REPORT2021.02.16

プロデュースデザイン

春を届けて七十年。 ― 「第70回 長浜盆梅展」展示空間をプロデュース!

edited by
  • 京都芸術大学 広報課

関西に春を告げる風物詩「長浜盆梅展」。
会場内に展示された数々の盆梅が織りなす壮大で優美な姿は、目を見張るものがあります。

本学がこの長浜盆梅展の空間プロデュースに携わって3回目となる今年は、空間演出デザイン、美術工芸、キャラクターデザイン、こども芸術、情報デザイン、文芸表現、環境デザインと、7学科に渡る横断型のプロジェクトチームとして、学生11名が各々の専門分野からの知見を持ち寄り、長浜盆梅展(慶雲館 新館)の空間ディレクション提案と展示備品の制作を担当しました。

今年は第70回目という記念すべき節目の年として、切り絵作家の早川鉄兵氏ともコラボレーション! “自然” をテーマに、盆梅が持つ雄大さと切り絵の繊細さが融合するフォトジェニックな空間を構成しています。

 

長浜盆梅展

長浜盆梅展は昭和27年からはじまり、歴史・規模ともに日本一の盆梅展。「盆梅」とは鉢植えの梅、つまり梅の盆栽のことです。長浜盆梅展は開花時期に応じ、約300鉢の中から厳選された盆梅90鉢をずらりと展示。中には、高さ3m近い巨木や、樹齢400年と伝わる古木もあり、その壮大な姿に圧倒されます。

 

 

今年はコロナ禍ということもあり、プレゼンテーションはオンラインでの実施となりました。オンライン上でも、70回目という記念の年に相応しく、盆梅の魅力を最大限に引き出した展示空間となるよう、学生たちはこれまで以上に思考錯誤の様子でした。

展示レイアウトのイメージはイラストで。
切り絵と盆梅の双方が引き立つコラボレーションを考えます。

また今年は、滋賀県米原市を拠点に活動され、動物の切り絵で著名な切り絵作家である早川鉄兵さんともコラボレーション。長浜観光協会のみなさま、早川さんと打ち合わせを重ね、早川さんが生み出す切り絵と自然物である盆梅がダイナミックに融合する世界をどう魅せることができるかが、今回の重要なポイントとなりました。

 

早川鉄兵 TEPPEI HAYAKAWA

切り絵作家。
1982年、石川県金沢市生まれ。小さいころ、母親と切り絵遊びをしたことをきっかけに切り絵を始める。滋賀県米原市の山間集落に拠点をおき、日々出逢う自然や動物をテーマに制作活動をしている。精密な切り絵作品にとどまらず、大掛かりなインスタレーションやライトアップを手掛けるなど、新しい切り絵表現の可能性を模索している。

学生たちは展示空間のディレクション提案だけではなく、展示用備品の制作・設営も担当。作業の様子と慶雲館(新館)展示風景をお届けします。

本学共通工房ウルトラファクトリーにて、今回の展示に欠かせない動物たちを切り出していきます。大きい動物から小さい動物まで、学生たちは木材と機材に大奮闘!
毛並みの表現は、カッティングシートを切り出し、1つ1つ手作業で貼っていきます。気が遠くなる作業……、学生たちの頑張りが光ります。


展示会場の壁面にかける布は、“盆梅の森” をイメージし、盆梅や切り絵と調和するように、自分たちで緑色に染めたもの。さまざまな緑色を表現し、多様な風合いをもつ布に仕上がっています。

切り出した動物たちは、学生によって命が吹き込まれ、盆梅の森へやってきました。
盆梅の香りに誘われた動物たちが、とても楽しそうに盆梅と戯れている様子がキュートな仕上がりに。愛らしい表情と生き生きとした動きで、見ているこちらを楽しませてくれます。

 

反対側の壁面に設置されている、早川さんによる “盆梅展のための鳥獣図壁画”。この壁面も本学ウルトラファクトリーにて、実験を重ねながら制作しました。前にずらりと並んでいる盆梅と相まって、非常に壮大な空間となっています。

 

慶雲館 新館1階から2階へ続く階段には、小鳥たちのモビールを制作!
どういう配置が一番きれいに揺らめくのか、学生たちも苦労した様子。甘い梅の香りに誘われて、ふわふわと迷い込んできたようですね。

 

新館2階は、カフェ空間です。
コロナ禍ということで、ソーシャルディスタンスには欠かせないパーテーションにも、動物たちが大活躍!小さな盆梅の香りと動物たちに囲まれながら、お茶とお菓子をゆっくり楽しむことができます。

