REPORT2020.12.16

アート

あなたにとって「未来に残したい光景」とは?― 京都信用金庫 2021年度カレンダー原画プロジェクト

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  • 京都芸術大学 広報課

さまざまな領域で6コースを抱える美術工芸学科

それぞれのコースに在籍する学生たちが、カレンダー原画制作プロジェクトに挑戦しました!
その取り組みの様子をお届けします。

完成した原画を持ち寄り、学生と教職員とで記念撮影  (通常はマスクを常用し、記念撮影時のみ一時的にマスクを外しています)


みなさんにとって、カレンダーとは どのような存在ですか?

わたしたちは、楽しみなこと、少し緊張すること、記念となること… 日々起きるさまざまな出来事をカレンダーに記しています。1年の移ろいを共に記憶してくれているカレンダーは、知らず知らずのうちに日常に欠かせない存在になっているのではないでしょうか。

なかでも、わたしたちの目を楽しませてくれるのは、カレンダーを彩る四季折々の表情です。
自宅や職場でふとカレンダーに目をやると、季節ごとの移ろいに心が和み、新しい月をめくることが楽しみになる、という経験をしたことがある方も少なくないのでは。

 

今回はそんなカレンダーの要ともいえる「挿絵」の原画制作に挑みました!

制作するカレンダーは京都信用金庫が発行しているもので、営業地域にある芸術系大学が持ち回りで制作を担当。本学は2016年度に制作をしてから2巡目となります。

京都信用金庫の本拠地である京都を中心に、滋賀や大阪の営業地域も含め、ゆかりのある場所で感じる四季折々の移ろいを原画に込めて、挿絵を制作していきます。

2016年度に制作したカレンダー。
2016年度は版画の技法を用いて制作。


今回設定した原画のテーマは、『未来に残したい光景』。

今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、わたしたちの生活は一変しました。
これまで日々普通に過ごしてきた日常は当たり前のものではなく、実はかけがえのない大切なものであったことを再認識させてくれるものでした。

今回プロジェクトを担当する指導教員の美術工芸学科 森本玄先生からは、「この目には見えないウイルスの脅威に晒された時、わたしたちはどのような光景を『未来に残したい光景』として感じ、表現していくのか。美術工芸学科6コースで学ぶ学生たちが、各々の瑞々しい感性で受け止め、お互いに知恵を出し合いながら、制作に取り組みましょう。」と参加した学生たちを鼓舞しました。

制作を始めるにあたり、まずは学生たちが感じる『未来に残したい光景』とはどのようなものなのか、自身の経験に基づいてイメージを膨らませていきます。

ミーティングは全てオンラインで実施。
各自のコンセプトもオンラインにて共有します。


次のミーティングでは、自分が表現したい原画のイメージを共有します。
学生たちは、2週間に1回のペースで共有ミーティングを行いながら、ミーティングがない日もコミュニケーションアプリを活用し、常に学生同士で相談し合える環境を整えてくれていた様子。
オンラインという慣れない環境下でも、さまざまなツールを用いながら、自主的に取り組む姿に驚かされました。

描きたい光景を表現してみます。
様々な要素をコラージュする学生も。


原画の方向性が固まったところで、実制作に入ります。
今回は、美術工芸学科6コースで学ぶ学生が参加しており、日本画、油画、アクリル、水彩、版画、写真コラージュ…と、それぞれのコースに属しているからこその専門性や特異性を存分に活かしながら、自身の個性も光るよう、工夫を凝らしていきます。

実際にカレンダーとして落とし込んでみます。
地域が網羅されているか、地図上でも確認。


さらに、京都信用金庫へのプレゼンテーションも重ね、いただいた率直なご意見を元に、実際にカレンダーがさまざまな人の手に渡った時をイメージしながら、原画をブラッシュアップ。授業の合間や土日を活用しながら何度も原画を描き直し、納得のいく一枚に仕上げていきます。


そして、ついに原画を京都信用金庫へ納品する日がやってきました。
ずっとオンラインでのやりとりでしたが、この日初めてプロジェクトメンバーが顔を合わせることとなり、「はじめまして!」と学年やコースを超えた交流が生まれました。

