REPORT2020.09.18

プロデュース

NOW ON AIR!学生によるラジオ番組「あじのひらきラジオ」が、“声”で伝えたいこと

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  • 京都芸術大学 広報課

今年6月、本学アートプロデュース学科 山城大督研究室の学生が運営するインターネットラジオ「あじのひらきラジオ」がオンライン配信をスタートしました。

「様々な分野の“うまみ”を知るゲストを迎えてゆる〜くトークするラジオ」というキャッチコピーの通り、パーソナリティの絶妙なかけあいで、ゆるゆると展開していく番組が少しずつ人気を集めています。ラジオで情報発信する魅力や、やりがいについて、運営を担当する学生5名に話を聞きました。

山城大督先生と学生のみなさん。


会えない仲間と同じ時間を共有する

ラジオやPodcastなどの「音声コンテンツ」が、いま、世界的に盛り上がっています。ラジオといっても、時代はデジタル。昔のようにラジオ受信機でチャンネルを合わせて聞くのではなく、インターネットを通じてデジタルオーディオプレーヤーに配信される音声コンテンツが主流です。音楽配信サービス「Spotify(スポティファイ)」を使えばスマートフォンで気軽に聞くことができるとあって、人気に勢いがついています。

動画配信の世界での「YouTuber(ユーチューバー)」にあたるのが、自分で音声コンテンツを配信する「Podcaster(ポッドキャスター)」。今回は、ラジオに注目があつまる中、本学で誕生したラジオ番組「あじのひらきラジオ」の取り組みをご紹介します。

「あじのひらきラジオ」のオリジナルアイコンは、パーソナリティを務める細川遥月さんが制作。「あじのひらきのように“うまみ”のあるエピソードを伝えたい」との想いを込めて。


「あじのひらきラジオ」は、企画・構成・収録・編集・配信・運営までのすべてを、アートプロデュース学科 山城大督研究室に所属する3年生が行っています。このラジオ番組が始まったきっかけは、新型コロナウイルスによる学生生活の急激な変化にあったそうで、発案者の室津日向子さんは、「春休み以降、ずっとみんなに会えていない閉塞感を解消したくて、山城ゼミ5人全員で取り組んでみることになりました」と言います。

山城大督研究室は今年4月に新設されたばかりですが、ゼミのメンバーは2年生の時から一緒にプロジェクトに取り組んでいた仲間たちがほとんど。日々の授業や、仲間と取り組む課題、プロジェクトは、すべてZoomなどのWEB会議ツールを使ってオンラインで進めています。

授業がある日は何時間もオンラインでやりとりしていた4月中旬のある日、室津さんは「学生生活を発信するラジオを、みんなでやってみるのはどう?」とメンバーに提案してみたそうです。YouTubeでも、Zoom飲み会でもなく、ラジオ。なぜ、ラジオを選んだの?と室津さんに聞くと、

「ラジオって良いなと思ったきっかけは、外出自粛要請が出ていた4月、『田園ライブ *1』というラジオ型インスタライブに夢中になっていたのが理由の一つですね。毎日23時から1時間、2人のパーソナリティが1日の終わりに“生存確認”をするという内容で、緊急事態宣言が発令されている間は毎日それを楽しみに過ごしていました。
私自身、ラジオにはいままであまりなじみがなかったんですが、この『田園ライブ』を通して、いろんな人と同じ時間を共有することの楽しさを知りました。いわゆる“ヘビーリスナー”になって聞くという体験自体も初めてでしたね。それで、『田園ライブ』のように、みんなの興味をひらくコンテンツを提供しながら喋る機会を作りたかったというのが動機で、ラジオのことを山城ゼミのメンバーに提案してみたら、やってみよう!となって、実現に向けて動くことができました」(室津さん)。

注釈 *1 田園ライブ
緊急事態宣言が発令された2020年4月7日から、毎日23:00〜0:00にインスタグラムで配信されていた生放送ラジオ。パーソナリティは京都在住のアーティスト、前田耕平さんと米村優人さん。
https://www.instagram.com/denenlive/

 



Podcast配信サービス「Anchor(アンカー)」で公開されている「あじのひらきラジオ」ページ。ここからSpotifyをはじめ、さまざまな音声コンテンツ配信サービスを通して、いつでも好きなときに番組を聞くことができる。
https://anchor.fm/rlpc07v6s18/

 

発案から1か月で配信スタート!

