら、もう半分は自分で作品を作ることもできる。まさに、「はーふ」のいいとこ取り。「はーふ」であることの美味しいところや楽しみが、しっかりと詰まった展示です。
けれども、たとえば茹でられている卵の「半熟」である時間がわずか一瞬であるように、気づけば春があっという間に過ぎ去ってしまうように、始まりと終わりはほとんど同時にやってくるもの。本展覧会は、4月4日までとたいへん会期が短いのです。そこがまた図らずもコンセプチュアルであるような、少し寂しいような、「はーふ」という一瞬を形として観て、体感することのできる展覧会です。
はーふ卒展 2020 にのつぎ
主催 |
京都芸術大学 空間演出デザイン学科 2年生 有志 |
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会期 | 2021年3月30日(火)〜4月4日(日) 12:00〜20:00(最終日のみ12:00〜17:00) |
場所 | MEDIA SHOP/ Gallery |
公式HP
https://half2020web.wixsite.com/kyoto-exhibition
クラウドファンディングページ
https://motion-gallery.net/projects/half_2020
Instagram
https://www.instagram.com/half__2020/
(文:川名佑実)
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