REPORT2020.12.21

京都アート教育

芸術や文化にできることを、世界と。 ― 国際連合創設75周年記念事業「芸術文化学術フォーラム2020 in 京都」

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  • 京都芸術大学 広報課

2020年11月19日。秋晴れの空のもと、本学内の京都芸術劇場春秋座に集ったのは、国連事務次長であるデイビッド・マローン氏をはじめ、国連の活動を支えてきた方々や各産業における有識者、研究者など。
「これからの国際平和やSDGs目標達成のために、国連がやるべきことは?」「そのために、芸術や文化、学術にできることは?」。
国連の創設75周年にあわせて世界連邦日本国会委員会、国際連合協会、本学の共催によって開かれた「国際連合創設75周年記念事業 芸術文化学術フォーラム2020 in京都」において、さまざまな分野の方々から貴重な提言がなされ、これからの世界に向けて、国際間で、そして私たちひとりひとりの個人レベルで、考えて行動していく貴重な機会となりました。

なお、前日には同じく共催で「平和フォーラム2020 in国会」として国会議事堂 参議院会館でも国連のあり方をディスカッション。日本政府と主要各党が、政治と行政が国連を通じてどういう役割を担うのか、という議論を行いました。

フォーラム会場では新型コロナウイルス感染症対策を徹底し、一部招待客のみの無観客にて開催。YouTube LIVEによってライブ配信しました(アーカイブは後日公開予定)。おかげで世界中の方々に知ってもらえるのは僥倖である、とは登壇者マローン氏の言葉です。

感染症対策の様子
ライブ配信準備の様子

2019年ニューヨーク国連本部SDGs推進会議にて

本学と国連とのつながりは、国連と世界の大学等が連携する「国連アカデミック・インパクト」への参加前から培われてきました。そのひとつが、本学研究センター「SDGs推進室」の設立です。室長である田中朋清氏は、昨年、学生を伴ってニューヨークにある国連本部での部SDGs推進会議に参加。さらに本学特別顧問の長谷川祐弘氏は、37年間にわたって国連の幹部を務めており、マローン氏とは旧知の間柄。こうした関わりのなかから、「ぜひフォーラムの共催を」という話が持ち上がりました。

SDGs推進室室長田中朋清氏が引率
本学マンガ学科PN.ころた(2020年卒業)。国連会議に参加し『SDGsってなに?』という冊子を制作


芸術文化学術フォーラム2020 in 京都

それではいよいよ、4時間にわたるフォーラムの全容をご紹介します。
オープニングを告げるのは、雄壮な和太鼓の演奏。本学の和太鼓教育センターと学生和太鼓サークル『悳(しん)』による祝奏が、無観客の会場に生命力を吹きこみます。

 

ウェルカムスピーチから基調講演

そこへ、尾池和夫学長より京都の自然環境にふれるウェルカムスピーチと、田中朋清SDGs推進室長より本フォーラムの趣旨説明が。「SDGs」とは、国連が提唱する「持続可能な世界を実現する」ための国際目標であり、「地球上の誰一人として取り残さない」ことが原則。本フォーラムにおける主要テーマのひとつでもあります。

その後、日本の国連活動などを支えに独立を果たした、東ティモールの初代大統領シャナナ・グスマン氏と、国連事務次長ファブリツィオ・ホスチャイルド氏からのビデオメッセージが上映され、国連事務次長であり国連大学学長のデイビッド・マローン氏が壇上に。

尾池和夫学長のウェルカムスピーチ
田中朋清SDGs推進室長の趣旨説明
東ティモールの初代大統領シャナナ・グスマン氏
国連事務次長ファブリツィオ・ホスチャイルド氏
デイビッド・マローン氏の基調講演

この瓜生山キャンパスの自然美を話の入口として、人々の喜びの源となる美や芸術の大切さ、そんな人間らしい生活を守るための、国連の建設的な活動の重要性について力強く語られました。

つづいて壇上に立ったのは、日本初の国連職員であり事務総長特別代表も務めた明石康氏。
敗戦国である日本が国連加盟を果たした際の盛り上がりや、90年代のユーゴ紛争における人道的判断の難しさなどを述懐。理想主義だけではない、政府間だけではない、若者を主役とした全員参加の国連となることで、コロナ禍における国際協調にも幅広いリーダーシップを、という歴史や経験をふまえたお話をいただきました。

