REPORT2021.03.29

アート

ヤノベケンジ「渡月茶会 2021年宇宙の旅」 ― 疫病を超えてきた京都の歴史とミクロとマクロの宇宙を渡る

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  • 京都芸術大学 広報課

嵐山に突如現れた「渡月藻庵」

2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言が発出され、多くの文化芸術活動が影響を受けた。特に2020年度に計画予定であった文化事業も、軒並み中止や延期となりアーティストも大きな損害を被った。その代わり、文化庁や地方自治体は、新型コロナウイルスに影響を受けたアーティストのために、様々な文化支援事業を実施することになった。「三密」を回避するために企画されたオンラインによる取り組みは、現地に行くことが必須であった文化芸術活動に新たな可能性を拓いた側面もある。

なかでも、京都・まちじゅうアートフェスティバル実行委員会(構成:京都市等)が企画したオンライン茶会「光冠茶会(ころなちゃかい)」は歴史と伝統が息づく創造都市、京都ならではのユニークな試みである。そこでは、中村壱太郎(歌舞伎俳優)や岡田暁生(音楽学者)、黒嵜想(批評家)、宮永愛子(美術家)らを含む多様な背景を持つ文化人10組が「席主」となって茶会が行われた。

ヤノベケンジは「渡月茶会 ─ 2021年宇宙の旅」と題し、自給自足ができる移動型住居のモデルを「茶室」に見立て、ミクロとマクロの時空間を旅する茶会を開催。宇宙開発の分野でも注目が集まる、食糧やエネルギー利用が可能な「藻類」を用いた特製菓子とともにバーチャルな宇宙旅行に誘い話題となったので、その詳細を報告したい。


3月20日に開催されたオンライン茶会「渡月茶会」に先立ち、嵐山に設営された「渡月藻庵」は、ドーム型の茶色い外壁に黒い角が放射状に付けられており、緊急事態宣言が解除され、少しずつ戻りつつある観光客の耳目を集めた。現実空間に突然映画のセットのような物体を設営して、その場を虚構化・物語化・映画化(シネマタイズ)してしまうのは、ヤノベのプロジェクトの特徴でもある。観光客によって「謎の物体」として、SNSにも多数の写真がUPされ、1.7万以上の「いいね」が付けられたり、類似画像を付けたメンションが続いたりするなど、いわゆる「バズる」ことになった。その独特のフォルムから「ヤノベケンジ」の作品と言い当てているユーザーも現れていた。

微生物の骨格データが彫り込まれた柱「生命の樹」や「渡月藻庵」看板はウルトラファクトリーのデジタル機器により造形されている。また、藻庵へ導く飛び石は庭師「梅鉢園」の職人により造園された。

 

嵐山に仮設の「茶室」を設営したのには理由がある。「渡月藻庵」の基となるプランは、自然災害や感染症が流行する時代に生き延びるための移動可能な住居《藻バイルハウス計画》であり、2020年10月、京都市京セラ美術館で開催された「KYOTO STEAM ―世界文化交流祭―」の一環である「国際アートコンペティション スタートアップ展」で発表されたものだ。自然災害と感染症などの災害が一度に来たとき、分散することで「密」になることを避けながら、個々で食糧やエネルギーを確保しないといけない。「藻類」にはそれを実現できる可能性があるのではないか。「藻類」を培養して、食糧とエネルギーを確保し、自給自足できる移動可能な住居を構想したのだ。それは将来、宇宙に行く際にも生命を維持するモデルになる。

嵐山も「平成25年台風第18号」によって大きな被害に見舞われた。そのような災害時にも有効な住居をイメージすると同時に、渡月橋にちなんで宇宙旅行をイメージした茶会を企てたのだ。

「国際アートコンペティション スタートアップ展」で発表された《Seed of Life(生命の実)》(撮影:顧剣亨)
危機の時代を乗り越える家の構想《藻バイルハウス計画》(撮影:顧剣亨)
(撮影:顧剣亨)

 

嵐山を訪れたプロジェクトの学生に向けヤノベケンジより、作品前でその深い物語が語られた。

 

