INTERVIEW2020.09.02

教育

「芸術とは何か、人間とは何か」を問う。 ― 文明哲学研究所の取り組み

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  • 吉川 左紀子

昨年10月から、文明哲学研究所(略称:文哲研)の所長として勤めている吉川左紀子です。4月からは、大学院と学生部担当の副学長としての仕事も兼務しています。どうぞよろしくお願いします。

文哲研は、2012年、人類の幸福と平和な世界の実現を祈念した初代理事長の意志により設置されました。この研究所は、芸術とは何か、人間とは何かを問い続けること、そして、「藝術立国」という本学の理念の実現に向けて、その具体的な道筋を考え、明らかにすることをミッションとしています。

文哲研では今年度から、芸術と科学の架橋(「芸術と自然」)、社会における芸術の役割(「芸術と社会」)、芸術がこころに及ぼす影響(「芸術とこころ」)という3つのテーマを掲げ、所員がそれぞれの研究課題に取り組むとともに、定期的な研究会やセミナー、国内外での研修などを実施し、その成果について積極的に情報発信していきます。

次に、私の自己紹介をさせていただきます。
私は心理学者で、専門は認知心理学です。認知心理学は、知覚、注意、記憶、思考、学習といったこころのはたらきを取り上げ、心理実験で仮説を検証することを通じてこころの理解を深めていきます。個々人のこころに焦点を当てる臨床心理学とは異なり、「私たちが共通にもっているこころの働き」に関心を向けるのが特徴です。

私の研究テーマは「顔・表情認識とコミュニケーション」です。大学院生だった頃に偶然図書館で見つけた論文に「顔の記憶は顔の見方に左右される」といったことが書いてあって、これは面白い、と顔の記憶の研究を始めました(この研究で博士号を取得)。その後、英国の研究者と共同して「平均顔の魅力研究」に取り組んだり(「平均顔は魅力的、しかし魅力的な顔の平均はさらに魅力的である」という現象を発見、Natureに掲載されて話題になりました)、対面で相手の顔を見ている人の表情の変化を撮影して分析し、脳のミラーニューロンとの関係を調べるなど、いろいろな研究を行ってきました。以前、似顔絵を描くのが上手な知人から、顔を描いていると自分の表情が描いている顔の表情に似てくる、と言われたことがあります。本当にそんなことが誰にでも起こるのか、そうだとしたらその仕組みは・・?顔・表情認識にはまだまだ多くの謎があり、興味はつきません。

左上から左下へ、2名、4名、8名、16名の平均顔


昨年末、文哲研の齋藤亜矢先生と一緒に京都大学医学部附属病院新生児病棟のホスピタルアートの作成現場を見学しました。この事業は、尾池学長の発案で京都大学医学部附属病院と協定を結び、実現したと伺っています。新しい病棟の中で生き生きと動きまわる学生さんたちや、壁に額をつけるようにして真剣に筆を動かす学生さんたちの顔を見ながら、「藝術立国」の理念が、社会の現場とリアルにつながっていることを実感しました。

テーマは「人どうしの縁をつなぐ」。ひと筆描きで動物や植物といった森の風景を表現。
入り口には大きなカンガルーが。
パンダのそばの竹は身長計にもなっている。


芸術作品は、直接、五感を通して人のこころに働きかけ、表現し制作する人とその作品に向き合う人を、時空間を超えてつなぐ力をもっています。その力は、いつか社会を変える契機にもなるでしょう。今後、文哲研での活動を通じて、こうした「芸術のもつ力」の多様なあり方について、先生がたと議論を深めてゆくことを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします。


さて、9月7日、10日、14日に、研究会「文哲研3days [架橋する芸術]」をオンラインにて実施します。日時と発表者、発表テーマは次の通り。
今回は一般公開はせず、関係者のみの研究会となりますが、後日、機会を改めて皆さまにご報告いたします。


9月7日(月)18:00~20:00 「芸術と自然」
戸坂明日香「骨から蘇る生前の顔: 復顔師の大江戸見聞録」
狩野美紅「季節を寿ぐ:五節句 ― 星逢ひの夜」

9月10日(木)18:00~20:00 「芸術と社会」
小野塚佳代「漫画における非人間化の表現:異分子の「変身」」
桐生眞輔「祈りのかたち・身体へのかたち」

9月14日(月)18:00~20:00 「芸術とこころ」
齋藤亜矢「ヒトはなぜ絵を描くのか:芸術するこころの科学へ」
吉川左紀子「『好き』を左右する表情」



文明哲学研究所webサイト
https://www.kyoto-art.ac.jp/iphv/

 

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  • 吉川 左紀子Sakiko Yoshikawa

    京都大学教育学部卒業。京都大学大学院教育学研究科博士課程認定退学。博士(教育学)。追手門学院大学助手、助教授、英国ノッティンガム大学客員研究員、京都大学大学院教育学研究科助教授、教授を経て、2007年、京都大学こころの未来研究センターにセンター長として着任(2018年3月まで)。京都芸術大学文明哲学研究所所長。京都大学名誉教授。京都大学フィールド科学教育研究センター特任教授。専門は認知心理学。主な研究テーマは、顔や表情を通しての他者の感情理解で、対面コミュニケーションに関わる認知・感情・行動特性について研究してきた。2013年より科学技術振興機構研究成果展開事業・構造化チームメンバーとして、産学連携大型研究プロジェクトの推進にも携わる。京都市社会教育委員会議長、京都市社会福祉審議会委員。日本心理学会研究奨励賞(1996年)、日本心理学会優秀論文賞(2017年)、京都府あけぼの賞(2018年)受賞。

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