また、2階の壁面には、盆梅がどのような行程を経て出来上がるのか、盆梅の1年間を伝える “盆梅展ができるまで展” と盆梅を育てる “道具たちの音” に着目した展示も行っています。
盆梅がこうして立派に花を咲かせるまでにさまざまな背景があることを、来場者のみなさんと共有します。70年間、盆梅はこうして大切に保護され、育ててこられたのですね。

こちらは、盆梅の種類です。
盆梅の名前を掲げている表札で、「色の濃さは樹齢」「大きさは高さ」を表現しています。
中には、樹齢400年の「不老」、高さ195cmにもなる「昇龍梅」など、個性豊かな盆梅も。

 

慶雲館入ってすぐの本館では、古き良き盆梅の姿そのままに、逆さ盆梅が美しい「林光」や「不老」「昇龍梅」が。その堂々とした出で立ちを近くから愛でることができます。幹から溢れ出す生命力、繊細な枝ぶりと小さな紅白の花の風合いが、新春の湖北を鮮やかに彩ります。

 

今回このプロジェクトチームの担当教員である藤井良平先生は、「過去2年の空間演出とは異なり、3年目の今回は、切り絵作家 早川鉄兵さんとのコラボレーション展示として、作家の作品と長浜の盆梅、どちらにとってもより良い展示にするためにはどのようなアイデアが必要か? を中心にスタートしました」と、今回の難しさを振り返ります。

「学生たちは制作会社さながらプランを出し合い、企画書にまとめ、プレゼン。何度も議論と思案を繰り返し、最終の企画内容をGOできたのは11月でした。そこからの実制作では、大学の設備と個人のスキルを こ・れ・で・も・か・!と費やして、さまざまな展示物へと形にしてゆきました。多くの人に観られることを想定したストーリー・空間を作ってゆくその工程、制約上の都合でアイデアの全てを形にすることができなかったこと、そもそも自分たちが制作したことのない分野にチャレンジさせていただけたことなど、このプロジェクトを通して、学生たちは学内でのそれぞれの創作活動からもう一歩踏み込んだ「作り手の経験」を手に入れることができたのではないかと思います」

担当教員の藤井良平先生

 

今年は新型コロナウイルス感染症拡大により、学生は現地に足を運ぶことができず、やりとりも画面越しにしかできないような環境の中、制限や問題を乗り越えて展示が実現したことは、改めて共同制作の可能性を知ることができた大切な時間でした。

また、今回プロジェクトリーダーを務めた文芸表現学科2年生の山羽玲那さんは、「今年の長浜盆梅展プロジェクトは画面越しからスタートしました。慣れない環境でそれぞれが苦戦しながらも、毎日のようにミーティングをし、より良いものにしようと意見を交換したり、時にはぶつかったりと密度があるプロジェクトになっていきました。さらに今年はコラボ展示ということもあり、プロジェクト全体の熱がさらに高くなっていたように思います。

制作を進める様子。
制作に必要なデータを確認。

 

後半からは本格的な制作をする中で感じた、画面上のデータで話し合っていたものが、実際に手に触れることができる『形』になることへの感動は今でも覚えています。搬入日が近づくと毎日遅くまで大学に残り、朝早く大学に行き、制作を進めるようになっていきました。今年の展示の特徴ともいえる切り絵の動物の展示物は、一つひとつ完成していくごとに制作のゴールが近づくのを感じ取っていました。
長浜の歴史ある盆梅と早川さんの切り絵が織りなす、我々がこだわりを持ってプロデュースし空間を楽しんでほしいです」と振り返ります。

コロナ禍の中、1年を通して頑張りぬいた学生たちの熱量が感じられる今年の長浜盆梅展。3月10日(水)まで開催しておりますので、感染症対策を万全にしていただきながら、長浜の春を感じてみてはいかがでしょうか。

 

 

第70回 長浜盆梅展

会期:令和3年1月9日(土)~3月10日(水)
時間:9時~17時(入館は16時30分まで)
            *会期中無休
場所:慶雲館
   滋賀県長浜市港町2-5
   JR長浜駅から徒歩3分

料金:大人800円/小中学生400円

 

※お越しになられる方は新型コロナウイルス感染症対策を十分にご留意いただき、密にならないようにお気をつけてご覧ください。

 

京都芸術大学 Newsletter

京都芸術大学の教員が執筆するコラムと、クリエイター・研究者が選ぶ、世界を学ぶ最新トピックスを無料でお届けします。ご希望の方は、メールアドレスをご入力するだけで、来週水曜日より配信を開始します。以下よりお申し込みください。

お申し込みはこちらから

  • 京都芸術大学 広報課Office of Public Relations, Kyoto University of the Arts

    所在地: 京都芸術大学 瓜生山キャンパス
    連絡先: 075-791-9112
    E-mail: kouhou@office.kyoto-art.ac.jp

お気に入り登録しました

既に登録済みです。

お気に入り記事を削除します。
よろしいですか?