「命の形」をたどる旅

しかし、そこに至るまでは紆余曲折がある。「国際アートコンペティション スタートアップ展」は、京都市京セラ美術館のリニューアル開館に際して、昨年3月末に開催される予定であった。最先端の研究開発を行う企業とアーティストとのシナジー効果を狙ったこの展覧会で、ヤノベケンジ率いる京都芸術大学ウルトラファクトリーは、微細藻類の研究開発を行うバイオベンチャーの株式会社SeedBank、木元克典 (海洋開発研究機構)、仲村康秀 (島根大学)と組んで、生態系を支えるミクロな微生物、海洋プランクトンの世界に没入する《Seed of Life(生命の実)》というインスタレーション作品を制作した。《Seed of Life(生命の実)》は、ヤノベが作ったドームの内部に、仲村が北太平洋で採取した放散虫やフェオダリアの骨格の3Dスキャニングデータを基に、大野裕和(美術工芸学科2年生/現・3年生)が制作したバーチャルリアリティ映像によって現代から太古の海洋生態系の世界に潜っていき、「命の形」と「命の源」をたどる、という仕掛けであった。しかし、当初予定していたVRゴーグルによる視聴は新型コロナウイルスによる感染拡大により変更され、内部にプロジェクターで投影する形に変わった。

VRゴーグルを装着した大野裕和 (撮影:顧剣亨)


ドームは、ヤノベが2009年に共通造形工房ウルトラファクトリーの制作環境を初めて使い学生たちと共同で制作した彫刻作品《ULTRA -黒い太陽》の外壁として使われたものだ。《ULTRA -黒い太陽》の内部は、テスラコイルという「共振変圧器」が取り付けられており、強力な放電によって人工的な雷、プラズマを発生し、稲光が走り雷鳴が轟いていた。それを超越的な「彫刻」としたのだ。実は、《ULTRA -黒い太陽》は、岡本太郎の《太陽の塔》の背面にある陶板で作られた太陽の図像「黒い太陽」から名付けられている。今回は、《太陽の塔》の内部にある「生命の樹(The Tree of Life)」のさらに基となる、「生命の実」をイメージしている。実際、《太陽の塔》を含むテーマ館の入口通路「カオス地の道」には、雷の演出がなされ、無機物から有機物に変わる空間が地下展示の最初に設けられていた。

《ULTRA -黒い太陽》(撮影:シュヴァーブ・トム)


放電を受け止める役割でもある《ULTRA -黒い太陽》のドームは、建築家・思想家のバックミンスター・フラーが考案した、ジオデシック・ドーム (フラー・ドーム)の一種であるフライアイ・ドームを用いており、「穴」の部分に巨大な角が付けられた。それ以降、ヤノベのプロジェクトには、様々な形で登場しており、ウルトラファクトリーの歴史を物語る作品でもある。今回、デジタル機器が増設されたウルトラファクトリーの最初の成果としてアナログ+デジタルが融合する作品となって召喚さたことは興味深い。

放散虫やフェオダリアなどの《Seed of Life(生命の実)》の映像で使用されたプランクトンの骨格は二酸化ケイ素(ガラス質)で作られおり、極めて複雑な立体構造をしている。19世末・20世紀初頭には、ドイツの生物学者のエルンスト・ヘッケルが顕微鏡で詳細なスケッチを描き、アール・ヌーボーやユーゲントシュティールにも多大な影響を与えた。後に、バックミンスター・フラーも放散虫の複雑な形状と自身のドームとの類似に驚いたという。《Seed of Life 生命の実》に使われた《ULTRA-黒い太陽》の外壁も、株式会社SeedBankの社長の石井健一郎よると、珪藻の一種、Leptocylindrus danicusの休眠胞子(Resting sport:休眠期細胞の一種)と酷似しているという。つまり今回、巨大化したプランクトンの骨格、「命の形」の中に入り、ミクロな生命の宇宙に没入する仕掛けとなったのだ。

提供:仲村康秀(島根大学)


放散虫などのプランクトンの微化石は地層となって体積しており、地質年代の特定に役立っている。また、石油などの化石燃料として使われている。現在は、プラスチックや放射性物質など人工物によって、新たな地質が誕生していると言われ、「人新世(アントロポセン)」と命名されている。そのような人間の活動が、気候変動の引き金となり、急速に地球環境の変化を及ぼし、生態系が危機的な状況を迎える中、「生命の形」をもう一度、見直そうという試みになるはずだった。

 

