INTERVIEW2020.11.27

デザイン教育

だれかの「嬉しい!」をつくる授業。― クロステックデザインコース「月夜の入学式」

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  • 京都芸術大学 広報課

秋の日暮れはあっという間。すっかり宵闇に包まれた瓜生山キャンパス・望天館の屋上に、突如、拍手と歓声がわき起こりました。秋の月明かりとライトに照らされた立て看板には、堂々とした書による「入学式」の文字が。いったい何が起こったのでしょうか?

2020年10月28日(水)午後7時に開催された、情報デザイン学科クロステックデザインコース1年生の授業課題「月夜の入学式」の次第について、担当教員のおひとりである中山和也先生と、実行メンバーの金禮眞さん、伊藤瑞さんからお話を伺いました。


恒例のサプライズ授業がリモートで新しく深化

中山先生:
これは、今年度の授業「サプライズパーティープランニング」で1年生が行なったグループ発表のひとつ。「サプライズパーティープランニング」とは、クロステックデザインコースが開設された3年前から実施されてきた演習科目の一部です。

文字どおり「誰かのサプライズパーティーをプランニング(計画)しよう」というシンプルな課題ですが、単なるドッキリと違うのは「相手に喜んでもらう」必要があること。そこが授業のキモだといえます。

入学式を見守る中山先生と副手と先輩学生の皆さん。


立候補したリーダーを中心に5〜6人のグループで課題に取り組みます。考えたサプライズ企画を実施(発表)するまでに与えられた期間は5週間。とくに今年はオンライン授業が多かったので、打ち合わせも準備も通常より難しかっただろうと思います。にも関わらず、前期の発表がどのグループもすごく良かったんですよね。顔を合わせられないぶん、「まあ、このぐらいでいいか」という妥協がなかったからかな。いずれにせよ、後期からは対面授業もスタートし、かなりモチベーションの高い状態でこの企画が生まれ、成功につながったというわけです。

 

なぜ、何のためにやるのか、突きつめた答えが「入学式」

中山先生:
僕ら教員がこの授業でやれることは、ごくわずかです。学生たちのやりすぎを抑えたり、小さくまとまらないよう指摘したり。ただひとつ「なぜいま、何のためにやるのか」ということは、最初の段階からしっかり考えてもらいます。「必ずやるべきだ」「どうしてもやりたい」といった必然性や強い意志がないと、まわりを説得することも、巻き込むこともできませんからね。

たったひとつのサプライズをつくりだすにも、たくさんの下調べや準備、交渉ごとが必要です。たとえば今回なら、学長や副学長からコメント動画をもらったり、実際の入学式で使われる立て看板をお借りしたり。学生たちは、それぞれ異なる大人や組織の状況に合わせて企画を説明し、理解や協力を得て、一つひとつ準備を積み重ねていきます。まさに、これから社会に出て何かコトを起こすときに求められることを、実地で経験していくわけです。

学長・尾池和夫からのお祝いメッセージが会場で投影された。
副学長・小山薫堂先生からのメッセージ。


今年は入学式もないままオンライン授業がはじまり、画面上でしか顔を合わせていなかった1年生たち。そんな彼らにとってこの「月夜の入学式」は、お互いの交流を深めるうえでも、とても価値あるサプライズだったと思います。どのように取り組み、何を得られたか。だれよりも知っているのは学生たち自身のはずですから、詳しくは、グループリーダーの金さんと、副リーダーの伊藤さんに話してもらいましょう。

 

私たちの「入学式」づくりは、とにかく行動あるのみ

金さん・伊藤さん:
最初に「入学式」を発案したのは、私たちではなくグループメンバーの一人。前期の頃から「いちど学科全員で何かしたいね」と言いながら何もできないままだったので、みんなすぐに賛同しました。

サプライズらしく「ハロウィンパーティに見せかけて…」というアイデアもありましたが、「どうせなら“入学式”に絞って、めいっぱい本物らしくしよう」と話し合いで決定。そこからは、秘書課を通して学長に列席をお願いしたり(スケジュールのご都合で動画になりましたが)、2、3年生の方にも参加してもらえるように声をかけたり。出てきたアイデアを、各自が分担してどんどん実行。行動力の塊みたいなメンバーがいたこともあり、さまざまな事が予想外の早さで進んでいきました。