明石康氏の基調講演

薩摩琵琶演奏と呈茶でおもてなし

ここで、友吉鶴心氏の情感豊かな薩摩琵琶演奏と、小休憩をはさんで、プログラムの後半へ。

友吉鶴心氏の薩摩琵琶演奏


SDGs目標達成や国際連合創設100周年に向けて、「どうすれば全人類が連携できるか」をテーマとしたパネルディスカッションのはじまりは、パネリスト7名への呈茶から。北見宗樹氏の指導により、本学教職員茶道部の栗本徳子教授や学生たちがお点前をふるまいました。

裏千家今日庵業躰の北見宗樹氏
栗本徳子教授のお点前
立礼式(りゅうれいしき)での呈茶
学生からマローン氏へ


7名によるパネルディスカッション

以下にパネリストの方々をご紹介いたします(敬称略)。
座長:日本国際連合学会理事長 神余隆博
・国際連合大学学長・国際連合事務次長 デイビッド・マローン
・日本ユネスコ協会連盟理事長 鈴木佑司
・前国際連合大使 星野俊也
・京都大学環境科学センターセンター長・教授 酒井伸一
・松竹芸能株式会社取締役 小林敬宜 本学客員教授
・石清水八幡宮権宮司 田中朋清 SDGs推進室長
・脳科学者 中野信子 本学客員教授

パネリストのみなさん

討論の口火を切ったのは、座長の神余隆博氏。冒頭から辛口ながらも、直近の世論調査において日本の「国連への好感度」が先進国最下位だったことについて、意見交換を求めました。さらに、「戦争は人の心の中に生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」という素晴らしいUNESCO憲章を掲げながらも、なかなか成功できない現実について。争いごと以外にも、私たちの無関心や無行動が、気候変動などの危機を生みだしていること。正しい理論よりも本音を信じたがる人間の心理など。さまざまな問題が挙げられる一方で、「お互いに多様な価値観や文化を受けとめることから、協調への歩みがはじまる」「あらゆる宗教や神仏、自然を等しく尊ぶ日本の精神こそが、人類調和への道しるべとなる」「専門的知見を一般の人々に広め、信頼を築くためのコミュニケーションとして、芸術、文化、学術が活かされるべき」といった前向きな意見がもたらされました。

 

島谷ひとみさんによる「CYCLE ~サイクル~」歌唱

熱い対話が繰り広げられたフォーラムの最後を締めくくるのは、島谷ひとみさんによるUNO (国連経済社会理事会日米文化交流会)応援ソング「CYCLE ~サイクル~」の歌唱。

水の雫が集まって やがて大きな力になるように
一人一人が集まって 大きな力になれるといいなぁ
(歌詞抜粋)

島谷さんは、コロナ禍においてアーティストによる支援プロジェクトを呼びかけるなど、日頃からボランティア活動に力を注いでいます。

調印式と芸術と文化における国際協調宣言

そして「芸術文化学術・京都宣言および調印式」。本学と国連がこれからも「芸術文化学術フォーラム」を共同開催し、SDGs目標達成と国際連合創設100周年に向けて、芸術や文化の分野で国際協調を進めていくことが宣言され、協定が結ばれました。

調印書原文
 

To commemorate the 75th anniversary of the founding of the United Nations, the Kyoto University of the Arts invited UNU Rector Malone, Under Secretary-General of the United Nations, Former Under-Secretary-General Yasushi Akashi, Former Ambassadors to the United Nations Takahiro Shinyo and Toshiya Hoshino, and Former Special Representative of the United Nations Sukehiro Hasegawa.
The conference was held at the Shun-Jyu-Za International Conference Hall on November 19, 2020.
Following the opening remarks by President Kazuo Oike of Kyoto University of Arts, the participants viewed a video message sent by Mr. Fabrizio Hochschild, UN Under-Secretary-General for the 75th Anniversary of the United Nation. Dr. David Malone and Mr. Yasushi Akashi then ascertained the role of the United Nations and Japan in addressing global issues such as COVID-19, climate change, poverty eradication and disaster prevention. They emphasized the importance of arts and science in maintaining international  peace and prosperity.
A panel discussion was then held to ascertain under the chairmanship of Ambassador Shinyo on how the United Nations functions under the rapidly changing world situation, and how to sustain the universal values reflected in the Charter of the United Nations. The panelists discussed in depth the concept of human security and significance of the role played by culture and art in achieving the sustainable development goals (SDGs).
Utilizing the power of academic, art and culture which was confirmed through these discussions today, we hereby declare that we will work together toward UN100 to promote peacebuilding through the solidarity of all humankind as well as the achievement of the SDGs.