《Seed of Life 生命の実》から《藻バイルハウス計画》へ

「はずだった」というのは、京都市京セラ美術館で3月末から開催される予定が、新型コロナウイルスの感染拡大で内覧会のみ実施された後、中止されたからである。その後、10月に展示場所を1階の新館「東山キューブ」に変えて開催されることになり、新たなプランを追加することにしたのだ。

ヤノベらは、プランクトンを含む「藻類」の可能性に注目し、《藻バイルハウス計画》として、災害時や過酷な環境下でも自給自足できる移動可能な住居のプランに展開させたのだ。「藻類」は、培養することで食糧にもなるし、エネルギーにもなる。特に、株式会社SeedBankは、これまで培養が困難とされてきた珪藻類の休眠胞子を分離・抽出し、効果的に分離・培養する技術を世界で初めて確立しており、「藻バイルハウス」の実現もあながち夢ではない。大野は、極地で「藻バイルハウス」を使ってサバイバルするイメージ映像を制作し、ヤノベは、「藻バイルハウス」を都市の中に組み込み、藻類が光合成を行い、二酸化炭素を吸収し、酸素を発生する循環型の都市の模型を制作した。

「藻バイルハウス」は、鴨長明が日本三大随筆の一つ『方丈記』を書いた庵として知られる「方丈庵」にもヒントを得ている。「方丈庵」は京都市の郊外、日野山(京都市伏見区日野町)に作られた一人用の庵で、一丈四方(約3メートル四方)の小さな建物は解体して、大八車のようなもので運ぶことができたと言われている。まさに移動型の住居である。鴨長明は都市から離れて、「方丈庵」に住みながら『方丈記』を記したのだ。『方丈記』は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて起こった五大厄災、すなわち「安元の大火」「治承の辻風」「福原遷都」「養和の飢饉」「元暦の大地震」が克明に記述され、日本で最初の厄災のルポルタージュとも言われている。まさに、リーマンショック、東日本大震災、新型コロナウイルスの感染拡大が続く現代と類似した状況だといってよいだろう。そのような、先の見えない「末法」のような状況の中で、生きる希望となるようなプランが必要だと感じたのだ。それが《藻バイルハウス計画》であった。

それを見た「光冠茶会」実行委員会のディレクターが、《藻バイルハウス計画》を展開する形で、屋外に設営しオンラインで茶会をすることを提案したのだった。そこで京都市内の様々な候補の中から、嵐山が選ばれた。桂川嵐山地区は、「平成25年台風第18号」によって甚大な災害に見舞われたことでも記憶に新しい。土木技術が未発達であった平安時代にはもっと頻繁に氾濫していたことだろう。また、嵐山の地質は、チャート(角岩)と言われる放散虫などの殻や骨片(微化石)が海底に堆積してできた岩石であり、約2億年前にプレートの動きで移動し、大陸とぶつかって押し上げられて出来たものだと言われている。まさに、微細藻類の「命の形」の上にのっているのだ。

また、嵐山の代名詞ともいえる「渡月橋」という名は、鎌倉時代に亀山上皇が渡月橋の上を月が移動する様子を見て、「くまなき月の渡るに似る」と述べたことに由来すると言われるが、実際に月面に「藻バイルハウス」が建てられる未来を想像して、「渡月茶会」と名付けられた。嵐山に建てられた「渡月藻庵」で、ミクロな微細藻類の生命体の宇宙の中に入り込みながら、マクロな宇宙に思いをはせるという、ミクロとマクロな宇宙を旅する茶会が企図されたのだ。

千利休が確立させた茶道は、もととも僧侶であった村田珠光の「わび茶」が源流とされる。最初に『維摩経』に出てくる「方丈」は、非常に小さな空間であるが、全宇宙を内包しているとされ、禅や茶道もまたその精神を受け継いでいる。その意味では、「渡月茶会」は突飛なように思えるが、茶の精神を正しく継承しているといえる。

 

オンラインによる大茶会

さて、茶会をするに際して、参加者には予め「茶箱」が送られた。茶箱には、会記に加えて、老松製特製菓子(主菓子1種、干菓子2種)、抹茶(小山園「清浄の日」)、ヤノベケンジ直筆特製ミニ掛け軸(エディション番号入り)が同封されている。茶会の準備は、自身で行い3月20日(土・祝)15時からの映像配信を見ながら、一緒にお茶を愉しむという仕掛けだ。

 