注目したいのは、ゼミの課題ではなく、学生自身の「やってみたい!」を形にした取り組みということ。メンバー内で話がまとまってから、山城先生に「研究室の学生としてラジオ番組を配信していくこと」を提案して、GOサインが出てから、テスト収録を実施。そして、5月29日にはそのテスト収録を「あじのひらきラジオvol.0」として公開するに至りました。

 

「あじのひらきラジオvol.0」


発案から配信スタートまで1か月ほどという驚くべきスピード感で進んだ「あじのひらきラジオ」。小寺さんは、スタート当初を振り返って、「とにかく、みんなで何かしたい、いろんなことをしたい、という勢いがすごかったですね。アートプロデュース学科はチームで動くのが基本で、授業でも週2〜3回、WEB上で集まっています。そういうアートプロデュース学科ならではの環境も、短期間でラジオ番組をスタートできた理由の一つだと思います」と語ります。

細川さんは、「何かしたくても一人ではここまでの規模のことはできなかったと思います。室津さんが誘ってくれたのが、うれしかったです」と笑顔で教えてくれました。

大倉さんは、「山城先生からは、機材や配信方法について具体的なアドバイスをいただけたりして、いつも近くで見守ってもらえているのが心強いです。第0回のテスト収録も、初めてにしては案外うまくいったので、スムーズに公開につなげることができました」と語ります

「なぜ、『あじのひらきラジオ』をスタートしたの?」「これからどんな番組にしていきたい?」といった経緯や想いは、細川さんと室津さんが語る「あじのひらきラジオvol.1」と、山城先生をゲストに迎えて小寺さんと対談した「あじのひらきラジオvol.2」にぎゅっと凝縮されているので、ぜひそちらを聞いてみてください。

「あじのひらきラジオvol.1」

「あじのひらきラジオvol.2」

 

「あじのひらきラジオvol.8」収録時の様子。ラジオ収録は、Zoomを通して行う。左上から時計回りに、パーソナリティを務める細川遥月さん、進行役とタイムキーパーを担当する廣橋美侑さん、パーソナリティの小寺春翔さん、収録と編集を行う大倉達希さん、パーソナリティ室津日向子さん、ゲストの木原考晃さん(京都芸術大学 アドミッション・オフィス)。木原さんも自身のラジオ番組「きはらラジオ」を配信している。

ここからは、「あじのひらきラジオ」ができるまでの裏側に迫っていきます。上の写真のように、制作はすべてオンラインで行っているのが特徴で、「あじのひらきラジオ」はZoomを通して収録を行っています。ふだんの授業や打ち合わせもZoom経由なので、一番使い慣れていることからZoomを選んだのだとか。企画会議は、Zoomでの顔を合わせたミーティングに加え、LINEやSlackなどチャットでも情報共有して進めていき、「思いついたものをどんどんチャットに投げていく」のだそうです。また、「授業と授業の間にいつも教室でしていたような雑談レベルのものから、アイデアが立ち上がることもあります」と小寺さんが教えてくれました。

興味深いのは、メンバーの中にディレクター的な存在はおらず、適材適所で役割分担しているということ。パーソナリティは細川さん、室津さん、小寺さんの3人で、大倉さんは収録と編集。廣橋さんは進行役と、ゲストへのお礼の品「あじのひらきグッズ」の制作を行います。みんな“その道の専門”ではないけれど、「やりたいから、やってみる!」という勢いを感じます。

そもそもアートプロデュース学科は、メディアを運営していくことに特化した学科ではないのに、こんなにスムーズにチームで動いていけるのはどうして?と聞くと、「メディアをまたいだ構成や企画って、情報デザイン学科のイメージが強いんですけど、アートプロデュース学科にはイベントを立ち上げるチームワークの強さがあると思います」と廣橋さん。

ゲスト出演してくださった方へのお礼の品「あじのひらきグッズ」は廣橋さんが担当。オリジナルロゴ入りの「あじのマスク」や、細川さん制作のアイコンを印刷した「あじのステッカー」など。


もう一つ、アートプロデュース学科ならではの強みに、「ACOP(エイコップ)の授業で培った対話力」があると教えてくれたのは小寺さん。

「ACOP *2 は、アートプロデュース学科で取り組んでいる対話型鑑賞プログラムです。美術館や学校の現場で、ナビゲイターと呼ばれる人が、鑑賞者と作品の間で立ち上がるコミュニケーションを交通整理し、対話をもりたてていきます。僕らも授業でナビゲイターを何度も体験してきた経験から、『あじのひらきラジオ』でパーソナリティとして話すときには、ACOPで身につけた“喋り”という武器が役に立っていると感じています。リスナーのみなさんの思考をうながすような対話を発信していきたいですね」(小寺さん)。

室津さんは、「収録前にはあらかじめ台本を作っていますが、全部を台本通りに話していくのではなく、アドリブも交えて、楽しい対話になるように心がけています。リスナーのみなさんに、作業をしたり、料理をしたりしながら、のんびり、まったりと聞いてもらえるように、あじのひらきラジオを育てていきたいです」と語ります。

ACOPのプログラムでナビゲイターを務める「あじのひらきラジオ」のメンバー。

注釈*2 ACOP(エイコップ/Art Communication Project)
京都芸術大学 アート・コミュニケーション研究センターが実践する、「みる・考える・話す・聴く」の4つを基本とした対話型鑑賞プログラム。美術史等の知識だけに偏らず、鑑賞者同士のコミュニケーションを通して、美術作品を読み解いていく鑑賞方法を提唱している。
https://www.acop.jp/