仕上がった全ての原画を見て、歓声をあげる学生たち。
森本先生(右)も交えて、原画の出来をチェック。
もう一人の指導教員である美術工芸学科 池田光弘先生(中央)も短期間で頑張ってきた学生たちを温かく迎えます。

 

美術工芸学科 学科長の竹内万里子先生を迎え、完成した原画をお披露目&プレゼンテーション。学生一人ひとりが感じた「未来に残したい光景」の捉え方や原画に込めた想いを伝えます。

美術工芸学科学科長 竹内万里子先生。
一枚ずつ丁寧にコメントをいただきます。
原画を手掛けた学生自ら、竹内先生にプレゼンテーション。


「今回は通常とは異なるオンライン上でのプロジェクトとなりましたが、それぞれが心に抱く未来に残したい光景を捉え、お互いに共有し、助け合いながら取り組めたことは、とても良い経験になったと思います。関西エリアに広く配布され、誰かの家庭や職場の中に自分が描いた作品が息づくというのは、本当に素晴らしいことです。」

竹内先生からも労いの言葉をいただき、参加した学生たちも原画制作と向き合い続けた日々を思い返していました。苦労を超えて完成した彼らの原画は、未来への希望を感じさせるような出来栄えとなりました。

京都信用金庫への納品の様子。原画を担当した学生が説明します。

原画をカレンダーに落とし込む際の細かな打ち合わせも。
原画が持つ色彩を再現できるか相談します。

 

京都信用金庫 ゆたかなコミュニケーション室の冨田さんからは、「短い期間でしたが、志向を凝らした原画に仕上げていただきました。学生さんが一緒に納品に来ていただき、原画に込めた想いをお話してくださったのは初めて。みなさんの絵がより多くの人に伝わるように、そして見ていただけるように、これから進めていきたいと思います。」と締めくくられました。

完成したカレンダーは、京都を中心に、大阪や滋賀を含めた関西圏にお住まいの方々に順次届く予定です。


2021年はどのような年になるでしょうか。
このカレンダーと一緒に、実りある豊かな1年を過ごしていただければ幸いです。

 

では、完成したカレンダーの原画をご紹介します。

基礎美術コース 2年 谷口雄基

表紙「悠久」

八坂の塔や八坂通に立ち並ぶ町屋からは、京都らしいゆったりとした年月の流れを感じることができます。四季や時間帯によって姿を美しく変えるその風景を楽しみに、一年を通して幅広い年齢層の方が訪れています。多くの人に愛され続ける街並みを、今後も未来に残していきたいと考えこの光景を描きました。

 

油画コース 3年 濱口季代茄

 

1月「紅白」

お正月の楽しく賑やかな雰囲気と、冬の凍てつくような寒さの両方を意識して描きました。様々な神社の鳥居の中でも、ここ滋賀県の日吉大社は鳥居や参道、木々にも雪がつもり、毎年とても綺麗な景色になります。白く冷たい空気の中に力強く構える真っ赤な鳥居と、それを飾るかのように並んでいる木々を美しく表現し、実際に見たことのない方にもこの空気感が伝わるよう努めました。

 

染織テキスタイルコース 2年 LEE HYUNJEE

 

2月「自分らしい時間」

柔らかな光がさす中で自分の事を振り返る瞬間が、私の「未来に残したい光景」です。心を落ち着かせる温かいお茶を飲みながら日記を書く時間は、自分自身を見つめ直すことができます。卓上左に描いたみたらし団子で、和やかな雰囲気を演出しました。
寒さが続きながらも、新しいスタートの季節である春を目前にした2月には、このような光景が相応しいと思いました。

 

日本画コース 3年 橋本百合香

 

3月「心躍る」

暖かくなりはじめる3月は、植物たちが新しい春の訪れを歓びながら、新たに動き出す季節です。そこで私は「生命の開花」をテーマに、冬の寒さから暖かい空気に心を躍らす京都市左京区にある霊艦寺の椿を描きました。霊艦寺では、大切にお手入れされている沢山の椿を特別拝観時に眺めることができます。椿の花が咲き誇り、散りゆくまでの一瞬の尊さや雅やかな情景は、「未来に残したい光景」のひとつです。

 

日本画コース 3年 髙田咲惠

 