茶会記録映像は、映像作家 青木兼治の監督で制作された。静謐な京都の時間があたかも映画の様に切り取られている。全編63分は有料配信中。

配信が開始され、嵐山を渡る人力車、桜が咲き始めた山々、穏やかな川の流れが映し出され、嵐山の突如現れた「渡月藻庵」に太田達が現れ、「露地」に打ち水がされる。そして、喚鐘が打ち鳴らされ、席主のヤノベも登場し、共に飛び石を渡って「躙口」から中に入り、いよいよ茶会が開始される。

席主は、ヤノベケンジであるが、ヤノベがお茶を点てることはできない。半島(はんとう)として、「有職菓子御調進所老松」の主人であり、茶人でもある太田(茶名:太田宗達)が担った。太田は、今回の「渡月茶会」をイメージして、特製の菓子も制作している。太田が茶を点て、ヤノベがそれを味わいながら進行していく。ヤノベは席主でありつつ、正客(しょうきゃく)の役割も果たすことになる。画面越しで、参加者も相客(あいきゃく)として、一緒に味わうのだ。画面越しに菓子と茶をそれぞれが用意して、100名もの人々が参加する大茶会である。

主菓の形は、「渡月藻庵」に似せており、味も不思議な味わいがある。ヤノベも丁寧に切り分けながら味わう。次に濃茶が重厚な黒い茶碗に注がれ差し出される。ヤノベも飲んだ後、手触りと形をじっくり眺める。次に出された干菓子の形は、薬のカプセルに似せている。薄茶は、濃茶の茶碗とは対極的な赤と金の茶碗に注がれた。ヤノベはそれらを含みながらしっかりと味わったようだ。おおらく、画面越しに参加した方々もそうなのではないだろうか。


その後、ヤノベと太田が、「渡月茶会」をテーマに語らう場が設けられた。太田は、お菓子はアートともいえるが、調理は物理、レシピ配合は化学であり、サイエンスと融合したものなので、今回の企画と親和性があると指摘する。今回の「藻類」が人類を救うというテーマに合わせて、主菓子「胚珠」と干菓子のカプセル型菓子にクロレラ、煎餅にユーグレナを入れたと説明した。実は、太田がはかつて大学・大学院で応用微生物学を修め、3年ほど電子顕微鏡を眺め続けた過去があり、微生物が変異してどんどん形が変わることを間近で感じたという。さらに、藻類の光合成から得られる電子の差から発電も試みたというから、偶然の出会いとは思えないほどのシンクロニシティである。

また、濃茶の茶碗は、樂家五代目を継いだ宗入(尾形光琳の従兄弟)によるものであり、「くろ鬼」と名付けられた色彩がなく無骨で力強い作品だ。それに対して薄茶の茶碗は、世界的に評価される現代陶芸作家の桑田卓郎によるもので、金と赤が目立ち「あか鬼」と名付けられている。鬼の力、あるいは、毘沙門天、護法童子のよう鬼に強い神仏の力でパンデミックに立ち向かうという意味を込めた。また、今回、大覚寺や法輪寺など、空海と縁が深い地にちなんで、お湯を注ぐために密教法具の浄瓶が使われた。法輪寺の虚空蔵菩薩は十三まいりで知られ、虚空(宇宙)を表し、サイエンスに通じる知恵の仏でもある。もとは入植した秦氏が信仰していた「葛野井宮」があり、氾濫する大堰川(保津川・桂川)を防ぐために「葛野大堰」を作ったとされる。後に空海の高弟の道昌が、大堰川の堤防を修築し、「法輪寺橋」を架設した。その後、亀山上皇の発言で「渡月橋」という名称に定着したという経緯がある。さらに、お菓子やお茶を運ぶ方を、陰陽道で駆使される「式神」に見立てるなど、お菓子だけではなく、茶碗や茶道具、役どころも今回の企画を汲み取り総合的に演出されている。

「くろ鬼」
「あか鬼」


京都は世界でも珍しい1200年続く都市で、同時にそれは疫病との戦い、エピデミックの歴史であり、疫病の原因となる怨霊を鎮めるための御霊会として始まった祇園祭のように、桂に近い菅原道真を祭神とする北野天満宮でもかつては北野御霊会があった。昨年、新型コロナウイルスの終息を願い、応仁の乱で途絶えて以来、550年ぶりに再興されたという。北野天満宮には、火之御子神社があり、火雷神(からいしん)が祀られている。さらに、桂は月にちなんだところであり、天照大神の勅命を受けた月読命が豊葦原の中国に天下り、湯津桂に立ち寄った伝説から付けられており、月読命を祀る月読神社があるという。京都と疫病の歴史、桂と神話や宇宙とのかかわりが次々に明らかにされていく。