自分たちで自分たちの場所をつくる楽しさ

30分のラジオ番組を週1回、月曜か火曜に配信する――。2020年6月2日に「あじのひらきラジオ Vol.1」を公開してから、週1回の配信ペースをキープして、9月18日現在で第14回目を数えました。番組に登場するゲストも多種多様で、文芸表現学科など学科の異なる学生や、他大学の学生、芸術関係の仕事に携わるプロも登場し、ますますバラエティ豊かな内容になってきています。

週1回配信というスケジュールを、授業や課題の合間に続けていく楽しさや、大変さについて聞いてみると、細川さんは、「良かったのは、ゼミのメンバーの距離感が、より親密に変化したこと。春休み以降、みんなに一度も会えてなく、実家に帰っている人もいて、物理的な距離は遠くなっているけれど、ラジオをみんなでやることで、お互いの距離感は前よりも近くなっている気がします。まるでルームシェアしているようだなと思うこともあります」といいます。

収録・編集担当の大倉さんは、「収録ペースがつかめるまでは、なかなか大変でした。最初の頃は毎週公開するために、金曜までに収録して、土・日曜に編集して、週明けに公開というハイペース。先に撮りだめをできるようになると余裕が出て、焦らず進めていけるようになりました。いま気になっているのは、喋りたいことが多すぎて1回あたりの番組が長くなってしまうこと(笑)。長いと編集作業も大変になるので、30分くらいの尺に縮めて構成していけたらと思っています」。

編集作業中の大倉さん。「番組のクオリティが保てているのは大倉さんの編集技術のおかげ」とメンバーの信頼を集める。編集ソフトは「Wondershare Filmora9」を使用。自宅の制作環境は、「あじのひらきラジオ」スタートを機にアップデートして、ディスプレイも増やしたそう。また、自室の入口には、収録中になると点灯にする「ON AIR」のライトを設置し、収録に集中できるよう工夫した。


企画の面で大変なことは?と聞くと、小寺さんは、「喋りたいことが多すぎるという話もあるんですが、やりたいことと、やれる速度の差がすごく大きくて、折り合いをどうつけていくのか?が最近の悩みです。ラジオでやってみたい企画がどんどん出てきて、ネタが付きないんです(笑)」。

廣橋さんは「企画では、ゲストへのオファーも大事な仕事ですが、ゲストへ出演依頼するとき、ラジオならいいよ!とオファーを受けてもらいやすいのがいいですね。ゲストの方から、『顔も出るの?』と聞かれることが多いんですが、ラジオなら声の出演だけなので、ハードルが下がるのかもしれません。結果的にいろんな方がゲストとして出演してくださって、番組の内容も幅広く展開できていると思います」。

室津さんは、「リスナーの幅が、最初に予想していたより幅広かったのが、驚きでした。学生のラジオだから学生さんが聞いてくれるかな〜と始めたんですが、意外と大人も聞いてくれていたんですよね。どんな人が聞いてくれているかわかるのでエゴサーチするのがおもしろいですし、エゴサーチが企画のネタにもなっています(笑)」。

 

第10回を記念して、7月31日にYouTubeで生放送した「あじのひらきラジオ あじの大感謝祭 Aテレ(あーてれ)」。Zoomでの収録画面をオンラインで配信しつつ、リスナーと質問箱やチャットでコミュニケーション。途中からは山城先生(写真左上)も参戦して盛り上がりを見せた。

 

最後に、今後の展開について聞いてみると、細川さんは、「収録中はチャットでリスナーとコミュニケーションを取りつつ進めているんですが、そのチャットが企画のアイデアになることもあります。先日の第10回放送でうれしかったのは、高校生リスナーが書き込みしてくれたこと。もしかしたら今後、高校生リスナーをゲストにお迎えできるかもしれない!とワクワクしています」。

小寺さんは、番組のPRの難しさについて、「いまはリアルに集える場がないので、宣伝がむずかしい。以前だと授業の合間に同級生にお知らせしたり、チラシ渡したりといったことができたかもしれないけど、オンラインでの宣伝を工夫してやっていきたいですね。ラジオやってるから聞いて!と、友達とのチャットなどで伝えるときもURLを送ってみたりと、少しずつ積極的にPRを進めています」。

大倉さんは、「全員がバラバラの環境で収録しているので、もし可能なら、パーソナリティのマイクを新調したいですね。編集時に、ゲストの音質とパーソナリティの音質のトーンの差を整えるのが地味に大変だったりします」と、裏方ならではの苦労を教えてくれました。

室津さんは、「誰かの一言から広がる、こんな楽しい取り組みを続けていくことができて、本当にうれしいです。学生としても、良い機会を“自分たちで作っている”という面と、関わってくださる方から“与えてもらっている”という面があるように思います。これからも、私たちらしく“ゆる〜く”続けていきたいですし、いつの日か、『あじのひらきラジオ』を始めるきっかけになった『田園ライブ』のメンバーをゲストに呼んでみたいです!」と笑顔でインタビューを締めくくりました。

ライフスタイルが劇的に変わったこの機会に、みなさんも「ラジオのある暮らし」を始めてみませんか?


あじのひらきラジオ
https://anchor.fm/rlpc07v6s18/


(取材・文:杉谷紗香 写真:アートプロデュース学科 山城大督研究室)

 

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