4月「はじまりの朝」

春が訪れる喜びをテーマに制作しました。大阪の東和薬品RACTAB ドーム(旧:なみはやドーム)、ひらかたパーク、打上川治水緑地をコラージュした風景画です。地元の人に愛される場所を組み合わせ、日常風景の貴重さを残そうと心がけました。桜とメジロを取り入れ、「春は曙」という枕草子の言葉から、春の早朝を設定して描いています。日本画材の岩絵具を使用し、まだ人が動いていない静けさと春の柔らかさを表現しました。

 

日本画コース 2年 吹ノ戸梨花

 

5月「初夏の緑」

自然を慈しむ暮らしをテーマに描きました。京都に住んでいると、便利な都会という側面がありながら自然も大切にしていると感じます。昔から日本人は、感じ取った美しい自然を日本庭園として作り出し、楽しむ文化があります。東福寺には美しい苔庭と迫力ある三門があります。爽やかな緑と小さな蛙で5月の世界観を表現しています。

 

総合造形コース 2年 田村真理子

6月「静謐」

梅雨の季節6月は、外へ出かけることを控えたくなる季節です。人通りが少ない街の静けさを雨が一層引き立てます。この作品はそのような「雨の日の静けさ」をテーマにしました。平安神宮の大鳥居を初めて見たとき、あまりの大きさに鳥居だと認識できませんでした。その凛とした佇まいが深く心に残っているので、「未来に残したい光景」に選び、静かで壮大な光景を描きました。

 

 

油画コース 1年 大内田加奈

 

7月「夜の輝き」

京都の夏の風物詩であり、観光名所にもなっている鴨川納涼床をテーマにしました。江戸時代から続く伝統的な鴨川納涼床に、多くの人で賑わっている光景を残したいと考えました。暑い夏を少しでも涼しく感じていただきたいです。また、ゴッホ風のタッチで描くことで、今まで訪れたことがない方にも興味を持っていただけるのではないかと考えました。

 

油画コース 1年 辻希望

8月「ひととき」

京都駅から出るとすぐ見上げてしまう京都タワーは、京都のシンボルです。展望台から映る街並みや山々、夜空に咲く花火を見て、夏の暑さを忘れるような作品に仕上げました。夏の思い出のひとときを胸に未来に進んでいきたいとの願いを込めて描きました。大切な人と京都タワーで景色を見ながら、思い出話に花を咲かせてみるのはいかがでしょうか。

写真・映像コース 2年 北川春葉

 

9月「月照らす」

9 月は残暑がありながらも初秋の涼しさを感じられる季節なので、その両方を表現できるよう工夫しました。また、9 月には月が美しく照らす十五夜があり、その儚さも未来に残したいと思いました。
宇治茶の郷、和束の茶畑に9 月の草花を加え、“月が光る暗い夜” と“華やかに踊る花々” の対比を楽しんでいただきたいです。写真をコラージュし、9 月の京都の空気を感じられる作品に仕上げました。

 

日本画コース 2年 太田朋香

 

10月「今日の」

コロナ禍をきっかけに、これまで見逃してきた日常の大切さに気付き、目を向けることができました。そこで、日常の中で一番好きで大切にしている食事の光景を、「未来に残したい光景」に選びました。
食欲の秋を表現するため、秋の味覚をメインとしたおかずや具材が並んでいます。金時人参や鹿ケ谷かぼちゃ、聖護院かぶといった京野菜も入っているので、京都ならではの味覚を想像してみてください。

 

油画コース 1年 田中優香子

11月「秋園」

11月は秋、秋といえば紅葉。赤と黄の色彩が織りなす美しい秋の光景をコンセプトに描きました。瑠璃光院では秋になると100種類以上の紅葉を堪能することができます。漆塗りの机に反射した紅葉が見どころです。幻想的な日本情緒溢れる美しさを残したいと思い、この瑠璃光院を描きました。作品は油絵具を使用し、美しい秋の光景を表現しました。

 

油画コース 3年 樋田みち瑠

 

12月「短景」

京都の冬特有の軽さや、伝統とモダンが調和した「レトロポップさ」を大切に制作しました。短い陽の温かさや降る雪の軽やかさを感じさせる京都嵐山の竹林やトロッコ列車をモチーフに構成しています。昔からある里山の中を、現代的なトロッコ列車が往来する風景に、長い歴史と現代が入り混じり共存する京都らしさを感じ、「未来に残したい光景」に選びました。

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