写真左がグループリーダーの金さん


もちろん、すべてが思い通りとはいきません。企業の役員でもある副学長にご挨拶をお願いする際は、学外の方にもご迷惑をかける事態に。それでも、副学長が温かいコメントをくださったのが身にしみて、段取りをよく考えて行動する大切さを思い知りました。

あとはクロステックらしく、「AR(拡張現実)での会場演出」もギリギリまで模索していたのですが、いまの実力が及ばずに断念。結果的には、大学からお借りしたリアルな立て看板だけでも雰囲気を出せましたし、ARと違って記念撮影もできました。でも、ちょっと悔しい思い出です。

ちなみに「夜」としたのは、2、3年生との交流会を兼ねて授業終わりを選んだだけでなく、「一般的な入学式のイメージをひっくり返したい」という思いもありました。せっかくなので、自分たちだけの、特別な入学式にしたかったんです。


どうせダメと思っていたことが、「やればできる」に変わっていく。

金さん・伊藤さん:
じつは1週間前のリハーサルでは、お祝いする側の2、3年生が数人しか来ることができませんでした。ちょうど課題制作の締め切りが迫っていたようで。「ああ、先輩方にアーチをつくってもらいたかったけど、この人数では…」とがっかりしましたが、驚いたことに本番では、何十人もの先輩方が集合。聞けば、担当の先生が「1年生のためなら」と授業を切り上げてくださったそうなんです。本当に感動しました。

花道を作ってお出迎え。入学式を行うことなど思いもよらない、エレベータを降りてきた1年生たちは、びっくりした様子だったそう。
1年生に「名前だけでも覚えて欲しい」という思いから、氏名をプリントして名札代わりにした2、3年生たち。


学長と副学長のご挨拶にしても、立て看板にしても、この企画はとにかくいろんな方々の力を借りてばかり。おかげで、「ダメだろう」と思っていたことも、やってみれば案外どうにかなる。自分から行動していけば、きっとだれかが応えてくれる。そんな手応えを感じることができました。一番もったいないのは、拒否されるのが嫌だからと、最初からやめてしまうことだなと。これからは個人的にも、憧れの起業家や気になる企業にどんどんアプローチしていこうと思っています。

もうひとつ、私たちにとって予想外の出来事は、参加してくださった2、3年生に「楽しかった」「1年生と話せて嬉しかった」「ワクワクした」と言ってもらえたこと。そういう反響を聞いて、「サプライズって、しかけられる側だけじゃなく、しかける側も幸せになれるんだ」とあらためて気づかされました。先輩方との連絡には、大勢に発信しやすい「Slack」を使いましたが、いまも画面を見返すと楽しかった入学式の思い出がよみがえります。

Slackでのやりとりの様子。

 

生まれた笑顔や涙にふれて、「心の技術」の大切さを学ぶ


中山先生:
発表後はいつも、各グループが計画したサプライズを授業で評価しあいますが、この「入学式」は全員から温かい賞賛を受けていました。これから先の年次では、企業とのコラボレーションなど、さらに大きな企画が待っています。その際に大切なのが、「感情」に目を向けるということ。クロステックというとテクノロジーのイメージが強いけれど、技術を発展させる発想やアイデアは、「それを人がどう使い、どう感じるのか」と考えることから生まれます。学生のみんなには、この授業で喜んだり泣いたりする人をみて、自分の投げかけたことがいかに誰かの心を動かし、ときに人生も変えられると理解してほしい。合理的な案をクールに考えるだけではなく、人の気持ちや行動をしっかり見つめ、新しい企画や作品づくりに生かしていってほしいですね。

金さん:
この企画内で何度もディスカッションをするうちに、「もめないように反論しないでおこう」から「より良くするために上手く伝えよう」へと、コミュニケーションに対する自分の意識が変わりました。結果も大切だけど、それ以上に、実行する過程からも多くのことを学べる授業だと思います。

伊藤さん:
「あの入学式で泣いてる子がいたよ」と聞いて、そんなに響いたなんて、と心底嬉しくなりました。サプライズで大切なのは、一瞬の喜びより、これから相手にどうなってほしいか、という「つづき」まで考えることかも。いまさらですが、この授業の奥深さを感じました。ちなみに、そんな魅力にみんながハマってしまったようで…じつは新たに授業外の企画も進行中です。サプライズだけに、詳しくは実行されてからのお楽しみに。

 

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