REPORT2020.10.21

アートデザイン

制約がある中でこそ、クリエイティビティは発揮される ― ハリウッド映画監督・北村龍平さん特別講義

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  • 京都芸術大学 広報課

みなさんの周りで、映画好きの方はいますか?
…もしかすると、今この瓜生通信を読んでいるアナタもその一人かもしれませんね。

さて、数ある映画界でもとびきりの大舞台で最高峰と言えば “ハリウッド” と、出る人も多いはずです。そんなハリウッドでも活躍し、映画業界の第一線を走る映画監督「北村龍平さん」をお招きし、特別講義を行いました。

本学でも初となる、感染症対策を行いながらのオフライン対面型(教室)・オンライン(ライブ配信)でのハイブリッド型講義形式。
 

「男に騙されたでもいい。女に捨てられたでもいい。色んな経験を武器にして自分の作品を作ってほしい」


第一線で活躍する北村監督の、熱い講義をお届けします。

映画監督・北村龍平

2001年、長編デビュー作の超絶アクション『VERSUS』で世界にその名を轟かせる。上戸彩主演『あずみ』、髙橋ツトム原作『ALIVE』、大沢たかお・加藤雅也主演の密室時代劇『荒神』、大ヒットドラマの映画版『スカイハイ』、ゴジラ50周年記念超大作『ゴジラ FINAL WARS』、クレイジーバイオレンスラブストーリー『ラブデス』などを次々に発表。
2008年、ブラッドリー・クーパー主演のホラー『ミッドナイト・ミート・トレイン』でハリウッドに進出。2012年、ルーク・エヴァンス主演のバイオレンス・スリラー『ノー・ワン・リヴズ』を発表。2014年、小栗旬主演『ルパン三世』が大ヒット。2018年『ダウンレンジ』が、トロント映画祭、シッチェス映画祭、釜山映画祭など世界中の映画祭を席巻。ハリウッドを拠点に日本、アジアを股にかけて活躍する映画監督・映像クリエイター。
http://www.ryuheikitamura.com/

実は北村龍平監督には、昨年もお越しいただき、キャラクターデザイン学科の学生たちへの特別講義を行っています。その反響は大きく、今年は舞台芸術学科にて招聘。そして本学でも初となる、感染症対策を行いながらのオフライン対面型(教室)・オンライン(ライブ配信)でのハイブリッド型講義とすることにより、すべての学科コースの学生が聴講できる形式にしました。

北村龍平監督の最新作、主演にルビー・ローズ、そしてジャン・レノなどを迎えたハリウッド作品『The Doorman(原題)』が10月に公開され、その撮影エピソードも、ときにオフレコな話も交えながら、アート・デザインを学ぶ学生たちに勇気や力を与える講義をしていただきました。

 

ファシリテーションを務めるのは、キャラクターデザイン学科 教員の山岡聡先生。自身も映画監督でもある山岡先生より、まずは経歴の中でも気になる海外へ飛び出したきっかけについての質問から講義は始まりました。

左:キャラクターデザイン学科 山岡聡先生、右:北村龍平監督


― 北村さんは17歳で高校を中退。オーストラリアの映画学校に留学し、映画作りを学んだそうですね。
世界に飛び出そうと思っても、若くしてなかなか行動に移せないものです。どんなきっかけがあったのですか?

単純にボクサーが「世界チャンビオンになりたい」と思う気持ちと同じですね。

映画監督という仕事は、膨大なお金と時間とエネルギーが必要で、何十人、何百人を巻き込むもの。だから、完成したものはできるだけ多くの人に見てもらいたいし、長い間、見てもらいたい。映画っていうのは見てもらって初めて成立するアートであり、ビジネスだと思っているので。

そう考えるとハリウッドは、すごい大きなところにある「太陽」みたいなもので、どうせならそこに近づきたいと。そのためには飛び出してしまって、まずはオーストラリアに行ってみようと思ったんです。『マッドマックス』とか、オーストラリア映画が好きだったので。

オフライン対面型の教室に集ったのは、舞台芸術学科の学生たち。
特別講義の様子はオンライン(ライブ配信)でも配信された。


― 映画製作はグループワークなわけですから、円滑なコミュニケーションが重要ですよね。並大抵の努力ではなかったのではと思うのですが?

どんなことでも多少無茶をしないと、いいものは作れないと僕は思っています。それを巻き込める「求心力」は、役者・スタッフ関係なく絶対に必要。

ある役者で『プレデター』が好きなやつがいたんですが、無茶な要望をしたときにも「俺がお前をダッチ・シェイファー(プレデターの主役)にしてやる」と言ったら「よし!」と言ってね。本当に爆発の中を走り抜けたり、沼に飛び込んだり、いろんなことをしてくれたわけです。

無茶苦茶を言うけれど、撮ったフィルムを見ると「あ、俺ダッチ・シェイファーになってる」と思ってくれた。そういう説得力とか、無茶振りをさせてしまう力というのは、当時からあったんだと思うんです。