いっぽうヤノベは、床に掛けられた三幅の掛け軸の意味を説明した。左には「いのちのかたち」をテーマに龍と雷、中央には「藻と溶ける」と書いて女の子が菓子を食べる様子、右には「くまなく月に渡るに似る」と書いて「渡月藻庵」が宇宙に飛び立つ様子を描いている。左は、ドーム内にはテスラコイルが付けられており、放電によって形が生まれていたこと、かつてアメリカの化学者のスタンリー・ロイド・ミラーが生命発生の実験に放電を入れていたこと表し、中央は、藻の形に似た茶室に入り、藻を体内に入れることでミクロの世界に入ることを表している。そして右は、実際に「藻バイルハウス」が月開拓や月旅行に使われる未来を表していると述べた。さらに、ヤノベは、電子顕微鏡から見るミクロの世界は宇宙そのものだと述べ、太田も深く同意する。ウイルスが生物かどうかは意見が分かれるが、藻類やウイルスといったミクロの世界の中で様々なものが共生し、我々が生きているのは確かだろう。

その間の背景には、二人の話題に合わせて、映像が次々と現れていく。《Seed of Life(生命の実)》で使われた深海の世界、《藻バイルハウス計画》で使われた極地の世界、そして月面の世界。それらは、大野が新たにCG制作チームを結成して制作した。大野も、三部作のようになったこのプロジェクトによって大きく成長し、さらに後輩を育て率いるディレクターの役割を担うようになった。

大野裕和による絵コンテ。

 

 

太田は、茶人を表す数寄者(すきしゃ)とは、数を寄せるアーティストであり、フランスの人類学者、クロード・レヴィ=ストロースの言うブリコラージュと同じなのではないかという。そして茶会は、お茶やお菓子、茶道具、場所、自然環境、参加する人々などが一堂に会する「一期一会」のインスタレーションなのではないか、というのだ。それがこのコロナ禍の中で、オンラインとはいえ、大茶会として実現された意味は大きいと述べる。

ヤノベは、現在では生命の発生は、彗星から必要な分子がもたらされたと言われていることを指摘し、そういう意味では、「渡月草庵」は、まさに『2001年宇宙の旅』に出てくるモノリスのようなもので、外宇宙から来た生命の始まりを象徴しているかもしれないという。そして、このコロナ禍で閉じこもっている意識を、月世界の先まで飛ばし、外宇宙との出会いから生まれた私たちの生命の里帰りを促すようなイマジネーションが必要だと述べた。さらに、ルネサンスにみられるように、パンデミックの後に新しい文化のムーブメントが生まれている。そのような未来を創っていきましょうと呼びかけた。最後に、嵐山に建てられた「渡月草庵」に見に行くことができない人でも、ARによって自宅に呼び込むことが可能だと述べ、画面越しにQRコードを提示した。これもデジタル化したウルトラファクトリーの成果でもある。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、大きな影響を受けた「生命の実」を巡る旅は、思わぬ形で未来を指し示す「藻バイルハウス」「渡月草庵」に変異していった。この旅がどこまで続くのかわからないが、一級のサイエンティストや文化人を巻き込み、若いアーティストが育っていることは確かである。それらが新たなアート&サイエンスの力になり、生態系を守り、宇宙を開拓する未来をもたらすことを期待したい。

 

(文:三木学)

光冠茶会

光冠茶会は、新しい芸術体験をお届けするオンライン茶会です。 特色のある会場から趣向をこらしたおもてなしと、席主が選んだお茶等を詰め合わせた茶箱で、早春の京都を体感してください。

会期 2021年2月23日 (火) 〜 2021年3月31日 (水)
会場 オンライン
主催 京都・まちじゅうアートフェスティバル実行委員会(構成:京都市等)
企画 京都芸術センター
アドバイザー 千宗室(茶道裏千家家元)
総合監修 森口邦彦(染色家・重要無形文化財保持者)

https://corona-chakai.kyoto/

 

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