京都芸術大学は、国際連合創設75年を記念し、デイビッド・マローン国連大学長・国際連合事務次長ならびに明石康元国連事務次長、神余隆博元国連大使、星野俊哉前国連大使、長谷川祐弘元国連事務総長特別代表を招聘し、令和2年11月19日に京都芸術大学の京都芸術劇場・春秋座(国際会議場)で芸術文化学術フォーラムを開催した。
主催者である京都芸術大学の尾池和夫学長の開会の辞に引き続きファブリツィオ・ホスチャイルド国連75周年記念担当国連事務次長のビデオメッセージが放映された。その後、デイビッド・マローン国連大学学長と明石康氏がグローバルな諸課題に対処するための国連と日本の役割について述べるとともに、国際の平和と繁栄を維持していくにあたって学問と芸術の重要性を力説した。
これに続いて、神余隆博元大使の議長の下で、パネルディスカッションが行われ、著しく変遷する世界情勢の下で国連がどのように機能しているのか、国連憲章に反映されている普遍的な価値観をどのようにして擁護していけるかについて議論が行われた。そしてCOVID-19、気候変動、貧困撲滅、防災などを含む維持可能な開発目標(SDGs)を達成するにあたって人間の安全保障の概念と文化や芸術等の果たす役割に関して議論が深められた。本日これらの議論を通じて確認された芸術文化学術の力を活用し、私達はUN100に向け、全人類の連帯による平和構築ならびにSDGs達成を推進するため、協働することを、ここに宣言する。

こうして、本学および国連にとって大きなメモリアルとなるフォーラムは無事終了しました。そして、ここからがはじまりです。登壇された皆さまは、それぞれの専門的な内容を、だれにでもわかりやすく話されていました。その口から何度も発せられたのは、「私たち、ひとりひとり」という言葉。国連やSDGsがめざすのは、ほかのだれでもない、私たちがこれから生きていく世界です。だからこそ、ひとりひとりに必ずやるべきことがある。全人類から、全人類へ。見えないバトンをかたちにして届けることこそ、芸術や文化にできる大切なことかもしれません。
今後、本学は若い世代の叡智を集結させ、芸術文化学術の力を活用した平和構築ならびにSDGs目標達成に向けて、今回ご登壇いただいたデイビッド・マローン氏をはじめ、国際連合と協働し、取り組むとともに、10代、20代、30代を中心とした世代が活躍していける舞台を育んでまいります。

ぜひ、おひとりでも多くの方に、世界の現状や国連の活動について理解を深めていただければ幸いです。

最後となりましたが、本フォーラムにご協力いただいた皆さまに心より感謝いたします。本当にありがとうございました。

(撮影・八木信久)

デイビッド・M・マローン氏

国連大学(東京に本部がある唯一の国連機関)学長および国連事務次長。 カナダの元国連大使として外交官の実務経験もあり、大学とシンクタンクの両者で活動。国連安全保障理事会、開発、インドに関する研究書を多く執筆。近著に『Law and Practice of the UN(国際連合の法と実践)』第2 版(共編、大学院用教科書、オックスフォード大学出版局)、『Megaregulation Contested: Global Economic Ordering After TPP (超規制論争:TPP後のグローバル経済秩序)』(共編、オックスフォード大学出版局)および『The Oxford Handbook of UN Treaties(オックスフォード版国際連合条約ハンドブック)』(共編、オックスフォード大学出版局)など。

明石 康 氏

東京大学卒、バージニア大学大学院修了。1957年国連入り。広報や軍縮担当の国連事務次長、カンボジアや旧ユーゴスラビア担当 の事務総長特別代表を歴任。1997年末、人道問題担当事務次長を最後に退官。現在、(公財)国際文化会館理事長、(公財)ジョイ セフ会長、(公財)日本国際連合協会副会長、スリランカ平和構築担当日本政府代表など。主な著書に『国際連合―軌跡と展望』(岩波 新書)、『戦争と平和の谷間で―国境を超えた群像』(岩波書店)、『「独裁者」との交渉術』(集英社新書)など。

 

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