映画監督って、何もしないのが仕事だと思っています。

「君のアイデアは要らないから、言ったとおりやって」では、つまらないものしかできない。そういう発想の中で作っていったら、作品もたいしたものにならない。

僕の中にはビジョンはあるけれど、スタッフやキャストの意見を最大限に聞きますね。それがコミュニケーション。「俺はこう思うんだけど」というボールが場外に逸れて投げられたときに、それを走って取りに行くことによって、アイデアやビジョンの幅が広がっていくんですよ。


メモをとりながら、話に聞き入る学生たち。話はどんどん具体的になり、日本とハリウッドにおける映画製作の違いや新作映画『The Doorman(原題)』についても、話が展開していきました。


ー 例えば『ルパン三世』や『あずみ』など、原作があるものを撮ることも多いですよね。

『ルパン三世』って重いタイトルで、その前に作った『ゴジラ』などもそうですが、50年、60年もの歴史があるものを受け継ぐって、大変なプレッシャーなんです。何よりも原作者やファンの方々を失望させたくない。

でも僕は、ある程度の「制約」がある中でこそ、クリエイティビティは発揮されなければならないと思うんです。無尽蔵にお金を使っていい、何をやってもいいと言われたら、大したことができない。学校だって「このテーマで課題を考えろ」とか、締切も必ずあるわけだし予算の上限もあるわけです。


ー 日本とハリウッドで、映画を作るときの違いはありますか?

日本だと企画書や有名な原作や、役者が誰だとか、そういうことから始まることが多い。でも、ハリウッドだと「どんなネタを持っているの?」と言われたときに、面白いネタを言えるかどうか。原作がどうとか関係ない。面白いか、面白くないかというピュアな判断をするのが「ハリウッドであり、世界」なんです。ベストセラーとかはどうでもよくって「一言で言ってくれよ」。それが日本ではなかなか言えない。

近年、日本から世界に最初に出ていったものとして、例えば『リング』。あれは究極の完成形だと思っていて、「呪いのビデオがあって、見たら7日で死ぬんだよ」。これだけでいいの。「えっ?どういうこと!?」ってなるでしょ。これぐらい必殺の「10秒で言えること」を出せと言われてもなかなか出ない。まず最初に、自分の身内だとか仲間にそれを伝えることから始めてみる。そこすら求心力が無ければ、無理なんです。

例えば、あるとき僕の相棒から「山道を車で走っていてパンクしたと思ったら、スナイパーに撃たれていて、車の反対側しか隠れるところがない。どこから撃ってくるのかもわからない」というアイデアが出た瞬間、僕は「お前、そこ金塊だから、そこ掘ろう」と言って、3時間くらいカフェで話をして『ダウンレンジ』という映画のストーリーがぜんぶできた。

『ダウンレンジ』(2018年)


― 新作『The Doorman(原題)』について、主演にルビー・ローズ、そしてジャン・レノというビックネームがいますが、現場ではどんなコミュニケーションをとられましたか?

ハリウッドは基本的に人と人、1対1の話なんです。でも日本では、役者さんと顔合わせをするとなると、さまざまな関係者が付いてきて畏まった会になるわけですよ。すると腹を割った話なんかできないんですよね。これがハリウッドだと、たとえばキアヌ・リーヴスなんかでもカフェで会う。ふらっと入ってくるんです。

今回の主役のルビー・ローズも普通にカフェで会ったんです。一対一で。席について、僕が「今日は君に会うから、3日前から君の映画ばかり見てたんだよ」と言ったら、彼女は「私もそうしてたの」と……。

もう、それだけで決まっちゃうわけですよ。その姿勢。
常にどんなチャンスがあるかわからない。チャンスの矢が飛んできたときにバシッ!と掴めるか、その準備って意外とできていない人が多い。

人間力とか、印象にどれだけ残るか。そういうところで何を言うかでわかるものなんです。

『The Doorman(原題)』(2020年)


― 今回、この教室では、舞台芸術学科の皆さんに受講いただいてます。演者・役者を目指す方は、どのようなスキルを求められますか?

僕が一番大事だと思っているのが、テクニックや知識、ノウハウを超えた「想像力」だと思います。

映画のオーディションでは、同じ台本の抜粋をみんな同じ条件でやってもらうわけですが、びっくりするほどみんな想像力が無い。「泣く」と書いてあれば泣く、「笑う」と書いてあれば笑う、「怒鳴る」と書いてあれば声を張り上げる。そりゃそうなんだけどさと。

どう違う表情を見せるのか、どう違う動きを見せるのか、そこで個性を見せないと「抜きん出る」ことができない。

『あずみ』のオーディションをやったときには、何百人と見たんだけど、ある女性が台本を見て「すみません。この脚本、全然 “あずみ” じゃないんですけど」と言ったんです。名もなき女優が、脚本にケチを付けたんです。

でも実は、まさにその時、僕とプロデューサーが「こんな脚本じゃダメだ」といって書き直していたところだったんです。オーディションには、仕方がないから前の脚本でいいやということで出していただけだった。だからたいしたものだなと、大変な才能だなと思いました。その後、彼女は僕の作品に何度も出るようになっています。

それを強面の監督とプロデューサーに言える度胸っていうのもすごいわけですよ。それで怒る監督もいると思うしね。そういうところだと思うんです。「人間力」とか「コミュニケーション力」というものは。

仲間うちでいるときから、求心力のあるアイデアや発想をしてみたり、ちょっと違う角度から見てみることをクラスメイトとやっていくことがすごく大事だと思います。自分だけの世界観で、型にはまらない。どうやって自分というものを出していくか、それを考えてほしいですね。


世界で活躍されている北村監督の力強いメッセージの数々。時間はあっという間に過ぎていきました。その後、会場の学生からの質疑応答にもこたえてくださっています。


― 学生との質疑応答へ ―


学生:
コミュニケーションが大切だという話がありましたが、自分と相手の意見が食い違ってしまったとき、相手を尊重しつつ、まとめていかないといけない時、どう進めていけば良いでしょうか?


北村監督:
それは僕は毎日のようにやっていることですね。例えばジャン・レノさんとかになると、彼は僕よりもずっと長いこと、超一流の方々とやってきているわけだから、監督を越えたアイデアが出てくるわけですよ。それを「ジャンさんだから、ジャンさんのお気に召すようにやってください」なんて言えないわけで。

「人間力」とは、そういうところに効いてくる。意見が合わないとき、激論しても嫌な雰囲気にならないという人間性を普段から作っていかなきゃならない。

もちろん僕の答えはありますが、「自分が正しいとは思っていないから、何でも言って」という雰囲気を全力で作っているんです。面白くないでしょ「僕の設計図で、決められたことをその通りにやってください」では。

クリエイティブなことで言い合いをするのは、決して悪いことではないのね。なかなか進まないから「もういいかな。監督の言うとおりで」ではダメ。なかなか進まなくても、結論が出るまで徹底的に議論することが大切。

それを実際の現場になると、ジャン・レノを相手に10分でやらなきゃいけない。常にその戦いになってくるからね。プロになったら。それを俺ができるのは、あなたぐらいのときに『リーサル・ウェポン』と『コマンドー』のどっちが優れた映画か5時間くらい激論するわけ。議論にならない戦いだけど。だから、今は瞬時に対応できる。

議論というのはしたほうがいいし「解決しないからこれでいいや」というのは、一番やっちゃいけない。

 

学生:
芸術作品を創造する上で、作る人の価値観や感性が作品に影響すると思いますが、監督のこれまでの人生の経験の中で、作品に生きているなと思ったことがあれば教えてください。


北村監督:
まず、その質問をしている時点で、あなたは素晴らしいと僕は思います。本当にそのとおりで、それがさっきから言っている「求心力」とか「人間力」ということであってね。

皆さんはどんな形であれ「芸術」を志している人たちじゃないですか。この仕事、この生き方、モノを生み出したり、表現したりという人生を選んでいることにおいて、良いことも悪いことも経験したもの勝ちなんです。つらい経験も含め、そのすべてが今の僕を生んでいると思うのね。

どんなことでも経験したほうがいい。男に騙されたでもいい。女に捨てられたでもいい。いろんな経験を武器にして、どんどん自分の人生を反映させた作品を作っていったらいいと思います。

このコロナの状況もそう。世界的にみんな苦労しているんだから、しょうがないなと。悲観してふさぎ込んでもしょうがない。これがずっと続くわけではない。だから「世界が復活したときにどれだけ俺のアイデアという弾丸を込めまくれるか」ということだけに集中したんです。

この期間に10個くらい企画を新しく立ち上げ、うち3つは早くも来年から動き出す予定になっています。コロナで大変だなという状況さえも、僕は武器に変えたから。そうやっていけばいいんじゃないかな。

 

ハリウッドで活躍する北村龍平監督の特別講義、心が揺さぶられる言葉が数多くあり、そのリアルなメッセージは学生たちを勇気づけ、奮い立たせるものとなり、学生たちの心に強く刻み込まれたことでしょう。


受講した学生の感想をご紹介します。

 


本学では今後もこのような、コロナウイルス感染症対策を万全にしたオフラインでの対面型授業とオンライン型授業を組み合わせた「ハイブリッド型授業」を強化する予定でありオンラインならではのメリットを活かすことで、北村監督のような海外在住のトップアーティストとの連携による授業体制の構築を目指しています。

特別講義終了後も、多くの学生から質問攻めにあう北村監督。懇切丁寧なご対応ありがとうございました。

最後に北村龍平監督から、芸術やクリエイティブを学ぶ、あるいは志す方々へのメッセージをいただきましたので、ご覧ください

 

 

暗い時代、試練の時代だからこそ、
人にエネルギーを、光を与える「芸術」は、とても大事なもの。

デザインであれ、画であれ、映画であれ、ドラマであれ、
いま学んでいる皆さんが、
世界にエネルギーを与えられるようになると素敵だなと思います。

いつか一緒に仕事ができると最高だと思っています。

映画監督:北村龍平

 

(撮影:高橋保世、広報課)

 

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